187 / 268
第185話
しおりを挟む
「鬼ノ王、ソナタ……。
自分ガ何者カ、考エタトコハアルカ?」
「………………あ?」
魁蓮の結界内。
異型からの突然の質問に、魁蓮は眉間に皺を寄せた。
「何の話だ」
「イヤ、気ニスルナ。チョットシタ好奇心ダ。
封印サレテイタトハイエ、1000年モ生キテイレバ己ヲ見ツメ返スコトデモアルノカト思ッテナ……」
異型は軽々と死体たちから逃げながらも、その鋭い視線は魁蓮に向いていた。
その瞳の奥に隠されている本音は何なのか、さっぱり分からない。
でも、何かを訴えかけているような異型の視線に、魁蓮は目を細めた。
「見つめ返すことなど無い。
我は好きに生きている、それだけだ」
自分が何者なのか。
正直、そんなことを考えなくても、魁蓮がどんな男なのかは言わずと知れている。
伝説も語り継がれ、数え切れない噂もある存在。
今更見つめ直したところで、何かが変わるわけでも無いのだ。
そしてそれは、魁蓮が1番理解している。
自分が何者なのかと、不思議に思ったことなど無い。
しかし、そんな魁蓮の返答に、異型は憐れみの表情を浮かべた。
「好キニ生キテイル、カ……ソノ言葉、彼ヲ前ニシテモ言エルカ?
ソナタノ傍ニイル、アノ白髪ノ少年ノ前デ」
「…………は?」
異型の言葉に、魁蓮は片眉を上げた。
魁蓮の傍にいる白髪の少年、そんなの一人しかいない。
魁蓮の脳裏に、日向の姿が浮び上がる。
「何故そこで、小僧が出てくる。
彼奴は何の関係もないだろう」
「イヤ……大イニアル」
すると異型は、足に妖力を込め始めると、グッと力を入れて飛び跳ねた。
脚力が瞬時に上がった異型は、そのまま、 死体の山の上にいる魁蓮の元へと向かい、軽々と死体の山の上へと降り立つ。
そして、その玉座の上で居座る魁蓮に、鋭い視線を改めて向けた。
「白髪ノ少年ハ、昔カラ待チ望ンデイル。
自分ノ全テヲ奪ッタソナタガ、朽チ果テル日ヲ……」
「……………………」
異型の発言に、魁蓮は目を見開いた。
朽ち果てる日、つまり魁蓮が死ぬ日ということ。
その日を、日向は待ち望んでいる。
異型はそう言っているのだ。
「教エテヤロウ、鬼ノ王。ソナタガ何者カ。答エハ簡単ダ。ソナタハ、死ヌベキ存在。生キル意味ナド無イ」
「…………」
「鬼ノ王、彼ガ大事ナノダロウ?ナラ言エルカ?
ソナタニ早ク死ンデ欲シイト望ンデイル彼ノ前デ、自分ハ好キニ生キテイル、ト。彼ノ願イニ反スル事ヲ、目ノ前デ言エルカ……?」
端的、でも深い意味が込められている言葉。
きっと異型は、自分が大事にしているものが傷つくような、嫌がるようなことが言えるのかと聞いている。
どうやら異型は、日向が魁蓮にとっては宝も同然の存在だと思っているようだ。
魁蓮は、ただ静かに異型の言葉を聞いていた。
魁蓮に死んで欲しいと望んでいる者は、この世には数え切れないほどいるだろう。
人間や仙人の天敵であり、妖魔からすれば決して崩すことの出来ない大きな壁。
どこを汲み取っても立ち塞がってくる魁蓮を、生きていて欲しいと心から望む者はほぼ居ない。
それは魁蓮も分かっている事だった。
「小僧が、我に死んで欲しいと望んでいる、か……」
思えば誕生したその日から、魁蓮は狙われ続ける日々だった。
存在自体が害として扱われ、魁蓮が生き続けることを喜ぶ者はいなかった。
四方八方から呪われ続け、そして忌み嫌われる。
普通の人ならば、居場所なんてものが無いほどだ。
でも、それを乗り越えながら生きていけるのは、彼が魁蓮だから。
彼が……妖魔の頂点に立つ、王だから。
