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第3章「死別の涙を拭う偽魔女」
第2話「集団が生み出す恐怖」
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「これからも私たちは、霊媒師様の力が必要なの」
多数意見に合わせなければいけないと思い込んだ人々は、魔法使いの格好をした新たな獲物が傍にいることに気づき始める。
「出てけ! おまえたちが出てけよっ!」
「あなたたちが街に来なければ……」
刃物に比べれば、小さな石ころなんて当たっても痛くない。
魔法使いなら、自分たちの傷は魔法で治すことができるはず。
人を傷つけているって感覚が弱くなるせいか、一度はジルナを傷つけることを諦めた人たちが俺に向かって小石を投げ飛ばしてくる。
「霊媒師様は、下がっていてください」
アリザの声が届いていないというよりは、アリザの言うことを聞きたくないのかもしれない。
ノルカが言っていた通り、遺族は亡くなった人に会えれば、それでいい。
アリザのやめてという言葉に従えば、アリザは捕まってしまう。
聞く耳を持ちたくない信者たちはアリザを囲んで、アリザの魔法の力を守ろうと必死になる。
「みんなで魔法使いを始末すれば怖くありませんわ」
フラが人々を炊きつけ、フラの行動をきっかけにだんだんと信者たちの気持ちが大きく膨らんでいく。
「みんなで霊媒師様を守ろう!」
「みんなで守れば怖くないわ」
気づいたら、周りがみんな敵という状況に陥った。
だんだんと声が大きくなり、一般人から向けられる敵意むき出しの攻撃が墓場へと散っていく。
「アンジェ……」
「治療が先だ」
口では立派なことを言っていても、周囲が動き出すことで魔法への集中力が欠けてノルカの治療が遅れていく。
「早く出てけよ!」
「アリザ様の力は本物なんだよっ」
だんだんと人々の声が揃って、罵声が聴覚に強く響いていく。
「私は、もう最愛の人と会うことができないの……」
「俺たちは、家族に会いたいだけなんだ!」
投げつけられる小石から身を守るには防御魔法を使うのが最適でも、結界の守りで弾け飛んだ飛んだ小石は墓石を傷つけてしまう。
「あなたたちの両親は、もう死んでるのよ!」
「霊媒師様が、それを証明しくれただろ!」
年季の入った墓石は、小石が当たった程度でも欠けていく。
欠けた墓石は無気力に地面へと転がり、故人が眠る場所はかたちをなくしていく。
「もう嫌……」
「おねえちゃ……」
俺を目がけてきた石がジルナ姉妹に当たらないように、防御魔法を維持できるように心がける。
でも、姉妹の視界には、魔法使いに向かって石を投げつけてくる街の人たちが映ってしまう。聴覚には、非道すぎる言葉の数々が届いてしまう。
魔法の力では、不安と恐怖を抱えた姉妹の心は守ってやることができない。
「今です!」
拘束しているはずのフラは、まるで勝利を確信したかのように声高に叫ぶ。
「おまえたちがいなければ……」
ノルカを映していた視界の中に、ひとつの影が入り込む。
墓場のどこかに弾き飛ばしてしまった刃物を、誰かが拾いに行くなんて考えもしなかった甘さが自分を窮地に立たせた。
「っ」
振り返った瞬間、向けられた刃物は脅迫の道具へと変貌した。
自分が魔法で何かをしようとすれば、男が持っている刃物は自分の体を貫くところまで追い詰められた。
「おまえたちさえいなければ……!」
これからもずっと、アリザの魔法を利用できるという喜びに浸った街の人たち。
自分の甘さが悲劇を招き、自分1人ではどうしようもなくなった。
集団心理の恐ろしさにどうしようもなくなっていると、空から地上へ1つの影が舞い降りた。
「ここからは、私の仕事です」
空を飛ぶための箒から、綺麗な声を発した誰かが降りてくる。
「よく頑張りましたね」
俺に向けてくれる言葉は優しさを帯びていても、街の人たちに対しては容赦なく杖を振るう。
「くっ、ぁつ」
「っ、ぅ、ぁ……」
自分は普通に呼吸ができているのに、人々は空気を吸い込むことができないような苦しさを抱え始める。
初めて見るような強力な魔法は、一瞬で何十人もの人たちを鎮静化させた。
「もう大丈夫ですよ」
現れた彼女が何者か、なんて確認するまでもなかった。
彼女の胸元には煌きを放つ、彼女の身分を証明するものが存在した。
(魔女……)
俺たちを助けてくれた綺麗な声の女性はなんの躊躇いもなく、一気に場を制圧するために魔法の力を行使していく。
反撃の隙すら与えないように、魔女は鮮やかに魔法を使いこなして刃物を持っていた男を拘束した。
(魔女になるなら、これくらいできなきゃいけない……)
躊躇ったわけじゃない。
戦う覚悟もできていた。
でも、すべてに置いて、本物の魔女との違いを感じた。
