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第3章「命の価値を測る偽魔女」
第4話「真実」
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「暴力を振るう人間に、奥様への愛があるはずが……!」
安らかな寝息を立てる奥さんの元へと、ゆっくりとした足取りで近づくフェリーナ。
ようやく奥さんの元まで辿り着くと、フェリーナは奥さんが着ている袖を捲り上げる。
「こんなに傷ついたんですよ……」
奥さんの腕に残された痣を、指で撫でる。
指で痕を撫でるだけでは、痣が消えるわけがない。
「それなのに、まだご主人を庇おうとするなんて……」
何度も何度も指を往復させて奥さんの腕に残った痕を労わるフェリーナ。
でも、痣が消えることを拒否した奥さんのことを無視せず、勝手に治療を施したりはしない。
「暴力を振るってた人間に、制裁を加えてたってことか」
一連の事件に決着をつける覚悟ができた俺は、フェリーナの前で初めて声を出す。
男としての俺の声を聞いたフェリーナは、奥さんに集中させていた意識をようやく俺に向けてくれる。
「その声……」
奥さんにしか関心を向けていなかったフェリーナは、ここでようやく俺に関心を向けてくれた。
「ヴァルツを保護してくれた男の子に会いたいと思っていたんです」
足を伸ばして、ゆっくりと立ち上がるフェリーナ。
奥さんに向けていた視線が俺に向くけれど、そこに込められている感情を読み取ることはできない。
「衰弱したヴァルツを助けてくれて、ありがとうございます」
どうしてそんなに穏やかな笑みを浮かべられるのか。
にっこりとした笑みを浮かべ続けるフェリーナの異常性に恐怖を抱く。
「私の命令が届かなくなって、困っていたんですよ」
一気に場の空気が凍りつく。
でも、フェリーナの口角は上がったまま。
「黒猫を利用して、情報を集めてたってことか」
「そこらへんにいる黒猫と同じ呼び方をしないでもらえますか」
「人間を操ると目立つから、黒猫を使ったんだな」
「不愉快です」
不愉快と口にしたときだけ怒っている表情を見せたが、それもほんの一瞬の出来事に過ぎなかった。
すぐに笑みを浮かべ、フェリーナは自分らしい表情を整えていく。
「ヴァルツは世界を美しくするための存在」
自分がやってきたことに間違いは何ひとつないという自信を含んだ声で、フェリーナは自分の正しさを主張していく。
「あなたの暴力は見られているんだって、わざわざヴァルツが警告して差し上げたのに……」
光は、真っ暗な世界を照らす希望になることもある。
でも、フェリーナが使った魔法は、人の目をくらますための光。
人々を絶望に陥れるための光魔法を振るった。
「暴力を続けるなんて、愚かですよね」
フェリーナは何が楽しいのかと問いかけたくなるような満面の笑みを浮かべながら、杖を持った手を傾けて光魔法を投げ飛ばしてくる。
「趣味悪っ」
「優しい、の間違いでは?」
「っ」
光魔法で心臓を貫くことだってできるはずなのに、フェリーナはあくまで視界を奪うための光魔法しか使ってこない。
男の魔法使いを馬鹿にして手加減されているのか、いつでも俺を殺すことができるっていう予告のつもりなのか。
「男の子なのに、随分と魔法の扱いに長けていますね」
「男だって、質のいい魔法が使えるんだよ!」
杖を高く掲げて、フェリーナの光魔法を闇魔法で覆う。
光を遮るくらいのことしかできないことに焦りを感じていると、フェリーナは杖を振り下ろして光魔法を止めた。
「なるほど、なるほど」
フェリーナと対峙して、息を呑む。
心臓が焦りを感じるほどの速度で動くのを感じても、自分の意志で心音を抑えることができない。
「質のいい魔法を使える男性魔法使いさん」
この空気感に緊張しているのは自分だけで、フェリーナには余裕がある。
場の空気をフェリーナに握られているってことが分かるだけで、手は嫌な汗をかき始める。
「私に力を貸してくださいませんか」
「は?」
「暴力に怯えている人たちを、私たちの手で救ってみませんか」
「なんの話……」
「だって、男性の魔法使いは、永遠に魔女になることができないではないですか」
速い動きを見せる心臓も、手に汗を握っているってことも悟られないように、平生を装って言葉を交わす。
「私と組めば、魔法の力で人を救うという願いを叶えることができるんですよ」
こんなに素晴らしい考えはほかに思いつかないと言いたげな楽しそうな表情を浮かべて、フェリーナは俺を正々堂々と勧誘してくる。
「暴力を振るう人間は、外面のいい方が大変に多いのです」
「…………」
「パン屋のご主人が奥様に暴力を振るうような方だなんて、思いもしなかったのでは?」
「それは……」
フェリーナの言う通り、被害者のモーガストさんは周囲から多くの信頼を集めていた。
街の人たちから好意を寄せられていただけでなく、ルアポートの街に初めてやって来た俺とノルカまでモーガストさんの優しさに手懐けられた。
奥さんが旦那の暴力に怯えていることなんて、微塵も想像しなかった。
「あの人が暴力を振るうなんて、この人がいじめの首謀者だなんて……世の中、そんな思い込みで助けられない命が多く存在するのです」
まるで芝居を観ているときの感覚だった。
