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Ⅰ 手乗りサイズの新米メイド
パトリシアⅠ 4
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ソフィアはそっと横の椅子に座った。メイドの仕事に戻らないといけないのはわかっているけれど、かといってこの子だけで無防備に眠っているところを他のメイドに見られてしまったらトラブルになる。
時折少し苦しそうに息を荒げるから、薬が効いていないのではないかと不安になってしまう。とりあえず、ソッと手を握ってあげたら、ギュッと握り返してきてくれて、また呼吸も落ちつてくれた。彼女が手を離そうとしないから、ソフィアも握ったまま動けなかった。
無理にでも手を離したいと思うほど、彼女に対して悪いイメージはない。メイドと魔女という立場で出会っていなければ、彼女とは良いお友達になれただろうな、なんて思っていた頃に、パトリシアお嬢様が戻ってきた。
「ねえ、その子、無事だったの?」
「少しずつですけど、呼吸音も大きくなってきていますし、もうすぐ元気になると思います」
「そっか、良かった」とパトリシアお嬢様が心の底からホッとしたような表情を見せた。
ソフィアとは逆方向に座って、パトリシアお嬢様もソッと少女の手を握っていた。もし少女が他の家からの刺客で何か罠でも仕掛けていて、触った瞬間に発動でもしたらどうするつもりなのだろうかとも思ったけれど、そんなことは自ら彼女の電流を浴びに行ったパトリシアお嬢様には関係のないことなのだろう。それに、もしそんな罠を仕掛けていたら、きっとソフィアが今ごろやられていただろうし。
結局、ソフィアたちは3人で手を繋いで、少女が起きるのを待っていた。ソフィアもパトリシアも眠っている彼女につられてウトウトし始めていた頃に、彼女がゆっくりと姿勢を正した。繋がれた手を見て、一瞬驚いたように目を丸くした後、パトリシアお嬢様とソフィアの姿を確認してから、ホッと息を吐いていた。
「具合はどうですか?」
ソフィアが尋ねると、手をゆっくり離してから少女が立ち上がり、2人の方を交互に見ながら、順番に頭を下げた。
「本当に、危ないところを助けていただきありがとうございました」
綺麗な黒髪が前に垂れている。
「とりあえず、無事みたいでほっとしたよ」
パトリシアお嬢様が言ったのに続いて、ソフィアも頷いた。とりあえず、身体は無事だったようでホッとした。
けれど、この後どうするのだろうか。たしか、彼女はさっき家は襲われてもう無いと言っていた気がする。この国では、魔女は生きづらい。勝手に悪者に認定されて、正義の名の下に強襲されることもしばしばだったから、きっとこのどこにでもいそうな少女もそういう憂き目にあったのだろう。
「それではわたしはこれで」と言って、少女が去ろうとするから、パトリシアお嬢様が尋ねた。
「ねえ、あなたはどこにいくつもりなの?」
「行く場所なんてないから、しばらくは外で暮らすしかないわね……」
俯いた少女がひどく不安そうで、とても一人で外に出して良い状態には見えなかった。かと言って、屋敷に魔女を住まわせるわけにもいかないだろうし、一体どうすれば良いのだろうかと頭を悩ませていると、パトリシアお嬢様はパンっと手を叩いて、少女に微笑みかけた。
「あなた、うちでメイドにならない?」
「え?」と声をだしたのは、ソフィアと少女、ほとんど同時だった。
「あの……、パトリシアお嬢様……」
簡単に言ったけれど、おそらく魔女がメイドをするのは難しいのではないだろうか。もちろん、ソフィアだって不憫な少女に屋敷でメイドをしてもらえるのならそれが一番良いとは思うけれど、きっとパトリシアお嬢様以外の家の人も、ソフィア以外のメイドもそれを許してはくれないだろう。少女もそれを察して、首を横に振った。
