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Ⅰ 手乗りサイズの新米メイド

パトリシアⅡ 3

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「ねえ、ソフィア。一体どうしたのよ。とっても怖い顔してるけど?」
いつも飄々としているベイリーが少し怯えるくらいソフィアは怖い顔をしていたらしい。鏡はなかったからわからないけれど、たしかに今までベイリーに対して抱いたことのないような、苛立った感情を持っていた。

「ベイリーさん、わたしたちメイドが主人に恋心を抱いてはいけないなんて当たり前のこともきちんと説明しなければならないのですか?」
「わかってるわ。でも、恋ってそういうものじゃないかしら? 身分とか、上下関係とか、そういうものを超えて生じる感情だと思うけど」

平然と言い退けるベイリーに苛立つ。自分が必死に我慢している感情やメイドとしての矜持を否定されているみたいで嫌になった。
「ねえ、路頭に迷いかけていたあなたのことを拾ってくれたのはパトリシアお嬢様なのですよ? それなのに、あなたはパトリシアお嬢様に感謝の気持ちよ忠誠心は持ち合わせていないのですか?」

昔のことを言われて、今度はベイリーが苛立つ。ベイリーは恋愛抜きにしても、パトリシアお嬢様に対してかなり恩を感じていることはわかっている。だから、パトリシアお嬢様に対する忠誠心を否定されることが嫌いなことも知っていた。

「感謝の気持ちなんて、いくらしたって仕切れないくらい持ってるわよ。パトリシアお嬢様がわたしのことを救ってくれたことだってきちんと理解しているわよ。でも、それをどうしてソフィアに指摘されなければいけないのかしら?」
「あなたがあまりにも無礼で、メイドとしての心得を持っていないからです」

「メイドとしての心得って、メイドは恋をするなということかしら? そんなのあなたに勝手に決められたくはないのだけれど」
「恋は対等なもの同士がするものですよ? あなた、まさかパトリシアお嬢様とご自身が対等と思っているのですか?」

ソフィアの質問を聞いて、ベイリーがため息をついた。
「ソフィアはそんな風に持ち上げられて、パトリシアお嬢様が喜ぶと思っているのかしら? 長年一緒にいて、一体何を見てきたのよ?」

ベイリーの言葉にまた苛立ってしまった。パトリシアお嬢様は誰よりもメイドと対等の関係を気づこうととしてくれていた。友達のように接してくれているのは、パトリシアお嬢様が特別扱いをされるのが嫌いだから。そんなことはもちろんわかっている。

ベイリーの言っていることも間違いではないから、反論すること言葉を失ってしまった。これ以上揉めても、話はまとまりそうにない。少なくともこれから部屋に行くのに、パトリシアお嬢様の前で険悪な状態は絶対に見せられない。

「話になりません」
ソフィアがもう一度睨んでから、ベイリーに背を向ける。

「それはこっちのセリフよ。ソフィアってそんなにも分からずやだったかしら」
去っていくソフィアに向けてベイリーが呟いた。

もしベイリーがパトリシアお嬢様との恋を成就させてしまったら……。そう考えると足元がフラついてしまう。
「とにかく、ベイリーさんがパトリシアお嬢様に近づかないようにしなければ……」
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