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Ⅰ 手乗りサイズの新米メイド

ようやく晩御飯 4

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ダイニングに入った瞬間に、わたしは口をあんぐりと開けてしまった。机の真ん中に置いてあるとても大きなポリバケツのようなシチュー鍋がまず目につく。その周囲のお皿に置かれているパンの数は100切れを優に超えている。バゲットのようだけど、耳部分はなくて、内側の白くてふわふわした部分だけがくりぬかれていた。机に乗り切らないくらいっぱいに乗っているシチューの量はまるでパーティーみたいだ。さすが貴族の家の食事。昔を思い出して、ほんのり懐かしい気持ちにもなってしまう。

メイドにもこんなに山盛りの食事が提供されるなんて……。鍋の縁や机の上に少しシチューがついてしまっているのは、きっとさっきの大きな揺れのせいだろう。それでもほとんど溢れていないのは、ダイニングでベイリーが鍋を守ってくれていたということだろう。

「こ、こんなに食べるんですか? わたしたち6人で!?」
「余ったらエミリアが食うんじゃねえの?」
「エミリアさんって大食いなんだね……」
「大食いとかそういう話じゃねえけどな」

リオナと喋っていると、ダイニングの入り口の方に先に座っていたベイリーがいつものように糸目で微笑みながら、パンっと手を叩いた。
「さあ、早く食べてしまわないと食事の時間が終わってしまうわよ」

4人がけのテーブルを2つ繋げたテーブルの対角線上、一番遠くなる位置にソフィアとベイリーが座っていた。お互いに何も言ってはいないけれど、絶対に口を利きたくないとう意図がしっかりと伝わってきていた。

ソフィアは、わたしたちがダイニングに来たことなんて一切気にしていない。俯きがちにメガネを曇らせながら先にシチューを食べていた。ベイリーとソフィアの席はすでに決まっていたから、わたしはリオナ、キャンディ、メロディと共に真ん中に座る。

「カロリーナさんは、まだ胃を労った方がいいと思うから、パンはやめておいた方がいいわね。……あ、リオナさんそんなに一気に食べたら喉に詰まらせちゃうわよ」
ベイリーがキャンディとメロディの分をお皿によそいながら、わたしやリオナにも声をかけた。ソフィア以外の全員の面倒を見ながら食事の準備をする姿は、本当にお姉さんみたいな感じだった。

「ここにいるメンバーが全員ということですか?」
わたしはベイリーに尋ねる。
「そうよ。このメンバーが今屋敷にいるメンバー全員よ。少し変わった人が多いけど、上手くやっていけそうかしら?」
わたしは頷いた。

「皆さん優しそうな方ばっかりで安心しました」
「それは良かったわ。まあ、上手くやっていけないって言われても一緒に生活してもらわなければならないのだけどね」
ベイリーはクスクスと笑った。

「こんなに美味しいもの食べさせてもらえるんだったら、ちょっとやそっと大変でも頑張れますよ!」
「ちょっとやそっとで済めばいいけどな」
リオナがパンを口に頬張りながら、不安になるようなことを言う。

「なあ、ベイリー。カロリーナにはどういう仕事させんだよ? あたしみたいに体力はなさそうだし、メロディやキャンディのように可愛がってもらえるようにするのか?」
「さあ、わたしに聞かれても困るわ。決めるのはアリシアお嬢様なのだから。アリシアお嬢様が話し相手になってほしいと言えば、カロリーナさんは話し相手になるわけだし、一緒に寝てほしいと言ったら一緒に寝るわけだし」
またベイリーがクスクスと笑った。

「勘弁してやってくれよな」
リオナがため息をついたのと同時に、メロディとキャンディがお互いに体を抱きしめ合いながら震え出した。
「アリシアおじょーさま、すっごく寝相悪い!」
「アリシアおじょーさまに潰されかけた!」
「つ、潰されかけるって……? アリシアお嬢様結構ふくよかな方なんですか?」

華奢な少女を想像していたけれど、もしかして結構体躯の大きな人なのだろうか。
「ご想像にお任せするわ」
ベイリーが優雅に笑ってから、パンを齧った。

わたしはいつアリシアお嬢様に会えるのだろうか。アリシアお嬢様がどんな人なのかということに対して楽しみの感情はもちろんある。けれどみんなの言葉の端々から不安になるようなことも多く出ているので、それと同じくらいと不安の感情も渦巻いていた。
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