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Ⅰ 手乗りサイズの新米メイド
頼もしい協力者 1
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「この間は申し訳ありませんでしたわ。気づいたらわたくしいつの間にかベッドで寝ていましたの……」
しょんぼりと頭を下げるアリシアお嬢様のことを、机の上から見上げていた。今日もわたし一人でアリシアお嬢様の勉強机の上にお呼ばれをしていた。
「いえ、そんな……」
できるだけ普段通りを装いながらも、体全体で受けたアリシアお嬢様の胸の弾力や、間近で見たわたしを簡単に噛み砕くことのできる大きな歯が脳裏に浮かんでしまって、思い出したらドキドキしてきてしまう。トキメキと恐怖、そのどちらもたっぷり味合わされてしまった。
「ちなみに、アリシアお嬢様はどの辺りまで覚えてるんですか……?」
恐る恐る尋ねてみると、アリシアお嬢様が困ったように笑った。
「エミリアがバスルーム内に入ってきたくらいまでですの」
つまり、アリシアお嬢様が暴走していた時にはすでに正気ではなかったらしい。
今日もいつも通り同じ部屋の中でのエミリアの監視は続いていた。だから、大事な話を普通の声のサイズで話せるわけがなかった。アリシアお嬢様が吐き出す空気に紛れ込ませながら、とても小さな声で囁く。
"エミリアに会話を聞かれたら困りますから、慌ててカロリーナのことを心臓の辺りで包み込んでいたところまでは覚えてますの……。でも、その聞き方だと、わたくしもしかして、カロリーナに何か酷いことをしてしまいましたの?"
抑揚はないけれど、エミリアから死角になっている表情がとても心配そうにしていた。
わたしはエミリアに見えないようにそっとアリシアお嬢様の小指の辺りまで移動して、優しく両手を乗せながら、ゆっくりと首を横に振って否定をした。言葉にするとエミリアにバレてしまうから何も言わなかったけれど、アリシアお嬢様はとりあえず安心してくれたみたいで、優しく微笑んでいた。まあ、本当は結構怖い目に遭わされてしまってはいたけれど……。
アリシアお嬢様は、"良かったですわ"と小さな声で囁いた後、エミリアにも聞こえるような普通の大きさの声を出す。
「さあ、カロリーナ。宿題の手伝いをしてほしいですの」
「宿題?」
「そうですわ。わたくし家庭教師から課題を出されてますの」
いつも椅子に座ってノートに何か書いていたのかは課題をやっていたからか、と納得する。わたしも生まれ育ったリティシア家にいた頃は課題に頭を悩まされていたから気持ちはわかる。今はメイドになったから、そういう悩みが無くなったのは結構ラッキーかも、とは思った。勉強はあんまり好きじゃない。
「手伝いって言ってもわたしもあんまり賢くないですけど……」
「大丈夫ですわ。ノートを捲ってもらったり、指のツボ押しをしたりしてくれれば良いですの」
アリシアお嬢様が微笑んでから、また微量の声で囁いた。
"雑に扱ってしまってごめんですの。でも、こうしないと、カロリーナを呼んだこと、エミリアに怪しまれてしまいますの"
手伝ってほしいことの内容は、アリシアお嬢様がやったほうが早そうなことばかりだから、すでに怪しまれている気もするけれど、それでも、せっかくアリシアお嬢様が協力してくれているのなら、縋りたかった。
"カロリーナが元に戻る方法は、残念ながら今のわたしにはすぐにはわかりませんの"
エミリアは同じ部屋にいるというのに、アリシアお嬢様がうまく呼吸に混ぜて言葉を話すからまったく怪しまれていなかった。とても器用に言葉を発してくれている。
アリシアお嬢様のおかげで、わたしたちはエミリアの近くでも、こっそりと意思疎通を図れている。まあ、厳密にはアリシアお嬢様からわたしに一方的に話しかけているから、意思疎通と言っても良いのかは怪しかったけれど。
"わたくしはこのお屋敷の中では孤立してますの。だから、申し訳ないですが、どのメイドが怪しいかとか、そういった情報は全くわかりませんの"
アリシアお嬢様の口元が寂しそうに緩んだ。
何かフォローできるような言葉を伝えたかったけれど、エミリアが同じ部屋にいる以上、言葉は出せなかった。それに、アリシアお嬢様の言った孤立がどの程度深刻なものなのかわからない以上、わたしの口から迂闊に掘り下げることはできなかった。
"とりあえず、一緒にお散歩をしているふりをしながらこの辺りを見回って、怪しいメイドを探す、なんてどうですの?"
