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第3章「死別の涙を拭う偽魔女」
第7話「偽魔女に需要があることを知る【偽魔女視点】」
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「亡くなるの、早すぎだよ……」
魔法で生まれた幻は、言葉を返してくれない。
どんなに私が言葉を投げかけたところで、それは会話として成立しない。
それでも申し訳なさそうな顔を浮かべる両親の幻は本物の幽霊っぽくて、今日も私は幻を相手に言葉を送る。
「あの!」
話しかけても話しかけても、言葉を返してくれない両親の幻を見つめていたときのことだった。
「私にも、幽霊を見せてもらえませんか」
両親の幻を、幽霊と勘違いした女の人と出会った。
「えっと……」
スプーストは、土地のほとんどが墓地で占められているとして有名な街。
お墓参りに来る人が大勢いるのは知っていて、いろんな人が訪れる場所だってことも知っていた。でも、泣いたんだなって分かるくらい、目を腫らした人と出会うのは初めてだった。
「写真……亡くなった方の写真はお持ちですか」
故人に強い未練を抱く人が、常に写真を持ち歩いていたことが私に幸運を運んできてくれた。
両親の幻影を作り上げたときと同じように、幻影魔法を使用する。
(顔さえ分かれば、幻影を作り出せる……)
会ったこともない赤の他人だけど、この人が生きていたらいいなって願いを込める。すると、私の願いを魔法が聞き届けてくれた。
「……っ、なんで亡くなっちゃったの……」
亡くなった人と再会するという、叶うはずのなかった願いが叶った瞬間。
止まることがないと思っていた涙が瞳から失われ、女の人は目の前に現れた幻影に魅入られた。
(成功した……)
思い入れのない赤の他人の幻影を作り出すことに不安はあったけど、願う力の強さは私の魔法を成功に導いてくれた。
「もう……会えないと思ってたのに……」
幻影に触れることもできなければ、幻影は喋ることもできない。
でも、女の人の会いたいという想いを受けた幻影は、表情を豊かに動かしてくれる。
女の人の言葉に頷いて、女の人の話に反応を示してくれて、まさに私の理想通り。
女の人を、悲しませないで。
女の人を、どうか喜ばせてほしい。
そんな私の願いを、魔法から生まれた幻影が叶えてくれる。
(私1人が、故人との未練を断ち切れないわけじゃない……)
両親を想って、涙する日だってある。
だから、故人と再会することで、泣く人がいることを嬉しく思った。心強かった。
独りじゃないって思えたことが、どんなに嬉しかったか。
自分は孤独じゃないと教えてくれたお礼に、私は墓石の前で泣く人のためになることをしたいと思った。
「本当にありがとうございました!」
女の人が満足いくまで故人の幻影を見せ、魔法を解く。
「なんとお礼を言ったらいいか……」
少しの疲れはあったけど、女の人が見せてくれた笑顔に救われた。
まるで、魔女になったような気分。
一瞬だけ魔女になったような感情と感覚を味わうことができたけど、その感情も感覚もすぐに消え去ってしまった。
(私は、魔女じゃない……)
人を笑顔にするだけの魔法が使えるのに、私は魔女ではない。
女の人は何度も何度もありがとうの言葉をくれるのに、私は人々の尊敬を集める魔女様ではない。
「これくらいでは足りないかもしれませんが……」
顔が俯きかけていたこともあり、私は女の人の動きに気づくことができなかった。
気づいたときには、女の人に手を握られていた。
気づいたときには、自分の手が大金を掴んでいた。
「5万ネル……!?」
スプーストから出ていた掃除の求人や、悪徳な雇用主の元で働いていたときの時給が頭を過った。
何日かければ、この額を稼ぐことができるのか。
一瞬にして計算できないほどの大金を、私はたった数十分間魔法を使用するだけで稼ぐことができた。
「あの、こんなに大金をいただくわけには……」
