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Ⅰ 手乗りサイズの新米メイド
パトリシアⅠ 2
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「ねえ、あなた大丈夫?」
駆け寄ったパトリシアお嬢様のことを怯えた目で少女が見つめていた。
「やめてぇ……。来ないでぇ……」
泣き腫らした真っ赤な瞳からはまだ涙が出続けていた。
「あの、大丈夫ですか……?」
ソフィアも続いて恐る恐る尋ねた。
「こっち来ちゃだめぇ……」
それでもパトリシアお嬢様は近づく。
「あなた、怪我してるの? うちに来て治療しましょう」
少女の手に触れて、立ち上がらせようとしたときに、パトリシアお嬢様が悲鳴をあげた。
「痛っ」
「パトリシアお嬢様!?」
驚くパトリシアお嬢様とソフィアを見て、少女が慌てて首を横に振った。一瞬攻撃を仕掛けてきたのかと思ったけれど、少女の表情を見て、それは違うと納得した。
「あ、ごめんなさい、違うの……」
少女が泣きそうな顔で心配してくれているけれど、こちらに近づこうとはしなかった。
「わたし、今いっぱい電気が出てるから、近づいたら痺れちゃうわよ……」
「電気?」
「家が襲われて、わたし必死に逃げてきたの。そのときに抵抗した時に電気でバチってする魔法使ったんだけど、全然収まらないの……。わたし、まだその魔法使い始めたばっかりで、全然止めれなくて……」
「魔女……」
ソフィアが小さく呟いてから息を呑んだ。
魔女だとしたら、迂闊にパトリシアお嬢様と近づけるのは得策ではない。悪い子だったらどうしよう、と心配になったけれど、この子がはたして害をなすような子なのだろうか。ただ困っているだけの子にしか見えなかった。
「その怪我は、襲われた時の?」
パトリシアお嬢様がたずねると、少女はうん、と弱々しく頷いた。
「薬草取ったら治癒の薬作れるから……。でも、痺れてうまく掴めないわ……」
「まだ電気が抜けてないのね……」
早く薬草を掴まないと、彼女の怪我はきっと致命傷になってしまうだろう。けれど、電気のせいで震えている手では、握ることもままならないらしい。
パトリシアお嬢様が困ったように少女を見た後に、覚悟を決めたように一歩ずつ近づいていく。
「あの……、パトリシアお嬢様……」
嫌な予感がした。
「大丈夫よ。わたし、本で読んだことがあるの。電気系統の魔法がトラブルで体内に帯電してしまっているときは、一緒に逃せば良いって。一応体が動かせるくらい程度の電気なら、逃がせると思う」
「ダメですよ、パトリシアお嬢様!」
自然精製された電気とは違い、この世界由来の魔法で作られた電気を外に逃すには、複数人で受けている電気を分散させるのがベストだ。強力な電気魔法なら電気を逃すためにはたくさん人数がいるけれど、今回は彼女自身が発生させた際に生じたトラブルによる軽度の魔法だから、多分パトリシアお嬢様の見解で問題はない。
だけど、それはそれとして、パトリシアお嬢様がしなければならないことではない。魔法で作られた人工的な電気だから、自然由来のものよりもは多少安全とはいえ、リスクのある行為には間違いない。危険すぎるからやめてほしいけれど、困っている人を見つけたときのパトリシアお嬢様は聞く耳なんて持たない。
ソフィアの制止は聞かずに、すでに手を繋いでいた。
「痛たたたたた」
パトリシアお嬢様が大きな声を出した。
ソフィアの言葉は、困っている人を見つけたときのパトリシアお嬢様の耳にはまったく届かない。ソフィアは大きくため息をついてから、パトリシアお嬢様に近寄った。
「もうっ。逃すんだったら、土の中に手を入れて、少しでも外に持っていくようにしてください。……痛たたたた」
ソフィアもパトリシアお嬢様に抱きついて、一緒に電気を逃すことにした。案の定痛いけれど、3分割されている電気は想像されているほどの痛みはなかった。
