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温度⑦
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動物園には図鑑で見た動物がそれぞれの用意された場所で寝たり歩いたり、体を掻いたり食事をしたり、思い思いの行動をしていた。存在するのは知っていたが、生きている姿を見るのは初めてなので果たして図鑑に書いてあることが本当なのかよく観察したかったが、柵もあれば人も多く、なかなか近づけないことも多い。風間さんはそんな人の間へさらりと僕を誘い、混んでいる中でも1番いいポジションを僕に譲ってくれた。風間さんはその後ろから何気なく人を避けてくれているのだろう。横の人からの圧を少し感じても後ろの風間さんは少しも圧力は変わらなかった。
「見られた?」
「はい」
「次に行こうか」
「はい」
僕は少しも表情を変えなかったと思う。少なくとも、顔が動いた自覚はない。ただ、どう表現したらいいかわからない感じだった。
そうだ、きっと好奇心が満たされているのだ。
図鑑でしか見たことのない動物たちが動いて生きている様を見て、向学心が満たされたのだ。
そう勝手に解釈をして次々と動物園の奥へ進んでいきながら、動物を観察していく。
1番奥に着く頃には、すでに昼を過ぎていた。
「柳くん少しベンチで待っててくれる?」
風間さんがそういうので僕は受け入れて、近場のベンチで座って待つ。
もう少し奥に行けばすぐのところにライオンがいるらしい。人だかりも見える。子供が泣いている声も聞こえた。
ライオンはどんな風に生きているのだろう。百獣の王と言われるに相応しい威厳を放っているのだろうか。早く見てみたい気もしたが、風間さんはベンチで待っていて欲しいと言った。離れるわけにはいかないのでじっと待つ。
前を通りがかる人々の顔は笑っていて、楽しそうなのがわかった。
ーー要、ほら見ろ
不意に頭の中にそんな声が聞こえたように思う。
これは思い出したくない声で、前にも聞こえた声と同じだ。でも何を見ろと言われたのだろう。
ーーははっ、怖がってるな?大丈夫、守ってやるさ
守る…守ってくれる人なんていない。そんな人……
「っ!!!!!?」
思わず声をあげそうになった。突然頬に冷たいものがあたったからだった。驚いて頭の中に聞こえた声から思考を戻すと、驚いたような風間さんがすぐ横にいた。
「ごめん、ごめん、想像以上に驚かせちゃった、お茶だよ、柳くん」
風間さんはベンチに座る僕に冷たいお茶のペットボトルを頬に当ててきたようだった。冷たさなんて久しく感じていなかったのにペットボトルのお茶ほどの冷たさをこんなに驚くほど感じるなんておかしい。
叔父に冷水をかけられても熱湯をかけられても感じなくなった。感じなくなったというのに。
僕は焦った。もう戻れない。あの頃のようにきっと耐えられない。
それでも一度気づいてしまった温度に引きづられるように思い出す。
今日の日差しは太陽がぽかぽかと気持ちがいいこと。
冷たいお茶が少し火照った手を冷ましていくこと。
そんな感覚に焦って固まった僕を心配して頬の温度を測る風間さんの手のぬくもり。
「大丈夫?ごめんね、やり過ぎたかな」
「いいえ、そうではないので…気にしないでください」
僕はそう言って目を伏せる。
「柳くん、少し休む?」
「大丈夫です」
僕は渡されたペットボトルを開けてグイッと傾けて一気に半分ほど飲み干す。冷たさは体の中の火照りを冷ます。
同時に少し頭がすっきりした。そんな僕をみて少し風間さんも少し安心したようで、心配そな顔が少し和らいだ。
「次に行く?ライオンだと思うけど…無理はしないでいいんだよ」
「はい、大丈夫です」
誤魔化せないくらい取り戻した感覚を抱えながら風間さんとライオンのいる方向へ歩き始めた。
「見られた?」
「はい」
「次に行こうか」
「はい」
僕は少しも表情を変えなかったと思う。少なくとも、顔が動いた自覚はない。ただ、どう表現したらいいかわからない感じだった。
そうだ、きっと好奇心が満たされているのだ。
図鑑でしか見たことのない動物たちが動いて生きている様を見て、向学心が満たされたのだ。
そう勝手に解釈をして次々と動物園の奥へ進んでいきながら、動物を観察していく。
1番奥に着く頃には、すでに昼を過ぎていた。
「柳くん少しベンチで待っててくれる?」
風間さんがそういうので僕は受け入れて、近場のベンチで座って待つ。
もう少し奥に行けばすぐのところにライオンがいるらしい。人だかりも見える。子供が泣いている声も聞こえた。
ライオンはどんな風に生きているのだろう。百獣の王と言われるに相応しい威厳を放っているのだろうか。早く見てみたい気もしたが、風間さんはベンチで待っていて欲しいと言った。離れるわけにはいかないのでじっと待つ。
前を通りがかる人々の顔は笑っていて、楽しそうなのがわかった。
ーー要、ほら見ろ
不意に頭の中にそんな声が聞こえたように思う。
これは思い出したくない声で、前にも聞こえた声と同じだ。でも何を見ろと言われたのだろう。
ーーははっ、怖がってるな?大丈夫、守ってやるさ
守る…守ってくれる人なんていない。そんな人……
「っ!!!!!?」
思わず声をあげそうになった。突然頬に冷たいものがあたったからだった。驚いて頭の中に聞こえた声から思考を戻すと、驚いたような風間さんがすぐ横にいた。
「ごめん、ごめん、想像以上に驚かせちゃった、お茶だよ、柳くん」
風間さんはベンチに座る僕に冷たいお茶のペットボトルを頬に当ててきたようだった。冷たさなんて久しく感じていなかったのにペットボトルのお茶ほどの冷たさをこんなに驚くほど感じるなんておかしい。
叔父に冷水をかけられても熱湯をかけられても感じなくなった。感じなくなったというのに。
僕は焦った。もう戻れない。あの頃のようにきっと耐えられない。
それでも一度気づいてしまった温度に引きづられるように思い出す。
今日の日差しは太陽がぽかぽかと気持ちがいいこと。
冷たいお茶が少し火照った手を冷ましていくこと。
そんな感覚に焦って固まった僕を心配して頬の温度を測る風間さんの手のぬくもり。
「大丈夫?ごめんね、やり過ぎたかな」
「いいえ、そうではないので…気にしないでください」
僕はそう言って目を伏せる。
「柳くん、少し休む?」
「大丈夫です」
僕は渡されたペットボトルを開けてグイッと傾けて一気に半分ほど飲み干す。冷たさは体の中の火照りを冷ます。
同時に少し頭がすっきりした。そんな僕をみて少し風間さんも少し安心したようで、心配そな顔が少し和らいだ。
「次に行く?ライオンだと思うけど…無理はしないでいいんだよ」
「はい、大丈夫です」
誤魔化せないくらい取り戻した感覚を抱えながら風間さんとライオンのいる方向へ歩き始めた。
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