「私からの気持ちです。値段をつけることができないくらいの体験をいただきましたから」
値段をつけることができない体験。
(それを、私が提供することができた……)
魔女ではない私が、誰かを幸せにすることができた。
偽魔女を強要された毎日を送るだけだった私が、人を幸せにするために魔法を使うことができた。嬉しかった。凄く感動した。泣きそうになった。あまりにも嬉しすぎて、涙ぐんでいる女の人と一緒に泣いてしまいそうになった。
(私の魔法には、需要がある)
幻でもいいから、故人に会いたいと願う人たちがいる。
亡くなった人と再会するという、叶うはずのない願い。
その願いを、魔法の力で叶えてあげることができることに私は気づく。
(私の魔法は、誰も悲しまない。誰も傷つかない)
世間を騒がせている偽魔女は人々を苦しめているって言うけど、私の魔法は違う。
私の魔法は、人々を幸せにするためにある。
「霊媒師様、ありがとうございました」
魔女が不足していることもあって、国は偽魔女逮捕に苦戦している。
それでも念には念を入れて、国の調査が入ったときも霊媒師という職業で誤魔化せるように活動を続けた。
(10分、15分で、平均1万ネルくらいかな)
お気持ちをいただく際に、値段はこれくらいですって押しつけない。
お気持ちの値段で、依頼者を優遇したりしない。
そういうところを徹底して、悪徳な霊媒師って噂が広まらないように気をつけた。
偽魔女として逮捕されなくても、悪徳霊媒師として逮捕されたら意味はない。
(私は、あくまでみんなから感謝される存在でいたい)
魔力を枯渇させて記憶を失うわけにはいかないから、1日にこなす数は限られてしまう。
それでも、魔法学園に復学する日のことを夢見ながら霊媒師としての活動を続けていく。
「お父さん、お母さん、待っててね」
今日も幻影魔法を使って、私は両親と再会を果たす。
始めたばかりの商売が軌道に乗れば、私は魔法学園の学費を稼ぐことができる。
努力を積み重ねていけば、魔女になれるってことを私が証明したい。
「私は今日も、幸せの魔法を提供するからね」
魔法で生まれた幻は、言葉を返してくれない。
どんなに私が言葉を投げかけたところで、それは会話として成立しない。
それでも申し訳なさそうな顔を浮かべる両親の幻は本物の幽霊っぽくて、今日も私は幻を相手に言葉を送る。
「あの!」
話しかけても話しかけても、言葉を返してくれない両親の幻を見つめていたときのことだった。
「私にも、幽霊を見せてもらえませんか」
両親の幻を、幽霊と勘違いした女の人と出会った。
「えっと……」
スプーストは、土地のほとんどが墓地で占められているとして有名な街。
お墓参りに来る人が大勢いるのは知っていて、いろんな人が訪れる場所だってことも知っていた。でも、泣いたんだなって分かるくらい、目を腫らした人と出会うのは初めてだった。
「写真……亡くなった方の写真はお持ちですか」
故人に強い未練を抱く人が、常に写真を持ち歩いていたことが私に幸運を運んできてくれた。
両親の幻影を作り上げたときと同じように、幻影魔法を使用する。
(顔さえ分かれば、幻影を作り出せる……)
会ったこともない赤の他人だけど、この人が生きていたらいいなって願いを込める。すると、私の願いを魔法が聞き届けてくれた。
「……っ、なんで亡くなっちゃったの……」
亡くなった人と再会するという、叶うはずのなかった願いが叶った瞬間。
止まることがないと思っていた涙が瞳から失われ、女の人は目の前に現れた幻影に魅入られた。
(成功した……)
思い入れのない赤の他人の幻影を作り出すことに不安はあったけど、願う力の強さは私の魔法を成功に導いてくれた。
「もう……会えないと思ってたのに……」
幻影に触れることもできなければ、幻影は喋ることもできない。
でも、女の人の会いたいという想いを受けた幻影は、表情を豊かに動かしてくれる。
女の人の言葉に頷いて、女の人の話に反応を示してくれて、まさに私の理想通り。