「ククッ……フフフッ……。
貴様が小僧の何を知っている?知ったような口を叩くな、下劣が」
「……?」
「我が死ぬ事が、本当に小僧の望みならば……まあ聞いてやらんことも無い。彼奴の我儘を聞くのは、悪い気はせん。しかしなぁ……我が死ねば、貴様らは小僧を奪いに来る可能性がある。
ならば、我は何があっても死ぬことは出来ぬ」
「ッ……!」
周りからどう思われようと、魁蓮からすればどうでもいいこと。
死んで欲しいと望まれているから何だ、生きることが罪と言われることが何だ。
自分より弱者の嘆きも願いも、彼には届かない。
生きることに執着しているわけでは無いが、死ぬ理由があるわけでもない。
ならば、満足するまで生きてみるのも悪くない。
そして何より、今は日向という存在がある。
誰にも奪われたくない、自分だけのものにし続けたいと思う存在がいる。
「我は死ねと望まれることより、小僧が貴様らに奪われることの方が癪に障る。小僧の願いは、せめて貴様らを皆殺しにしてから聞いてやろう」
その時、魁蓮は自分を真っ直ぐに見てくる異型の頭に、ガンっと足を乗せた。
力も上乗せされた魁蓮の足で、異型は体勢を崩し、死体の山に顔を突っ込んでしまう。
強制的に頭を下げられた異型は、魁蓮に踏みつけにされながらも、ギリっと魁蓮を睨んだ。
しかし、その上を行くかのような目つきで、魁蓮は異型を鋭く見下す。
「良いか異型、耳の穴かっぽじってよく聞け。
貴様らが何をしようと、小僧は渡さん。あれは我だけのものだ」
「……ッ……」
「小僧に少しでも手を出してみろ……。
地獄の果てだろうと、貴様らを必ず殺してやる」
【僕の全部をあげる代わりに……お前は、僕を万物から守ってくれるんだろ……なら、最後までやれよ。
逃げないから……ちゃんと、守ってくれ。この呪縛が、意味無くなるくらい……】
あの日、城の大浴場で日向から言われた言葉。
その言葉が、魁蓮の脳裏に蘇る。
強く決心したあの日、そう、あの日からだ。
あの美しい見た目も、美しい力も、美しい心も。
全て自分のもの、自分だけのものと魁蓮が思うようになったのは。
もう誰にも渡さないと、魁蓮は決めている。
きっと、無意識に鬼の王の地雷となっている日向は知らないだろう。
魁蓮の存在そのものが、日向に危険が及ぶことへの抑止力になっているなんて……。
「貴様が小僧を語るな、無礼者」
「……コノ、半端者ガッ……」
「貴様には言われとうない。
妖魔と仙人を混ぜ合わせた存在など、気色悪い」
「貴様モ……似タヨウナモノダロッ……」
「ハハッ…………………………さあな」
魁蓮からすれば、実にいい眺めだった。
ずっと煽ってきていた異型が、歯を食いしばりながら頭を下げる姿は、魁蓮の機嫌をなおすには良い材料だった。
ぐりぐりと足に力を入れれば、異型の顔面が死体の山にめり込んだ。
死んで固くなった死体、決していい匂いとも言えない反吐が出る状況。
それを楽しんで眺められるのは、彼が残虐非道な考えを持つ王だからだろう。
「はぁ……これ以上貴様を生かしても、何の意味も無い。時間の無駄……終いだ、異型」
「ッ!」
魁蓮がそう言った瞬間。
魁蓮たちがいる空間の空気が、ドッと重くなる。
その異変に気づいた異型はサッと構えるも、無駄だった。
「忘れてはおらんだろうな?ここは我の支配下、見えない8つの掟がある。だが、貴様は掟を破った。よって貴様に判決を言い渡す。当然、死刑だ…………」
「ッ!貴様ッ」
「ククッ…………さらばだ、異型。
《死して花となり、そして散れ》」
直後……。
ザンッ!!!!!!!!!!!!!!!
