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Ⅰ 手乗りサイズの新米メイド

頼もしい協力者 6

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「で、久しぶりに訪ねてきて、何のつもり?」
「いえ、あの……。わたくし久しぶりにまたレジーナお姉様と仲良くしたいと思いまして……」

アリシアお嬢様は視線を逸らしながら言っていた。その様子を見て、レジーナお嬢様が立ち上がって、アリシアお嬢様の方に向かっていく。

「気持ち悪い」
レジーナお嬢様が座っているアリシアお嬢様のことをジッと見下ろした。

「何企んでるわけ?」
「企んでる訳じゃ……。ただ、わたくしは昔みたいにお姉様と仲良くしたいと思ってるだけですわ……」
「わたしは仲良くなんてしたくないから」
冷たい声で伝えられたアリシアお嬢様が俯いてしまっていた。

「……また昔みたいにお姉様と一緒にお茶がしたいですの」
「昔みたいにって……。もうあの頃とは状況は変わっているのよ。わたしは今この家の時期当主なわけ。アリシアと迂闊に仲良くして、時期当主の座を奪われるような策略に嵌まるようなことはしたくないの」
「べ、別にわたくしは当主なんてなりたくないですの。ただ、お姉様と仲良くしたいだけで……」
「だから、わたしはアリシアと仲良くなんてしたくないんだってば。何度も言わせないでよ!」
「ごめんですの……」

俯きながら指をイジイジとしているアリシアお嬢様のことが見ていられなくなってしまうけれど、ここで飛び出してしまえば、それこそアリシアお嬢様の作ってくれたチャンスが無駄になってしまう。

「でも、わたくしはレジーナお姉様もパトリシアお姉様も大好きですの……。また、昔みたいに一緒に遊んでほしいですの……」
パトリシアという名前を聞いて、レジーナお嬢様がバンっと机を大きく叩いた。

「パトリシアお姉様の名前は出さないでって言ってるでしょ?」
「で、でも、ですの……」
「もうこの家の時期当主はわたしなの! あの人の名前を出すのはやめて。あんたと喋ってたらイライラするわ」
レジーナお嬢様が思いっきり舌打ちをすると、アリシアお嬢様は俯いたまま何も話さなくなってしまった。

「納得した? もう話は済んだでしょ? 少なくともわたしはもうアリシアと話すことなんてないから、一刻も早くわたしの部屋から立ち去って」
そう言って、レジーナお嬢様は、強引にアリシアお嬢様の腕を引っ張って立たせた。

「さっさと出てって! つまんない話は大嫌いだから」
レジーナお嬢様が力任せに背中を押して、アリシアお嬢様を外に出そうとする。
「あ、あの、ちょっと待ってほしいですの」

アリシアお嬢様がわたしの方にチラリと視線を向けてから、不安そうに部屋から出されていく。2人の足音が大きな振動になって、先ほどまでわたしが押してもびくともしなかった図鑑が微動していた。バタンと勢いよくドアが閉められて、わたしはその場で尻餅をついてしまった。アリシアお嬢様が追いやられてしまったせいで、わたしは元のアリシアお嬢様の部屋に戻る術を失ってしまったようだ。

「えっと……」
この状況って結構やばいんじゃないだろうかと不安になる。レジーナお嬢様が外に出ようとした時に扉を開けたらわたしも一緒に外に出られるけれど、複雑に入り組んだ大きな屋敷の廊下をアリシアお嬢様の部屋まで歩ききれる気がしなかった。それも、次から次にやってくる慌ただしいメイドたちの靴を避けながらとなると、難易度は一気に跳ね上がる。

「どうしたらいいんだろ……」
バスルームに取り残されたときよりもはまだ気持ち的にはマシだけど、それでも不安なことには代わりなかった。それに、せっかく忍び込めたのに、この体ではレジーナお嬢様の部屋を探るなんてことも出来なさそうだ。

棚の上や机の上に登れば何かわかるかもしれないけれど、アリシアお嬢様の部屋みたいに、至る所に紐や小さなハシゴがあるわけではないこの部屋では、それは難しそう。迂闊に動いて存在がバレてしまったらタダじゃすまなさそうだから、結局端っこの方をウロウロするくらいしかできない。

せっかくアリシアお嬢様のおかげで忍び込めたのに、ただ徒労に終わりそうだ。何もヒントは得られないまま、時間だけが過ぎていく。わたしはもうレジーナお嬢様の部屋の捜索よりも、どうやってアリシアお嬢様の部屋のメイド屋敷に戻ればいいのだろうかということに頭を悩ませている。そんな風に無意味な時間を過ごしていると、わたしにとって思いもよらない衝撃の事実を知ることになるのだった。
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