手乗りメイドはお嬢様に愛されたい!

穂鈴 えい

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Ⅰ 手乗りサイズの新米メイド

頼もしい協力者 5

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「あの、アリシアお嬢様、どちらへ向かわれるつもりですか……?」
エミリアが不安そうに尋ねていた。部屋のある方向とは違う方向に進んでいく。アリシアお嬢様は少し悩んでから答えた。

「レジーナお姉様のお部屋ですの」
「レジーナお嬢様のお部屋……。一体何を……」
「それはエミリアには関係ないことですの」
「あの、揉め事だけは……」

恐る恐る声を出したエミリアに、アリシアお嬢様は柔らかい声色で答えた。
「わたくしも、レジーナお姉様と喧嘩なんてしたくないですの」

その声に、エミリアも納得したみたいで、「わかりました」といつもの落ち着いた調子で答える。話している間にレジーナお嬢様の部屋についたようで、アリシアお嬢様の足が止まった。

「では、カロリーナは預かっておきますので、バスケットをこちらに」
アリシアお嬢様は言われるがままにバスケットを渡していた。
「わたくしの部屋に持ち帰っておいてもらって、中のカロリーナはメイド屋敷に戻しておいてほしいですの」

自然な様子でバスケットを渡してしまったけれど、わたしはアリシアお嬢様の袖の中にいるから、当然バスケットの中にはいない。花だらけのバスケットの中にきちんとわたしが入っているかどうかを確認するには時間がかかるだろうから、すぐにはわからない。バスケットの中を探し辛くするために、さっきは突然花を摘み始めたのかと納得した。

「じゃあ、わたくしはこれからレジーナお姉様と2人でお話しますので、先に戻っていてくださいまし」
エミリアに伝えた瞬間に扉をノックするものだから、エミリアは慌てて立ち去ってしまった。バスケットの中身を確認する間も無く。

エミリアがすでにこちらに背を向けているのを確認してから、アリシアお嬢様がさっと袖からわたしを出す。しゃがんでから、可愛らしいリボンのついたヒール靴の上に乗せた。

"しっかりとリボンにつかまっていてほしいですの。それで、カロリーナが降りれそうなタイミングを見計って靴から降りてから、どこかに隠れたらいいですわ。こっそり部屋に忍び込みながら証拠を見つけてほしいですの。わたくしも追い出されるまでは一緒に部屋の中にいますわ"
「追い出されるまでは……?」

ざっくりとした作戦をしゃがんだ状態のアリシアお嬢様にヒソヒソ声で説明されたけど、追い出されるまで、という不穏な言葉が聞こえてきて心配になる。靴の中のわたしはスカートに隠れて、まったくアリシアお嬢様の姿は見えてはいなかった。

「誰? 名乗りなさい」と中から声がしたのを聞いて、アリシアお嬢様は慌てて立ち上がった。
「アリシアですわ。お姉様、お久しぶりですの」
わたしはスカートに隠れた靴の上から2人の声を聞いていた。

ドアが開く音がしたから、レジーナお嬢様が中から出てきたのだと思う。
「何の用?」
レジーナお嬢様がぶっきらぼうに言う。

「あの、その……」とアリシアお嬢様がしどろもどろしていた。普段は悠然としているから、言葉に詰まっている姿は珍しかった。アリシアお嬢様も、エミリアも、彼女の前ではオドオドしているけれど、そんなにもレジーナお嬢様は怖いのだろうか。そう思ったけれど、平気で湯船にわたしを投げるような人だから、性格は難がありそうだな、と納得した。

小さくため息をついてから、レジーナお嬢様が「とりあえず、入りなさいよ」と言ってアリシアお嬢様を部屋の中に入れる。アリシアお嬢様が恐る恐る一歩を踏み出した瞬間、わたしの乗っていた靴が大きく揺れた。落ちてしまいそうになり、慌ててリボンの部分にぎゅっとしがみついた。

3歩程歩いたところでアリシアお嬢様の動きが止まり、突然わたしの捕まっている方の足だけ背伸びみたいにして、足首を伸ばすようにして、大きく傾けられてしまう。

「ちょっと! アリシアお嬢様どうしちゃったんだろ……。わたし、落ちちゃうよ……!?」
一人困惑しながら必死にリボンにしがみついていると、今度はスカートの下で、ボールを蹴るときみたいに靴を動かす。明らかにわたしを落とそうとしている動きだったから、一体何を考えているのだろうかと泣きたくなってしまう。

結局、わたしはアリシアお嬢様の足の力に負けて、床をコロコロと転がってしまった。そして、靴の上が軽くなってのを確認してから、一瞬下を見たアリシアお嬢様が、サッとわたしのことを隠すみたいに一歩前に踏み出した。アリシアお嬢様はきちんとわたしの位置を確認していたから踏み潰されることはないけれど、それでも上空をヒールのある靴が通過するのは怖かった。

わたしが身を屈めて、靴が通過するのを待っていると、自分の足の隙間から後ろが見えた。
「棚だわ……」
入り口のすぐ近くに置いてあった大きな本棚は身を隠すのにちょうどよかった。

突然わたしを靴から落としたアリシアお嬢様は、わたしを本棚に隠れるように誘導したかったのかと納得して、イソイソと1段目に身を隠した。図鑑とか、辞書とか重たそうな本が並んでいるから、下敷きにならないように気をつけなければならない。下敷きになってしまったら、自力で抜け出すのは不可能だろうから。

興味本位で触ってみた植物の図鑑は重たすぎて、まったく読めそうな気はしなかった。本の隙間に挟まりながら、アリシアお嬢様を見守ることにする。見上げると、遠くの方で席に座って向かい合うアリシアお嬢様とレジーナお嬢様の姿があった。
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