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第3章「死別の涙を拭う偽魔女」
第1話「望みを叶えてくれるのは誰?」
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「ふふ……はははっ、アリザ様を陥れようとしても無駄です」
「っ……ぁ……」
「あなたたちが少女に吹き込んだのでしょう? アリザ様が偽物だって」
人の体へと、深く深く押し込まれていく刃物。
刃物が人の命を奪うためのものでもあるんだってことを知った人々は、目の前で繰り広げられた悲惨な光景から目を背ける。
「魔女資格を持たない魔法使いですものね。手柄が欲しかった……っぁああ!」
魔法を使って、フラの手から刃物を弾き飛ばす。
墓場には相応しくない、石と金属がぶつかり合う音が辺りに響いた。
「っ、ぁ、あ……」
フラが墓場のどこかに飛んでいった刃物を拾いにいかないように、フラを魔法の力で拘束する。
人々を幸せにするための魔法を、魔法を使うことができない一般人を痛めつけるために使ってしまった。
「アンジェ……」
「喋んな」
ノルカが被っていた帽子が力なく地面へと落ちる。
「……ごめ、なさ……」
「謝んなくていい」
自分が女装魔法使いを貫いているが故に、ジルナの味方をする役割をノルカに押しつけていた。それが原因で、フラの憎しみがノルカだけに向いてしまった。
ジルナを守ることに集中していた俺は憎しみの対象に含まれず、フラの憎しみは真正面からジルナを守っていたノルカに向いてしまった。
結果、ノルカだけが血を流す事態になった。
(くそっ)
ノルカの治療を行う際に、自分の手が血で塗れていくのが目に入った。
人々を救うための手も、人々を傷つけるための手も同じ。
人を傷つけた手でノルカを治療していることに、手が無意識に震え始める。
「アリザ様は、私たちにとっての救い……」
電撃を受けた体でまともに喋れるわけがないのに、フラは懸命に口を動かす。
「アリザ様のおかげで、毎日が幸せだった……」
フラの言葉に耳を傾けている場合ではなく、ノルカがまとっているローブへと視線を落とす。
どぷりどぷりと溢れ出してローブを染め上げていく血液が、ノルカの命の危険性を訴える。
「アリザ様は、私が守ってみせます」
「フラさ……」
「アリザ様は、何も悪くありませんわ」
「この子たちは、何も悪くないです……悪いのは私……」
アリザは、刃物で人を傷つけることが悪いことだと自分の声で訴えていく。
「この魔法使いがいなくなれば、元の平和なスプーストに戻ります」
「フラさんっ!」
「敵を、排除しないと……」
拘束されている主を助けようとしない取り巻きたち。
人を傷つけることを恐れている街の人々に、フラは鋭い視線を向けて声を上げ続ける。
「そこにいる魔法使いはアリザ様を利用して、手柄を立てようとしているのです!」
さっさとノルカの治療を終わらせないと、立場が悪くなるのを悟る。
「そこの魔法使いたちを殺せば、アリザ様は救われます!」
「フラさ……」
「私は、誰よりもアリザ様にお金を収めているのですよ!」
自分が望む方向に事が進まないことに対して怒りを募らせたフラは、自分と意見を合わせるように人々を誘導していく。
「私がお金を貸してあげたおかげで、遺族と再会できましたよね」
「やめてくださ……」
暴徒化したアリザ信者を鎮めるには、アリザの力が必要。
でも、肝心のアリザはパニック状態に陥っているせいか、声を上げることができていない。
アリザの声は誰にも届かず、飛び交う雑音に彼女の声はかき消されてしまう。
「やめて……くださ……」
自分を慕ってくれている信者を傷つけることもできないアリザ。
収拾のつかない事態に不安や恐怖を抱いたのか、硬直してしまった足では身動きも取れず。
震えに襲われながら、アリザはその場に屈みこんで俯いてしまった。
「誰が正しいかなんて、すぐにわかるでしょう!」
この場で魔法使いを殺したがっているのは少数意見のはずなのに、それを強引に多数意見へとひっくり返そうとフラは巧みに言葉を操っていく。
「さあ! 早く! 早くっ! アリザ様が大切なら早く動きなさい!」
普段は自分の命令を聞く人ばかりに囲まれているためフラは、意のままに人々を操ることができないことに苛立ちを露わにしていく。
「魔法使いは、一般人に手を出すことはできませんわ」
フラは、止めの一言を魔法使いに下す。
そして、周囲に自分と同じ考えを持つように強制していく。
「霊媒師様は、俺たちが守る!」
