からっぽを満たせ

ゆきうさぎ

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温度⑪

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「いやーーたのしかった!ふれあいコーナーって行ったことなったんだけど楽しいね!」
風間さんは心底楽しそうに笑って話す。
僕はただ前を向いて歩きながらも、ウサギの温かさや膝で休む姿、そしてその毛のふわふわさを思い返す。僕もおそらく楽しんでいる。
「柳くんモテモテだったしね、今度写真プリントしとく」
そんな話をしながら出口付近まで来た時にはもう日が傾いていて夕方になっていた。今までの僕の休日というものは、ただ息をしながら勉強をして、ひたすら何も食べずに日が傾くのを待っていた。大学生になってバイトと大学で忙しくしていることも多くなったが、何か遊びに行くという概念が存在していなかったのは変わらなかった。こんなに楽しんで日が暮れたのは少なくとも叔父に引き取られてからは初めてだ。
名残惜しい気がして出口に向かう足を止めたくなる。なんとなく、自分の歩幅を狭くして、それかお手洗いに行くなどしてもう少しここに留まりたい。そう思った。
「あ、ねぇ柳くん、あそこでお土産買っていこうよ」
風間さんは出口のすぐ近くにあるパステルカラーの建物を指差して言う。店の前には虎の置物が置いてあったり、ショーウィンドウには動物のぬいぐるみがたくさん並べられていて、小さな子供がガラスにひっつきながら両親を困らせている。
僕にはお土産をあげる人なんていないし、そもそも僕のチョイスで喜ぶ人もいない。お土産にはとんと縁がないから見る必要はなかった。それでもお土産を見ていればこの名残惜しさで出口に向かいたくなかった気持ちは、ある程度時間を引き伸ばせるのだから解決できる。風間さんのやろうとしていることを阻害する気もなかった。
「わかりました」
そう答えた。
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