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第3章「死別の涙を拭う偽魔女」
第6話「魔法使いを苦しめる言葉【偽魔女視点】」
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「生意気なんだよ!」
両親が亡くなったことと、魔法学園を辞めることになったことが重なって、毎日が空虚になっていく。
魔法学園に通っていたときは、あんなにも日々がきらきらと輝いていたのに、今では毎日の中に色彩豊かな色を見出すことすらできなくなっていた。
「ほら! おまえだよ! おまえっ!」
ほんの少しでも雇用主の機嫌を損ねると、その下で働く私たちの身に危険が及ぶ。
「ちゃんと治療しておけよ!」
今日も誰かの体に痣ができて、私は体罰の痕が残らないように魔法で治療を行う。
(この人の元で働く限り、私は偽魔女……)
魔法学園に通っていたという情報が出回っているのは、本当に厄介だと思った。
でも、人々は噂が好きだった。
あの家のあの子は今、何をしているの?
そんな世間話で世界は溢れ返っていて、私の個人的な情報なんて誰も守ってくれない。
「ただいま……」
帰る家はあるのに、私を迎えてくれる人はいない。
「っ……うっ……」
魔女になれなかった魔法使いは、魔法を使ってお金を得ることはできない。
そんな決まりはあっても、魔法学園に通っていたことを知る雇用主は私に魔法を強要する。
雇い主には無敵の言葉があるから。
『魔女だと思っていたんです! 魔女の資格がないとは思いもしませんでした』
こう証言するだけで、魔法使いを利用した側が罰せられることはない。
罪は、魔法を使っていた者が背負うことになっている。
魔女の資格を持っている人だけに与えられる杖もバッチも、一般人にとっては意味がない。
魔法を使うことができない人たちは、『知らなかった』の一言で、偽魔女事件には関わらなくて済むのだから。
(私は偽魔女になりたかったんじゃない……)
自分には魔法を使って食べていく意思はなくても、周囲が私を偽魔女へと陥れていく。
食べる物がなければ生きていけないだろうって、声をかけてくる悪魔たちの声に耳を塞ぐ日々。でも、耳を塞いだところで、私を生きさせるための言葉は止まない。
「私がなりたかったのは、魔女なのに……」
今日も私は誰も迎えてくれない玄関に屈みこんで、幻影魔法を使う。
幻影と名が付くからには、亡くなった両親が生き返るような凄い魔法ではない。
ただ、私の両親が生きていたらいいなっていう願いは、両親の幻影を生んでくれた。
「ただいまっ……!」
魔法の力で生まれた両親は、柔らかな笑みを浮かべて私を家の中へと招き入れてくれる。
「あのね、聞いてほしい話があって……」
幻が言葉を返してくれることはないけれど、私は涙を拭って、足に力を入れる。
自分の力で立ち上がり、私は今日も触れることのできない両親に一方的に話しかける。
「今日も無理矢理、魔法を使えって言われたの」
幻に話しかける私を滑稽と呼ぶ人もいるかもしれない。
でも、その幻は私の心を温めてくれる。
傷ついた私の心を癒してくれる。
幻には愛がないっていう人もいるかもしれない。
けど、私は幻影が与えてくれる愛に心を救ってもらっている。
ここにある愛は幻影ではなく、本物の愛だってことを信じている。
「ごめんなさい……ごめんなさい……許してください……」
「許すわけねぇだろうが!」
今日も、私の雇用主様は狂っていた。
誰も、雇用主に批判的な目を向けていない。
みんな黙々と、淡々と、命じられた作業に集中している。
それなのに、雇用主は今日も人を傷つけていく。人に傷を残していく。
傷が残るほど力強く人間を踏み潰し、罵倒し、ようやく自分の気が収まるところで私は雇用主に呼ばれる。
「金が欲しいんだろ? さっさと治療しろ」
「……はい」
魔女資格のない魔法使いは、格好の獲物。
国は、魔女の数が圧倒的に足りていない現状に困り果てている。
でも、それなのに国は変わろうとしない。
今も、昔の男性魔法使いが犯した罪を引きずって魔女不足に頭を抱えている状況。
魔女は足りていないのに、国は魔法の力を必要としている。
だから、今日も国のあちこちで魔女資格を持たない魔法使いたちは都合よく利用されている。
(逃げないと……)
学費を支払うことができないだけで、私は夢を断たれることになった。
待っているのは魔女試験不合格という結末だったかもしれないけど、やってみなきゃ分からないって気持ちは失われていない。
(逃げて、魔法を使うことをやめないと……)
魔女試験は人生で1度しか受けることができないけど、私は魔女試験を受ける前に魔法学園を去ることになった私は復学することも可能だった。でも、そのたった1年の学園生活を送るだけのお金が私にはない。
(魔女になれなかったから、利用されるなんて嫌だ……)
勢いよく雇用主の元から逃げ出したはいいけれど、親戚といった頼る宛てが私にはない。
両親と私が過ごした家に帰ることができなくなった私は、両親の墓があるスプーストを訪れた。
(スプーストで、お墓の管理をお手伝いすれば……)
たった1年の学費を稼ぐのに、一体何年かかるのか。
計算をするのも嫌になるほど途方もない夢だけど、スプーストで働けば両親の墓参りに毎日通うことができる。
その、両親に会えることだけを希望に持っていれば、学費を稼ぐ日々も苦にはならない。
(だって、私は魔女になるために生まれてきたんだから……)
両親のお墓の前で、私は強い決意を示す。
目の前には幻影魔法で誕生させた両親が私の決意を受け止めて、にこやかな笑みを浮かべてくれている。
両親が亡くなったことと、魔法学園を辞めることになったことが重なって、毎日が空虚になっていく。
魔法学園に通っていたときは、あんなにも日々がきらきらと輝いていたのに、今では毎日の中に色彩豊かな色を見出すことすらできなくなっていた。
「ほら! おまえだよ! おまえっ!」
ほんの少しでも雇用主の機嫌を損ねると、その下で働く私たちの身に危険が及ぶ。
「ちゃんと治療しておけよ!」
今日も誰かの体に痣ができて、私は体罰の痕が残らないように魔法で治療を行う。
(この人の元で働く限り、私は偽魔女……)
魔法学園に通っていたという情報が出回っているのは、本当に厄介だと思った。
でも、人々は噂が好きだった。
あの家のあの子は今、何をしているの?
