女装魔法使いと嘘を探す旅

海坂依里

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第3の事件『死別の涙を拭う偽魔女』 第1章「幽霊街スプースト」

第2話「迷子」

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「会いたかった……」
「っ、っ、っ~~~」

 駆けつけた場所に待っていたもの。
 それは、墓石に向かって、会いたかったと言葉を溢す女性。
 腰を抜かして逃げることもできなければ、声を出すこともできなくなっている幼き女の子の姿。
 そして、体が透けている男性の姿。
 墓地には、俺とノルカ以外に3人の人物がいた。

「大丈夫?」
「あ、うぅ、ぐす……」

 墓石の前で涙を零しながら、透明な体の男性と抱き合う女性。
 透明な体を抱き締めることはできないけれど、互いの体温を確かめるように抱き合う2人の姿はとても幸福そうに見えた。
 でも、透明な体の男性とまったく縁もゆかりもない女の子にとっては、透明な体の男性は恐怖の対象でしかない。

「立てる?」
「う……うぅ……」

 ノルカが女の子に声をかけ、俺は一つ結びが特徴的な女の子に手を差し伸べる。
 幽霊を目にした恐怖で女の子が動けなくなっているっていうのに、体の透き通った男性と涙が止まらなくなっている女性は2人だけの世界を作り上げていた。
 周囲で何が起きているかなんて気にすることなく、ようやくの再会を2人で喜び合っているような不思議な光景が広がっていた。

「うっ……うぅ、ぐすっ……」
「怖かったね、泣かないで」

 説明のできない不思議な現象によく遭遇する魔法使いは幽霊を目にしたところで動じない人が多いと思うが、女の子は魔法使いでもなんでもない一般人。
 恐怖で動けなくなってしまった女の子が行動できるようになるまで、ノルカが会話を繋いでくれる。

(こんな土地だと、迷子になるよなー……)

 周囲を見渡して、改めてスプーストという街がどこを歩いても墓石だらけということを再確認。
 大人ですら、墓石だらけのスプーストの地理を把握するのは難しいと言われている。
 幼い女の子がどこを歩いているか分からなくなって、付き添いの人とはぐれてしまうのも無理はない。

「探索魔法は……使えないわね」

 この世に、叶えられない願いはない。
 そう思われがちな魔法にも限界はある。
 魔法を使う側の人間が、探し求めている人物の顔を把握していなければ探索魔法は発動しない。

「おね、ちゃ……」
「大丈夫、大丈夫だから、ね」

 俺もノルカも、女の子が探し求めている人物の顔を知らない。
 魔法を使って女の子の力になることは難しく、どうしようと悩み果てているところに幼い女の子を救う存在が現れた。

「ルナっ!」

 幼い女の子の名前がルナだということを知っている人物が、迷子の女の子を迎えに来てくれた。

「本当にありがとうございました!」
「お姉ちゃんと会えて、良かったね」
「ん!」

 ルナと名前を呼ばれた女の子は、はぐれたお姉ちゃんと無事に再会することができた。

「私はジルナです」
「私の名前はノルカで、あの子はアンジェル。友人同士で、観光地巡りをやっていて……」

 また、ノルカの適当に作り上げた設定が出てきた。
 女装魔法使いは、声を出すことができない。
 俺はにこやかな笑みをジルナに返しながら、ノルカの設定を肯定する。

「旅費を稼ぐために墓掃除をしていたところに、ルナさんが」

 ノルカを間に挟みながら自己紹介を終える頃には、ルナが自分の足で立ち上がれるようになった。
 お姉ちゃんが迎えに来てくれたことで、心が落ち着いてきたようだった。

「まじょさんっ、かわいいっ」

 ジルナの話に耳を傾けていると、ジルナの妹のルナが俺を見上げていることに気づく。

「こら、ルナ。魔女さんじゃなくて、魔女様……」
「あ、私たちは資格を持たない魔法使いです」

 魔女資格を持たない魔法使いが魔法を使って金を稼ぐことが禁じられているといっても、一般人は相変わらず魔女と魔法使いの見分けができないってところを改めて思い知らされる。

「ルナも、かわいくなりたいっ」

 ルナのきらきらとした眼差しが、心をちくちくと突き刺してくる。
 コミュニケーションをとりたい気持ちはある。

「まじょさん、おなまえは?」

 どこからどう見ても可愛い可愛い魔法使いが声を出したら、実は男でした。
 驚いたルナを再び泣かせてしまうわけにもいかず、愛らしい笑みを向けることでなんとかルナの攻撃を必死にかわす。

「わたしはね、ルナっていうの」
「ルナ、魔法使いさんに迷惑かけないの」
「ルナも、まじょさんになる!」

 さっきまでは恐ろしいものを見てしまって怯えていたルナだったが、俺の女装姿で笑顔になってくれるのなら喜んで笑みを返したいと思う。
 魔女の装いとしている俺を見て興奮を抑えきれないルナの勢いに、結ってある髪の束がゆらりと揺れる。

「ありがとうございます! 霊媒師様っ」
「喜んでもらえて良かったです」

 墓場で人々の依頼を受けている霊媒師を見て、ジルナは呆れたような視線を向ける。

「また次回もよろしくお願いします」
「既にお気持ちをいただいているので、そんなに受け取れません」
「いつもお世話になっているので!」
「……それではいただきます」

 依頼者が霊媒師に追加で金を支払うという、なんてことないやりとりに見える。

「また、あの霊媒師ですか……」

 ジルナは妹の手をしっかりと繋ぐと、溜め息交じりに言葉を吐き出した。
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