「私たち魔法使いが、希望になるときが来たと思いませんか」
フェリーナは自分だけの世界観を作り上げながら、俺に言葉を届けようと気持ちを込めてくる。
安らかな寝息を立てる奥さんの元へと、ゆっくりとした足取りで近づくフェリーナ。
ようやく奥さんの元まで辿り着くと、フェリーナは奥さんが着ている袖を捲り上げる。
「こんなに傷ついたんですよ……」
奥さんの腕に残された痣を、指で撫でる。
指で痕を撫でるだけでは、痣が消えるわけがない。
「それなのに、まだご主人を庇おうとするなんて……」
何度も何度も指を往復させて奥さんの腕に残った痕を労わるフェリーナ。
でも、痣が消えることを拒否した奥さんのことを無視せず、勝手に治療を施したりはしない。
「暴力を振るってた人間に、制裁を加えてたってことか」
一連の事件に決着をつける覚悟ができた俺は、フェリーナの前で初めて声を出す。
男としての俺の声を聞いたフェリーナは、奥さんに集中させていた意識をようやく俺に向けてくれる。
「その声……」
奥さんにしか関心を向けていなかったフェリーナは、ここでようやく俺に関心を向けてくれた。
「ヴァルツを保護してくれた男の子に会いたいと思っていたんです」
足を伸ばして、ゆっくりと立ち上がるフェリーナ。
奥さんに向けていた視線が俺に向くけれど、そこに込められている感情を読み取ることはできない。
「衰弱したヴァルツを助けてくれて、ありがとうございます」
どうしてそんなに穏やかな笑みを浮かべられるのか。
にっこりとした笑みを浮かべ続けるフェリーナの異常性に恐怖を抱く。
「私の命令が届かなくなって、困っていたんですよ」
一気に場の空気が凍りつく。
でも、フェリーナの口角は上がったまま。
「黒猫を利用して、情報を集めてたってことか」
「そこらへんにいる黒猫と同じ呼び方をしないでもらえますか」
「人間を操ると目立つから、黒猫を使ったんだな」
「不愉快です」
不愉快と口にしたときだけ怒っている表情を見せたが、それもほんの一瞬の出来事に過ぎなかった。
すぐに笑みを浮かべ、フェリーナは自分らしい表情を整えていく。
「ヴァルツは世界を美しくするための存在」
自分がやってきたことに間違いは何ひとつないという自信を含んだ声で、フェリーナは自分の正しさを主張していく。
「あなたの暴力は見られているんだって、わざわざヴァルツが警告して差し上げたのに……」
光は、真っ暗な世界を照らす希望になることもある。
でも、フェリーナが使った魔法は、人の目をくらますための光。
人々を絶望に陥れるための光魔法を振るった。
「暴力を続けるなんて、愚かですよね」
フェリーナは何が楽しいのかと問いかけたくなるような満面の笑みを浮かべながら、杖を持った手を傾けて光魔法を投げ飛ばしてくる。
「趣味悪っ」
「優しい、の間違いでは?」
「っ」
光魔法で心臓を貫くことだってできるはずなのに、フェリーナはあくまで視界を奪うための光魔法しか使ってこない。
男の魔法使いを馬鹿にして手加減されているのか、いつでも俺を殺すことができるっていう予告のつもりなのか。
「男の子なのに、随分と魔法の扱いに長けていますね」
「男だって、質のいい魔法が使えるんだよ!」
杖を高く掲げて、フェリーナの光魔法を闇魔法で覆う。
光を遮るくらいのことしかできないことに焦りを感じていると、フェリーナは杖を振り下ろして光魔法を止めた。
「なるほど、なるほど」
フェリーナと対峙して、息を呑む。
心臓が焦りを感じるほどの速度で動くのを感じても、自分の意志で心音を抑えることができない。
「質のいい魔法を使える男性魔法使いさん」
この空気感に緊張しているのは自分だけで、フェリーナには余裕がある。
場の空気をフェリーナに握られているってことが分かるだけで、手は嫌な汗をかき始める。
「私に力を貸してくださいませんか」
「は?」
「暴力に怯えている人たちを、私たちの手で救ってみませんか」
「なんの話……」
「だって、男性の魔法使いは、永遠に魔女になることができないではないですか」
速い動きを見せる心臓も、手に汗を握っているってことも悟られないように、平生を装って言葉を交わす。
「私と組めば、魔法の力で人を救うという願いを叶えることができるんですよ」
こんなに素晴らしい考えはほかに思いつかないと言いたげな楽しそうな表情を浮かべて、フェリーナは俺を正々堂々と勧誘してくる。
「暴力を振るう人間は、外面のいい方が大変に多いのです」
「…………」
「パン屋のご主人が奥様に暴力を振るうような方だなんて、思いもしなかったのでは?」
「それは……」
フェリーナの言う通り、被害者のモーガストさんは周囲から多くの信頼を集めていた。
街の人たちから好意を寄せられていただけでなく、ルアポートの街に初めてやって来た俺とノルカまでモーガストさんの優しさに手懐けられた。
奥さんが旦那の暴力に怯えていることなんて、微塵も想像しなかった。
「あの人が暴力を振るうなんて、この人がいじめの首謀者だなんて……世の中、そんな思い込みで助けられない命が多く存在するのです」
まるで芝居を観ているときの感覚だった。
「私たち魔法使いが、希望になるときが来たと思いませんか」
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