大きな斬撃音が、空間に響き渡った。
その音とともに、異型が激しく切り刻まれる。
しっかり形として成していた異型の体は、見るも無惨に木っ端微塵にされてしまい、切り刻まれた肉片は、ボトボトと湖の中へと落ちていった。
そしてその肉片を、ずっと大人しく待っていた死体たちが、群がり、そして食い荒らしていく。
その様子を見つめながら、魁蓮は薄ら笑みを浮かべた。
「期待外れだったなぁ……力は持っているが、やはり使いこなせてはいなかった。ククッ、宝の持ち腐れだ」
死体たちに食い荒らされる異型の肉片。
食べたらどんな影響があるかは分からなかったが、死体たちに新たに命令を出すのも面倒で、魁蓮はそのまま食い荒らす死体たちを放置した。
「とりあえず、異型の正体は理解出来た。だが、やはり奴らの目的と、主の野望は得られんな……小僧を狙う理由も、定かになっていない。
恐らく、別の異型に問うても答える者はいないだろう」
今回ではっきりと分かった。
これ以上魁蓮が力を使っても、異型たちは自分たちのことを話さないし、主という存在についても語ることはほとんどない。
尋問をしたところで、時間の無駄になってしまう。
情報は、もう得られないだろう。
でも、ここで諦めないのが魁蓮だ。
「まあ良い、立ち向かってくれば相手をしてやれば良いだけのことだ。何ら困ることは無い」
これだけ警告を出しても諦めないのであれば、殺せばいい。
魁蓮はそう結論を出し、満足気に死体たちを見つめた。
まるで味わうように肉片を頬張る死体たち、こうして見れば、まだ生きているようにも見えた。
「ククッ……黄泉軍よ……。
十分に備えておけ、愉しい戦いが始まりそうだ」
魁蓮の奥義である、陽・死花。
この奥義に課せられた、見えない8つの掟。
奥義に捕まっても、掟さえ破らなければ、助かる道がある。
……なんて、そんな美味い話は無い。
掟を破らないようにと奮闘しても、この空間に入った時点で、その者は死が確定されるのだ。
見えない8つの掟は、こうだ。
①許可なく声を発することを禁ずる。
②無礼な態度を取ることを禁ずる。
③頭を上げることを禁ずる。
④泣く、または叫ぶことを禁ずる。
⑤必要以上に恐れることを禁ずる。
⑥歯向かうことを禁ずる。
⑦逃げることを禁ずる。
そして……
⑧生きることを禁ずる。
魁蓮を前にして、希望の光がある訳ないのだ。
自分ガ何者カ、考エタトコハアルカ?」
「………………あ?」
魁蓮の結界内。
異型からの突然の質問に、魁蓮は眉間に皺を寄せた。
「何の話だ」
「イヤ、気ニスルナ。チョットシタ好奇心ダ。
封印サレテイタトハイエ、1000年モ生キテイレバ己ヲ見ツメ返スコトデモアルノカト思ッテナ……」
異型は軽々と死体たちから逃げながらも、その鋭い視線は魁蓮に向いていた。
その瞳の奥に隠されている本音は何なのか、さっぱり分からない。
でも、何かを訴えかけているような異型の視線に、魁蓮は目を細めた。
「見つめ返すことなど無い。
我は好きに生きている、それだけだ」
自分が何者なのか。
正直、そんなことを考えなくても、魁蓮がどんな男なのかは言わずと知れている。
伝説も語り継がれ、数え切れない噂もある存在。
今更見つめ直したところで、何かが変わるわけでも無いのだ。
そしてそれは、魁蓮が1番理解している。
自分が何者なのかと、不思議に思ったことなど無い。
しかし、そんな魁蓮の返答に、異型は憐れみの表情を浮かべた。
「好キニ生キテイル、カ……ソノ言葉、彼ヲ前ニシテモ言エルカ?
ソナタノ傍ニイル、アノ白髪ノ少年ノ前デ」
「…………は?」
異型の言葉に、魁蓮は片眉を上げた。
魁蓮の傍にいる白髪の少年、そんなの一人しかいない。
魁蓮の脳裏に、日向の姿が浮び上がる。
「何故そこで、小僧が出てくる。
彼奴は何の関係もないだろう」
「イヤ……大イニアル」
すると異型は、足に妖力を込め始めると、グッと力を入れて飛び跳ねた。
脚力が瞬時に上がった異型は、そのまま、 死体の山の上にいる魁蓮の元へと向かい、軽々と死体の山の上へと降り立つ。
そして、その玉座の上で居座る魁蓮に、鋭い視線を改めて向けた。
「白髪ノ少年ハ、昔カラ待チ望ンデイル。
自分ノ全テヲ奪ッタソナタガ、朽チ果テル日ヲ……」
「……………………」
異型の発言に、魁蓮は目を見開いた。
朽ち果てる日、つまり魁蓮が死ぬ日ということ。
その日を、日向は待ち望んでいる。
異型はそう言っているのだ。
「教エテヤロウ、鬼ノ王。ソナタガ何者カ。答エハ簡単ダ。ソナタハ、死ヌベキ存在。生キル意味ナド無イ」
「…………」
「鬼ノ王、彼ガ大事ナノダロウ?ナラ言エルカ?
