57 / 70
第3の事件『死別の涙を拭う偽魔女』 第1章「幽霊街スプースト」
第4話「街の人たちが望むもの」
しおりを挟む
「あれ……」
「ジルナさん?」
「あ、駅で待ち合わせしていたんですけど……」
やっとの想いで駅に辿り着いたが、ジルナは待ち合わせていた人物が駅にいないことに気づく。
「せっかく送ってもらったのに……本当にごめんなさい!」
ジルナは目的の人物を探しに行くため、俺たちとは反対の方角へと歩を進めていく。
(ルナも、あれだけちゃんと歩けるなら心配ないな)
俺とノルカも、駅前から遠ざかるために歩き出す。
異様な空気に包まれているのは人が多く行き交う駅前だけで、駅を離れると元の薄暗いスプーストが俺たちを待っていた。
「はぁ、なんであんな募金に必死なんだろ……」
「働きたくないか、働いてもお金が足りないか」
「あー……」
陽が差すことのないスプーストは、基本的にどこに移動しても待っているものは墓地。
人様の墓石の前で、俺とノルカは言葉を交わす。
「幽霊に会うのにいくらって設定があれば、こんな募金合戦みたいにならないんだろうけど……」
「霊媒師が貰うのは、あくまでお気持ちってことなんでしょ」
「だから、みんながみんな金を積んで、自分を優先してもらおうと……」
「これだけ払ってるんだから優先してよ、ってなるでしょうね」
故人を想う気持ちは、誰にも否定できない。
人に迷惑をかけなければ、お気持ち代だって自由。
だけど、自分の気持ちを飛び越えて、他人を巻き込んで迷惑をかけるのは確実に間違っている。
「幽霊は基本的に見えないものだからなー」
「でも、この街では幽霊を目にすることができる」
あの、霊媒師のおかげで。
ノルカは、そう付け加えた。
「霊感に関係なく幽霊を見るには……」
霊感が強い人は幽霊を見ることができて、霊感が弱い人は幽霊を見ることができない。
それが本当なら、あのとき墓場を訪れていた人たちが同時に幽霊を目にすることができたってことに違和感が生じる。
「やっぱ魔法の力だよなー」
「アンジェル」
「んー?」
「私の幻を作り上げるのはやめて」
先ほど墓場で見た幽霊がなんなのか検証するために、幻影魔法を使ってノルカの幻を浮かび上がらせる。
幻のノルカの体は透明で、幽霊っぽく見えると言えば幽霊っぽく見える。
「私、まだ死んでないんだけど」
「本物と見分けがつかないくらい完璧っ」
「……気味が悪くなるくらい、本人そっくりね」
魔法を使って、自分の知識や記憶にない幻は作り出すことができない。
「こんなに精密な幻を作れるなんて、天才かも」
「その魔法で商売を始めるつもりなら、私が捕まえてあげる」
でも、生み出したい幻の情報さえ得られれば、魔法使いは幻を生み出すことができるということ。
「さっさと幻を消して」
「はいはい」
財布をちらつかせる相方の機嫌を、これ以上損ねないように魔法を解く。
さすがに、目の前にいるノルカと幻影として登場させたノルカの見分けがつかなくなることはない。けど、墓場で幽霊と対面している遺族はどうなんだろうって考えてしまう。
「遺族は、ちゃんと現実……受け止めてんのかな」
「故人に会いたがってる人たちは、そこまで深く考えないと思うけど」
目の前にいる幽霊は、この世にいない人だってことを理解できなくなるんじゃないか。
霊媒師と関わっていない俺の不安や心配は、ノルカの一言に一掃された。
「普通は幽霊を見ることすらできないのに、お金を払えば不可能が可能になるの」
「…………」
「願いが叶えば、それで十分でしょ」
実際に霊媒師を頼っている人たちにとっては、俺の不安や心配こそが不要なものだってことがよく分かった。
自分たちの願いを叶えることが何より大切なのだと。
「また募金活動をやっているみたいね」
ノルカが視線を向ける先には、駅前近くにいた人たちほど大規模ではない募金活動が行われていた。
比較してしまうと地味ではあるけど、募金活動とは本来こういうものだろうなってくらい小さな集団が寄付を募っていた。
「お父さんに会わせてくださいっ!」
「ぼくは、おじいちゃんに……」
けど、その小さな集団は違和感があった。
募金活動の輪の中にいるのは、瞳に涙を浮かべた小さな子どもたち。
自分の両親や祖父母。
それぞれが望む故人との再会を口にしていて、墓参りに来た人たちは残された遺族の子どもたちのために募金箱へとお金を投じていた。
「募金活動自体は悪いことじゃない……」
「でも、善意でいただいたお金を霊媒師に貢ぐのは考えものね」
募金活動で集めた金を、目的のために使用するのは何も悪くはない。
その目的を達成するのを手助けするために、人々は募金箱へとお金を投じていく。
募金の目的が霊媒師に貢ぐことだったとしても、それは罪には問われない。
(でも、気持ちがもんやりとしてる……)
魔女を目指す者が出しゃばるところではないと分かっていても、募金を呼びかける人が多発しているスプーストの異常。
違和感はどうにかして解消しなければいけないんじゃないかって気持ちが生まれてくる。
「っ、魔女さん!」
俺とノルカは、募金活動を行っている人たちに見つかった。
見つかったって表現も失礼だとは思うけど、また金を求められるんだって予感が真っ先に働いた。
「どうか、募金にご協力ください!」
「パパとママに、あいたい、です!」
俺たちは再び、募金に力を貸してほしいと懇願される。
募金への協力を呼びかけるのは悪いことではない。
でも、募金活動をしなければいけないほど、人々はお金に困っている。
その困っている原因が霊媒師っていう現状は、なんとかしないといけない気がした。
