手乗りメイドはお嬢様に愛されたい！

Ⅰ 手乗りサイズの新米メイド

豪華な晩御飯 3

「これくらいなら食べられますの？」
とても小さく切ってもらったおかげで、お肉の大きさはレンガくらいの大きさにまで小さくなっていた。

「これじゃあ食べ応えがないかもしれませんわ」
アリシアお嬢様が器用にお肉をフォークの先端にに乗せながら呟いた。ステーキ肉は分割されすぎていて、アリシアお嬢様の巨大なフォークでは刺すことはできないらしい。

「食べ応えないどころか、残しちゃうかもしれません……」
わたしは困惑気味に呟いた。
「お口に合いませんの？」
「いえ……」

まだ食べていないけれど、アリシアお嬢様のフォークの上に乗っているお肉の良い匂いはかなり食欲を刺激していた。味はきっととても上質だろうとは思う。お腹の音もグルグルと鳴り始めている。

「あら、今お腹鳴りましたの？」
アリシアお嬢様が少し嬉しそうに尋ねてきた。アリシアお嬢様に聞こえるくらい大きなお腹の音がしてしまったみたいで、恥ずかしくなる。丸々一切れ食べるのは難しくても、美味しそうな高級なお肉自体はとても魅力的だった。

「いえ、その……。失礼しました……」
「気にしなくて良いですの。さっ、早く食べてほしいですの」

アリシアお嬢様がグイッとフォークの先を近づけてきたけれど、金属製のフォークはわたしの体を貫こうと思えば貫けてしまう凶器でもあるので、思わず後ろに下がってしまった。

フォークの動きが止まったのを確認してから近づき、恐る恐る手に取った。ずっしりと重たいステーキが手に乗る。そのままじっと、わたしのことをアリシアお嬢様が見つめていた。

「さあ、早く食べてほしいですの」
ワクワクしながら見つめてくるアリシアお嬢様の視線が小動物を観察するような視線にも見えて、少し恥ずかしかったけれど、思い切って口にする。口に入れた瞬間にじゅわりと肉の風味がいっぱい漂ってくる。

「美味しい……」
思わず口から出てきた味の感想。わたしも家にいた時は美味しいお肉をたくさん食べたけれど、こんなに美味しいのは食べたことがないかも。やっぱりアリシアお嬢様の家はとても名家なのだと実感する。

そんなわたしの感情は気にせず、アリシアお嬢様はすごいペースでお肉を食べすすめた。もちろん、すごいペースと言っても、アリシアお嬢様は上品に、頬張りすぎないように少しずつお肉を食べているだけなのだけれど、たった一口がわたしの1日分の食事量を超えてしまうくらい大きい。

「スープもありますわ」
スプーンいっぱいに並々と注がれたスープは、それ自体が鍋いっぱいに入っているみたいで、とてもじゃないけど飲みきれない。わたしがソッとスプーンに乗っているものを手で掬って5回ほど飲んだら、もう充分満足な量になっていた。

「遠慮しなくてもよろしいですわ」とアリシアお嬢様が言ってくれたけれど、遠慮ではなく、純粋にお腹がいっぱいなのだ。
「もう充分食べましたので……」
そう言うと、アリシアお嬢様は少し残念そうに、スープを一口で啜ってしまった。

そんな姿を見上げていると、わたしはやっぱり自分の小ささが嫌でも気になってしまう。アリシアお嬢様には当然そんな意識はないのだろうけれど、わたしがお腹いっぱいになってしまう量をたった一口で平らげてしまう姿には圧倒されて、見せつけられてしまっているような感覚になる。ほんと、あんな可愛らしい姿のどこにこんなにもたくさんの食べ物を吸収してしまっているのだろうか、とため息をついた。