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Ⅰ 手乗りサイズの新米メイド
入浴と秘密と 5
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「あの……、高くて怖いんですけど……」
アリシアお嬢様よりも高い視点から彼女のことを見下ろす形になっているから、表情もよく見えた。さっきまでの優しげな表情は無くなっていて、顔を真っ赤にして目を回している様子だった。明らかに異常な様子だったから、不安になる。
「カロリーナのこと、食べひゃいたいくらい大好きですわ~」
アリシアお嬢様は少し呂律も回っていないようで、滑舌も甘くなっていた。
「アリシアお嬢様、もしかしてのぼせてるんじゃ……」
「いただきまふですの」
わたしを掴んだアリシアお嬢様の手が、突如急降下をする。そして、アリシアお嬢様の口が近づいてくる。運ばれようとしている先には、わたしを簡単に咀嚼できてしまいそうな大きな歯がズラリと待ち構えている。
「ちょ、ちょっとやめてください!」
抗おうとしても力じゃ勝てない。首から下はアリシアお嬢様の手に覆われていて、文字通り手も足も出ない状態になっている。
アリシアお嬢様の口から少しだけ出ている舌先が目についた。ぬるりとした舌先に、わたしの体は近づいていく。そして、大きな舌がわたしの顔をぺろっと舐めたのだった。ステーキ肉の匂いがまだ染み付いている唾液がわたしを覆っていく。
その辺りでようやくエミリアがアリシアお嬢様の手首を持って、無理矢理わたしを口から遠ざけた。その瞬間、アリシアお嬢様の手首の力が緩み、わたしの体はバスタブのお湯へと落下していく。ひぃっ、と情けない声を出しながら、勢いよくお風呂のお湯の中に飛び込まされてしまった。
「は、早く掬い上げて!」と声を上げたけれど、エミリアはわたしの方なんて見ていなかった。顔を真っ赤にのぼせさせて脱力してしまい、湯船に口をつけてブクブクと泡を立てているアリシアお嬢様の脇に急いで手を入れて、引っ張り上げている。
「普段ほとんどバスタブに浸かることなんてないのに、慣れない長風呂なんてなさるから……!」
アリシアお嬢様がのぼせて気を失ってしまっているのなら、そちらを優先するのは納得はできるけれど、引き上げ終わったら、わたしのこともバスタブの外に出してほしい。けれど、わたしのことはスルーして、エミリアはアリシアお嬢様をお姫様抱っこみたいにして抱きかかえてバスルームから去っていく。引っ張り上げた際にバスタブ内のお湯が大きく波打ってしまった状態で、わたしは一人取り残されてしまった。
「ねえ、待ってってば! わたしも連れてってよ……!」
この体だとお湯から立ち上る湯気のせいで全然周りが見えないことをエミリアは知っているのだろうか。このままではわたしも溺れちゃうんだけど……。前がほとんど見えない荒波の中を流されながら、必死にもがいていた。
「どうしたらいいの!? エミリアさん、早く戻ってきて~」
わたしは必死にもがき続けているけれど、何度も何度も押し寄せてくる大波に飲まれそうになる。本当はバスタブを登るために端っこまで泳がなければいけないけれど、水に抗うのに必死で、全然進めない。水深十メートル以上の深いバスタブで溺れてしまったら、本当に命の危機である。
とにかく誰も助けてくれなさそうな以上、体力の限界まで泳ぐしかなかった。先ほどのアリシアお嬢様の口へのコーン運びで疲弊してしまっているせいで、すでにグッタリしているけれど、進み始めた。
湯気で前は見えないけれど、ここは本物の海と違って、わりと近い場所にバスタブの壁があることはわかっている。一番気をつけないといけないことは、優柔不断になって、あっちに行ったり、こっちに行ったりして闇雲に方向を変えた結果、ずっとバスタブの真ん中あたりをグルグルしてしまうこと。それだけは避けなければならないから、わたしはただ前だけ見て、なんとか溺れないようにしながら進んでいく。
必死にもがいて進み続けていると、ようやくバスタブの壁に辿り着いた。ホッとして、ツルツルとした壁にタッチした時に、わたしは嫌な事実に気づいてしまった。