そんな世間話で世界は溢れ返っていて、私の個人的な情報なんて誰も守ってくれない。
「ただいま……」
帰る家はあるのに、私を迎えてくれる人はいない。
「っ……うっ……」
魔女になれなかった魔法使いは、魔法を使ってお金を得ることはできない。
そんな決まりはあっても、魔法学園に通っていたことを知る雇用主は私に魔法を強要する。
雇い主には無敵の言葉があるから。
『魔女だと思っていたんです! 魔女の資格がないとは思いもしませんでした』
こう証言するだけで、魔法使いを利用した側が罰せられることはない。
罪は、魔法を使っていた者が背負うことになっている。
魔女の資格を持っている人だけに与えられる杖もバッチも、一般人にとっては意味がない。
魔法を使うことができない人たちは、『知らなかった』の一言で、偽魔女事件には関わらなくて済むのだから。
(私は偽魔女になりたかったんじゃない……)
自分には魔法を使って食べていく意思はなくても、周囲が私を偽魔女へと陥れていく。
食べる物がなければ生きていけないだろうって、声をかけてくる悪魔たちの声に耳を塞ぐ日々。でも、耳を塞いだところで、私を生きさせるための言葉は止まない。
「私がなりたかったのは、魔女なのに……」
今日も私は誰も迎えてくれない玄関に屈みこんで、幻影魔法を使う。
幻影と名が付くからには、亡くなった両親が生き返るような凄い魔法ではない。
ただ、私の両親が生きていたらいいなっていう願いは、両親の幻影を生んでくれた。
「ただいまっ……!」
魔法の力で生まれた両親は、柔らかな笑みを浮かべて私を家の中へと招き入れてくれる。
「あのね、聞いてほしい話があって……」
幻が言葉を返してくれることはないけれど、私は涙を拭って、足に力を入れる。
自分の力で立ち上がり、私は今日も触れることのできない両親に一方的に話しかける。
「今日も無理矢理、魔法を使えって言われたの」
幻に話しかける私を滑稽と呼ぶ人もいるかもしれない。
でも、その幻は私の心を温めてくれる。
傷ついた私の心を癒してくれる。
幻には愛がないっていう人もいるかもしれない。
けど、私は幻影が与えてくれる愛に心を救ってもらっている。
ここにある愛は幻影ではなく、本物の愛だってことを信じている。
「ごめんなさい……ごめんなさい……許してください……」
「許すわけねぇだろうが!」
今日も、私の雇用主様は狂っていた。
誰も、雇用主に批判的な目を向けていない。
みんな黙々と、淡々と、命じられた作業に集中している。
それなのに、雇用主は今日も人を傷つけていく。人に傷を残していく。
傷が残るほど力強く人間を踏み潰し、罵倒し、ようやく自分の気が収まるところで私は雇用主に呼ばれる。
「金が欲しいんだろ? さっさと治療しろ」
「……はい」
魔女資格のない魔法使いは、格好の獲物。
国は、魔女の数が圧倒的に足りていない現状に困り果てている。
でも、それなのに国は変わろうとしない。
今も、昔の男性魔法使いが犯した罪を引きずって魔女不足に頭を抱えている状況。
魔女は足りていないのに、国は魔法の力を必要としている。
だから、今日も国のあちこちで魔女資格を持たない魔法使いたちは都合よく利用されている。
(逃げないと……)
学費を支払うことができないだけで、私は夢を断たれることになった。
待っているのは魔女試験不合格という結末だったかもしれないけど、やってみなきゃ分からないって気持ちは失われていない。
(逃げて、魔法を使うことをやめないと……)
魔女試験は人生で1度しか受けることができないけど、私は魔女試験を受ける前に魔法学園を去ることになった私は復学することも可能だった。でも、そのたった1年の学園生活を送るだけのお金が私にはない。
(魔女になれなかったから、利用されるなんて嫌だ……)
勢いよく雇用主の元から逃げ出したはいいけれど、親戚といった頼る宛てが私にはない。
両親と私が過ごした家に帰ることができなくなった私は、両親の墓があるスプーストを訪れた。
(スプーストで、お墓の管理をお手伝いすれば……)
たった1年の学費を稼ぐのに、一体何年かかるのか。
計算をするのも嫌になるほど途方もない夢だけど、スプーストで働けば両親の墓参りに毎日通うことができる。
その、両親に会えることだけを希望に持っていれば、学費を稼ぐ日々も苦にはならない。
(だって、私は魔女になるために生まれてきたんだから……)
両親のお墓の前で、私は強い決意を示す。
目の前には幻影魔法で誕生させた両親が私の決意を受け止めて、にこやかな笑みを浮かべてくれている。
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