からっぽを満たせ

ゆきうさぎ

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からっぽの部屋⑥

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風間さんはいつも以上に僕を構った。
僕が摂る気がなかった晩御飯だが、風間さんはアプリを開いていろいろなメニューを見せてきた。
「ほらほら、海鮮丼だって!美味しそう!生魚は平気なの?いやでもこのチキンとかも美味しそう!柳くん何食べたい?」
風間さんは僕の隣に座って聞いてくる。僕には当然食べたいものなんてない。
「蓮の店でさ、気に入ってるご飯とかないの?」
言葉に詰まった。もちろんいつも美味しいものをいただいてる自覚はあるが、味覚を忘れた僕にとって日々宗田さんが出してくれるご飯はご飯でしかない。もったいないことも承知しているが、風間さんと食べていて味覚がある方が不思議なのだ。
「僕は味覚音痴だから…あんまりよく…」
とりあえずそう答えておく。
「そっか、カレーは美味しそうだったし、ケーキも気に入ってくれてそうだったから、今度は別のものを気に入ってもらお!」
こういう時、風間さんは深く追求してこない。
「蓮のお店は洋食系なら出せるしね…しかもクオリティ高くて勝てないし!和とか中華とかの方がいいな、お、これは?」
風間さんは麻婆飯の写真を見せてきた。
「昼から辛いものばっかだけど」
風間さんが笑いながら言う。僕に異論はない。風間さんがスマホを操作して注文した。
麻婆飯は1時間ほどで届けられた。
「冷めないうちに食べちゃおう!」
風間さんがテキパキと届いた袋から麻婆飯の入った容器やスプーンや箸を出していく。
「結局俺の好みだけどね~、いつか柳くんが食べたいものを言ってくれるくらい俺に懐くように頑張るね」
冗談みたいに言う。風間さんのその言い方が助かる、同時に、そうなったらいいと思う自分もいた。

麻婆飯は辛くて、温かくてとても美味しくて、そして少し汗が出た。
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