「これ、どうやって登るの……?」
アリシアお嬢様よりも高い視点から彼女のことを見下ろす形になっているから、表情もよく見えた。さっきまでの優しげな表情は無くなっていて、顔を真っ赤にして目を回している様子だった。明らかに異常な様子だったから、不安になる。
「カロリーナのこと、食べひゃいたいくらい大好きですわ~」
アリシアお嬢様は少し呂律も回っていないようで、滑舌も甘くなっていた。
「アリシアお嬢様、もしかしてのぼせてるんじゃ……」
「いただきまふですの」
わたしを掴んだアリシアお嬢様の手が、突如急降下をする。そして、アリシアお嬢様の口が近づいてくる。運ばれようとしている先には、わたしを簡単に咀嚼できてしまいそうな大きな歯がズラリと待ち構えている。
「ちょ、ちょっとやめてください!」
抗おうとしても力じゃ勝てない。首から下はアリシアお嬢様の手に覆われていて、文字通り手も足も出ない状態になっている。
アリシアお嬢様の口から少しだけ出ている舌先が目についた。ぬるりとした舌先に、わたしの体は近づいていく。そして、大きな舌がわたしの顔をぺろっと舐めたのだった。ステーキ肉の匂いがまだ染み付いている唾液がわたしを覆っていく。
その辺りでようやくエミリアがアリシアお嬢様の手首を持って、無理矢理わたしを口から遠ざけた。その瞬間、アリシアお嬢様の手首の力が緩み、わたしの体はバスタブのお湯へと落下していく。ひぃっ、と情けない声を出しながら、勢いよくお風呂のお湯の中に飛び込まされてしまった。
「は、早く掬い上げて!」と声を上げたけれど、エミリアはわたしの方なんて見ていなかった。顔を真っ赤にのぼせさせて脱力してしまい、湯船に口をつけてブクブクと泡を立てているアリシアお嬢様の脇に急いで手を入れて、引っ張り上げている。
「普段ほとんどバスタブに浸かることなんてないのに、慣れない長風呂なんてなさるから……!」
アリシアお嬢様がのぼせて気を失ってしまっているのなら、そちらを優先するのは納得はできるけれど、引き上げ終わったら、わたしのこともバスタブの外に出してほしい。けれど、わたしのことはスルーして、エミリアはアリシアお嬢様をお姫様抱っこみたいにして抱きかかえてバスルームから去っていく。引っ張り上げた際にバスタブ内のお湯が大きく波打ってしまった状態で、わたしは一人取り残されてしまった。
「ねえ、待ってってば! わたしも連れてってよ……!」
この体だとお湯から立ち上る湯気のせいで全然周りが見えないことをエミリアは知っているのだろうか。このままではわたしも溺れちゃうんだけど……。前がほとんど見えない荒波の中を流されながら、必死にもがいていた。
「どうしたらいいの!? エミリアさん、早く戻ってきて~」
わたしは必死にもがき続けているけれど、何度も何度も押し寄せてくる大波に飲まれそうになる。本当はバスタブを登るために端っこまで泳がなければいけないけれど、水に抗うのに必死で、全然進めない。水深十メートル以上の深いバスタブで溺れてしまったら、本当に命の危機である。
とにかく誰も助けてくれなさそうな以上、体力の限界まで泳ぐしかなかった。先ほどのアリシアお嬢様の口へのコーン運びで疲弊してしまっているせいで、すでにグッタリしているけれど、進み始めた。
湯気で前は見えないけれど、ここは本物の海と違って、わりと近い場所にバスタブの壁があることはわかっている。一番気をつけないといけないことは、優柔不断になって、あっちに行ったり、こっちに行ったりして闇雲に方向を変えた結果、ずっとバスタブの真ん中あたりをグルグルしてしまうこと。それだけは避けなければならないから、わたしはただ前だけ見て、なんとか溺れないようにしながら進んでいく。
必死にもがいて進み続けていると、ようやくバスタブの壁に辿り着いた。ホッとして、ツルツルとした壁にタッチした時に、わたしは嫌な事実に気づいてしまった。
「これ、どうやって登るの……?」
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