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第3章「死別の涙を拭う偽魔女」
第4話「魔女と魔法使い」
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「妹を助けてくれて、ありがとうございました」
魔女の応援に駆けつけた警察たちは偽魔女のアリザ、拘束されたフラと男を連行していく。
「カトリス・ノーラ……ノルカの姉です」
ノルカの声は凛とした美しさを持っていて、ノルカを妹と称したカトリスの声は透明感ある美しさを持っている。
外見の艶ある美しい髪とか、大きな瞳とか、この2人は姉妹だっていう気づくための共通が見つかっていく。
「ノルカ、どこか痛いところはない?」
「平気……」
「無理はしないで」
ノルカを治療するのは俺の役目だったが、俺の手とノルカのローブに染み込んだ血を魔法の力で拭い去ってくれたのはカトリスさんだった。
「あなたは……」
「アンジェル」
声を出せない俺の代わりに、ノルカがカトリスさんに名前を伝えてくれる。
「すみません、名前も呼ばずに失礼いたしました」
犯人を身動きとれなくなるまで攻撃魔法を使い続けてきた人とは思えないほど、カトリスさんは優しい声色と心配そうな表情で俺とノルカを気遣ってくれる。
「アンジェルさんは、無事ですか」
弱者に対して、優しい。
凶悪犯に対しては、厳しく。
これが、魔女の在り方。
カトリスさんの胸元に光るバッチを見ているだけで、言葉にされていない説教を受けているような気分を味わった。
「お姉ちゃんは、どうしてここに……」
「グリフォンが大量に出て、巡回中だったの」
ノルカはカトリスさんと言葉を交わしてはいるが、カトリスさんと視線を交えていない。
ばつが悪そうな表情を浮かべながら、視線を適当な墓石へと向けてカトリスさんと会話をしていく。
「追試験の件は、ちゃんと数に加算されるように手続きをしておきます」
長い歴史の中で、初めて実施される魔女試験の追試。
これらに関する情報は、恐らく限られた人間にしか知らされていない。
機密事項といっても過言ではない情報を持っているカトリスさんは、魔女の中でもかなり地位が高いと悟った。
「それでは」
カトリスさんは、去り際まで美しく見えた。
美しいって言葉を連呼しすぎると言葉の価値が薄れるかもしれないけど、それでも美しいって言葉を使いたくなる。
魔女が高貴な存在と言われる理由が、なんとなく分かったような気さえしてしまう。
「ノルカ」
人々はアリザがスプーストから去るのを見送ると、それぞれがそれぞれの目的のために動き出す。
あれだけのことが起きたのに、アリザの魔法がスプーストから消え去ってしまったと理解した人々は何事もなかったかのように日常へと帰っていく。
「ノルカ、大丈夫か」
改めて墓参りをする人もいれば、自宅へと帰っていく人もいる。
ジルナは何も言葉を残すことなく墓地から去っていく。
今回の件を受けて、ジルナが祖父母の墓参りに来られなくなってしまったかもしれない。
「ノルカ……」
顔を長い髪で覆いながらノルカに視線を向けると、ノルカは俯いたまま墓石に転がる小石と睨めっこ状態。
「まだ傷が痛むなら、魔法で……」
「ごめんなさい……」
ノルカは地面に視線を向けたまま、俺とは目を合わせてもくれない。
俺が女装魔法使いだったことが、ノルカにばれたときのことを思い出す。
「謝んなくていいって」
「足を引っ張ったの……私は、あなたの足を引っ張った」
ノルカは厳しく自分のことを責めていくけど、俺だって決して褒められるような活躍をしたわけじゃない。
「ごめんなさい……」
聞きたいのは、ごめんなさいの言葉じゃない。
でも、ノルカの口から溢れる謝罪の言葉に対して、どんな言葉を返せばいいのか分からない。
「次からは、非情な魔法使いになってみせるから」
ノルカの口から、ノルカらしくない言葉が出てくる。
確かに凶器を持った人間と立ち向かったときのカトリスさんは非情にも見えたけど、ちゃんと優しさを持ち合わせている魔女だなってカトリスさんの活躍を見て思った。
「今度こそ、魔女試験に合格しないと……」
刃物で刺されたときの衝撃で飛んでしまったノルカの帽子を拾い上げて、未だに立ち上がることのできないノルカの頭に被せる。
ノルカの目が見えなくなるくらい、深く深く帽子を被せる。
「自分だけを責めんな」
魔女は、時に非情さも必要だと身をもって知った。
最悪の事態を招かないように、どう行動していくかが大事だと知った。
「ノルカだけが悪いわけじゃない」
でも、大きな学びを得たところで、相方を救うための言葉が浮かんでこない。
情けないとか、かっこ悪いとか、自分に対する想いはたくさん浮かんでくる。
それなのに、肝心の相方に向けるべき言葉が見つからないまま事件は幕を閉じた。
偽魔女逮捕3人目
幽霊街スプースト 霊媒師 アリザ・トーニ
魔女の応援に駆けつけた警察たちは偽魔女のアリザ、拘束されたフラと男を連行していく。
「カトリス・ノーラ……ノルカの姉です」
ノルカの声は凛とした美しさを持っていて、ノルカを妹と称したカトリスの声は透明感ある美しさを持っている。
外見の艶ある美しい髪とか、大きな瞳とか、この2人は姉妹だっていう気づくための共通が見つかっていく。
「ノルカ、どこか痛いところはない?」
「平気……」
「無理はしないで」
ノルカを治療するのは俺の役目だったが、俺の手とノルカのローブに染み込んだ血を魔法の力で拭い去ってくれたのはカトリスさんだった。
「あなたは……」
「アンジェル」
声を出せない俺の代わりに、ノルカがカトリスさんに名前を伝えてくれる。
「すみません、名前も呼ばずに失礼いたしました」
犯人を身動きとれなくなるまで攻撃魔法を使い続けてきた人とは思えないほど、カトリスさんは優しい声色と心配そうな表情で俺とノルカを気遣ってくれる。
「アンジェルさんは、無事ですか」
弱者に対して、優しい。
凶悪犯に対しては、厳しく。
これが、魔女の在り方。
カトリスさんの胸元に光るバッチを見ているだけで、言葉にされていない説教を受けているような気分を味わった。
「お姉ちゃんは、どうしてここに……」
「グリフォンが大量に出て、巡回中だったの」
ノルカはカトリスさんと言葉を交わしてはいるが、カトリスさんと視線を交えていない。
ばつが悪そうな表情を浮かべながら、視線を適当な墓石へと向けてカトリスさんと会話をしていく。
「追試験の件は、ちゃんと数に加算されるように手続きをしておきます」
長い歴史の中で、初めて実施される魔女試験の追試。
これらに関する情報は、恐らく限られた人間にしか知らされていない。
機密事項といっても過言ではない情報を持っているカトリスさんは、魔女の中でもかなり地位が高いと悟った。
「それでは」
カトリスさんは、去り際まで美しく見えた。
美しいって言葉を連呼しすぎると言葉の価値が薄れるかもしれないけど、それでも美しいって言葉を使いたくなる。
魔女が高貴な存在と言われる理由が、なんとなく分かったような気さえしてしまう。
「ノルカ」
人々はアリザがスプーストから去るのを見送ると、それぞれがそれぞれの目的のために動き出す。
あれだけのことが起きたのに、アリザの魔法がスプーストから消え去ってしまったと理解した人々は何事もなかったかのように日常へと帰っていく。
「ノルカ、大丈夫か」
改めて墓参りをする人もいれば、自宅へと帰っていく人もいる。
ジルナは何も言葉を残すことなく墓地から去っていく。
今回の件を受けて、ジルナが祖父母の墓参りに来られなくなってしまったかもしれない。
「ノルカ……」
顔を長い髪で覆いながらノルカに視線を向けると、ノルカは俯いたまま墓石に転がる小石と睨めっこ状態。
「まだ傷が痛むなら、魔法で……」
「ごめんなさい……」
ノルカは地面に視線を向けたまま、俺とは目を合わせてもくれない。
俺が女装魔法使いだったことが、ノルカにばれたときのことを思い出す。
「謝んなくていいって」
「足を引っ張ったの……私は、あなたの足を引っ張った」
ノルカは厳しく自分のことを責めていくけど、俺だって決して褒められるような活躍をしたわけじゃない。
「ごめんなさい……」
聞きたいのは、ごめんなさいの言葉じゃない。
でも、ノルカの口から溢れる謝罪の言葉に対して、どんな言葉を返せばいいのか分からない。
「次からは、非情な魔法使いになってみせるから」
ノルカの口から、ノルカらしくない言葉が出てくる。
確かに凶器を持った人間と立ち向かったときのカトリスさんは非情にも見えたけど、ちゃんと優しさを持ち合わせている魔女だなってカトリスさんの活躍を見て思った。
「今度こそ、魔女試験に合格しないと……」
刃物で刺されたときの衝撃で飛んでしまったノルカの帽子を拾い上げて、未だに立ち上がることのできないノルカの頭に被せる。
ノルカの目が見えなくなるくらい、深く深く帽子を被せる。
「自分だけを責めんな」
魔女は、時に非情さも必要だと身をもって知った。
最悪の事態を招かないように、どう行動していくかが大事だと知った。
「ノルカだけが悪いわけじゃない」
でも、大きな学びを得たところで、相方を救うための言葉が浮かんでこない。
情けないとか、かっこ悪いとか、自分に対する想いはたくさん浮かんでくる。
それなのに、肝心の相方に向けるべき言葉が見つからないまま事件は幕を閉じた。
偽魔女逮捕3人目
幽霊街スプースト 霊媒師 アリザ・トーニ
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