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第2の事件『命の価値を測る偽魔女』 第1章「黒猫が来訪する街ルアポート」
第1話「空飛ぶ箒で次の街へ」
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陽が昇れば、朝がやって来る。
陽が沈めば、夜がやって来る。
そんな、当たり前の日常を崩す存在が世間を騒がせている。
「来るな! 来るなっ! 来るなっっっ!!!」
闇夜に染まる黒い存在は、金色に光る眼で男を見つめる。
「にゃー」
漆黒をまとった生き物は遺体となった男を見下ろしながら、まるでその遺体を嘲笑うように口角を上げる。
その姿すら気のせいなのか、それが黒い生き物の本性なのか。
「にゃっ」
家の中を覗き込むのに飽きたのか、覗き込んだ家には用がないのか。
黒き存在は、再び闇夜の色に染まって姿を消す。
「黒猫が姿を見せた家に、災いがもたらされる……」
第1の事件のときのように、たまたま偽魔女と出会ったなんて経験はそう簡単に巡ってこない。
だからこそ国は、この地域にこんな噂があるというリストを追試験者に配った。
「って、情報が曖昧すぎて、苛立ちすら感じるんだけど」
「曖昧な情報だからこそ、魔女試験の不合格者に調査させたいってことでしょ」
「魔女様は曖昧な情報に構っている暇はないと……」
でも、噂は噂でしかない。
リストを活用するっていうのは、偽魔女が関わっているかどうかすら分からない事件にも首を突っ込まなければいけないということでもある。
「発見される遺体に外傷はないみたい」
「国が動かないほど、遺体が綺麗って……こんなんで、どうやって捕まえんだよ!」
逮捕してみたら、偽魔女ではありませんでしたーなんて時間の無駄でしかない。
それでも、数多く当たっていくしかない現状。
「魔法の力で命を奪ったら、普通は外傷だらけになるわね」
「だって、攻撃魔法を打ちこむっていう荒業しか浮かばない」
他殺の疑いが浮かばないほど遺体が綺麗と言うのなら、国は本当に突然死だと考えているのかもしれない。
すべてが突然死で片づけられてしまうから、国も魔女も動かないということ。
「呪いの力を持つ黒猫なんて、会ったことないんですけどー……」
「モンスター以外の動物は、魔力を持っていないものね」
「国も分かってるくせに……」
リストに記載されている黒猫の情報を頼りに、魔女試験の追試験者である俺とノルカはアステントの街からルアポートの街へと空飛ぶ箒で移動中。
「魔法使いは、魔女の下っ端じゃないんだって!」
箒は掃除をするための道具っていうのが、一般的な認識。
でも、金なし魔法使いにとっての箒は、便利な移動手段へと早変わり。
国から渡された支援金が心もとないため、少しでも節約を心がける。
「喋り続けてもいいけど、そろそろ街に着くわよ」
口調だけは毅然としていて器用に空を飛んでいる魔法使いに見えても、ノルカの箒をよく観察すると箒が面白い動きをしているのが分かる。
まるで身震いしているように上下左右に不安定に動く箒を見て、ノルカが事故を起こさないように見張る必要があると思った。口には出さない。決して。
「今度、男ってばれても、感情魔法は使ってあげないから」
感情を操るっていう凄い魔法が使えるのに、ほかはまったくダメなノルカ・ノーラはさらりと恐ろしいことを告げてくる。
「1回や2回の魔法で記憶が飛ぶわけじゃないんだから、何かあったとき助けてくれても……」
「7年間」
何をそんなに怯えているんだと声をかけたくなる箒にかけた魔法を解き、華麗に地上へと舞い降りるノルカ。
どこからどう見ても自分は完璧だと言わんばかりの態度をとる割に、手に持っている箒は心で泣き叫んでいるかもしれない。もっと優しく扱ってくれと。
「7年間も女装を続けることができたんだから、私の魔法なんて必要ないでしょ?」
ノルカは綺麗な顔立ちをしていると思う。
綺麗だからこそ、こういう言葉の端々に辛辣さを感じさせるのは非常にもったいないとは思う。
ノルカを苛立たせているのは、ほかの誰でもなく俺ではあるけれど……。
「7年も女装姿を貫いたんだから、きっと8年目も大丈夫よ」
「…………」
「ね、女装魔法使いさん」
「…………」
ノルカに続いて地上に降り立った瞬間、口を慎む。
誰がどう見ても褒め称えてくれること間違いなしの可愛いさを誇る魔法使いの正体が、男だったなんてばれたときにはアステントの二の舞になることは分かり切っている。
この国は魔法に頼り切っているはずなのに、今日も男の魔法使いが魔法を使うことを快く思ってくれない。
「追試を続けるためにも、資金を稼がなきゃ」
箒での空中飛行で刻まれたスカートの皺を伸ばしながら、降り立ったルアポートという名の街の様子を観察する。
「黒猫が災いを招き寄せるっていうから心配してたけど……」
これといった特徴もない平凡な街で、人々はいつもの日常を送っているように見えた。
「噂に振り回されてなくて良かった」
街で暮らす人々が、黒猫に怯えて外出もできないって事態には陥っていない。
たかが噂程度では、国も魔女も動かないってことらしい。
(って)
ルアポートで求人を見つけ、旅の資金を稼がなければいけない。