「ジルナさん?」
「あ、駅で待ち合わせしていたんですけど……」
やっとの想いで駅に辿り着いたが、ジルナは待ち合わせていた人物が駅にいないことに気づく。
「せっかく送ってもらったのに……本当にごめんなさい!」
ジルナは目的の人物を探しに行くため、俺たちとは反対の方角へと歩を進めていく。
(ルナも、あれだけちゃんと歩けるなら心配ないな)
俺とノルカも、駅前から遠ざかるために歩き出す。
異様な空気に包まれているのは人が多く行き交う駅前だけで、駅を離れると元の薄暗いスプーストが俺たちを待っていた。
「はぁ、なんであんな募金に必死なんだろ……」
「働きたくないか、働いてもお金が足りないか」
「あー……」
陽が差すことのないスプーストは、基本的にどこに移動しても待っているものは墓地。
人様の墓石の前で、俺とノルカは言葉を交わす。
「幽霊に会うのにいくらって設定があれば、こんな募金合戦みたいにならないんだろうけど……」
「霊媒師が貰うのは、あくまでお気持ちってことなんでしょ」
「だから、みんながみんな金を積んで、自分を優先してもらおうと……」
「これだけ払ってるんだから優先してよ、ってなるでしょうね」
故人を想う気持ちは、誰にも否定できない。
人に迷惑をかけなければ、お気持ち代だって自由。
だけど、自分の気持ちを飛び越えて、他人を巻き込んで迷惑をかけるのは確実に間違っている。
「幽霊は基本的に見えないものだからなー」
「でも、この街では幽霊を目にすることができる」
あの、霊媒師のおかげで。
ノルカは、そう付け加えた。
「霊感に関係なく幽霊を見るには……」
霊感が強い人は幽霊を見ることができて、霊感が弱い人は幽霊を見ることができない。
それが本当なら、あのとき墓場を訪れていた人たちが同時に幽霊を目にすることができたってことに違和感が生じる。
「やっぱ魔法の力だよなー」
「アンジェル」
「んー?」
「私の幻を作り上げるのはやめて」
先ほど墓場で見た幽霊がなんなのか検証するために、幻影魔法を使ってノルカの幻を浮かび上がらせる。
幻のノルカの体は透明で、幽霊っぽく見えると言えば幽霊っぽく見える。
「私、まだ死んでないんだけど」
「本物と見分けがつかないくらい完璧っ」
「……気味が悪くなるくらい、本人そっくりね」
魔法を使って、自分の知識や記憶にない幻は作り出すことができない。
「こんなに精密な幻を作れるなんて、天才かも」
「その魔法で商売を始めるつもりなら、私が捕まえてあげる」
でも、生み出したい幻の情報さえ得られれば、魔法使いは幻を生み出すことができるということ。
「さっさと幻を消して」
「はいはい」
財布をちらつかせる相方の機嫌を、これ以上損ねないように魔法を解く。
さすがに、目の前にいるノルカと幻影として登場させたノルカの見分けがつかなくなることはない。けど、墓場で幽霊と対面している遺族はどうなんだろうって考えてしまう。
「遺族は、ちゃんと現実……受け止めてんのかな」
「故人に会いたがってる人たちは、そこまで深く考えないと思うけど」
目の前にいる幽霊は、この世にいない人だってことを理解できなくなるんじゃないか。
霊媒師と関わっていない俺の不安や心配は、ノルカの一言に一掃された。
「普通は幽霊を見ることすらできないのに、お金を払えば不可能が可能になるの」
「…………」
「願いが叶えば、それで十分でしょ」
実際に霊媒師を頼っている人たちにとっては、俺の不安や心配こそが不要なものだってことがよく分かった。
自分たちの願いを叶えることが何より大切なのだと。
「また募金活動をやっているみたいね」
ノルカが視線を向ける先には、駅前近くにいた人たちほど大規模ではない募金活動が行われていた。
比較してしまうと地味ではあるけど、募金活動とは本来こういうものだろうなってくらい小さな集団が寄付を募っていた。
「お父さんに会わせてくださいっ!」
「ぼくは、おじいちゃんに……」
けど、その小さな集団は違和感があった。
募金活動の輪の中にいるのは、瞳に涙を浮かべた小さな子どもたち。
自分の両親や祖父母。
それぞれが望む故人との再会を口にしていて、墓参りに来た人たちは残された遺族の子どもたちのために募金箱へとお金を投じていた。
「募金活動自体は悪いことじゃない……」
「でも、善意でいただいたお金を霊媒師に貢ぐのは考えものね」
募金活動で集めた金を、目的のために使用するのは何も悪くはない。
その目的を達成するのを手助けするために、人々は募金箱へとお金を投じていく。
募金の目的が霊媒師に貢ぐことだったとしても、それは罪には問われない。
(でも、気持ちがもんやりとしてる……)
魔女を目指す者が出しゃばるところではないと分かっていても、募金を呼びかける人が多発しているスプーストの異常。
違和感はどうにかして解消しなければいけないんじゃないかって気持ちが生まれてくる。
「っ、魔女さん!」
俺とノルカは、募金活動を行っている人たちに見つかった。
見つかったって表現も失礼だとは思うけど、また金を求められるんだって予感が真っ先に働いた。
「どうか、募金にご協力ください!」
「パパとママに、あいたい、です!」
俺たちは再び、募金に力を貸してほしいと懇願される。
募金への協力を呼びかけるのは悪いことではない。
でも、募金活動をしなければいけないほど、人々はお金に困っている。
その困っている原因が霊媒師っていう現状は、なんとかしないといけない気がした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる