からっぽを満たせ

自覚④

「カナっ、いらっしゃい」
今日は風間さんは早く帰ってきたようで、僕がお邪魔するべく鍵を開けると風間さんが玄関で出迎えてくれた。
僕は風間さんはまだいないと思っていたし、カナ呼びも嬉しくていきなり昨日の練習も虚しく照れそうになる。
顔を見られる前にそっと俯いて「お邪魔します」というとそそくさと靴を揃える。
「どうしたの？なんか元気ない？」
「そんなことないです！」
慌てて顔を整えて風間さんを見ると、風間さんは安心したように微笑んでくれる。
「そう？ならよかった。カナ、今日はね、お土産があるんだよ！会社の近くの人気スイーツなんだって！」
僕を部屋の奥へ誘いながら風間さんが笑顔で話してくれる。それがどれも嬉しくてそれだけじゃなくて、練習なんてなんの役にも立たなくてどうしても少し顔が熱い気がする。僕は隠せない感情をどう隠そうか悩みながらも、俯いてばかりでは心配させてしまう。関係のないことを考えたくてもその風間さんの声が聞いていたくてうまくいかない。僕はうまく繕えていない気がしながらもいつも通りを目指して振る舞う。
いつもより顔を繕わなければと思い続けているのでとても疲れる。それでも風間さんといる時間は楽しくて僕は心の中でいろんな感情が渦巻くのを感じていた。