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Ⅰ 手乗りサイズの新米メイド

豪華な晩御飯 6

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「さて、もうお食事は終わりですわ」
アリシアお嬢様と会える時間はここまでと言うことらしい。結局、今日もわたしが今置かれている状況について伝えられずに自室に戻るのかと落胆していたら、アリシアお嬢様が大きな瞳で、ジッとわたしのことを見つめているのに気がついた。

「そういえばカロリーナ、いっぱい動いたせいで汗かいてますわね」
アリシアお嬢様がわたしの頬を触った。汗というか、ステーキ肉の上に飛び込んだり、アリシアお嬢様が食べさせてくれようとした時に、顔に触れて脂が付いたのだけれど。

アリシアお嬢様は優しく微笑んだ。
「お風呂にしたら良いですわね」
「あ、じゃあわ、わたしは部屋に戻って、シャワーを……」

これで今日のお仕事は終わりかと思ったのに、アリシアお嬢様がギュッとわたしの体を掴んだ。両手でしっかりと掴んで、絶対に離さないという意思を感じさせる掴み方をしている。

「わたくしと一緒に入りますの」
「え?」
「これだけベタついていたら、シャワーだけでは取れませんの。大きなお風呂に浸かった方がいいですわ」
「いえ、そんな……」

わたし一人じゃ当然海みたいに深い湯船に浸かれるわけがないので、アリシアお嬢様に面倒を見てもらいながら入らないといけないけれど、そうやって迷惑をかけるなんて、メイドとして正解ではない。そんなことがバレてしまったらソフィアから強く注意を受けてしまう。

だから、遠慮しようと思ったのに、アリシアお嬢様はわたしを両手で拘束したまま、有無を言わさずそそくさと移動していく。当然、その後ろから移動の音も立てずにメイドのエミリアもついてくる。

「お風呂場にまで後をつけて来られたらさすがに困りますの」
エミリアの方は見ずに、アリシアお嬢様が呆れたように言う。

「レジーナお嬢様から、目を離さないようにと言い付けられていますので」
「いくらお姉様の命令でも、お風呂場にまで入ってくるなんて変態さんのすることですわ。きっとソフィアやベイリーなら、わたしたちの裸を覗きにまでは来ないと思いますの」

ムッとした調子でアリシアお嬢様が言っているけれど、わたしは今から一緒に入れられるわけで、すでにアリシアお嬢様とお風呂場に入る人間はいるから、その言葉ではわたしも変態さん扱いされてしまう気もする。

それでも、アリシアお嬢様の言葉はエミリアにそれなりに効いたらしい。
「いえ、ですが……」としどろもどろになってしまっていた。
「さ、納得したらさっさとレジーナお姉様のところにでも戻りなさいですの」

俯きつつも、エミリアはついてくる。
「いずれにしても、お嬢様のお洋服は私が脱がせないといけませんから」
小さく咳払いをしてからまた背筋を正した。
「やっぱり意地悪メイドですわね」

それから、アリシアお嬢様は少し表情を明るくしてから、どこか遠くの方に視線を向けて呟いた。
「ねえ、エミリア。今は誰か浴場にいますの?」
吐き出す吐息に混ぜながら、とても小さな声で呟いたから、わたしの耳にもかろうじてしか聞こえなかった。体が小さいと、小さな声もきちんと届くけれど、アリシアお嬢様よりも背の高いエミリアには、今の言葉は聞こえなかったらしい。

「なるほどですわ」とアリシアお嬢様が微笑んだ。その笑顔をわたしは両手でソッと握られて、首から下が身動きの取れない状態のまま見上げていた。

「アリシアお嬢様、どうかしたんですか?」
尋ねた瞬間、アリシアお嬢様が驚いて手の力を入れてしまったから、グエッと変な音を出してしまった。体の厚みが半分くらいになってしまったのではないかと思うような強い力だった。

同じくらいのサイズだときっと守ってあげたくなるような華奢でか弱そうなアリシアお嬢様もこの体だと少し間違えればわたしに致命傷を与えてしまえるような力を持っているのだから、扱いには気をつけてほしい。

「カロリーナ、ごめんですの……」
「な、内臓が飛び出るかと思いました……」

胃液が喉元まで来てしまっていて、少し辛味が感じられた。顔を歪めるわたしのことをアリシアお嬢様は心配そうに見つめていた。そんなわたしたちのことをエミリアは相変わらず無表情で見ているのだった。
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