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挑戦②
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「風間さん、あの」
水族館から数日経って家にお邪魔する日、ようやく僕は思い切って食事を作ることを提案してみることにした。料理ならおそらく風間さんは気を悪くしない。皿洗いをいつも手伝ってくれるから、その時に何気なく掃除が苦手なのだろうことも聞き出せないか、そう思った。
「何?どうしたの?」
風間さんのにこやかな笑みを見て様子を見ながら続ける。
「今日の晩ご飯、僕が作っても良いですか」
目を丸くした風間さんが僕を見つめてくる。無言で見つめてくる風間さんに少し不安になる。
「……え?柳くんの手作り?まじ??」
「あの、もちろんご迷惑ではなければで……」
「全く!!むしろ助かるよ!嬉しいなぁ~!柳くんの手作り!」
風間さんの笑顔が見られてホッとする。
「でも疲れてる時とかもちろん作らなくて大丈夫だからね?俺のために無理だけはしないで」
風間さんはいつだって僕のことを考えてくれる。無理するな、なんて言われたことは叔父の家では一度もない。むしろ無理をしなければならなかった。
「食材の買い出し行く?俺の冷蔵庫とかじゃ何もないでしょ?」
風間さんがそっと手をひいてくれながら冷蔵庫に向かうと、水しか入っていない見事なまでの空っぽな冷蔵庫がそこにあった。
叔父の家では僕が何もしなくてももっとお菓子だったり、調味料だったり入っていた気がする。冷蔵庫ってやろうと思えばこんなに空っぽにできるのか、というくらい空っぽだった。
「腐らせちゃうんだよね俺。だから買わないようにしてたの。びっくりする冷蔵庫でしょ?」
風間さんが苦笑いをしながら僕の手を掴んでいない方の手で自分の後頭部を照れたようにいじった。初めて見るその仕草が僕はちょっと嬉しいような見ていたいような、なんだかわからない感覚がして胸が詰まる。
「何となくバレた気がするから言っちゃうけどさ、俺、ほんっと生活能力無くて……きっと柳くん気づいてるでしょ、俺の家で入れない部屋が増えてる理由」
僕が控えめに頷くと、風間さんはため息と一緒に首を垂れる。
「だよねぇ~、そう、俺は掃除も苦手。部屋に詰め込んでたんだけど、流石にもう部屋が限界なの。笑っちゃうでしょ?」
今が言うチャンスだと思った。
「あのっ……それも僕が手伝っちゃダメですか?」
風間さんはまた驚いたような顔をしてすぐ心配そうに僕を見た。
「俺のために面倒なことばっかりやらなくてもいいんだよ……?俺は別に柳くんと過ごしたいから呼んでるだけなんだから……」
僕のことを心配してくれている言い方に少し嬉しいような気もする。
「僕、そういうことは得意なんです。僕が困っていたことは風間さんが助けてくれました。僕も風間さんの役に立てることはしたいです」
風間さんは考えるような素振りをして固まってしまった。僕の言ったことはもしかしたら気分を害してしまったかもしれない。そうでなくても悩ませてしまったのかもしれない。僕は風間さんをそのまま見つめることができなくて俯き風間さんの言葉を待つ。
しばらくして頭に温かい重みを感じて頭を上げると、風間さんが僕の頭を撫でながら笑顔を向けてくれていた。
「ありがとう。助かるのは間違いないしお願いしようかな!でももちろん無理はしないで。ちょっとずつで構わないし、滞ってもいいから。柳くんが疲れてそうな時は俺、強制的に休ませるからね?」
「はい」
僕は風間さんがいつも通りであることが嬉しくてつい口元が緩んだ気がした。
風間さんはさらに笑みを深くして僕の頭を撫で続けた。
水族館から数日経って家にお邪魔する日、ようやく僕は思い切って食事を作ることを提案してみることにした。料理ならおそらく風間さんは気を悪くしない。皿洗いをいつも手伝ってくれるから、その時に何気なく掃除が苦手なのだろうことも聞き出せないか、そう思った。
「何?どうしたの?」
風間さんのにこやかな笑みを見て様子を見ながら続ける。
「今日の晩ご飯、僕が作っても良いですか」
目を丸くした風間さんが僕を見つめてくる。無言で見つめてくる風間さんに少し不安になる。
「……え?柳くんの手作り?まじ??」
「あの、もちろんご迷惑ではなければで……」
「全く!!むしろ助かるよ!嬉しいなぁ~!柳くんの手作り!」
風間さんの笑顔が見られてホッとする。
「でも疲れてる時とかもちろん作らなくて大丈夫だからね?俺のために無理だけはしないで」
風間さんはいつだって僕のことを考えてくれる。無理するな、なんて言われたことは叔父の家では一度もない。むしろ無理をしなければならなかった。
「食材の買い出し行く?俺の冷蔵庫とかじゃ何もないでしょ?」
風間さんがそっと手をひいてくれながら冷蔵庫に向かうと、水しか入っていない見事なまでの空っぽな冷蔵庫がそこにあった。
叔父の家では僕が何もしなくてももっとお菓子だったり、調味料だったり入っていた気がする。冷蔵庫ってやろうと思えばこんなに空っぽにできるのか、というくらい空っぽだった。
「腐らせちゃうんだよね俺。だから買わないようにしてたの。びっくりする冷蔵庫でしょ?」
風間さんが苦笑いをしながら僕の手を掴んでいない方の手で自分の後頭部を照れたようにいじった。初めて見るその仕草が僕はちょっと嬉しいような見ていたいような、なんだかわからない感覚がして胸が詰まる。
「何となくバレた気がするから言っちゃうけどさ、俺、ほんっと生活能力無くて……きっと柳くん気づいてるでしょ、俺の家で入れない部屋が増えてる理由」
僕が控えめに頷くと、風間さんはため息と一緒に首を垂れる。
「だよねぇ~、そう、俺は掃除も苦手。部屋に詰め込んでたんだけど、流石にもう部屋が限界なの。笑っちゃうでしょ?」
今が言うチャンスだと思った。
「あのっ……それも僕が手伝っちゃダメですか?」
風間さんはまた驚いたような顔をしてすぐ心配そうに僕を見た。
「俺のために面倒なことばっかりやらなくてもいいんだよ……?俺は別に柳くんと過ごしたいから呼んでるだけなんだから……」
僕のことを心配してくれている言い方に少し嬉しいような気もする。
「僕、そういうことは得意なんです。僕が困っていたことは風間さんが助けてくれました。僕も風間さんの役に立てることはしたいです」
風間さんは考えるような素振りをして固まってしまった。僕の言ったことはもしかしたら気分を害してしまったかもしれない。そうでなくても悩ませてしまったのかもしれない。僕は風間さんをそのまま見つめることができなくて俯き風間さんの言葉を待つ。
しばらくして頭に温かい重みを感じて頭を上げると、風間さんが僕の頭を撫でながら笑顔を向けてくれていた。
「ありがとう。助かるのは間違いないしお願いしようかな!でももちろん無理はしないで。ちょっとずつで構わないし、滞ってもいいから。柳くんが疲れてそうな時は俺、強制的に休ませるからね?」
「はい」
僕は風間さんがいつも通りであることが嬉しくてつい口元が緩んだ気がした。
風間さんはさらに笑みを深くして僕の頭を撫で続けた。
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