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Ⅰ 手乗りサイズの新米メイド

パトリシアⅡ 9

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少しすると、慌ててベイリーがドールハウスを運んでくる。大きなドールハウスだから、かなり重たそうではあるけれど、なんとか一人で運んできていた。ベイリーが一人で運べるドールハウスで快適に生活できてしまうパトリシアお嬢様がどれほど小さいかを考えると、不安な気もしがないわけではないけれど、前向きなパトリシアお嬢様ならなんとかなる気もした。

「さ、ベイリーさん、パトリシアお嬢様が住めるように一緒に屋敷の掃除をしましょうか」
「2人でやる必要あるかしら……? もうソフィアが一人で見られるんじゃない? わたしなんて必要ないでしょ……?」
「2人でやらないと、どっちがパトリシアお嬢様の面倒をみるかで揉めちゃうと思いますので」
こんなパトリシアお嬢様のピンチに変なところで揉めたくはなかった。

「それもそうね」とベイリーも納得してくれた。
真ん中で屋敷の開け閉めができて、開けている状態だと家の断面が全部が丸見えになってしまう。基本は閉めておいたほうがいいのだろうか。でも、閉めておいたらパトリシアお嬢様が困った時に助けてあげられなくなるし。とりあえず、開け放した状態で、屋敷内を濡らしたティッシュやガーゼを使って慎重に掃除をしていく。

「なんだか不思議な感じだな。わたしが住めちゃう大きなお屋敷をソフィアやベイリーは簡単に掃除できるし、屋根の上までピカピカにできちゃうんだから」
パトリシアお嬢様が、開け放された部屋の中を見回りながら、話しかけてくる。

「2階にいるのに、目の前にはソフィアの胸で塞がれてるのも不思議だな気分だよ」
ソフィアは屋根を掃除していたから、2階に胸元が来ているのだろう。不思議な気分なのはソフィアの方もだった。パトリシアお嬢様の住む家を屋根や壁まで自分一人でピカピカにできるのだから。でも、きちんと手入れしてあげられるのは良いことだと思った。

「ねえ、ソフィアごめんね。このベッド、1階に移動させても良いかな? わたしじゃ持てないや」
パトリシアお嬢様がベッドを必死に持ち上げようとしているけれど、せいぜい床を少し引きずるくらいしかできていなかった。これを階段を使って移動させるのは大変そう。

平時でもお嬢様に重たいものを運ばせるなんて御法度なのだけれど、パトリシアお嬢様はメイドの手を煩わせないようにと自分でやろうとしてしまう。少なくとも今はパトリシアお嬢様が運ぶには重労働でも、ソフィアにとっては軽々できてしまうような仕事なのだから、頼ってほしい。

「もちろん大丈夫ですよ。というより、危ないですからわたしが運びます!」
パトリシアお嬢様の目の前にあったベッドを片手で掴んで持ち上げる。パトリシアお嬢様が必死に持ち上げようとしても持ち上がらなかったベッドは簡単にソフィアの手のひらに収まった。

「どこに置くか、指示してもらっても良いですか?」
「ソフィアは力持ちだね」
パトリシアお嬢様がクスクスと笑う。

今までメイドの中でも一番力が無かったから、なんだか不思議な気分だったけれど、悪い気はしなかった。パトリシアお嬢様はトコトコと小さな歩幅で階段を降りていく。フワフワとした長いブロンドの髪の毛が、本当のお人形さんみたいで可愛らしかった。そんなパトリシアお嬢様があまりにも可愛らしくて、無意識のうちに触れようとしてしまっていた。

「わっ、ソフィアどうしたの!? 危ないよ!」
ただ手を伸ばしてみただけだったのに、パトリシアお嬢様がかなり大きな声を出していた。階段の下で巨大な手で待ち構えてしまっていたからパトリシアお嬢様を驚かせてしまっていた。確かに、目の前に巨大な手のひらが出てきたら怖いと思う。
「あ、すいません……」

手を慌てて引っ込める。今のパトリシアお嬢様にはソフィアの手もきっと怖いのだろう。さっさとベッドを置いてから、迂闊に部屋に手を入れないようにした。それからもソフィアとパトリシアお嬢様は作業を続けていき、とても可愛らしくておしゃれな部屋がどんどん出来上がっていった。
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