知識も、経験も、すべてが違うと思った。
だから、俺は自分で自分の身を守ることもできず、魔女に助けられてしまった。
多数意見に合わせなければいけないと思い込んだ人々は、魔法使いの格好をした新たな獲物が傍にいることに気づき始める。
「出てけ! おまえたちが出てけよっ!」
「あなたたちが街に来なければ……」
刃物に比べれば、小さな石ころなんて当たっても痛くない。
魔法使いなら、自分たちの傷は魔法で治すことができるはず。
人を傷つけているって感覚が弱くなるせいか、一度はジルナを傷つけることを諦めた人たちが俺に向かって小石を投げ飛ばしてくる。
「霊媒師様は、下がっていてください」
アリザの声が届いていないというよりは、アリザの言うことを聞きたくないのかもしれない。
ノルカが言っていた通り、遺族は亡くなった人に会えれば、それでいい。
アリザのやめてという言葉に従えば、アリザは捕まってしまう。
聞く耳を持ちたくない信者たちはアリザを囲んで、アリザの魔法の力を守ろうと必死になる。
「みんなで魔法使いを始末すれば怖くありませんわ」
フラが人々を炊きつけ、フラの行動をきっかけにだんだんと信者たちの気持ちが大きく膨らんでいく。
「みんなで霊媒師様を守ろう!」
「みんなで守れば怖くないわ」
気づいたら、周りがみんな敵という状況に陥った。
だんだんと声が大きくなり、一般人から向けられる敵意むき出しの攻撃が墓場へと散っていく。
「アンジェ……」
「治療が先だ」
口では立派なことを言っていても、周囲が動き出すことで魔法への集中力が欠けてノルカの治療が遅れていく。
「早く出てけよ!」
「アリザ様の力は本物なんだよっ」
だんだんと人々の声が揃って、罵声が聴覚に強く響いていく。
「私は、もう最愛の人と会うことができないの……」
「俺たちは、家族に会いたいだけなんだ!」
投げつけられる小石から身を守るには防御魔法を使うのが最適でも、結界の守りで弾け飛んだ飛んだ小石は墓石を傷つけてしまう。
「あなたたちの両親は、もう死んでるのよ!」
「霊媒師様が、それを証明しくれただろ!」
年季の入った墓石は、小石が当たった程度でも欠けていく。
欠けた墓石は無気力に地面へと転がり、故人が眠る場所はかたちをなくしていく。
「もう嫌……」
「おねえちゃ……」
俺を目がけてきた石がジルナ姉妹に当たらないように、防御魔法を維持できるように心がける。
でも、姉妹の視界には、魔法使いに向かって石を投げつけてくる街の人たちが映ってしまう。聴覚には、非道すぎる言葉の数々が届いてしまう。
魔法の力では、不安と恐怖を抱えた姉妹の心は守ってやることができない。
「今です!」
拘束しているはずのフラは、まるで勝利を確信したかのように声高に叫ぶ。
「おまえたちがいなければ……」
ノルカを映していた視界の中に、ひとつの影が入り込む。
墓場のどこかに弾き飛ばしてしまった刃物を、誰かが拾いに行くなんて考えもしなかった甘さが自分を窮地に立たせた。
「っ」
振り返った瞬間、向けられた刃物は脅迫の道具へと変貌した。
自分が魔法で何かをしようとすれば、男が持っている刃物は自分の体を貫くところまで追い詰められた。
「おまえたちさえいなければ……!」
これからもずっと、アリザの魔法を利用できるという喜びに浸った街の人たち。
自分の甘さが悲劇を招き、自分1人ではどうしようもなくなった。
集団心理の恐ろしさにどうしようもなくなっていると、空から地上へ1つの影が舞い降りた。
「ここからは、私の仕事です」
空を飛ぶための箒から、綺麗な声を発した誰かが降りてくる。
「よく頑張りましたね」
俺に向けてくれる言葉は優しさを帯びていても、街の人たちに対しては容赦なく杖を振るう。
「くっ、ぁつ」
「っ、ぅ、ぁ……」
自分は普通に呼吸ができているのに、人々は空気を吸い込むことができないような苦しさを抱え始める。
初めて見るような強力な魔法は、一瞬で何十人もの人たちを鎮静化させた。
「もう大丈夫ですよ」
現れた彼女が何者か、なんて確認するまでもなかった。
彼女の胸元には煌きを放つ、彼女の身分を証明するものが存在した。
(魔女……)
俺たちを助けてくれた綺麗な声の女性はなんの躊躇いもなく、一気に場を制圧するために魔法の力を行使していく。
反撃の隙すら与えないように、魔女は鮮やかに魔法を使いこなして刃物を持っていた男を拘束した。
(魔女になるなら、これくらいできなきゃいけない……)
躊躇ったわけじゃない。
戦う覚悟もできていた。
でも、すべてに置いて、本物の魔女との違いを感じた。
知識も、経験も、すべてが違うと思った。
だから、俺は自分で自分の身を守ることもできず、魔女に助けられてしまった。
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