良いんですか? と、わたしは喉の奥まで出かけてしまった。
普段わたしたち小さなメイドはアリシアお嬢様の部屋の外に出ることなんてない。そもそもアリシアお嬢様かエミリアの助けを借りないと出られないのだけど、エミリアはもちろんそんな気の利いたことはしてくれないし、アリシアお嬢様を乗り物代わりにしてしまうなんてソフィアが絶対に許してくれない。それなのに、わたしは昨日のバスルームに続いて、アリシアお嬢様と共に散策ができるなんて。
上を見ると、優しく微笑むアリシアお嬢様の整った顔があった。一緒に捜索してくれるのはもちろん嬉しいけれど、ただ純粋にアリシアお嬢様と一緒に散歩をするだけでも楽しみだった。
しょんぼりと頭を下げるアリシアお嬢様のことを、机の上から見上げていた。今日もわたし一人でアリシアお嬢様の勉強机の上にお呼ばれをしていた。
「いえ、そんな……」
できるだけ普段通りを装いながらも、体全体で受けたアリシアお嬢様の胸の弾力や、間近で見たわたしを簡単に噛み砕くことのできる大きな歯が脳裏に浮かんでしまって、思い出したらドキドキしてきてしまう。トキメキと恐怖、そのどちらもたっぷり味合わされてしまった。
「ちなみに、アリシアお嬢様はどの辺りまで覚えてるんですか……?」
恐る恐る尋ねてみると、アリシアお嬢様が困ったように笑った。
「エミリアがバスルーム内に入ってきたくらいまでですの」
つまり、アリシアお嬢様が暴走していた時にはすでに正気ではなかったらしい。
今日もいつも通り同じ部屋の中でのエミリアの監視は続いていた。だから、大事な話を普通の声のサイズで話せるわけがなかった。アリシアお嬢様が吐き出す空気に紛れ込ませながら、とても小さな声で囁く。
"エミリアに会話を聞かれたら困りますから、慌ててカロリーナのことを心臓の辺りで包み込んでいたところまでは覚えてますの……。でも、その聞き方だと、わたくしもしかして、カロリーナに何か酷いことをしてしまいましたの?"
抑揚はないけれど、エミリアから死角になっている表情がとても心配そうにしていた。
わたしはエミリアに見えないようにそっとアリシアお嬢様の小指の辺りまで移動して、優しく両手を乗せながら、ゆっくりと首を横に振って否定をした。言葉にするとエミリアにバレてしまうから何も言わなかったけれど、アリシアお嬢様はとりあえず安心してくれたみたいで、優しく微笑んでいた。まあ、本当は結構怖い目に遭わされてしまってはいたけれど……。
アリシアお嬢様は、"良かったですわ"と小さな声で囁いた後、エミリアにも聞こえるような普通の大きさの声を出す。
「さあ、カロリーナ。宿題の手伝いをしてほしいですの」
「宿題?」
「そうですわ。わたくし家庭教師から課題を出されてますの」
いつも椅子に座ってノートに何か書いていたのかは課題をやっていたからか、と納得する。わたしも生まれ育ったリティシア家にいた頃は課題に頭を悩まされていたから気持ちはわかる。今はメイドになったから、そういう悩みが無くなったのは結構ラッキーかも、とは思った。勉強はあんまり好きじゃない。
「手伝いって言ってもわたしもあんまり賢くないですけど……」
「大丈夫ですわ。ノートを捲ってもらったり、指のツボ押しをしたりしてくれれば良いですの」
アリシアお嬢様が微笑んでから、また微量の声で囁いた。
"雑に扱ってしまってごめんですの。でも、こうしないと、カロリーナを呼んだこと、エミリアに怪しまれてしまいますの"
手伝ってほしいことの内容は、アリシアお嬢様がやったほうが早そうなことばかりだから、すでに怪しまれている気もするけれど、それでも、せっかくアリシアお嬢様が協力してくれているのなら、縋りたかった。
"カロリーナが元に戻る方法は、残念ながら今のわたしにはすぐにはわかりませんの"
エミリアは同じ部屋にいるというのに、アリシアお嬢様がうまく呼吸に混ぜて言葉を話すからまったく怪しまれていなかった。とても器用に言葉を発してくれている。
アリシアお嬢様のおかげで、わたしたちはエミリアの近くでも、こっそりと意思疎通を図れている。まあ、厳密にはアリシアお嬢様からわたしに一方的に話しかけているから、意思疎通と言っても良いのかは怪しかったけれど。
"わたくしはこのお屋敷の中では孤立してますの。だから、申し訳ないですが、どのメイドが怪しいかとか、そういった情報は全くわかりませんの"
アリシアお嬢様の口元が寂しそうに緩んだ。
何かフォローできるような言葉を伝えたかったけれど、エミリアが同じ部屋にいる以上、言葉は出せなかった。それに、アリシアお嬢様の言った孤立がどの程度深刻なものなのかわからない以上、わたしの口から迂闊に掘り下げることはできなかった。
"とりあえず、一緒にお散歩をしているふりをしながらこの辺りを見回って、怪しいメイドを探す、なんてどうですの?"
良いんですか? と、わたしは喉の奥まで出かけてしまった。
普段わたしたち小さなメイドはアリシアお嬢様の部屋の外に出ることなんてない。そもそもアリシアお嬢様かエミリアの助けを借りないと出られないのだけど、エミリアはもちろんそんな気の利いたことはしてくれないし、アリシアお嬢様を乗り物代わりにしてしまうなんてソフィアが絶対に許してくれない。それなのに、わたしは昨日のバスルームに続いて、アリシアお嬢様と共に散策ができるなんて。
上を見ると、優しく微笑むアリシアお嬢様の整った顔があった。一緒に捜索してくれるのはもちろん嬉しいけれど、ただ純粋にアリシアお嬢様と一緒に散歩をするだけでも楽しみだった。
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