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思い出してはいけない⑩
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「さ、頑張った柳くんに今日はちょうどいいものがあります!今日買ってきてるなんて、俺天才」
風間さんはスクっと立ち上がると、かちゃかちゃと台所で何かをしていた。
僕はその間に資料をカバンに詰め直し、机をあけた。
「はい。…甘いもの嫌いじゃないよね?」
「はい…」
戻ってきた風間さんが僕の前に出したのはイチゴがぎっしりとのった艶のあるタルトだった。部屋の明かりを反射してキラキラと宝石輝いているようだった。
「食べていいよ、柳くんにご褒美」
「いただきます」
出されたタルトにフォークを刺すと、すぐイチゴのぎゅっとした果肉をぎゅっと押す感覚に辿り着き、それからしっとりとサクッとしたタルト生地は少しフォークを押し返して、それに負けじと押すと小さくカツン、という音とともにフォークがタルトを貫通した。
一口サイズに切り分けたタルトを口に運ぶと、最初ちょっと甘い感じだったが、すぐにタルトのバター風味とイチゴの甘酸っぱさが口いっぱいに広がり、その甘酸っぱさやバターの風味を邪魔しないようなさっぱりと甘いクリームの味がした。
そのまま噛んでいくと、サクサクの食感、イチゴの果肉感、そしてクリームのとろみがなんとも言えない調和を生み出した。
「おいしいです」
ちょっと気が緩んでいるのか、自分が素直に味を感じていることを自覚して困惑した。
何も感じないように生きると決めた頃から、食事は全て同じだった。だから残飯だって気持ち悪く無くなったのに。
困惑した僕は1度フォークを止めた。
「でしょ?ここのケーキは俺好きなんだよね~俺結構難しくてさ、甘すぎると苦手なんだけど…まぁ甘くても好きなものもあるんだけどさ~柳くんも気に入ってくれたみたいでよかった!また買ってこよ」
風間さんはニコニコと自分のタルトにフォークをつけはじめ、ぱくぱくと食べていく。
それに突き動かされるように僕も改めてフォークを動かし食べ進めていく。
また懐かしさが込み上げるような気がしたが、今度は全力で押さえて、それでもタルトの美味しさは堪能した。こんなにおいしいと感じるように食事をしたのは久しぶりだった。
(これは絶対に思い出してはいけない、引きずられたらもう戻れない)
ケーキの甘味も苺の酸味も感じている。
あの一瞬の声は1番最初に忘れようとしたこと。
久々にこの感じを思い出したことが怖くて仕方がない。もし、叔父が連れ戻すなんてことがあったら、残飯を食べて平気だったあの時のようには振る舞えないだろうという予感が胸をよぎり、この感覚をまた忘れたいと思った。
風間さんはスクっと立ち上がると、かちゃかちゃと台所で何かをしていた。
僕はその間に資料をカバンに詰め直し、机をあけた。
「はい。…甘いもの嫌いじゃないよね?」
「はい…」
戻ってきた風間さんが僕の前に出したのはイチゴがぎっしりとのった艶のあるタルトだった。部屋の明かりを反射してキラキラと宝石輝いているようだった。
「食べていいよ、柳くんにご褒美」
「いただきます」
出されたタルトにフォークを刺すと、すぐイチゴのぎゅっとした果肉をぎゅっと押す感覚に辿り着き、それからしっとりとサクッとしたタルト生地は少しフォークを押し返して、それに負けじと押すと小さくカツン、という音とともにフォークがタルトを貫通した。
一口サイズに切り分けたタルトを口に運ぶと、最初ちょっと甘い感じだったが、すぐにタルトのバター風味とイチゴの甘酸っぱさが口いっぱいに広がり、その甘酸っぱさやバターの風味を邪魔しないようなさっぱりと甘いクリームの味がした。
そのまま噛んでいくと、サクサクの食感、イチゴの果肉感、そしてクリームのとろみがなんとも言えない調和を生み出した。
「おいしいです」
ちょっと気が緩んでいるのか、自分が素直に味を感じていることを自覚して困惑した。
何も感じないように生きると決めた頃から、食事は全て同じだった。だから残飯だって気持ち悪く無くなったのに。
困惑した僕は1度フォークを止めた。
「でしょ?ここのケーキは俺好きなんだよね~俺結構難しくてさ、甘すぎると苦手なんだけど…まぁ甘くても好きなものもあるんだけどさ~柳くんも気に入ってくれたみたいでよかった!また買ってこよ」
風間さんはニコニコと自分のタルトにフォークをつけはじめ、ぱくぱくと食べていく。
それに突き動かされるように僕も改めてフォークを動かし食べ進めていく。
また懐かしさが込み上げるような気がしたが、今度は全力で押さえて、それでもタルトの美味しさは堪能した。こんなにおいしいと感じるように食事をしたのは久しぶりだった。
(これは絶対に思い出してはいけない、引きずられたらもう戻れない)
ケーキの甘味も苺の酸味も感じている。
あの一瞬の声は1番最初に忘れようとしたこと。
久々にこの感じを思い出したことが怖くて仕方がない。もし、叔父が連れ戻すなんてことがあったら、残飯を食べて平気だったあの時のようには振る舞えないだろうという予感が胸をよぎり、この感覚をまた忘れたいと思った。
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