生活費を稼ぐまでが魔女試験追試に含まれるって言われてはいるものの、ノルカは目の前のパン屋の求人を無視してルアポートの街を突き進んでいく。
陽が沈めば、夜がやって来る。
そんな、当たり前の日常を崩す存在が世間を騒がせている。
「来るな! 来るなっ! 来るなっっっ!!!」
闇夜に染まる黒い存在は、金色に光る眼で男を見つめる。
「にゃー」
漆黒をまとった生き物は遺体となった男を見下ろしながら、まるでその遺体を嘲笑うように口角を上げる。
その姿すら気のせいなのか、それが黒い生き物の本性なのか。
「にゃっ」
家の中を覗き込むのに飽きたのか、覗き込んだ家には用がないのか。
黒き存在は、再び闇夜の色に染まって姿を消す。
「黒猫が姿を見せた家に、災いがもたらされる……」
第1の事件のときのように、たまたま偽魔女と出会ったなんて経験はそう簡単に巡ってこない。
だからこそ国は、この地域にこんな噂があるというリストを追試験者に配った。
「って、情報が曖昧すぎて、苛立ちすら感じるんだけど」
「曖昧な情報だからこそ、魔女試験の不合格者に調査させたいってことでしょ」
「魔女様は曖昧な情報に構っている暇はないと……」
でも、噂は噂でしかない。
リストを活用するっていうのは、偽魔女が関わっているかどうかすら分からない事件にも首を突っ込まなければいけないということでもある。
「発見される遺体に外傷はないみたい」
「国が動かないほど、遺体が綺麗って……こんなんで、どうやって捕まえんだよ!」
逮捕してみたら、偽魔女ではありませんでしたーなんて時間の無駄でしかない。
それでも、数多く当たっていくしかない現状。
「魔法の力で命を奪ったら、普通は外傷だらけになるわね」
「だって、攻撃魔法を打ちこむっていう荒業しか浮かばない」
他殺の疑いが浮かばないほど遺体が綺麗と言うのなら、国は本当に突然死だと考えているのかもしれない。
すべてが突然死で片づけられてしまうから、国も魔女も動かないということ。
「呪いの力を持つ黒猫なんて、会ったことないんですけどー……」
「モンスター以外の動物は、魔力を持っていないものね」
「国も分かってるくせに……」
リストに記載されている黒猫の情報を頼りに、魔女試験の追試験者である俺とノルカはアステントの街からルアポートの街へと空飛ぶ箒で移動中。
「魔法使いは、魔女の下っ端じゃないんだって!」
箒は掃除をするための道具っていうのが、一般的な認識。
でも、金なし魔法使いにとっての箒は、便利な移動手段へと早変わり。
国から渡された支援金が心もとないため、少しでも節約を心がける。
「喋り続けてもいいけど、そろそろ街に着くわよ」
口調だけは毅然としていて器用に空を飛んでいる魔法使いに見えても、ノルカの箒をよく観察すると箒が面白い動きをしているのが分かる。
まるで身震いしているように上下左右に不安定に動く箒を見て、ノルカが事故を起こさないように見張る必要があると思った。口には出さない。決して。
「今度、男ってばれても、感情魔法は使ってあげないから」
感情を操るっていう凄い魔法が使えるのに、ほかはまったくダメなノルカ・ノーラはさらりと恐ろしいことを告げてくる。
「1回や2回の魔法で記憶が飛ぶわけじゃないんだから、何かあったとき助けてくれても……」
「7年間」
何をそんなに怯えているんだと声をかけたくなる箒にかけた魔法を解き、華麗に地上へと舞い降りるノルカ。
どこからどう見ても自分は完璧だと言わんばかりの態度をとる割に、手に持っている箒は心で泣き叫んでいるかもしれない。もっと優しく扱ってくれと。
「7年間も女装を続けることができたんだから、私の魔法なんて必要ないでしょ?」
ノルカは綺麗な顔立ちをしていると思う。
綺麗だからこそ、こういう言葉の端々に辛辣さを感じさせるのは非常にもったいないとは思う。
ノルカを苛立たせているのは、ほかの誰でもなく俺ではあるけれど……。
「7年も女装姿を貫いたんだから、きっと8年目も大丈夫よ」
「…………」
「ね、女装魔法使いさん」
「…………」
ノルカに続いて地上に降り立った瞬間、口を慎む。
誰がどう見ても褒め称えてくれること間違いなしの可愛いさを誇る魔法使いの正体が、男だったなんてばれたときにはアステントの二の舞になることは分かり切っている。
この国は魔法に頼り切っているはずなのに、今日も男の魔法使いが魔法を使うことを快く思ってくれない。
「追試を続けるためにも、資金を稼がなきゃ」
箒での空中飛行で刻まれたスカートの皺を伸ばしながら、降り立ったルアポートという名の街の様子を観察する。
「黒猫が災いを招き寄せるっていうから心配してたけど……」
これといった特徴もない平凡な街で、人々はいつもの日常を送っているように見えた。
「噂に振り回されてなくて良かった」
街で暮らす人々が、黒猫に怯えて外出もできないって事態には陥っていない。
たかが噂程度では、国も魔女も動かないってことらしい。
(って)
ルアポートで求人を見つけ、旅の資金を稼がなければいけない。
生活費を稼ぐまでが魔女試験追試に含まれるって言われてはいるものの、ノルカは目の前のパン屋の求人を無視してルアポートの街を突き進んでいく。
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