「ほら、あなたも両手を土の中に入れてください!」
「え……、はい」
ソフィアとパトリシアお嬢様はそれぞれ片手をお腹の辺りに回しているから、両手を土に入れることはできないけれど、魔女の少女だけは入れられる。素直に両手を土の中に入れてくれていると、数分後に電気はかなり弱まってきた。
「そろそろ大丈夫ですね。さ、早く薬草を摘みましょう」
ソフィアが手を離して、さっさと促すと、少女は困惑していた。
「いえ、そこまでしてもらうわけには……」
ようやく帯電は収まったけれど、まだ大怪我をしているみたい。じんわりと服についた出血跡が大きくなっているように見えた。
「あなた、今応急処置の治癒魔法みたいなものを使ってますよね?」
ソフィアが尋ねると、少女が恐る恐る頷いた。応急処置用の治癒魔法を使っても、息が絶え絶えになっているということは、その効力が切れたらきっと……。
「どのくらいもちますか?」
「もって20分かしら……」
「家までは近いのですか?」
少女が諦めたように笑いながら、首を横に振った。
「遠いわ。片道30分はくだらないと思う。それに、帰れても、さっき襲われたから、もう家財道具は何もないから薬は作れないわ……」
どうしようかと悩もうとする前に、パトリシアお嬢様が躊躇なく指示を出す。
「ソフィア、うちに道具あるでしょ? 先に帰って用意してもらっていてもいい? わたしは急いでこの子と薬草を取って屋敷に戻るから」
「でも、パトリシアお嬢様を一人にするわけには……」
「ソフィア、これは命令よ。早く帰って支度をしなさい」
パトリシアお嬢様が芯の強そうな瞳で見つめた。まだ10歳の、普段はお転婆な少女からは想像のつかない、力強い表情をされては、ソフィアも従うしかない。
ソフィアが大きく頷いてから、屋敷に慌てて戻っていく。本当はパトリシアお嬢様を見知らぬ魔女と2人きりにするなんて絶対に許されない。それでも、パトリシアお嬢様の命令だし、なによりもあの少女のことが心配だった。彼女が悪意の持った子には見えなかった。
駆け寄ったパトリシアお嬢様のことを怯えた目で少女が見つめていた。
「やめてぇ……。来ないでぇ……」
泣き腫らした真っ赤な瞳からはまだ涙が出続けていた。
「あの、大丈夫ですか……?」
ソフィアも続いて恐る恐る尋ねた。
「こっち来ちゃだめぇ……」
それでもパトリシアお嬢様は近づく。
「あなた、怪我してるの? うちに来て治療しましょう」
少女の手に触れて、立ち上がらせようとしたときに、パトリシアお嬢様が悲鳴をあげた。
「痛っ」
「パトリシアお嬢様!?」
驚くパトリシアお嬢様とソフィアを見て、少女が慌てて首を横に振った。一瞬攻撃を仕掛けてきたのかと思ったけれど、少女の表情を見て、それは違うと納得した。
「あ、ごめんなさい、違うの……」
少女が泣きそうな顔で心配してくれているけれど、こちらに近づこうとはしなかった。
「わたし、今いっぱい電気が出てるから、近づいたら痺れちゃうわよ……」
「電気?」
「家が襲われて、わたし必死に逃げてきたの。そのときに抵抗した時に電気でバチってする魔法使ったんだけど、全然収まらないの……。わたし、まだその魔法使い始めたばっかりで、全然止めれなくて……」
「魔女……」
ソフィアが小さく呟いてから息を呑んだ。
魔女だとしたら、迂闊にパトリシアお嬢様と近づけるのは得策ではない。悪い子だったらどうしよう、と心配になったけれど、この子がはたして害をなすような子なのだろうか。ただ困っているだけの子にしか見えなかった。
「その怪我は、襲われた時の?」
パトリシアお嬢様がたずねると、少女はうん、と弱々しく頷いた。
「薬草取ったら治癒の薬作れるから……。でも、痺れてうまく掴めないわ……」
「まだ電気が抜けてないのね……」
早く薬草を掴まないと、彼女の怪我はきっと致命傷になってしまうだろう。けれど、電気のせいで震えている手では、握ることもままならないらしい。