「気持ちはありがたいけれどやめておくわ。恩を仇で返すわけにはいかないもの」
「仇じゃないよ。私はお友達が増えたら嬉しいもの」
パトリシアが満面の笑みを少女に向けているのを見て、ソフィアは苦笑した。
「お友達ではなく、私たちはメイドですけどね……」
「気持ちはありがたいけど……」
少女が逡巡していたから、パトリシアお嬢様は立ち上がって両手を握り、顔を近づける。パトリシアお嬢様の目鼻立ちがクッキリした整った顔が近づいたからか、少女の頬が赤くなっていた。
「私はあなたに居てほしいと言っているんだけどな。あなたにやる気があるなら働いてほしい。屋敷内で魔法を使わなければ、魔女だってバレないよ」
「えっと……」と少女が困っていた。頷きたいけれど、受け入れるわけにはいかないという彼女の中での葛藤がしっかりと伝わってくる。
「パトリシアお嬢様が言っているのだったら、素直に受け入れたら良いと思いますよ。まあ、魔法は使わないようにお願いしたいですけれど」
ソフィアも優しく微笑みかけたら少女は膝から崩れ落ちて、その場で顔を覆って、泣き出してしまった。
「あれ? 働くの嫌だった……?」
パトリシアお嬢様が困惑して尋ねたら、少女は顔を覆ったまま首を大きく横に振った。
「違うの……。嬉しくて……。こんなに優しくしてもらったの、久しぶりだから……」
ソフィアとパトリシアお嬢様はお互いに顔を見合わせて、微笑みあった。とりあえず、これから屋敷に新しい仲間が増えたらしい。
「一応自己紹介。わたしはパトリシアで、こっちがメイドのソフィア。あなたの名前は?」
「ベイリー」
まだ涙声のまま、涙の伝ったままの顔で微笑んでいた。先ほどまでの不安いっぱいの表情と違って、キュッと目を細めて笑っている姿は猫みたいでとても愛らしかった。
こうして、ソフィアとパトリシアお嬢様の生活には、ベイリーという仲間が増えたのだった。このままベイリーと2人で次期当主のパトリシアお嬢様の専属メイドとして、仲良く平和に暮らしていくのだろうと、この時のソフィアは呑気に思っていたのだった。
時折少し苦しそうに息を荒げるから、薬が効いていないのではないかと不安になってしまう。とりあえず、ソッと手を握ってあげたら、ギュッと握り返してきてくれて、また呼吸も落ちつてくれた。彼女が手を離そうとしないから、ソフィアも握ったまま動けなかった。
無理にでも手を離したいと思うほど、彼女に対して悪いイメージはない。メイドと魔女という立場で出会っていなければ、彼女とは良いお友達になれただろうな、なんて思っていた頃に、パトリシアお嬢様が戻ってきた。
「ねえ、その子、無事だったの?」
「少しずつですけど、呼吸音も大きくなってきていますし、もうすぐ元気になると思います」
「そっか、良かった」とパトリシアお嬢様が心の底からホッとしたような表情を見せた。
ソフィアとは逆方向に座って、パトリシアお嬢様もソッと少女の手を握っていた。もし少女が他の家からの刺客で何か罠でも仕掛けていて、触った瞬間に発動でもしたらどうするつもりなのだろうかとも思ったけれど、そんなことは自ら彼女の電流を浴びに行ったパトリシアお嬢様には関係のないことなのだろう。それに、もしそんな罠を仕掛けていたら、きっとソフィアが今ごろやられていただろうし。
結局、ソフィアたちは3人で手を繋いで、少女が起きるのを待っていた。ソフィアもパトリシアも眠っている彼女につられてウトウトし始めていた頃に、彼女がゆっくりと姿勢を正した。繋がれた手を見て、一瞬驚いたように目を丸くした後、パトリシアお嬢様とソフィアの姿を確認してから、ホッと息を吐いていた。
「具合はどうですか?」
ソフィアが尋ねると、手をゆっくり離してから少女が立ち上がり、2人の方を交互に見ながら、順番に頭を下げた。
