65 / 160
Ⅰ 手乗りサイズの新米メイド
頼もしい協力者 5
しおりを挟む
「あの、アリシアお嬢様、どちらへ向かわれるつもりですか……?」
エミリアが不安そうに尋ねていた。部屋のある方向とは違う方向に進んでいく。アリシアお嬢様は少し悩んでから答えた。
「レジーナお姉様のお部屋ですの」
「レジーナお嬢様のお部屋……。一体何を……」
「それはエミリアには関係ないことですの」
「あの、揉め事だけは……」
恐る恐る声を出したエミリアに、アリシアお嬢様は柔らかい声色で答えた。
「わたくしも、レジーナお姉様と喧嘩なんてしたくないですの」
その声に、エミリアも納得したみたいで、「わかりました」といつもの落ち着いた調子で答える。話している間にレジーナお嬢様の部屋についたようで、アリシアお嬢様の足が止まった。
「では、カロリーナは預かっておきますので、バスケットをこちらに」
アリシアお嬢様は言われるがままにバスケットを渡していた。
「わたくしの部屋に持ち帰っておいてもらって、中のカロリーナはメイド屋敷に戻しておいてほしいですの」
自然な様子でバスケットを渡してしまったけれど、わたしはアリシアお嬢様の袖の中にいるから、当然バスケットの中にはいない。花だらけのバスケットの中にきちんとわたしが入っているかどうかを確認するには時間がかかるだろうから、すぐにはわからない。バスケットの中を探し辛くするために、さっきは突然花を摘み始めたのかと納得した。
「じゃあ、わたくしはこれからレジーナお姉様と2人でお話しますので、先に戻っていてくださいまし」
エミリアに伝えた瞬間に扉をノックするものだから、エミリアは慌てて立ち去ってしまった。バスケットの中身を確認する間も無く。
エミリアがすでにこちらに背を向けているのを確認してから、アリシアお嬢様がさっと袖からわたしを出す。しゃがんでから、可愛らしいリボンのついたヒール靴の上に乗せた。
"しっかりとリボンにつかまっていてほしいですの。それで、カロリーナが降りれそうなタイミングを見計って靴から降りてから、どこかに隠れたらいいですわ。こっそり部屋に忍び込みながら証拠を見つけてほしいですの。わたくしも追い出されるまでは一緒に部屋の中にいますわ"
「追い出されるまでは……?」
ざっくりとした作戦をしゃがんだ状態のアリシアお嬢様にヒソヒソ声で説明されたけど、追い出されるまで、という不穏な言葉が聞こえてきて心配になる。靴の中のわたしはスカートに隠れて、まったくアリシアお嬢様の姿は見えてはいなかった。
「誰? 名乗りなさい」と中から声がしたのを聞いて、アリシアお嬢様は慌てて立ち上がった。
「アリシアですわ。お姉様、お久しぶりですの」
わたしはスカートに隠れた靴の上から2人の声を聞いていた。
ドアが開く音がしたから、レジーナお嬢様が中から出てきたのだと思う。
「何の用?」
レジーナお嬢様がぶっきらぼうに言う。
「あの、その……」とアリシアお嬢様がしどろもどろしていた。普段は悠然としているから、言葉に詰まっている姿は珍しかった。アリシアお嬢様も、エミリアも、彼女の前ではオドオドしているけれど、そんなにもレジーナお嬢様は怖いのだろうか。そう思ったけれど、平気で湯船にわたしを投げるような人だから、性格は難がありそうだな、と納得した。
小さくため息をついてから、レジーナお嬢様が「とりあえず、入りなさいよ」と言ってアリシアお嬢様を部屋の中に入れる。アリシアお嬢様が恐る恐る一歩を踏み出した瞬間、わたしの乗っていた靴が大きく揺れた。落ちてしまいそうになり、慌ててリボンの部分にぎゅっとしがみついた。
3歩程歩いたところでアリシアお嬢様の動きが止まり、突然わたしの捕まっている方の足だけ背伸びみたいにして、足首を伸ばすようにして、大きく傾けられてしまう。
「ちょっと! アリシアお嬢様どうしちゃったんだろ……。わたし、落ちちゃうよ……!?」
一人困惑しながら必死にリボンにしがみついていると、今度はスカートの下で、ボールを蹴るときみたいに靴を動かす。明らかにわたしを落とそうとしている動きだったから、一体何を考えているのだろうかと泣きたくなってしまう。
結局、わたしはアリシアお嬢様の足の力に負けて、床をコロコロと転がってしまった。そして、靴の上が軽くなってのを確認してから、一瞬下を見たアリシアお嬢様が、サッとわたしのことを隠すみたいに一歩前に踏み出した。アリシアお嬢様はきちんとわたしの位置を確認していたから踏み潰されることはないけれど、それでも上空をヒールのある靴が通過するのは怖かった。
わたしが身を屈めて、靴が通過するのを待っていると、自分の足の隙間から後ろが見えた。
「棚だわ……」
入り口のすぐ近くに置いてあった大きな本棚は身を隠すのにちょうどよかった。
突然わたしを靴から落としたアリシアお嬢様は、わたしを本棚に隠れるように誘導したかったのかと納得して、イソイソと1段目に身を隠した。図鑑とか、辞書とか重たそうな本が並んでいるから、下敷きにならないように気をつけなければならない。下敷きになってしまったら、自力で抜け出すのは不可能だろうから。
興味本位で触ってみた植物の図鑑は重たすぎて、まったく読めそうな気はしなかった。本の隙間に挟まりながら、アリシアお嬢様を見守ることにする。見上げると、遠くの方で席に座って向かい合うアリシアお嬢様とレジーナお嬢様の姿があった。