パトリシアお嬢様が困ったように少女を見た後に、覚悟を決めたように一歩ずつ近づいていく。
「あの……、パトリシアお嬢様……」
嫌な予感がした。
「大丈夫よ。わたし、本で読んだことがあるの。電気系統の魔法がトラブルで体内に帯電してしまっているときは、一緒に逃せば良いって。一応体が動かせるくらい程度の電気なら、逃がせると思う」
「ダメですよ、パトリシアお嬢様!」
自然精製された電気とは違い、この世界由来の魔法で作られた電気を外に逃すには、複数人で受けている電気を分散させるのがベストだ。強力な電気魔法なら電気を逃すためにはたくさん人数がいるけれど、今回は彼女自身が発生させた際に生じたトラブルによる軽度の魔法だから、多分パトリシアお嬢様の見解で問題はない。
だけど、それはそれとして、パトリシアお嬢様がしなければならないことではない。魔法で作られた人工的な電気だから、自然由来のものよりもは多少安全とはいえ、リスクのある行為には間違いない。危険すぎるからやめてほしいけれど、困っている人を見つけたときのパトリシアお嬢様は聞く耳なんて持たない。
ソフィアの制止は聞かずに、すでに手を繋いでいた。
「痛たたたたた」
パトリシアお嬢様が大きな声を出した。
ソフィアの言葉は、困っている人を見つけたときのパトリシアお嬢様の耳にはまったく届かない。ソフィアは大きくため息をついてから、パトリシアお嬢様に近寄った。
「もうっ。逃すんだったら、土の中に手を入れて、少しでも外に持っていくようにしてください。……痛たたたた」
ソフィアもパトリシアお嬢様に抱きついて、一緒に電気を逃すことにした。案の定痛いけれど、3分割されている電気は想像されているほどの痛みはなかった。
「ほら、あなたも両手を土の中に入れてください!」
「え……、はい」
ソフィアとパトリシアお嬢様はそれぞれ片手をお腹の辺りに回しているから、両手を土に入れることはできないけれど、魔女の少女だけは入れられる。素直に両手を土の中に入れてくれていると、数分後に電気はかなり弱まってきた。
「そろそろ大丈夫ですね。さ、早く薬草を摘みましょう」
ソフィアが手を離して、さっさと促すと、少女は困惑していた。
「いえ、そこまでしてもらうわけには……」
ようやく帯電は収まったけれど、まだ大怪我をしているみたい。じんわりと服についた出血跡が大きくなっているように見えた。
「あなた、今応急処置の治癒魔法みたいなものを使ってますよね?」
ソフィアが尋ねると、少女が恐る恐る頷いた。応急処置用の治癒魔法を使っても、息が絶え絶えになっているということは、その効力が切れたらきっと……。
「どのくらいもちますか?」
「もって20分かしら……」
「家までは近いのですか?」
少女が諦めたように笑いながら、首を横に振った。
「遠いわ。片道30分はくだらないと思う。それに、帰れても、さっき襲われたから、もう家財道具は何もないから薬は作れないわ……」
どうしようかと悩もうとする前に、パトリシアお嬢様が躊躇なく指示を出す。
「ソフィア、うちに道具あるでしょ? 先に帰って用意してもらっていてもいい? わたしは急いでこの子と薬草を取って屋敷に戻るから」
「でも、パトリシアお嬢様を一人にするわけには……」
「ソフィア、これは命令よ。早く帰って支度をしなさい」
パトリシアお嬢様が芯の強そうな瞳で見つめた。まだ10歳の、普段はお転婆な少女からは想像のつかない、力強い表情をされては、ソフィアも従うしかない。
ソフィアが大きく頷いてから、屋敷に慌てて戻っていく。本当はパトリシアお嬢様を見知らぬ魔女と2人きりにするなんて絶対に許されない。それでも、パトリシアお嬢様の命令だし、なによりもあの少女のことが心配だった。彼女が悪意の持った子には見えなかった。
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