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第1の事件『承認欲求の偽魔女』 第2章「食の街アステント」
第3話「魔女>>>魔法使い>>>>>男性魔法使い」
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「男?」
「男って、誰が?」
「俺は聞いたんだよ! 子どもを助けたあいつ! あいつの声が男だったんだって!」
警察に連行されていく御者に向いていた視線を、俺は一気に浴びることになってしまった。
「昔、姫様が亡くなったときに治療をしたのも男の魔法使いだったわよね」
「ねえ、僕。まだ、どこか悪いんじゃないの?」
あれだけ大きな事故が起きたあと。
母親も被害に遭った子どもも、俺が発した声なんて覚えてもいないはず。
街の人たちだって、俺の声を記憶している人がどれだけいるのかって尋ねたくなるほど数は少ない。
「喋ろうとしないところが、いかにも怪しいだろ!」
ここにいる大半が、俺を男だとは思っていないだろう。
けど、たった1人が騒ぎ出すだけで、周囲はざわつき始めてしまう。
(自分が性別を偽ってまで魔法を使用したことは事実……)
返す言葉も出ない俺は、ただただ自体が収まるのを待つことしかできない。
「…………」
一連の流れを見ていたノルカと目が合うが、すぐに目を逸らされた。
その場に立ち尽くすノルカも野次馬の言うことが信じられないような顔をしているけど、目を逸らしたってことは俺が男だって確信しているってこと。
(人を助けたことに後悔はない……)
ひそひそとした囁きが広がっていく。
ひとつひとつの囁きを拾うことはできないくらい、多くの言葉が俺に向けられていることが分かる。
(けど、みんなを騙したって事実は覆らない……)
男が魔法を使うことは禁じられていなくても、男が魔法を使うことを世間は認めてくれない。
魔法学園の外に出て、世間が男性魔法使いに向ける目の厳しさというものを改めて知る。
「っ」
この場から逃げ出すタイミングを見失っていた俺に、救いの手が差し伸べられる。
「まあ、助かったんだから、どうでもいいじゃない」
「ん? そうだよな……子どもは助かったんだよな……」
街の人たちは湧き上がる感情を抑えつけられたかのように、途端に冷静さを取り戻していく。
「あれ? 俺、なんであんなに騒いだんだろ?」
この場にいる誰もが俺に奇異な眼差しを向けていたはずなのに、不思議で面白いくらい街の人たちは俺への興味を失っていく。
「魔女様、本当になんとお礼を言ったらいいか……」
「まじょさん! まじょさん!」
俺が助けた子どもは、事故に遭ったことが嘘みたいに元気を取り戻していた。
魔女が物珍しいという好奇心を働かせて、俺の元へとじゃれついてきた。
(ちゃんと体温がある……)
子どもを抱きかかえたときに、触れた肌から子どもの温かさを感じた。
「きゃー」
「ほら、魔女様に迷惑かけないの」
「まじょさんっ」
抱きかかえられて視線の高さが変わったことが楽しいのか、魔女に会えたことが嬉しいのか。
どちらにしても、あ、生きているんだって実感が生まれてくる。
助かったんだ、助けることができたんだって喜びが、心の中を満たし始める。
「ありがとうございます」
「いえ……」
母親が抱えていた荷物は、事故に遭ったときに街中へと散らばってしまった。
ノルカは魔法を使うことなく、自分の手で母親が買った物を拾い上げていく。
「魔女様に、お礼がしたいのですが」
荷物をすべて拾い終わった母親が、声をかけてきた。
(声、出さない方がいいよな……)
ここで母親から対価を受け取ってしまったら、魔女資格のない俺はばーちゃんの言う通り牢獄行きになってしまう。
声を出さないように、なんとか身振り手振りで魔女資格のバッチを持っていないというアピールを試みる。
「あの」
口を閉ざしたままの俺を見かねたのか、ここでノルカが助けに入ってくれた。
「私たちは魔女の資格を持っていないので、対価を受け取ることはできません」
ノルカが対価を受け取ることのできない理由を説明してくれたおかげで、母親は魔女試験に落ちた者の事情を理解してくれた。
「飲食店を経営しているので、せめてうちでご飯を食べていってください」
母親の店で、ちゃんと金を払えば何も問題はない。
ノルカも母親の誘いを受けるものだと思っていたら、抱えていた子どもが何か行動を起こそうと暴れ始める。