エミリアが不安そうに尋ねていた。部屋のある方向とは違う方向に進んでいく。アリシアお嬢様は少し悩んでから答えた。
「レジーナお姉様のお部屋ですの」
「レジーナお嬢様のお部屋……。一体何を……」
「それはエミリアには関係ないことですの」
「あの、揉め事だけは……」
恐る恐る声を出したエミリアに、アリシアお嬢様は柔らかい声色で答えた。
「わたくしも、レジーナお姉様と喧嘩なんてしたくないですの」
その声に、エミリアも納得したみたいで、「わかりました」といつもの落ち着いた調子で答える。話している間にレジーナお嬢様の部屋についたようで、アリシアお嬢様の足が止まった。
「では、カロリーナは預かっておきますので、バスケットをこちらに」
アリシアお嬢様は言われるがままにバスケットを渡していた。
「わたくしの部屋に持ち帰っておいてもらって、中のカロリーナはメイド屋敷に戻しておいてほしいですの」
自然な様子でバスケットを渡してしまったけれど、わたしはアリシアお嬢様の袖の中にいるから、当然バスケットの中にはいない。花だらけのバスケットの中にきちんとわたしが入っているかどうかを確認するには時間がかかるだろうから、すぐにはわからない。バスケットの中を探し辛くするために、さっきは突然花を摘み始めたのかと納得した。
「じゃあ、わたくしはこれからレジーナお姉様と2人でお話しますので、先に戻っていてくださいまし」
エミリアに伝えた瞬間に扉をノックするものだから、エミリアは慌てて立ち去ってしまった。バスケットの中身を確認する間も無く。
エミリアがすでにこちらに背を向けているのを確認してから、アリシアお嬢様がさっと袖からわたしを出す。しゃがんでから、可愛らしいリボンのついたヒール靴の上に乗せた。
"しっかりとリボンにつかまっていてほしいですの。それで、カロリーナが降りれそうなタイミングを見計って靴から降りてから、どこかに隠れたらいいですわ。こっそり部屋に忍び込みながら証拠を見つけてほしいですの。わたくしも追い出されるまでは一緒に部屋の中にいますわ"
「追い出されるまでは……?」
ざっくりとした作戦をしゃがんだ状態のアリシアお嬢様にヒソヒソ声で説明されたけど、追い出されるまで、という不穏な言葉が聞こえてきて心配になる。靴の中のわたしはスカートに隠れて、まったくアリシアお嬢様の姿は見えてはいなかった。
「誰? 名乗りなさい」と中から声がしたのを聞いて、アリシアお嬢様は慌てて立ち上がった。
「アリシアですわ。お姉様、お久しぶりですの」
わたしはスカートに隠れた靴の上から2人の声を聞いていた。
ドアが開く音がしたから、レジーナお嬢様が中から出てきたのだと思う。
「何の用?」
レジーナお嬢様がぶっきらぼうに言う。
「あの、その……」とアリシアお嬢様がしどろもどろしていた。普段は悠然としているから、言葉に詰まっている姿は珍しかった。アリシアお嬢様も、エミリアも、彼女の前ではオドオドしているけれど、そんなにもレジーナお嬢様は怖いのだろうか。そう思ったけれど、平気で湯船にわたしを投げるような人だから、性格は難がありそうだな、と納得した。
小さくため息をついてから、レジーナお嬢様が「とりあえず、入りなさいよ」と言ってアリシアお嬢様を部屋の中に入れる。アリシアお嬢様が恐る恐る一歩を踏み出した瞬間、わたしの乗っていた靴が大きく揺れた。落ちてしまいそうになり、慌ててリボンの部分にぎゅっとしがみついた。
3歩程歩いたところでアリシアお嬢様の動きが止まり、突然わたしの捕まっている方の足だけ背伸びみたいにして、足首を伸ばすようにして、大きく傾けられてしまう。
「ちょっと! アリシアお嬢様どうしちゃったんだろ……。わたし、落ちちゃうよ……!?」
一人困惑しながら必死にリボンにしがみついていると、今度はスカートの下で、ボールを蹴るときみたいに靴を動かす。明らかにわたしを落とそうとしている動きだったから、一体何を考えているのだろうかと泣きたくなってしまう。
結局、わたしはアリシアお嬢様の足の力に負けて、床をコロコロと転がってしまった。そして、靴の上が軽くなってのを確認してから、一瞬下を見たアリシアお嬢様が、サッとわたしのことを隠すみたいに一歩前に踏み出した。アリシアお嬢様はきちんとわたしの位置を確認していたから踏み潰されることはないけれど、それでも上空をヒールのある靴が通過するのは怖かった。
わたしが身を屈めて、靴が通過するのを待っていると、自分の足の隙間から後ろが見えた。
「棚だわ……」
入り口のすぐ近くに置いてあった大きな本棚は身を隠すのにちょうどよかった。
突然わたしを靴から落としたアリシアお嬢様は、わたしを本棚に隠れるように誘導したかったのかと納得して、イソイソと1段目に身を隠した。図鑑とか、辞書とか重たそうな本が並んでいるから、下敷きにならないように気をつけなければならない。下敷きになってしまったら、自力で抜け出すのは不可能だろうから。
興味本位で触ってみた植物の図鑑は重たすぎて、まったく読めそうな気はしなかった。本の隙間に挟まりながら、アリシアお嬢様を見守ることにする。見上げると、遠くの方で席に座って向かい合うアリシアお嬢様とレジーナお嬢様の姿があった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる