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第1の事件『承認欲求の偽魔女』 第2章「食の街アステント」
第7話「どちらの料理が美味しいか」
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「魔法使いさんにお礼をしたいと思っていたのですが、お腹いっぱいですよね……」
「いえ、彼女はたくさん食べますので、お気になさらず」
ノルカの作り話に乗っかるわけじゃなかったが、ノルカの思惑通りに俺はもう一皿追加で注文をした。
(この料理なら、いくらでも食えそう)
エミリの店で注文した食事が口に合わなかったノルカと母親は、一口で食事終了。
1人で食べきる予定だったが、子どもも出来立てのオムレツを食べたいらしくて皿に熱い視線を注いでくる。
「こら、いっぱい食べたでしょ?」
「んー……」
不満そうな子どもを見ていられなくなった俺は、追加で頼んだ料理も子どもに分けることにした。
母親は申し訳なさそうな表情を浮かべるが、子どもはエミリの料理をもっと食べられることに満面の笑み。
「ありがと、まじょさん」
俺と一緒に食事をしてくれる仲間を得た俺は、子どもとオムレツを平らげることになった。
だが、まだ幼い子どもは次から次へとオムレツを口に含んでいく。
(あんなに量食べて、大丈夫なのかな……)
母親が傍にいるのなら、俺が心配することはないかもしれない。
でも、16歳の俺と同様に食べ進めようとする子どもの様子は気にかかる。
「少し待っていてください」
エミリの店での食事を済ませ、次に母親が案内してくれたのは民家ではなく飲食店。
「ママのごはん、いらなーい」
「……はいはい」
母親が飲食店経営者であることが一目で分かったものの、書き入れ時に店を開かずにエミリの店で食事をしたことが引っかかる。
子どもが事故に遭ったから店を休みにしたとも考えられるけど、抱えきれないほどの荷物を持って買い物していたところを見ると店は開く予定だったとも考えられる。
「んー……、ママのとこ、いってくるね」
母の料理を拒絶する子どもは、一足早い反抗期のようにも思えた。
けど、子どもにはちゃんと母を好きという気持ちがある。
調理に集中している母親を邪魔することなく、子どもは椅子に腰かけて母親の調理している様子を伺っていた。
「私はあの料理を美味しいと思わなかったんだけど、味覚音痴なんじゃない?」
母親と子どもが俺たちの元を離れたタイミングを見計らって、ノルカが声をかけてくる。
俺が女装魔法使いだってことをばらすつもりはないのだろうとノルカの優しさに感謝したいが、俺に向けてくるところは相変わらず刺々しい。
「店、やってる?」
「はーい」
母親が俺たちの食事を用意している最中に、ようやくこの店に客が訪れた。
「エミリの店、混みすぎだよなー」
「あー、エミリの料理食べたかったなー」
客同士の会話を聞いて、心で納得する。
あれほど美味い料理を口にしてしまえば、ほかの店での料理は口にできなくなると言っても過言ではない。
「お待たせしました」
スープの中にパンが浸してあり、その上にチーズを乗せて焼いたという手の込んだ料理を作ってもらった。
俺たちのために時間をかけてくれたことが分かるだけに、たとえ声を出せなくても食事を口にする前から食事の感想に悩んでしまう。
(エミリの店の料理の味、そう簡単に超えられるわけがないよなー……)
幸いにも、客が入ってきたおかげで母親は調理に集中している。
美味しそうな表情を作り込まなくていい状況だと分かると、母親の目が俺たちに向いていない隙を狙って食事を進めようと思った。
「美味しいっ」
恐る恐る料理に手を出そうとしている俺に反して、ノルカは躊躇うことなくスープを自分の口へと運んでいた。
声だけでなく、表情も豊かに美味しさを表現するノルカを見ていると、自然と食欲が湧いてしまうほど彼女の感想は完璧だった。
「少し大袈裟なんじゃ……」
ノルカが言葉を返してくれるかは置いておいて、ひっそりとした声でノルカに話しかける。
「さっきの店の料理とは、比べ物にならないくらい美味しいの」
確かに、提供されている料理が違えば、評価する味も変わるかもしれない。
期待を込めながら、運ばれてきたスープを口に運ぶ。
「こんなに美味しいのに、どうして人が来ないのかしら」
その問いに答えを返すなら、断然にエミリの店で食べた料理の方が美味しいから。
食べる物は違っても、味を比べたら勝者は歴然。
もちろん勝ち負けだけでは語ることのできない世界だけど、俺の味覚はエミリの店の料理が美味しいと訴えかけてくる。
「いえ、彼女はたくさん食べますので、お気になさらず」
ノルカの作り話に乗っかるわけじゃなかったが、ノルカの思惑通りに俺はもう一皿追加で注文をした。
(この料理なら、いくらでも食えそう)
エミリの店で注文した食事が口に合わなかったノルカと母親は、一口で食事終了。
1人で食べきる予定だったが、子どもも出来立てのオムレツを食べたいらしくて皿に熱い視線を注いでくる。
「こら、いっぱい食べたでしょ?」
「んー……」
不満そうな子どもを見ていられなくなった俺は、追加で頼んだ料理も子どもに分けることにした。
母親は申し訳なさそうな表情を浮かべるが、子どもはエミリの料理をもっと食べられることに満面の笑み。
「ありがと、まじょさん」
俺と一緒に食事をしてくれる仲間を得た俺は、子どもとオムレツを平らげることになった。
だが、まだ幼い子どもは次から次へとオムレツを口に含んでいく。
(あんなに量食べて、大丈夫なのかな……)
母親が傍にいるのなら、俺が心配することはないかもしれない。
でも、16歳の俺と同様に食べ進めようとする子どもの様子は気にかかる。
「少し待っていてください」
エミリの店での食事を済ませ、次に母親が案内してくれたのは民家ではなく飲食店。
「ママのごはん、いらなーい」
「……はいはい」
母親が飲食店経営者であることが一目で分かったものの、書き入れ時に店を開かずにエミリの店で食事をしたことが引っかかる。
子どもが事故に遭ったから店を休みにしたとも考えられるけど、抱えきれないほどの荷物を持って買い物していたところを見ると店は開く予定だったとも考えられる。
「んー……、ママのとこ、いってくるね」
母の料理を拒絶する子どもは、一足早い反抗期のようにも思えた。
けど、子どもにはちゃんと母を好きという気持ちがある。
調理に集中している母親を邪魔することなく、子どもは椅子に腰かけて母親の調理している様子を伺っていた。
「私はあの料理を美味しいと思わなかったんだけど、味覚音痴なんじゃない?」
母親と子どもが俺たちの元を離れたタイミングを見計らって、ノルカが声をかけてくる。
俺が女装魔法使いだってことをばらすつもりはないのだろうとノルカの優しさに感謝したいが、俺に向けてくるところは相変わらず刺々しい。
「店、やってる?」
「はーい」
母親が俺たちの食事を用意している最中に、ようやくこの店に客が訪れた。
「エミリの店、混みすぎだよなー」
「あー、エミリの料理食べたかったなー」
客同士の会話を聞いて、心で納得する。
あれほど美味い料理を口にしてしまえば、ほかの店での料理は口にできなくなると言っても過言ではない。
「お待たせしました」
スープの中にパンが浸してあり、その上にチーズを乗せて焼いたという手の込んだ料理を作ってもらった。
俺たちのために時間をかけてくれたことが分かるだけに、たとえ声を出せなくても食事を口にする前から食事の感想に悩んでしまう。
(エミリの店の料理の味、そう簡単に超えられるわけがないよなー……)
幸いにも、客が入ってきたおかげで母親は調理に集中している。
美味しそうな表情を作り込まなくていい状況だと分かると、母親の目が俺たちに向いていない隙を狙って食事を進めようと思った。
「美味しいっ」
恐る恐る料理に手を出そうとしている俺に反して、ノルカは躊躇うことなくスープを自分の口へと運んでいた。
声だけでなく、表情も豊かに美味しさを表現するノルカを見ていると、自然と食欲が湧いてしまうほど彼女の感想は完璧だった。
「少し大袈裟なんじゃ……」
ノルカが言葉を返してくれるかは置いておいて、ひっそりとした声でノルカに話しかける。
「さっきの店の料理とは、比べ物にならないくらい美味しいの」
確かに、提供されている料理が違えば、評価する味も変わるかもしれない。
期待を込めながら、運ばれてきたスープを口に運ぶ。
「こんなに美味しいのに、どうして人が来ないのかしら」
その問いに答えを返すなら、断然にエミリの店で食べた料理の方が美味しいから。
食べる物は違っても、味を比べたら勝者は歴然。
もちろん勝ち負けだけでは語ることのできない世界だけど、俺の味覚はエミリの店の料理が美味しいと訴えかけてくる。
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