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Ⅰ 手乗りサイズの新米メイド
パトリシアⅡ 10
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部屋の完成間際になってから、パトリシアお嬢様はソフィアに声をかけた。
「ねえ、最後にみんなで撮った写真飾ってもいい? わたしの机の上に置いてるやつ」
「飾るっていっても……」
机上の写真立てにいつも置いてある写真は、当然元の背の高かった頃のパトリシアお嬢様の部屋にちょうど良いサイズ。今のパトリシアお嬢様の小さな部屋にスクリーンみたいに大きな写真立てを置いたら、それだけいっぱいになってしまいそう。
「壁に貼ってもらったらいいよ」
なるほど、とソフィアは頷いたけれど、壁を埋めてしまうような大きさの写真は存在感をかなり放ってしまいそうな気がした。写っている人物が等身大くらいに見えるから、夜暗い時とかに見るとびっくりしてしまいそう。
「怖くないですか……?」
「怖いわけないじゃん。わたしたちみんなで撮った写真なんだから」
パトリシアお嬢様がクスクスと上品に笑った。
パトリシアお嬢様、レジーナお嬢様、アリシアお嬢様、ソフィア、ベイリー、エミリアの6人で撮った仲の良さそうな写真を指示通り貼っていく。完成した部屋の中に自分の手を入れたら、まるでパニック映画みたいにも見えてしまうのではないだろうか。綺麗に手入れされた部屋に入ってくる、部屋を埋め尽くすような巨大な手。パトリシアお嬢様から見えている景色を勝手に想像してしまう。
なんとなく申し訳なく思いながら、壁際に置いてあった棚や机をどけてから、写真を貼った。元に戻す時には写真の邪魔にならないように少しだけ家具の配置を変えさせてもらった。パトリシアお嬢様の部屋の道具を手で倒してしまってめちゃくちゃにしてしまわなくてよかった、とホッとした。
「よし、これでわたしの部屋完成!」
「やりましたね!」
ソフィアとパトリシアお嬢様が元気な声を出していた一方で、ベイリーは同じ部屋にいるとは思えないくらい気配を消していた。
そんなベイリーのことを気遣うみたいにパトリシアお嬢様が声をかける。
「ねえ、ベイリーもわたしの新しい部屋見てよ。良い感じじゃない?」
複数ある部屋のうち、1階にある一番大きな部屋をパトリシアお嬢様が使っていた。ベイリーは恐る恐る部屋を覗いて、小さな声で「素敵です」と呟いていたけれど、心ここにあらずな感じだった。
「ねえ、ベイリー。わたしのことは心配しなくて良いんだよ? 小さくなったけれど、これはこれで楽しそうだし! わたし専用のお屋敷だよ!」
次期当主だからいずれにしても専用のお屋敷は確実にもらえるようなものだけれど、今は目の前のドールハウスのお屋敷を楽しそうに使っていた。そんなパトリシアお嬢様と温度差がある中、ベイリーは屋敷の中の方を向いて、思いっきり頭を下げた。
「大変申し訳ございませんでした!」
いつも穏やかな声しか出さないベイリーが珍しくはっきりしっかり声を出していたからソフィアは驚いた。そして、少し後ろで見ていた同じサイズ感のソフィアが驚いたのだから、すぐ目の前にいる小さくなったパトリシアお嬢様にとっては、きっとサイレンみたいに大きな音に聞こえたにちがいない。パトリシアお嬢様は尻餅をついて、目を丸くしていた。
「い、いきなりどうしたの、ベイリー? あなたが謝ることなんて何もないよ」
少し震えた声でパトリシアお嬢様が宥めていた。
「いえ、だって……。きっとパトリシアお嬢様が小さくなってしまったのはわたしのせいですから……」
頭を下げているせいで、部屋の中に垂れてしまっていた髪の毛がパトリシアお嬢様の上にもかかっていた。ロープみたいに太いベイリーの真っ黒な髪の毛をどかしてから、静かにパトリシアお嬢様はベイリーのことを見上げた。
