愛恋の呪縛

サラ

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第191話

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「うおおおお……寝てる寝てるぅぅぅ……!!!!」

「こら龍牙、もう少し声を抑えてください?」

「いやこれでも結構抑えてるって!」



 部屋の扉の隙間から日向と魁蓮を眺めていたのは、司雀と龍牙だった。
 龍牙は、向かい合いくっついて眠る2人をキラキラと輝く眼差しで見つめ、司雀は優しく微笑みながら見つめている。
 目の前に広がるほんわかな光景に、2人は笑みが零れまくりだ。



「何か、いい感じじゃん~!!!」

「ふふっ、そのようですね」



 何故この2人がここにいるのかというと……。





┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





「ふわぁ……流石に没頭しすぎましたかね……」



 数十分前。
 皆が寝静まった時間、司雀は城の地下で趣味の研究をしていた。
 誰にも邪魔されない時間帯にすることが多いため、自然と深夜の時間帯に研究することがほとんど。
 だが、今日はいつもより遅い時間まで研究を進めてしまい、司雀は少々疲れていた。
 今もあくびをしながら、階段を上がっている。
 とはいえ、趣味のひとつに過ぎないため、決して悪い疲れではない。
 むしろ、良い疲れだ。



「明日は、買い物に行きましょうか……ああでも、少しキリ悪いところで研究を止めてしまったので、続きをしたいのですが……うーん、どうしましょう」



 司雀は、もう次の日の予定を考えている。
 他者から見れば、司雀はちゃんと休みというものをとっているのか心配になるほどだ。
 いつも何かを考えていて、いつも動いている。
 魁蓮が信用している理由の一つでもあるのだが、できれば休んで欲しいと思ってしまうくらい、司雀は働き者だ。



「とりあえず、明日の朝考えましょう。
 ひとまず今日は、もう寝なければ」



 そう呟くと同時に、司雀は地上に出てきた。
 薄暗い書物庫に顔を出し、予め置いてあったロウソクを手に取って身を乗り出す。
 書物庫にギッシリつめられた書物たちに火が移らないよう、慎重に歩き出した。
 その時。



「……おや?」



 司雀は、ある気配を感じ取った。
 ほんの僅か感じる、あの特徴的な圧。
 冷ややかさがあり、その場にいる者全員を恐れさせるあの圧が。
 その圧と気配で、司雀は瞬時に理解した。



「魁蓮、帰ってきてますね」



 圧の正体は、魁蓮だ。
 長年彼の隣を歩く司雀は、ほんの微量な気配や圧でも感じ取ることができる。
 今回はあまり期間を開けることなく帰ってきたなと思いながら、司雀は書物庫から顔を出した。
 気配からして、どうやら魁蓮がいるのは4階のようだ。



 (日向様に、急用でしょうか……?)



 4階は、日向の部屋がある。
 魁蓮の部屋は最上階の5階のため、4階に行くのは必然的に日向に用がある時だけだ。
 しかし、時間も時間、日向も眠りについているような時間帯だろうと考えていた司雀は、少し不思議に思いながらも4階へと向かった。
 ゆっくり階段を上がりながら、魁蓮の気配へと近づいていく。

 すると…………。



「……ん?」



 3階から4階へ上がる途中、階段のところで誰かが止まっているのが見えた。
 何やら隠れるようにして佇む姿、司雀は首を傾げる。
 誰だろうかと持っていたロウソクを近づけると……



「おや?龍牙ではありませんか」

「うおっ……!!!!!」



 そこにいたのは、まさかの龍牙だった。
 龍牙はいきなり声をかけられたことに驚いて、懸命に抑えたような声を漏らす。



「こんな時間に、しかもこんな所で。一体何をっ」

「ちょっ、しー!しー!!」

「えっ?」



 司雀が尋ねた瞬間、何故か龍牙は人差し指を口に当てて、「静かに!」と促してくる。
 司雀はそんな龍牙に少し戸惑っていると、龍牙はビシッと階段の上を指さした。
 4階に何かがあるようだ。
 司雀は少し警戒しながらも、龍牙が指さす方向へと顔を覗かせる。



「……おやおや」



 そこで司雀が見たのは、何故か魁蓮を必死に支えている日向と、体を大きくさせている楊の姿。
 日向は何だか困った様子で魁蓮を支えていた。
 あの態度を見るに、魁蓮は寝落ちたのか、それとも別の理由か。
 司雀がそんなことを考えていると、日向は楊の背中に魁蓮を乗せ、日向たちはそそくさと部屋へと向かっていった。



「……エグいだろ……」



 一連の流れを見ていた司雀に、龍牙は真剣な声で話しかける。
 司雀はその声に振り返ると、龍牙はキラキラした目と、何やら興奮したような表情をしていた。
 その姿で、司雀は龍牙がここにいる理由を何となく察した。
 きっと龍牙はあの状況の日向たちを、イチャついてるだとか、仲良くしているだとか、そんな風に捉えたのだろう。