ソナタニ早ク死ンデ欲シイト望ンデイル彼ノ前デ、自分ハ好キニ生キテイル、ト。彼ノ願イニ反スル事ヲ、目ノ前デ言エルカ……?」
端的、でも深い意味が込められている言葉。
きっと異型は、自分が大事にしているものが傷つくような、嫌がるようなことが言えるのかと聞いている。
どうやら異型は、日向が魁蓮にとっては宝も同然の存在だと思っているようだ。
魁蓮は、ただ静かに異型の言葉を聞いていた。
魁蓮に死んで欲しいと望んでいる者は、この世には数え切れないほどいるだろう。
人間や仙人の天敵であり、妖魔からすれば決して崩すことの出来ない大きな壁。
どこを汲み取っても立ち塞がってくる魁蓮を、生きていて欲しいと心から望む者はほぼ居ない。
それは魁蓮も分かっている事だった。
「小僧が、我に死んで欲しいと望んでいる、か……」
思えば誕生したその日から、魁蓮は狙われ続ける日々だった。
存在自体が害として扱われ、魁蓮が生き続けることを喜ぶ者はいなかった。
四方八方から呪われ続け、そして忌み嫌われる。
普通の人ならば、居場所なんてものが無いほどだ。
でも、それを乗り越えながら生きていけるのは、彼が魁蓮だから。
彼が……妖魔の頂点に立つ、王だから。
「ククッ……フフフッ……。
貴様が小僧の何を知っている?知ったような口を叩くな、下劣が」
「……?」
「我が死ぬ事が、本当に小僧の望みならば……まあ聞いてやらんことも無い。彼奴の我儘を聞くのは、悪い気はせん。しかしなぁ……我が死ねば、貴様らは小僧を奪いに来る可能性がある。
ならば、我は何があっても死ぬことは出来ぬ」
「ッ……!」
周りからどう思われようと、魁蓮からすればどうでもいいこと。
死んで欲しいと望まれているから何だ、生きることが罪と言われることが何だ。
自分より弱者の嘆きも願いも、彼には届かない。
生きることに執着しているわけでは無いが、死ぬ理由があるわけでもない。
ならば、満足するまで生きてみるのも悪くない。
そして何より、今は日向という存在がある。
誰にも奪われたくない、自分だけのものにし続けたいと思う存在がいる。
「我は死ねと望まれることより、小僧が貴様らに奪われることの方が癪に障る。小僧の願いは、せめて貴様らを皆殺しにしてから聞いてやろう」
その時、魁蓮は自分を真っ直ぐに見てくる異型の頭に、ガンっと足を乗せた。
力も上乗せされた魁蓮の足で、異型は体勢を崩し、死体の山に顔を突っ込んでしまう。
強制的に頭を下げられた異型は、魁蓮に踏みつけにされながらも、ギリっと魁蓮を睨んだ。
しかし、その上を行くかのような目つきで、魁蓮は異型を鋭く見下す。
「良いか異型、耳の穴かっぽじってよく聞け。
貴様らが何をしようと、小僧は渡さん。あれは我だけのものだ」
「……ッ……」
「小僧に少しでも手を出してみろ……。
地獄の果てだろうと、貴様らを必ず殺してやる」
【僕の全部をあげる代わりに……お前は、僕を万物から守ってくれるんだろ……なら、最後までやれよ。
逃げないから……ちゃんと、守ってくれ。この呪縛が、意味無くなるくらい……】
あの日、城の大浴場で日向から言われた言葉。
その言葉が、魁蓮の脳裏に蘇る。
強く決心したあの日、そう、あの日からだ。
あの美しい見た目も、美しい力も、美しい心も。
全て自分のもの、自分だけのものと魁蓮が思うようになったのは。
もう誰にも渡さないと、魁蓮は決めている。
きっと、無意識に鬼の王の地雷となっている日向は知らないだろう。
魁蓮の存在そのものが、日向に危険が及ぶことへの抑止力になっているなんて……。
「貴様が小僧を語るな、無礼者」
「……コノ、半端者ガッ……」
「貴様には言われとうない。
