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第3章「命の価値を測る偽魔女」
第1話「尾行」
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「……追いかける」
「は?」
「何かあったら、どうすんだよ」
心配って気持ちを押しつけられても、相手にとって迷惑だっていうのは理解している。
でも、黒猫の群れがパン屋に来店したからには、奥さんの身辺を警護するのは魔法使いとしての使命だと思う。
「奥さんの私生活にまで踏み入るのは……」
「目的地に着くまで、護衛するんだよ」
物は言いよう。
俺はノルカの制止を無視して、自分の存在が認識されなくなる透明化の魔法を使う。
体が透け、周囲から存在を認識されなくなることで、奥さんを尾行することが可能になる。
(どっちが正しいってわけでもないけど……)
振り返っても、ノルカが追いかけてくる気配はない。
せっかくノルカが言葉を交わしてくれるようになったのに、意見を違わせただけで別行動になってしまった。
再び、ノルカとの関係性がゼロに戻ってしまったような感じさえ受ける。
(とは言っても……)
奥さんの尾行をして、心が痛まないわけがない。
「はぁ」
ノルカが俺を引き留めた理由を、ひしひしと感じる。
魔法の力を使って、周囲から俺の姿は見えないようにしていえるからこそ罪悪感が物凄いことになっているのかもしれない。
(それにしても、どこに……)
品揃えが良さそうな店を次から次へと無視して、街の外れへと突き進んでいく。
奥さんが歩を進めれば進めるほど、光魔法の力を活かした街灯の数は少なくなり、人気もなくなっていく。
(ここは……)
奥さんは目的の場所に辿り着いたようだけど、辿り着いた先は店でもなんでもない。
昔は栄華を誇っていたようなことが窺えるような立派な屋敷。
でも、今はこれから幽霊の探索でもするんですかと問いかけたくなるような廃れた建物へと変貌している。
「…………」
奥さんが無事に目的の場所に着いたというのなら、護衛目的であとをつけた俺の役目は終了。
これ以上は、本当に奥さんの私生活に踏み入ることに繋がってしまう。
(こんなとこに何が……)
破れたカーテンに、外れかけのガラス窓。名も知らぬ植物のつるで覆われている不気味さ。
天井も床も崩落しかけているような外観の建物で、何が待っているかなんて想像もできない。
建物を見ることばかりに集中し過ぎたせいで、自分の足元がどうなっているかってことに俺は気づいてもいなかった。
(うわっ)
いつの間にか、黒猫の集団が奥さんの入っていった建物にご到着していた。
柔らかな黒い毛波たちが、透明で見えなくなっている俺の足元を撫でながら通過していく。
くすぐったいと声を上げたところで、黒猫たちを驚かせてしまうだけ。
声を抑えながら、黒猫たちの行列が建物の中に入っていくのを見守る。
(この廃墟に、魔女か魔法使いが……)
猫は気まぐれっていう話が本当なら、こんな風に黒猫が集団で行動していることへの違和感。
世界には猫が何千匹もいるはずなのに、黒い色の猫だけが集まるようになっている不可解さ。
(主の元に、黒猫が集合してる……?)
集団行動をしているというよりは、たまたま同じ場所に集った黒猫たちなのかもしれない。
黒猫の主は色が黒い猫を探すっていう、ざっくりとした情報だけで探索魔法を使っている。
そうすれば、近辺をうろついている色が黒い猫たちは術者が指定した場所へと集合する。
(でも、いつまで経っても、目的の黒猫が見つからない……)
だから、黒猫たちは探索魔法に従って集合する羽目になっている。
探索魔法を使っている人物が探している黒猫は、恐らく俺たちが宿泊している宿屋で休んでいる黒猫。
俺が防御魔法を解かない限りは主の探索魔法が黒猫に届くことはなく、術者本人は永遠に目的の黒猫と再会することはできない。
(黒猫を追い払ったのは奥さん……)
パン屋に黒猫が集ったとき、奥さんは災いを招く黒猫の噂を信じて黒猫を追い返していた。
あの場で冷静に黒猫の集団を見つめていたのは、俺とノルカと奥さんの3人以外にももう1人いたことを思い出す。
(奥さんが手厚く出迎えてたフェリーナさん……)
奥さんを追いかけるように、ぞろぞろと列になって建物へ入っていく黒猫たち。
もちろん奥さんを追いかけている可能性も捨てきれないけれど、あの金色の髪の女性が建物の中にいる可能性も浮かび上がった。
(もう、後には引けないよな)
宿に戻っている暇はない。
黒猫を利用することも叶わなければ、ノルカに案を求めることもできない。
屋敷とも呼べないような閑散とした建物に、奥さんはたった1人で足を踏み入れていく。