女の人を、悲しませないで。
女の人を、どうか喜ばせてほしい。
そんな私の願いを、魔法から生まれた幻影が叶えてくれる。
(私1人が、故人との未練を断ち切れないわけじゃない……)
両親を想って、涙する日だってある。
だから、故人と再会することで、泣く人がいることを嬉しく思った。心強かった。
独りじゃないって思えたことが、どんなに嬉しかったか。
自分は孤独じゃないと教えてくれたお礼に、私は墓石の前で泣く人のためになることをしたいと思った。
「本当にありがとうございました!」
女の人が満足いくまで故人の幻影を見せ、魔法を解く。
「なんとお礼を言ったらいいか……」
少しの疲れはあったけど、女の人が見せてくれた笑顔に救われた。
まるで、魔女になったような気分。
一瞬だけ魔女になったような感情と感覚を味わうことができたけど、その感情も感覚もすぐに消え去ってしまった。
(私は、魔女じゃない……)
人を笑顔にするだけの魔法が使えるのに、私は魔女ではない。
女の人は何度も何度もありがとうの言葉をくれるのに、私は人々の尊敬を集める魔女様ではない。
「これくらいでは足りないかもしれませんが……」
顔が俯きかけていたこともあり、私は女の人の動きに気づくことができなかった。
気づいたときには、女の人に手を握られていた。
気づいたときには、自分の手が大金を掴んでいた。
「5万ネル……!?」
スプーストから出ていた掃除の求人や、悪徳な雇用主の元で働いていたときの時給が頭を過った。
何日かければ、この額を稼ぐことができるのか。
一瞬にして計算できないほどの大金を、私はたった数十分間魔法を使用するだけで稼ぐことができた。
「あの、こんなに大金をいただくわけには……」
「私からの気持ちです。値段をつけることができないくらいの体験をいただきましたから」
値段をつけることができない体験。
(それを、私が提供することができた……)
魔女ではない私が、誰かを幸せにすることができた。
偽魔女を強要された毎日を送るだけだった私が、人を幸せにするために魔法を使うことができた。嬉しかった。凄く感動した。泣きそうになった。あまりにも嬉しすぎて、涙ぐんでいる女の人と一緒に泣いてしまいそうになった。
(私の魔法には、需要がある)
幻でもいいから、故人に会いたいと願う人たちがいる。
亡くなった人と再会するという、叶うはずのない願い。
その願いを、魔法の力で叶えてあげることができることに私は気づく。
(私の魔法は、誰も悲しまない。誰も傷つかない)
世間を騒がせている偽魔女は人々を苦しめているって言うけど、私の魔法は違う。
私の魔法は、人々を幸せにするためにある。
「霊媒師様、ありがとうございました」
魔女が不足していることもあって、国は偽魔女逮捕に苦戦している。
それでも念には念を入れて、国の調査が入ったときも霊媒師という職業で誤魔化せるように活動を続けた。
(10分、15分で、平均1万ネルくらいかな)
お気持ちをいただく際に、値段はこれくらいですって押しつけない。
お気持ちの値段で、依頼者を優遇したりしない。
そういうところを徹底して、悪徳な霊媒師って噂が広まらないように気をつけた。
偽魔女として逮捕されなくても、悪徳霊媒師として逮捕されたら意味はない。
(私は、あくまでみんなから感謝される存在でいたい)
魔力を枯渇させて記憶を失うわけにはいかないから、1日にこなす数は限られてしまう。
それでも、魔法学園に復学する日のことを夢見ながら霊媒師としての活動を続けていく。
「お父さん、お母さん、待っててね」
今日も幻影魔法を使って、私は両親と再会を果たす。
始めたばかりの商売が軌道に乗れば、私は魔法学園の学費を稼ぐことができる。
努力を積み重ねていけば、魔女になれるってことを私が証明したい。
「私は今日も、幸せの魔法を提供するからね」
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