「本当に、危ないところを助けていただきありがとうございました」
綺麗な黒髪が前に垂れている。
「とりあえず、無事みたいでほっとしたよ」
パトリシアお嬢様が言ったのに続いて、ソフィアも頷いた。とりあえず、身体は無事だったようでホッとした。
けれど、この後どうするのだろうか。たしか、彼女はさっき家は襲われてもう無いと言っていた気がする。この国では、魔女は生きづらい。勝手に悪者に認定されて、正義の名の下に強襲されることもしばしばだったから、きっとこのどこにでもいそうな少女もそういう憂き目にあったのだろう。
「それではわたしはこれで」と言って、少女が去ろうとするから、パトリシアお嬢様が尋ねた。
「ねえ、あなたはどこにいくつもりなの?」
「行く場所なんてないから、しばらくは外で暮らすしかないわね……」
俯いた少女がひどく不安そうで、とても一人で外に出して良い状態には見えなかった。かと言って、屋敷に魔女を住まわせるわけにもいかないだろうし、一体どうすれば良いのだろうかと頭を悩ませていると、パトリシアお嬢様はパンっと手を叩いて、少女に微笑みかけた。
「あなた、うちでメイドにならない?」
「え?」と声をだしたのは、ソフィアと少女、ほとんど同時だった。
「あの……、パトリシアお嬢様……」
簡単に言ったけれど、おそらく魔女がメイドをするのは難しいのではないだろうか。もちろん、ソフィアだって不憫な少女に屋敷でメイドをしてもらえるのならそれが一番良いとは思うけれど、きっとパトリシアお嬢様以外の家の人も、ソフィア以外のメイドもそれを許してはくれないだろう。少女もそれを察して、首を横に振った。
「気持ちはありがたいけれどやめておくわ。恩を仇で返すわけにはいかないもの」
「仇じゃないよ。私はお友達が増えたら嬉しいもの」
パトリシアが満面の笑みを少女に向けているのを見て、ソフィアは苦笑した。
「お友達ではなく、私たちはメイドですけどね……」
「気持ちはありがたいけど……」
少女が逡巡していたから、パトリシアお嬢様は立ち上がって両手を握り、顔を近づける。パトリシアお嬢様の目鼻立ちがクッキリした整った顔が近づいたからか、少女の頬が赤くなっていた。
「私はあなたに居てほしいと言っているんだけどな。あなたにやる気があるなら働いてほしい。屋敷内で魔法を使わなければ、魔女だってバレないよ」
「えっと……」と少女が困っていた。頷きたいけれど、受け入れるわけにはいかないという彼女の中での葛藤がしっかりと伝わってくる。
「パトリシアお嬢様が言っているのだったら、素直に受け入れたら良いと思いますよ。まあ、魔法は使わないようにお願いしたいですけれど」
ソフィアも優しく微笑みかけたら少女は膝から崩れ落ちて、その場で顔を覆って、泣き出してしまった。
「あれ? 働くの嫌だった……?」
パトリシアお嬢様が困惑して尋ねたら、少女は顔を覆ったまま首を大きく横に振った。
「違うの……。嬉しくて……。こんなに優しくしてもらったの、久しぶりだから……」
ソフィアとパトリシアお嬢様はお互いに顔を見合わせて、微笑みあった。とりあえず、これから屋敷に新しい仲間が増えたらしい。
「一応自己紹介。わたしはパトリシアで、こっちがメイドのソフィア。あなたの名前は?」
「ベイリー」
まだ涙声のまま、涙の伝ったままの顔で微笑んでいた。先ほどまでの不安いっぱいの表情と違って、キュッと目を細めて笑っている姿は猫みたいでとても愛らしかった。
こうして、ソフィアとパトリシアお嬢様の生活には、ベイリーという仲間が増えたのだった。このままベイリーと2人で次期当主のパトリシアお嬢様の専属メイドとして、仲良く平和に暮らしていくのだろうと、この時のソフィアは呑気に思っていたのだった。
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