荒んだ外観、モンスターが住み着いていそうな重苦しい空気が漂う廃墟になんの躊躇いもなく進んでいく奥さんの勇気が凄いとすら思う。
「は?」
「何かあったら、どうすんだよ」
心配って気持ちを押しつけられても、相手にとって迷惑だっていうのは理解している。
でも、黒猫の群れがパン屋に来店したからには、奥さんの身辺を警護するのは魔法使いとしての使命だと思う。
「奥さんの私生活にまで踏み入るのは……」
「目的地に着くまで、護衛するんだよ」
物は言いよう。
俺はノルカの制止を無視して、自分の存在が認識されなくなる透明化の魔法を使う。
体が透け、周囲から存在を認識されなくなることで、奥さんを尾行することが可能になる。
(どっちが正しいってわけでもないけど……)
振り返っても、ノルカが追いかけてくる気配はない。
せっかくノルカが言葉を交わしてくれるようになったのに、意見を違わせただけで別行動になってしまった。
再び、ノルカとの関係性がゼロに戻ってしまったような感じさえ受ける。
(とは言っても……)
奥さんの尾行をして、心が痛まないわけがない。
「はぁ」
ノルカが俺を引き留めた理由を、ひしひしと感じる。
魔法の力を使って、周囲から俺の姿は見えないようにしていえるからこそ罪悪感が物凄いことになっているのかもしれない。
(それにしても、どこに……)
品揃えが良さそうな店を次から次へと無視して、街の外れへと突き進んでいく。
奥さんが歩を進めれば進めるほど、光魔法の力を活かした街灯の数は少なくなり、人気もなくなっていく。
(ここは……)
奥さんは目的の場所に辿り着いたようだけど、辿り着いた先は店でもなんでもない。
昔は栄華を誇っていたようなことが窺えるような立派な屋敷。
でも、今はこれから幽霊の探索でもするんですかと問いかけたくなるような廃れた建物へと変貌している。
「…………」
奥さんが無事に目的の場所に着いたというのなら、護衛目的であとをつけた俺の役目は終了。
これ以上は、本当に奥さんの私生活に踏み入ることに繋がってしまう。
(こんなとこに何が……)
破れたカーテンに、外れかけのガラス窓。名も知らぬ植物のつるで覆われている不気味さ。
天井も床も崩落しかけているような外観の建物で、何が待っているかなんて想像もできない。
建物を見ることばかりに集中し過ぎたせいで、自分の足元がどうなっているかってことに俺は気づいてもいなかった。
(うわっ)
いつの間にか、黒猫の集団が奥さんの入っていった建物にご到着していた。
柔らかな黒い毛波たちが、透明で見えなくなっている俺の足元を撫でながら通過していく。
くすぐったいと声を上げたところで、黒猫たちを驚かせてしまうだけ。
声を抑えながら、黒猫たちの行列が建物の中に入っていくのを見守る。
(この廃墟に、魔女か魔法使いが……)
猫は気まぐれっていう話が本当なら、こんな風に黒猫が集団で行動していることへの違和感。
世界には猫が何千匹もいるはずなのに、黒い色の猫だけが集まるようになっている不可解さ。
(主の元に、黒猫が集合してる……?)
集団行動をしているというよりは、たまたま同じ場所に集った黒猫たちなのかもしれない。
黒猫の主は色が黒い猫を探すっていう、ざっくりとした情報だけで探索魔法を使っている。
そうすれば、近辺をうろついている色が黒い猫たちは術者が指定した場所へと集合する。
(でも、いつまで経っても、目的の黒猫が見つからない……)
だから、黒猫たちは探索魔法に従って集合する羽目になっている。
探索魔法を使っている人物が探している黒猫は、恐らく俺たちが宿泊している宿屋で休んでいる黒猫。
俺が防御魔法を解かない限りは主の探索魔法が黒猫に届くことはなく、術者本人は永遠に目的の黒猫と再会することはできない。
(黒猫を追い払ったのは奥さん……)
パン屋に黒猫が集ったとき、奥さんは災いを招く黒猫の噂を信じて黒猫を追い返していた。
あの場で冷静に黒猫の集団を見つめていたのは、俺とノルカと奥さんの3人以外にももう1人いたことを思い出す。
(奥さんが手厚く出迎えてたフェリーナさん……)
奥さんを追いかけるように、ぞろぞろと列になって建物へ入っていく黒猫たち。
もちろん奥さんを追いかけている可能性も捨てきれないけれど、あの金色の髪の女性が建物の中にいる可能性も浮かび上がった。
(もう、後には引けないよな)
宿に戻っている暇はない。
黒猫を利用することも叶わなければ、ノルカに案を求めることもできない。
屋敷とも呼べないような閑散とした建物に、奥さんはたった1人で足を踏み入れていく。
荒んだ外観、モンスターが住み着いていそうな重苦しい空気が漂う廃墟になんの躊躇いもなく進んでいく奥さんの勇気が凄いとすら思う。
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