お気楽少女の異世界転移――チートな仲間と旅をする――

敬二 盤

文字の大きさ
112 / 188
第三章前編『おいでませ!竜人の世界!』

バレンタイン特別SS『スウィートチョコのフレンドコール』

しおりを挟む
・実穂視点(三人称)


「じゃあねー」

「また明日ねー」

学校帰りのとある時間、実穂と美堀が実穂の家の前で別れの挨拶をする。

その二人の顔はどちらもいつも通りの顔に見えたが、少なくとも実穂は違った。

『今年は友チョコとか言う事をやってみたい』

実は毎年、実穂は手作りチョコの素材を買いにいっている。

しかしそこに立ちはだかるのが市長の娘。

買いに行く途中で嫌がらせにあって買えなかったり、買えたとしても帰り道で嫌がらせにあって駄目になったりしていたのだ。

しかし今年は違う。

今年はきちんと材料を全て揃える事ができたのだ!

そんな訳でご機嫌な実穂は、ささっと着替えてエプロンを着て、手を洗うと、すぐさまキッチンへと向かった。

そして冷蔵庫の中に入れてあった物を出していく。

板チョコ(黒、白の両方)、コーンフレーク、苺ジャム、バナナと様々な食材を出し終えた後、実穂は考え付いた。

どうせなら変わり種も入れてみようと。

そして材料の中に(お菓子の)柿の種を追加した。

ご機嫌な実穂は鍋でお湯を沸かし、お湯をボウルに移した。

そして板チョコを砕いてビニール袋に入れ、お湯で湯煎して溶かした。

溶かしている間に他の材料を別々のボウルに入れたり砕いたりしている事数分、袋の中が液体になっていた。

「………もうそろそろ溶けたかな?」

実穂はビニール袋を別のボウルの上で裏返した。

すると中からトロトロに溶けた二色チョコレートが出てきて、二つのボウルを満たした。

そして黒いチョコレートの半分をコーンフレークが入ったボウルに移し、ヘラでグルグルとかき混ぜた。

そのかき混ぜた物を型に入れ、今度は白のチョコレートをの半分を今度はぶつ切りにしたバナナが入ったボウルに入れた。

それをまたかき混ぜると、バナナが潰れ、白いチョコレートは少し黄色っぽくなった。

それも型に入れ、白いチョコレートを型半分位の深さまで入れ、スプーンで丸くしたジャムを、チョコレートの中へ沈めた。

その上から残りのチョコレートで蓋をしたら、ジャムが中に入ったチョコの出来上がりだ。

最後は砕いた柿の種が入ったボウルに残りの黒いチョコを入れかき混ぜて型に入れた。

後は冷蔵庫に入れて固まったら完成だ。

「美堀、喜んでくれるかなぁ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「じゃあねー」

「また明日ねー」

学校帰りのとある時間、実穂と美堀が実穂の家の前で別れの挨拶をする。

その二人の顔はどちらもいつも通りの顔に見えたが、少なくとも美堀は違った。

『今年こそはちゃんとした手続きチョコを実穂に渡すわよ』

実は美堀、毎年実穂に手作りチョコを作ろうと奮闘していた。

しかし出来上がるのはどれも失敗作ばかりで、異様に酸っぱかったり、辛かったり、表現し難い何かが出来上がったり、去年に至ってはチョコが燃えだして危うく火事になりかけた位だ。

若菜からは『どうやったらそうなるのかわからない』とまで言われる位の酷さだった。

しかし今年は若菜にも手伝ってもらい、本当に食べられる物を作るつもりでいるのだ。

実穂の家から少しした所、そこにある美堀の家に入り、ささっと上着を脱ぎ捨てカッターシャツになった美堀は、そのまま台所へ行った。

「………お姉ちゃん? せめてカッターシャツは止めよう? 汚れるよ?」

そう言われ、すぐに着替えて戻ってきた美堀の目の前にはチョコレートが大量に並んでいた。

「さて、まずは湯煎ね………若菜? 何で消火器を持っているの?」

「また火事になられたら困るからね………」

そう言われ、少しばつの悪い美堀はそれを誤魔化す様に板チョコを溶かした。

そうして取り出した物は………紫色に変色していた。

「何で!? お姉ちゃん、変な物入れてないよね?」

「入れてないわよ、ちゃんとチョコレートだけ入れたわよ」

「………湯煎は私がするよ」

若菜が湯煎をすると普通の溶けたチョコが出来上がるのに………不思議だ。

美堀は溶けたチョコを型に入れ、冷蔵庫に入れた。

もう殆ど若菜が作ったのだが、美堀はそれに気付いていない。

そして数分たった後、若菜が何事もないか冷蔵庫の中を確認した途端………鼻がひん曲がる様な臭いがキッチンに充満した。

若菜は息を止め、その臭いの発生源であろうチョコレートを取り出して絶句した。

美堀が型に入れたチョコレートが………蠢いているのだ。

その黒い姿はまるで亡者の怨念の様に。

とうぜん、若菜は驚きそれを投げ捨ててしまった。

そのチョコレートは窓の外へと飛んでいき、数分後にカラスの悲鳴が聞こえてからは………どこに行ったかわからなくなってしまった。

「今年も失敗だったわ………」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


バレンタインデー当日。

実穂と美堀の二人は、実穂の家へと集合していた。

美堀の家はまだ異臭が取れないらしい、両親から物凄い怒られていた。

実穂はどこか落ち着かず、美堀はどこかションボリとした感じだ。

そして最初に美堀が市販のチョコを取り出した。

それの中身は高い物だが、それだと実穂が慌ててしまうので普通の入れ物に入れ換えている。

「ごめんなさいね? 今年も失敗しちゃったわ」

「大丈夫だよ! 気持ちだけで嬉しいし!」

そう言う実穂は本当に嬉しそうだった。

そして実穂はラッピングされた包みを取り出した。

「はい! 今年は私も渡すね!」

それを見て美堀は驚き、目を見開いた。

「あんまり綺麗な形にはできなかったけど………味は大丈「実穂!」うわっ!」

実穂の説明も待たず、美堀は実穂に抱きついた。

「ありがとう!」

美堀は心から幸せそうな笑みで、実穂はご機嫌な笑みで笑いあった。

今年は今までのバレンタインデーよりも楽しい日になるのであった。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

処理中です...