妖魔と仙人を混ぜ合わせた存在など、気色悪い」
「貴様モ……似タヨウナモノダロッ……」
「ハハッ…………………………さあな」
魁蓮からすれば、実にいい眺めだった。
ずっと煽ってきていた異型が、歯を食いしばりながら頭を下げる姿は、魁蓮の機嫌をなおすには良い材料だった。
ぐりぐりと足に力を入れれば、異型の顔面が死体の山にめり込んだ。
死んで固くなった死体、決していい匂いとも言えない反吐が出る状況。
それを楽しんで眺められるのは、彼が残虐非道な考えを持つ王だからだろう。
「はぁ……これ以上貴様を生かしても、何の意味も無い。時間の無駄……終いだ、異型」
「ッ!」
魁蓮がそう言った瞬間。
魁蓮たちがいる空間の空気が、ドッと重くなる。
その異変に気づいた異型はサッと構えるも、無駄だった。
「忘れてはおらんだろうな?ここは我の支配下、見えない8つの掟がある。だが、貴様は掟を破った。よって貴様に判決を言い渡す。当然、死刑だ…………」
「ッ!貴様ッ」
「ククッ…………さらばだ、異型。
《死して花となり、そして散れ》」
直後……。
ザンッ!!!!!!!!!!!!!!!
大きな斬撃音が、空間に響き渡った。
その音とともに、異型が激しく切り刻まれる。
しっかり形として成していた異型の体は、見るも無惨に木っ端微塵にされてしまい、切り刻まれた肉片は、ボトボトと湖の中へと落ちていった。
そしてその肉片を、ずっと大人しく待っていた死体たちが、群がり、そして食い荒らしていく。
その様子を見つめながら、魁蓮は薄ら笑みを浮かべた。
「期待外れだったなぁ……力は持っているが、やはり使いこなせてはいなかった。ククッ、宝の持ち腐れだ」
死体たちに食い荒らされる異型の肉片。
食べたらどんな影響があるかは分からなかったが、死体たちに新たに命令を出すのも面倒で、魁蓮はそのまま食い荒らす死体たちを放置した。
「とりあえず、異型の正体は理解出来た。だが、やはり奴らの目的と、主の野望は得られんな……小僧を狙う理由も、定かになっていない。
恐らく、別の異型に問うても答える者はいないだろう」
今回ではっきりと分かった。
これ以上魁蓮が力を使っても、異型たちは自分たちのことを話さないし、主という存在についても語ることはほとんどない。
尋問をしたところで、時間の無駄になってしまう。
情報は、もう得られないだろう。
でも、ここで諦めないのが魁蓮だ。
「まあ良い、立ち向かってくれば相手をしてやれば良いだけのことだ。何ら困ることは無い」
これだけ警告を出しても諦めないのであれば、殺せばいい。
魁蓮はそう結論を出し、満足気に死体たちを見つめた。
まるで味わうように肉片を頬張る死体たち、こうして見れば、まだ生きているようにも見えた。
「ククッ……黄泉軍よ……。
十分に備えておけ、愉しい戦いが始まりそうだ」
魁蓮の奥義である、陽・死花。
この奥義に課せられた、見えない8つの掟。
奥義に捕まっても、掟さえ破らなければ、助かる道がある。
……なんて、そんな美味い話は無い。
掟を破らないようにと奮闘しても、この空間に入った時点で、その者は死が確定されるのだ。
見えない8つの掟は、こうだ。
①許可なく声を発することを禁ずる。
②無礼な態度を取ることを禁ずる。
③頭を上げることを禁ずる。
④泣く、または叫ぶことを禁ずる。
⑤必要以上に恐れることを禁ずる。
⑥歯向かうことを禁ずる。
⑦逃げることを禁ずる。
そして……
⑧生きることを禁ずる。
魁蓮を前にして、希望の光がある訳ないのだ。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる