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第3章「命の価値を測る偽魔女」
第3話「真相」
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「可愛い魔法使いさんが来てくださって助かりました」
奥さんには、人とコミュニケーションをとるのが苦手って設定を伝えてある。
「奥様が無事に帰ることができるよう、護衛をお願いできますか」
フェリーナの声が怖いくらいに綺麗で、背筋が凍りそうになる。
けど、おかげで奥さんを尾行した魔法使いが一言も発しないことを不審に思っているってことが、フェリーナの声を通してよく伝わってくる。
「透明化の魔法が使えるのなら、護衛も余裕にできちゃいますよね」
ここで声を出したら、俺が黒猫を保護している人物だってことが悟られる。
ノルカの身を危険に晒すことにもなって、モーガストさんの死に関わっている黒猫も奪還されるっていう最悪の展開を迎える。
「今度、アンジェルさんの可愛らしい声を聞かせてくださいね」
わざとらしく、可愛らしいってところを強調される。
目の前にいるのは、可愛い魔法使いではないってところを見破られているのかもしれない。
「奥様、今日はゆっくり休んでくださいませ」
フェリーナを問い詰めるための手段がない。
見逃してやるから、これ以上、奥さんの件には関わるなと遠回しな忠告が心を痛めつけてくる。
「フェリーナさん、ありがとうございました」
奥さんの腕に触れ、部屋から出るように促そうとしたときのことだった。
「痛っ」
ただ、腕に触れただけ。
強い力で奥さんを誘導しようと思ったつもりは微塵もなく、大袈裟とも感じてしまう奥さんの悲鳴に俺もフェリーナも注目した。
「奥様!?」
奥さんが痛いと言った箇所は、奥さんがパンを詰めるときにテーブルにぶつけた箇所だったことを思い出す。
「アンジェルさん! これは……」
奥さんが痛みを訴える腕の状態を確認しようと思って、奥さんが着ている洋服の袖を捲らせてもらう。
「これは、ほら、あのときテーブルにぶつけた……」
奥様の腕に残っていたのは、青い痣。
テーブルにぶつけた程度でも青痣ができることはあるけど、青い痣は一か所だけでは済まない。
腕には、痛みを訴える痣が何か所も残されている。
「奥様、なんでもご相談くださいと言ったはずですよ」
奥さんの腕を魔法の力で治療しようとすると、発動しかけた治癒魔法をフェリーナが遮る。
「傷つけられた痕は、私が必ず治療しますと」
俺を押し退けて、奥さんの元へと辿り着くフェリーナ。
奥さんの腕に触れ、奥さんの腕に残る青い痕を労わる。
「こんな……酷い……」
「すみません……ごめんなさい……」
「治療しても、治療しても、切りがないなんて……」
「こんな……みっともない姿を……」
発動しかけたフェリーナの治癒魔法を拒絶したのは、俺ではない。
腕に残されている痛みを、誰よりも感じているはずの奥さんがフェリーナの魔法を拒絶する。
「自分の努力が足りないせいで、こんなことになってしまって……」
青い痕を誰にも見られないように、奥さんは急いで捲り上げた袖を下ろしていく。
「アンジェルさん、送ってもらえますか」
「奥様、魔法は奥様を救うために存在するのですよ」
「私さえ我慢すればいいんです」
フェリーナを拒絶しているのではなく、魔法で治療を受けることを拒絶しているようにも見える。奥さんは俺の背を押して、部屋の外へと出ようと促してくる。
「奥様!? 奥様っ!」
「これ以上、迷惑は……」
奥さんのことが心配で堪らないフェリーナは奥さんを追いかけてくるが、奥さんは俺の腕を引いてフェリーナを拒絶する。
「奥様、私に手当てをさせてくださ……」
「我慢には慣れていますから!」
こんなに大きな声を出せるんだと思ってしまうほどの大きな声を上げて、奥さんは自分の腕を誰にも触れさせないように必死で自分の腕を守ろうとする。
「ごめんなさい……私が不甲斐ないばかりに……こんな……こんな……」
奥さんの腕に残っている青い痕を、誰が残したのか。
奥さんの悲痛な声から、察した。
「私が、もっと、もっと、もっと頑張れば、主人の機嫌を損ねることはなかったんです……」
奥さんの体に残っている青い痣は、旦那のモーガストが残したもの。
「主人を怒らせてしまった私が悪いんです……」
奥さんが、どんどんと自分を追い詰めるための言葉を溢れさせていく。
ここでようやく、奥さんが旦那から暴力を振るわれていたことに気がついた。
「私は、街の人たちから愛される存在でなければいけない……」
「っ!」
奥さんが自分を責めることで過呼吸気味になってきたことに耐えられなくなったフェリーナは、奥さんの口を魔法の力で閉ざした。
「どうして暴力を受けた側が、自分を責めなければいけないのですか……」
睡魔に襲われた奥さんが通路に体を打ちつけないように支え、その場へと横たわらせる。
奥さんには、人とコミュニケーションをとるのが苦手って設定を伝えてある。
「奥様が無事に帰ることができるよう、護衛をお願いできますか」
フェリーナの声が怖いくらいに綺麗で、背筋が凍りそうになる。
けど、おかげで奥さんを尾行した魔法使いが一言も発しないことを不審に思っているってことが、フェリーナの声を通してよく伝わってくる。
「透明化の魔法が使えるのなら、護衛も余裕にできちゃいますよね」
ここで声を出したら、俺が黒猫を保護している人物だってことが悟られる。
ノルカの身を危険に晒すことにもなって、モーガストさんの死に関わっている黒猫も奪還されるっていう最悪の展開を迎える。
「今度、アンジェルさんの可愛らしい声を聞かせてくださいね」
わざとらしく、可愛らしいってところを強調される。
目の前にいるのは、可愛い魔法使いではないってところを見破られているのかもしれない。
「奥様、今日はゆっくり休んでくださいませ」
フェリーナを問い詰めるための手段がない。
見逃してやるから、これ以上、奥さんの件には関わるなと遠回しな忠告が心を痛めつけてくる。
「フェリーナさん、ありがとうございました」
奥さんの腕に触れ、部屋から出るように促そうとしたときのことだった。
「痛っ」
ただ、腕に触れただけ。
強い力で奥さんを誘導しようと思ったつもりは微塵もなく、大袈裟とも感じてしまう奥さんの悲鳴に俺もフェリーナも注目した。
「奥様!?」
奥さんが痛いと言った箇所は、奥さんがパンを詰めるときにテーブルにぶつけた箇所だったことを思い出す。
「アンジェルさん! これは……」
奥さんが痛みを訴える腕の状態を確認しようと思って、奥さんが着ている洋服の袖を捲らせてもらう。
「これは、ほら、あのときテーブルにぶつけた……」
奥様の腕に残っていたのは、青い痣。
テーブルにぶつけた程度でも青痣ができることはあるけど、青い痣は一か所だけでは済まない。
腕には、痛みを訴える痣が何か所も残されている。
「奥様、なんでもご相談くださいと言ったはずですよ」
奥さんの腕を魔法の力で治療しようとすると、発動しかけた治癒魔法をフェリーナが遮る。
「傷つけられた痕は、私が必ず治療しますと」
俺を押し退けて、奥さんの元へと辿り着くフェリーナ。
奥さんの腕に触れ、奥さんの腕に残る青い痕を労わる。
「こんな……酷い……」
「すみません……ごめんなさい……」
「治療しても、治療しても、切りがないなんて……」
「こんな……みっともない姿を……」
発動しかけたフェリーナの治癒魔法を拒絶したのは、俺ではない。
腕に残されている痛みを、誰よりも感じているはずの奥さんがフェリーナの魔法を拒絶する。
「自分の努力が足りないせいで、こんなことになってしまって……」
青い痕を誰にも見られないように、奥さんは急いで捲り上げた袖を下ろしていく。
「アンジェルさん、送ってもらえますか」
「奥様、魔法は奥様を救うために存在するのですよ」
「私さえ我慢すればいいんです」
フェリーナを拒絶しているのではなく、魔法で治療を受けることを拒絶しているようにも見える。奥さんは俺の背を押して、部屋の外へと出ようと促してくる。
「奥様!? 奥様っ!」
「これ以上、迷惑は……」
奥さんのことが心配で堪らないフェリーナは奥さんを追いかけてくるが、奥さんは俺の腕を引いてフェリーナを拒絶する。
「奥様、私に手当てをさせてくださ……」
「我慢には慣れていますから!」
こんなに大きな声を出せるんだと思ってしまうほどの大きな声を上げて、奥さんは自分の腕を誰にも触れさせないように必死で自分の腕を守ろうとする。
「ごめんなさい……私が不甲斐ないばかりに……こんな……こんな……」
奥さんの腕に残っている青い痕を、誰が残したのか。
奥さんの悲痛な声から、察した。
「私が、もっと、もっと、もっと頑張れば、主人の機嫌を損ねることはなかったんです……」
奥さんの体に残っている青い痣は、旦那のモーガストが残したもの。
「主人を怒らせてしまった私が悪いんです……」
奥さんが、どんどんと自分を追い詰めるための言葉を溢れさせていく。
ここでようやく、奥さんが旦那から暴力を振るわれていたことに気がついた。
「私は、街の人たちから愛される存在でなければいけない……」
「っ!」
奥さんが自分を責めることで過呼吸気味になってきたことに耐えられなくなったフェリーナは、奥さんの口を魔法の力で閉ざした。
「どうして暴力を受けた側が、自分を責めなければいけないのですか……」
睡魔に襲われた奥さんが通路に体を打ちつけないように支え、その場へと横たわらせる。
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