からっぽを満たせ

忘却、喪失⑪

母家の方からキンキンと叫び声が聞こえた。閉じていた瞼をそっと開ける。どのくらい時間が経ったのかも全くわからない。
声は叔父の妻のものだった。
「いい加減にしてよ！！出ていったからいいじゃないの！何で連れ戻すのよ！」
「兄を慕っていたものがまだ社内にいるんだ！あれらをうまく使うにはあいつが跡継ぎにはふさわしくないように見窄らしくなく生活していなくてはいけないんだ！私たちが追い出したと言われるとまずいんだ！」
「外でうまくやっていたんじゃないの！？」
「大学で好成績で教授の覚えもめでたいと息子たちの友人の中でも少し話題になっているらしい。跡継ぎに相応しいと言われたら厄介だ。それに他人の家に邪魔して厄介になっているらしい。私たちが追い出したと言われかねない。」
「だから何よ！！！！あれを見るのはもうイヤよ！」
「わかっている！あれはもう納屋から出さない！大学にだけ行かせて過ごさせる」
「私の目に一度でも入ったらあなたが何と言おうと徹底的に痛め付けて追い出してやるんだから！！」
僕は叔母の目に気をつけて生きていかないとまずいようだ。
しかし、入り浸ったこと以外にも大学での振る舞いも目をつけられていたとは予想できていなかった。
体中が痛くて床は硬くて冷たくてザラザラとしていて、動くだけで体の痛みはひどく刺激される。いつも敷いていたブルーシートをとれるだけの元気もない。
これほど痛めつけられたのは初めてだった。今回は見える見えないを気にしていない。
叔母の口ぶりを聞くに叔母の目に触れたらこれでは済まないだろう。
僕に命の危機が迫ったことを悟った。