「ママのごはん、いやっ!」
俺に懐いていたはずの子どもが暴れ始め、子どもなりに抱えている何かを訴えるために抵抗を示す。
「男って、誰が?」
「俺は聞いたんだよ! 子どもを助けたあいつ! あいつの声が男だったんだって!」
警察に連行されていく御者に向いていた視線を、俺は一気に浴びることになってしまった。
「昔、姫様が亡くなったときに治療をしたのも男の魔法使いだったわよね」
「ねえ、僕。まだ、どこか悪いんじゃないの?」
あれだけ大きな事故が起きたあと。
母親も被害に遭った子どもも、俺が発した声なんて覚えてもいないはず。
街の人たちだって、俺の声を記憶している人がどれだけいるのかって尋ねたくなるほど数は少ない。
「喋ろうとしないところが、いかにも怪しいだろ!」
ここにいる大半が、俺を男だとは思っていないだろう。
けど、たった1人が騒ぎ出すだけで、周囲はざわつき始めてしまう。
(自分が性別を偽ってまで魔法を使用したことは事実……)
返す言葉も出ない俺は、ただただ自体が収まるのを待つことしかできない。
「…………」
一連の流れを見ていたノルカと目が合うが、すぐに目を逸らされた。
その場に立ち尽くすノルカも野次馬の言うことが信じられないような顔をしているけど、目を逸らしたってことは俺が男だって確信しているってこと。
(人を助けたことに後悔はない……)
ひそひそとした囁きが広がっていく。
ひとつひとつの囁きを拾うことはできないくらい、多くの言葉が俺に向けられていることが分かる。
(けど、みんなを騙したって事実は覆らない……)
男が魔法を使うことは禁じられていなくても、男が魔法を使うことを世間は認めてくれない。
魔法学園の外に出て、世間が男性魔法使いに向ける目の厳しさというものを改めて知る。
「っ」
この場から逃げ出すタイミングを見失っていた俺に、救いの手が差し伸べられる。
「まあ、助かったんだから、どうでもいいじゃない」
「ん? そうだよな……子どもは助かったんだよな……」
街の人たちは湧き上がる感情を抑えつけられたかのように、途端に冷静さを取り戻していく。
「あれ? 俺、なんであんなに騒いだんだろ?」
この場にいる誰もが俺に奇異な眼差しを向けていたはずなのに、不思議で面白いくらい街の人たちは俺への興味を失っていく。
「魔女様、本当になんとお礼を言ったらいいか……」
「まじょさん! まじょさん!」
俺が助けた子どもは、事故に遭ったことが嘘みたいに元気を取り戻していた。
魔女が物珍しいという好奇心を働かせて、俺の元へとじゃれついてきた。
(ちゃんと体温がある……)
子どもを抱きかかえたときに、触れた肌から子どもの温かさを感じた。
「きゃー」
「ほら、魔女様に迷惑かけないの」
「まじょさんっ」
抱きかかえられて視線の高さが変わったことが楽しいのか、魔女に会えたことが嬉しいのか。
どちらにしても、あ、生きているんだって実感が生まれてくる。
助かったんだ、助けることができたんだって喜びが、心の中を満たし始める。
「ありがとうございます」
「いえ……」
母親が抱えていた荷物は、事故に遭ったときに街中へと散らばってしまった。
ノルカは魔法を使うことなく、自分の手で母親が買った物を拾い上げていく。
「魔女様に、お礼がしたいのですが」
荷物をすべて拾い終わった母親が、声をかけてきた。
(声、出さない方がいいよな……)
ここで母親から対価を受け取ってしまったら、魔女資格のない俺はばーちゃんの言う通り牢獄行きになってしまう。
声を出さないように、なんとか身振り手振りで魔女資格のバッチを持っていないというアピールを試みる。
「あの」
口を閉ざしたままの俺を見かねたのか、ここでノルカが助けに入ってくれた。
「私たちは魔女の資格を持っていないので、対価を受け取ることはできません」
ノルカが対価を受け取ることのできない理由を説明してくれたおかげで、母親は魔女試験に落ちた者の事情を理解してくれた。
「飲食店を経営しているので、せめてうちでご飯を食べていってください」
母親の店で、ちゃんと金を払えば何も問題はない。
ノルカも母親の誘いを受けるものだと思っていたら、抱えていた子どもが何か行動を起こそうと暴れ始める。
「ママのごはん、いやっ!」
俺に懐いていたはずの子どもが暴れ始め、子どもなりに抱えている何かを訴えるために抵抗を示す。
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