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第1の事件『承認欲求の偽魔女』 第3章「偽魔女の跡を辿る」
第3話「思い込み」
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「…………」
「どれを食べても美味しいなんて、さすが食が盛んな街ね」
朝ご飯を食べるためにエミリの店を訪れるには、早起きをしなければいけなかった。
魔法学園を出て、朝から晩まで動き回っていた俺たちに早起きというものができるはずもない。
自然と目が覚めた頃には、エミリの店は大行列。
適当に入った店で朝食を済ませるしかなかったものの、俺の口にはまったく合わない料理が提供されてきたときの残念さと言ったら……。
「はぁ」
「私は、ここの店の料理が美味しいの。溜め息はやめて」
「はいはい」
ただでさえ少ない国からの支給額。
贅沢をしている余裕はなくても、俺とノルカが待ち合わせの場所に指定されたアステントは食を大々的に売りとしている街。
なるべくなら少額で美味しい物を食べたいって思うことすら贅沢ということなのか。
「っていうか、なんで食が売りの街で、こんなに普通の味ばっか口にしなきゃなんだよ」
俺は、マナーの悪い客ではない。
一応こう見えて、ひそひそ声でノルカと会話をしている。
「あなたの舌が可笑しいんじゃないの」
「同じ食べ物しか口にしてないのに、なんで俺の舌だけ可笑しくなる……」
アステントに来てからは、俺とノルカは同じ店の同じ食べ物しか口にしていない。
俺だけ異常が起きているのは可笑しいと反論しようとしたが、俺はエミリの店の料理に惚れこんでいるのが男ばかりだということを思い出す。
ノルカに自分の気づきを伝えると、ノルカは話を聞こうと姿勢を正してくれた。
「要するに、犠牲者は男ばかりだと思い込んだってこと?」
エミリを好きになる魔法や、エミリの料理を好きになる精神干渉魔法を疑ったからこそ、昨日は解除魔法を使ってみた。
でも、子どもに対して、精神干渉魔法を解除するための魔法は発動しなかった。
「どうして男の人だけに作用する魔法を使わなきゃいけないの?」
「…………」
「ここは食が売りの街。女性にも魔法をかけないと、店が流行らないでしょ」
「……ごもっとも」
よくよく考えると、エミリの店には女性客もいた。
ノルカと子どもの母親の口には料理が合わなくても、エミリの店はちゃんと女性客も確保することができている。
「男女で差が出るんじゃなくて、食事の量で差が出るんじゃないかしら」
自分1人では見つけることができなかった新たな視点を、ノルカは提案してくれた。
「人に対して魔法を使ったら、客が魔女や魔法使いだったときに犯行がばれるでしょ」
「確かに……」
「犯人は人に魔法をかけているんじゃなくて、料理に魔法をかけていたってことになる」
男性ばかりが、エミリの料理を支持しているんじゃないかって思い込みが悪かった。
魔法がかけられた料理をたくさん食べた人の方が、エミリの料理を美味しく感じるようになるなら事態は大きく変わる。
「だから、解除魔法が発動しなかったってことかー……」
解除魔法が発動しなかったのは、人に対して精神干渉魔法が使われていると思い込んでいたから。
もしも料理に魔法がかけられているのなら、料理に解除魔法を使わなければ意味がない。
「子どもは体が小さいから、少し食べただけで魔法の影響を大きく受けたのね」
「はい……多分、そうだと思います……」
魔女試験に合格するため、筆記試験の結果はそう悪いものではなかった。
でも、自分が使うことができない魔法に関しての知識は大変薄っぺらいのだと、ノルカと話をしていて気づかされる。
ノルカから得られる気づきが多すぎて、感動すらしてしまう。
「たった一口で味覚に影響を与えられたら、あのお母さんも偽ることができたのにね」
ノルカの話を聞きながら、自分の頭で事態を把握していく。
「あれ、俺は!? 一口食べただけで、美味しいってなった……」
「一口は一口でも、大きすぎるわよ」
最初の一口が、命運を分けたということらしい。
ノルカは自分でオムレツを切り分けていたけれど、俺は子どもが切り分けた特大サイズを口に入れた。
「口が大きかったことが災いしたわね」
「可愛い女の子に向かって、口が大きいとか言わないでください」
どんなに見た目を可愛く着飾っても、声が男なのは誤魔化しようがない。
「あんなに大口開けてオムレツを頬張ったおかげで、1回の来店でエミリの虜になれたじゃない。良かったわね」
大口開けてとか、頬張るとか、可愛い可愛い女装魔法使いに向ける言葉ではないなーと。
ノルカの口から出てくる言葉の辛辣さに泣けてくる。
「どれを食べても美味しいなんて、さすが食が盛んな街ね」
朝ご飯を食べるためにエミリの店を訪れるには、早起きをしなければいけなかった。
魔法学園を出て、朝から晩まで動き回っていた俺たちに早起きというものができるはずもない。
自然と目が覚めた頃には、エミリの店は大行列。
適当に入った店で朝食を済ませるしかなかったものの、俺の口にはまったく合わない料理が提供されてきたときの残念さと言ったら……。
「はぁ」
「私は、ここの店の料理が美味しいの。溜め息はやめて」
「はいはい」
ただでさえ少ない国からの支給額。
贅沢をしている余裕はなくても、俺とノルカが待ち合わせの場所に指定されたアステントは食を大々的に売りとしている街。
なるべくなら少額で美味しい物を食べたいって思うことすら贅沢ということなのか。
「っていうか、なんで食が売りの街で、こんなに普通の味ばっか口にしなきゃなんだよ」
俺は、マナーの悪い客ではない。
一応こう見えて、ひそひそ声でノルカと会話をしている。
「あなたの舌が可笑しいんじゃないの」
「同じ食べ物しか口にしてないのに、なんで俺の舌だけ可笑しくなる……」
アステントに来てからは、俺とノルカは同じ店の同じ食べ物しか口にしていない。
俺だけ異常が起きているのは可笑しいと反論しようとしたが、俺はエミリの店の料理に惚れこんでいるのが男ばかりだということを思い出す。
ノルカに自分の気づきを伝えると、ノルカは話を聞こうと姿勢を正してくれた。
「要するに、犠牲者は男ばかりだと思い込んだってこと?」
エミリを好きになる魔法や、エミリの料理を好きになる精神干渉魔法を疑ったからこそ、昨日は解除魔法を使ってみた。
でも、子どもに対して、精神干渉魔法を解除するための魔法は発動しなかった。
「どうして男の人だけに作用する魔法を使わなきゃいけないの?」
「…………」
「ここは食が売りの街。女性にも魔法をかけないと、店が流行らないでしょ」
「……ごもっとも」
よくよく考えると、エミリの店には女性客もいた。
ノルカと子どもの母親の口には料理が合わなくても、エミリの店はちゃんと女性客も確保することができている。
「男女で差が出るんじゃなくて、食事の量で差が出るんじゃないかしら」
自分1人では見つけることができなかった新たな視点を、ノルカは提案してくれた。
「人に対して魔法を使ったら、客が魔女や魔法使いだったときに犯行がばれるでしょ」
「確かに……」
「犯人は人に魔法をかけているんじゃなくて、料理に魔法をかけていたってことになる」
男性ばかりが、エミリの料理を支持しているんじゃないかって思い込みが悪かった。
魔法がかけられた料理をたくさん食べた人の方が、エミリの料理を美味しく感じるようになるなら事態は大きく変わる。
「だから、解除魔法が発動しなかったってことかー……」
解除魔法が発動しなかったのは、人に対して精神干渉魔法が使われていると思い込んでいたから。
もしも料理に魔法がかけられているのなら、料理に解除魔法を使わなければ意味がない。
「子どもは体が小さいから、少し食べただけで魔法の影響を大きく受けたのね」
「はい……多分、そうだと思います……」
魔女試験に合格するため、筆記試験の結果はそう悪いものではなかった。
でも、自分が使うことができない魔法に関しての知識は大変薄っぺらいのだと、ノルカと話をしていて気づかされる。
ノルカから得られる気づきが多すぎて、感動すらしてしまう。
「たった一口で味覚に影響を与えられたら、あのお母さんも偽ることができたのにね」
ノルカの話を聞きながら、自分の頭で事態を把握していく。
「あれ、俺は!? 一口食べただけで、美味しいってなった……」
「一口は一口でも、大きすぎるわよ」
最初の一口が、命運を分けたということらしい。
ノルカは自分でオムレツを切り分けていたけれど、俺は子どもが切り分けた特大サイズを口に入れた。
「口が大きかったことが災いしたわね」
「可愛い女の子に向かって、口が大きいとか言わないでください」
どんなに見た目を可愛く着飾っても、声が男なのは誤魔化しようがない。
「あんなに大口開けてオムレツを頬張ったおかげで、1回の来店でエミリの虜になれたじゃない。良かったわね」
大口開けてとか、頬張るとか、可愛い可愛い女装魔法使いに向ける言葉ではないなーと。
ノルカの口から出てくる言葉の辛辣さに泣けてくる。
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