集団から若い男が1人抜け出して、アリザの元へと駆け寄った。
1人、また1人、フラに同調する人々が増えていく。
「っ……ぁ……」
「あなたたちが少女に吹き込んだのでしょう? アリザ様が偽物だって」
人の体へと、深く深く押し込まれていく刃物。
刃物が人の命を奪うためのものでもあるんだってことを知った人々は、目の前で繰り広げられた悲惨な光景から目を背ける。
「魔女資格を持たない魔法使いですものね。手柄が欲しかった……っぁああ!」
魔法を使って、フラの手から刃物を弾き飛ばす。
墓場には相応しくない、石と金属がぶつかり合う音が辺りに響いた。
「っ、ぁ、あ……」
フラが墓場のどこかに飛んでいった刃物を拾いにいかないように、フラを魔法の力で拘束する。
人々を幸せにするための魔法を、魔法を使うことができない一般人を痛めつけるために使ってしまった。
「アンジェ……」
「喋んな」
ノルカが被っていた帽子が力なく地面へと落ちる。
「……ごめ、なさ……」
「謝んなくていい」
自分が女装魔法使いを貫いているが故に、ジルナの味方をする役割をノルカに押しつけていた。それが原因で、フラの憎しみがノルカだけに向いてしまった。
ジルナを守ることに集中していた俺は憎しみの対象に含まれず、フラの憎しみは真正面からジルナを守っていたノルカに向いてしまった。
結果、ノルカだけが血を流す事態になった。
(くそっ)
ノルカの治療を行う際に、自分の手が血で塗れていくのが目に入った。
人々を救うための手も、人々を傷つけるための手も同じ。
人を傷つけた手でノルカを治療していることに、手が無意識に震え始める。
「アリザ様は、私たちにとっての救い……」
電撃を受けた体でまともに喋れるわけがないのに、フラは懸命に口を動かす。
「アリザ様のおかげで、毎日が幸せだった……」
フラの言葉に耳を傾けている場合ではなく、ノルカがまとっているローブへと視線を落とす。
どぷりどぷりと溢れ出してローブを染め上げていく血液が、ノルカの命の危険性を訴える。
「アリザ様は、私が守ってみせます」
「フラさ……」
「アリザ様は、何も悪くありませんわ」
「この子たちは、何も悪くないです……悪いのは私……」
アリザは、刃物で人を傷つけることが悪いことだと自分の声で訴えていく。
「この魔法使いがいなくなれば、元の平和なスプーストに戻ります」
「フラさんっ!」
「敵を、排除しないと……」
拘束されている主を助けようとしない取り巻きたち。
人を傷つけることを恐れている街の人々に、フラは鋭い視線を向けて声を上げ続ける。
「そこにいる魔法使いはアリザ様を利用して、手柄を立てようとしているのです!」
さっさとノルカの治療を終わらせないと、立場が悪くなるのを悟る。
「そこの魔法使いたちを殺せば、アリザ様は救われます!」
「フラさ……」
「私は、誰よりもアリザ様にお金を収めているのですよ!」
自分が望む方向に事が進まないことに対して怒りを募らせたフラは、自分と意見を合わせるように人々を誘導していく。
「私がお金を貸してあげたおかげで、遺族と再会できましたよね」
「やめてくださ……」
暴徒化したアリザ信者を鎮めるには、アリザの力が必要。
でも、肝心のアリザはパニック状態に陥っているせいか、声を上げることができていない。
アリザの声は誰にも届かず、飛び交う雑音に彼女の声はかき消されてしまう。
「やめて……くださ……」
自分を慕ってくれている信者を傷つけることもできないアリザ。
収拾のつかない事態に不安や恐怖を抱いたのか、硬直してしまった足では身動きも取れず。
震えに襲われながら、アリザはその場に屈みこんで俯いてしまった。
「誰が正しいかなんて、すぐにわかるでしょう!」
この場で魔法使いを殺したがっているのは少数意見のはずなのに、それを強引に多数意見へとひっくり返そうとフラは巧みに言葉を操っていく。
「さあ! 早く! 早くっ! アリザ様が大切なら早く動きなさい!」
普段は自分の命令を聞く人ばかりに囲まれているためフラは、意のままに人々を操ることができないことに苛立ちを露わにしていく。
「魔法使いは、一般人に手を出すことはできませんわ」
フラは、止めの一言を魔法使いに下す。
そして、周囲に自分と同じ考えを持つように強制していく。
「霊媒師様は、俺たちが守る!」
集団から若い男が1人抜け出して、アリザの元へと駆け寄った。
1人、また1人、フラに同調する人々が増えていく。
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