「龍牙。日向様が困っていたというのに、手助けもせず見守るだけとは、随分と冷たい方ですねぇ」

「いやいやいや!あんなの介入できるわけねぇだろ!?何かいい感じだったし?日向の恋を邪魔するわけにはいかねぇじゃん!?
 しかも魁蓮、日向に抱きついてたし!?」

「あれは抱きついていたというより、疲れて寄りかかってただけだと思いますよ……日向様の恋を応援するのは結構ですが、困っていたら助けなさい」

「と、時と場合で判断する」

「こらっ(怒)」





┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





 それから2人は、部屋の中が静かになったのを確認して、2人の様子を見に来たというわけだ。
 司雀もあんなことを言っていたが、2人の距離が近づいているのは正直嬉しい事だった。
 龍牙の気持ちを否定している訳では無い、むしろ同じ気持ちを抱いている。
 日向の体をしっかりと抱きしめて支える魁蓮に、司雀は優しい笑みが零れていた。



 (3ヶ月ぶりの再会でしたが、問題なさそうですね)



「最高の光景だなこりゃ!」



 対して龍牙は、2人の姿にデレデレで、何だかいい雰囲気を漂わせる光景にニヤけが止まらない。
 日向を嫌っていた頃の龍牙は、一体どこへ行ったのやら。
 今となっては、異種同士の2人の恋愛模様を全力で応援してしまっている。
 応援される側は、とても有難いことだろう。

 しかし、この場に居続けるのは駄目だ。
 まだ見守っていたい気持ちを抑え、司雀は龍牙に声をかける。



「さあ龍牙、そろそろ寝ましょうか」

「えぇ、もう少し見てようぜ~?」

「いけません。それに覗き見なんて、結構酷いことしてますからね?ほら、行きますよ」

「ちぇー」



 龍牙はムスッと拗ねたような表情を浮かべていたが、司雀の意見に抗うことが出来ず、口を尖らせながら扉を閉じた。
 龍牙も、まだ2人を見守っていたい気持ちはあったが、かなり遅い時間だということも理解していた。
 少し名残惜しさを感じながらも、司雀と龍牙は日向の部屋を後にした。



「早くくっついてくれないかなぁ~!」



 自分たちの部屋へ向かう道中、龍牙は後頭部に手を回して歩きながら、そんなことを口にした。
 日向と魁蓮のどちらも大好きな龍牙は、2人が幸せになることが何よりの願いだった。
 そしてその幸せの形が両思いになれば、どれだけ嬉しいことだろうか。
 大きな壁はあっても、龍牙は早く2人が結ばれて欲しいと考えていた。

 そんな願望を口にする龍牙の背中を、司雀は優しい笑みで見つめている。



「魁蓮が、日向様をどう思っているのかが気になりますね。同じ気持ちだったらいいんですけど」

「ん~。流石にまだなんじゃね?嫌いとか、そういうのは無いんだろうけど……」

「まあ、魁蓮が誰かを愛するなんて、そもそも想像できませんもんね」

「でも俺は信じてるよ!魁蓮は、絶対日向を好きになる!そんで、2人は幸せに生きるって!」

「ふふっ、そうですね」



 司雀も、できればそうなって欲しいと思っていた。
 長い年月、魁蓮を見守ってきた。
 誰よりも傍にいた存在だからこそ、幸せになって欲しいという願いは誰よりも強かった。
 どういう結末になるかは分からないけれど、せめてその先で、自分の主人が幸せであるように願うばかりだ。



「でも、きっと大丈夫ですよ。
 日向様は素晴らしい方です、魁蓮も必ず日向様の魅力に気づくでしょうし。日向様なら、魁蓮を幸せにしてくれますから」



 司雀がそう言うと、ふと龍牙が足を止めた。
 突然立ち止まった龍牙に、司雀は首を傾げる。



「龍牙?どうしました?」



 司雀が気になって尋ねると、龍牙は背中を向けたまま、おもむろに口を開いた。



「司雀はさ、日向に生きてて欲しいって思う?」

「えっ?」



 突然の質問だった。
 それに、内容もかなり重いもの。
 どうしてそんなことを尋ねてくるのか疑問に思いながらも、司雀は自分の考えを口にした。



「それはもちろんですよ。人間の中でも、日向様は素晴らしい方だと思っていますから。優しく、明るく、まるで太陽のような方です」

「じゃあ、日向と魁蓮は幸せになって欲しい?」

「当然です。魁蓮をちゃんと見て、そして寄り添ってくれる人間は、日向様だけ。
 日向様が魁蓮を好きだと分かった時は、それはもう嬉しかったんですから。2人には幸せになって欲しいです」

「ふーん」



 (何でしょうか、この質問……)



 司雀は、片眉を上げた。
 どうも引っかかる質問内容だ、意図が分からない。
 ついさっき、日向と魁蓮は幸せになって欲しいと互いに言い合ったというのに。
 司雀が龍牙の行動に疑問を抱いていると、ふと龍牙が司雀に振り返りながら口を開く。





「なぁ、司雀……。
 今の言葉、どこからどこまでが本音なんだ?」

「……えっ」





 龍牙の言葉に、司雀は目を見開く。
 その質問は、耳を疑うものだった。
 司雀も訳が分からず、龍牙に視線を向けた。



「龍牙、何を言って………………っ!」



 だが、司雀は口を閉じてしまった。
 本当は、なぜこんな質問をしてきたのかと理由が聞きたかった。
 でも、出来なかった。



「龍、牙っ……?」



 尋ね返そうとした司雀の前にいる龍牙は……

 司雀でさえ見たことないような、を司雀に向けていた。
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