「わざとやったの?」
パトリシアお嬢様は小さな体から出ているとは思えないような鋭く刺すような視線でベイリーのことを見つめていた。
「ベイリーは、わたしのこと、わざと小さくしたの?」
ベイリーが慌てて頭を上げて、しっかりとパトリシアお嬢様の方を見てから大きく首を横に振った。
「ち、違います。わたしはパトリシアお嬢様のことを意図的に傷つけるようなことは絶対にしません! 命の恩人にそんな酷いこと絶対に、絶対にしませんから!」
ベイリーが目をしっかり見開きながら、必死に謝っていた。そんなベイリーを見て、パトリシアお嬢様が穏やかな笑みを浮かべた。
「なら謝る必要なんてないんじゃない? ベイリーにとっても、いきなり主人が小さくなって困るようなできごとだと思うし、今は謝ってもらうよりも一緒にこれからのことを考えてもらう方が嬉しいな」
パトリシアお嬢様はどこまでも優しかった。彼女の中にベイリーを責めるという考えはこれっぽっちもないのだ。
「ねえ、ソフィア、ベイリー、そんなことよりも、今のわたしお人形さんみたいで可愛くない?」
一緒に小さくなったドレスのスカートの裾を持ってクルリと回りながら、2人の方を見ているパトリシアお嬢様の姿を見て思わず笑ってしまった。
「とっても可愛らしくて素敵です!」
「パトリシアお嬢様はいつでも可愛らしいですけど、今はより可愛らしいです!」
ソフィアもベイリーも本心からパトリシアお嬢様のことを素敵だと思った。外見だけでなく、中身も含めて。不安いっぱいのソフィアとベイリーと違い、こんな状況でも明るく振る舞えるパトリシアお嬢様は、きっと将来立派な当主になるのだろう。
こんなときまで使用人のことを気遣える素敵なパトリシアお嬢様に仕えることができることが心の底から幸せだった。パトリシアお嬢様は小さくなってしまったけれど、きっとこの先も平和なまま、パトリシアお嬢様を元に戻すことができるのだろうと、この時のソフィアは信じて疑わなかったのだけれど……。
「ねえ、最後にみんなで撮った写真飾ってもいい? わたしの机の上に置いてるやつ」
「飾るっていっても……」
机上の写真立てにいつも置いてある写真は、当然元の背の高かった頃のパトリシアお嬢様の部屋にちょうど良いサイズ。今のパトリシアお嬢様の小さな部屋にスクリーンみたいに大きな写真立てを置いたら、それだけいっぱいになってしまいそう。
「壁に貼ってもらったらいいよ」
なるほど、とソフィアは頷いたけれど、壁を埋めてしまうような大きさの写真は存在感をかなり放ってしまいそうな気がした。写っている人物が等身大くらいに見えるから、夜暗い時とかに見るとびっくりしてしまいそう。
「怖くないですか……?」
「怖いわけないじゃん。わたしたちみんなで撮った写真なんだから」
パトリシアお嬢様がクスクスと上品に笑った。
パトリシアお嬢様、レジーナお嬢様、アリシアお嬢様、ソフィア、ベイリー、エミリアの6人で撮った仲の良さそうな写真を指示通り貼っていく。完成した部屋の中に自分の手を入れたら、まるでパニック映画みたいにも見えてしまうのではないだろうか。綺麗に手入れされた部屋に入ってくる、部屋を埋め尽くすような巨大な手。パトリシアお嬢様から見えている景色を勝手に想像してしまう。
なんとなく申し訳なく思いながら、壁際に置いてあった棚や机をどけてから、写真を貼った。元に戻す時には写真の邪魔にならないように少しだけ家具の配置を変えさせてもらった。パトリシアお嬢様の部屋の道具を手で倒してしまってめちゃくちゃにしてしまわなくてよかった、とホッとした。
「よし、これでわたしの部屋完成!」
「やりましたね!」
ソフィアとパトリシアお嬢様が元気な声を出していた一方で、ベイリーは同じ部屋にいるとは思えないくらい気配を消していた。
そんなベイリーのことを気遣うみたいにパトリシアお嬢様が声をかける。
「ねえ、ベイリーもわたしの新しい部屋見てよ。良い感じじゃない?」
複数ある部屋のうち、1階にある一番大きな部屋をパトリシアお嬢様が使っていた。ベイリーは恐る恐る部屋を覗いて、小さな声で「素敵です」と呟いていたけれど、心ここにあらずな感じだった。
「ねえ、ベイリー。わたしのことは心配しなくて良いんだよ? 小さくなったけれど、これはこれで楽しそうだし! わたし専用のお屋敷だよ!」
次期当主だからいずれにしても専用のお屋敷は確実にもらえるようなものだけれど、今は目の前のドールハウスのお屋敷を楽しそうに使っていた。そんなパトリシアお嬢様と温度差がある中、ベイリーは屋敷の中の方を向いて、思いっきり頭を下げた。
「大変申し訳ございませんでした!」
いつも穏やかな声しか出さないベイリーが珍しくはっきりしっかり声を出していたからソフィアは驚いた。そして、少し後ろで見ていた同じサイズ感のソフィアが驚いたのだから、すぐ目の前にいる小さくなったパトリシアお嬢様にとっては、きっとサイレンみたいに大きな音に聞こえたにちがいない。パトリシアお嬢様は尻餅をついて、目を丸くしていた。
「い、いきなりどうしたの、ベイリー? あなたが謝ることなんて何もないよ」
少し震えた声でパトリシアお嬢様が宥めていた。
「いえ、だって……。きっとパトリシアお嬢様が小さくなってしまったのはわたしのせいですから……」
頭を下げているせいで、部屋の中に垂れてしまっていた髪の毛がパトリシアお嬢様の上にもかかっていた。ロープみたいに太いベイリーの真っ黒な髪の毛をどかしてから、静かにパトリシアお嬢様はベイリーのことを見上げた。
「わざとやったの?」
パトリシアお嬢様は小さな体から出ているとは思えないような鋭く刺すような視線でベイリーのことを見つめていた。
「ベイリーは、わたしのこと、わざと小さくしたの?」
ベイリーが慌てて頭を上げて、しっかりとパトリシアお嬢様の方を見てから大きく首を横に振った。
「ち、違います。わたしはパトリシアお嬢様のことを意図的に傷つけるようなことは絶対にしません! 命の恩人にそんな酷いこと絶対に、絶対にしませんから!」
ベイリーが目をしっかり見開きながら、必死に謝っていた。そんなベイリーを見て、パトリシアお嬢様が穏やかな笑みを浮かべた。
「なら謝る必要なんてないんじゃない? ベイリーにとっても、いきなり主人が小さくなって困るようなできごとだと思うし、今は謝ってもらうよりも一緒にこれからのことを考えてもらう方が嬉しいな」
パトリシアお嬢様はどこまでも優しかった。彼女の中にベイリーを責めるという考えはこれっぽっちもないのだ。
「ねえ、ソフィア、ベイリー、そんなことよりも、今のわたしお人形さんみたいで可愛くない?」
一緒に小さくなったドレスのスカートの裾を持ってクルリと回りながら、2人の方を見ているパトリシアお嬢様の姿を見て思わず笑ってしまった。
「とっても可愛らしくて素敵です!」
「パトリシアお嬢様はいつでも可愛らしいですけど、今はより可愛らしいです!」
ソフィアもベイリーも本心からパトリシアお嬢様のことを素敵だと思った。外見だけでなく、中身も含めて。不安いっぱいのソフィアとベイリーと違い、こんな状況でも明るく振る舞えるパトリシアお嬢様は、きっと将来立派な当主になるのだろう。
こんなときまで使用人のことを気遣える素敵なパトリシアお嬢様に仕えることができることが心の底から幸せだった。パトリシアお嬢様は小さくなってしまったけれど、きっとこの先も平和なまま、パトリシアお嬢様を元に戻すことができるのだろうと、この時のソフィアは信じて疑わなかったのだけれど……。
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