愛恋の呪縛

サラ

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第181話

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 ドォォォォォン!!!!!!!!



 今日で何度目の轟音だろうか。
 異型妖魔が現れてから鳴り響く、耳を塞ぎたくなるほどの衝撃音。
 同時に揺れる地に、人々は悲鳴をあげながら、生き残りたいと必死に樹へと走り続けていた。

 そんな風景を横目に、魁蓮は本気を出してきた異型妖魔と戦っていた。



「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!!」

ザイ



 何度攻撃をしても立ち向かってくる異型に、魁蓮は一切の隙を見せることなく対処していく。
 人々が居なくなった町全体に広がる黒い影の上で、魁蓮は無数の斬撃を放った。
 斬撃は素早い動きで無造作に動き、立ち向かってきた異型の体を痛々しいほどに切り刻む。
 しかし……



「無駄ダ!」



 いくら切断しようと、傷を深くまで付けようと、異型は決して倒れなかった。
 斬られても、特に何の反応もすることなく、まだ魁蓮に立ち向かって来ようとする。
 それどころか、切断された体は少し時間を置いてすぐに再生していた。
 まさに終わりの見えない戦いだった。



「チッ……」



 流石の魁蓮も、この粘り強さには手を焼いていて、珍しく思考を巡らせながら戦っていた。
 気配や圧から、今までの異型妖魔たちとは違うことは分かっていた。
 恐らく、生命力も桁違い。
 それを分かっているからこそ、厄介なことこの上なかった。



「行け、ジア



 魁蓮が指示を出すと、地面に張り巡らされた黒い影から、無数の鎖が姿を現す。
 影から出てきた鎖は、真っ直ぐ異型へと向かった。
 そして、内臓まで締め付けるほどの強さで異型を縛り上げると、動きを止めようと力を増していく。



「ア゙っ……!!!!」



 固く頑丈な鎖に縛られ、異型は痛みで声を上げた。
 ずっと追いかけてきた異型も、魁蓮の鎖にはすぐに抗えず、悔しくも足が止まる。
 魁蓮はその間に、じわっと目を赤く光らせた。



 (やはり、妙だ……)



 力が宿る瞳で見えるのは、複雑な呪いのようなもの。
 異型の体を張り巡り、キツく結んでいるような。
 何かがぶつかり合うようにして、混ざりあっている、そんなものが見えた。
 これは、以前龍牙が黄泉で戦った異型妖魔と同じ。
 あの異型妖魔も、同じように複雑な呪いが混ざりあっていた。



 (かなり高度な術だ……一体誰が……)



 魁蓮がじっと見つめて観察していると……



「マダダ」



 異型は、縛られた腕や足に力を入れると、何の躊躇いもなく引き裂いた。
 ブチブチと、嫌な鈍い音をたてて引き裂かれる腕と足、そのイカれた対抗に、魁蓮も目を見開いて驚いている。
 当然、鎖はバランスを崩してしまい、異型に少しの余裕が出来た。



「コレデハ、無意味ダ」



 鎖から解放されたほんの僅かな時間。
 異型はその時間で、また新たな腕と足を再生する。
 切り刻んでも無駄だったように、縛ったところで逃げられてしまっては意味が無い。
 尽く技を回避させられることに、魁蓮は眉間に皺を寄せた。



「随分と、厄介だなぁ?貴様。殺しがいがある」



 だが、魁蓮は余裕の笑みを浮かべた。

 自分の技を克服されるから何だ、ずっと殺意を持たれることが何だ。
 つまらない戦いをするより断然いい。
 今までの中で、1番愉しく殺せるかもしれない可能性が見えてきて、魁蓮の気分は上がるばかりだ。



「異型よ、体術は得意か?」



 そう言うと魁蓮は片腕を袖から抜いて、肩脱ぎ状態になった。
 鍛え上げられた体を顕にし、魁蓮は仁王立ちで異型を待つ。
 そんな魁蓮の姿に、異型はわずかに口角を上げて、グッと足に力を入れた。
 そして、バッと魁蓮に駆け出す。



「オモシロイ。殺ス」

「ハハッ、くだらん」



 素早い速度で向かってくる異型に、魁蓮は不気味な笑みを浮かべて、グッと拳を握った。
 そして、異型が目の前まで来ると、両者は握りしめた拳をぶつけ合う。



 ドドドドド!!!!!!!



 強い力でぶつかりあった拳によって、地面が2人を中心にひび割れていく。
 突風が吹き荒れ、建物は更に崩壊。
 2人はじりじりと拳をぶつけ合いながら、互いを睨み合った。
 普通ならば、骨折では済まない状況。
 それでも無事なのは、やはり桁違いの強さを持つ者だからか。



「ククッ、来い」



 魁蓮が目の前で煽ると、異型はギリっと歯を食いしばり、そしてもう片方の拳を振り下ろす。
 しかし、魁蓮はその拳を難なく受け止めた。
 そしてもう一度、反対の拳を、そして魁蓮はそれを止める。
 素早い動きでの拳のぶつけ合い、町への被害は増大するばかりだ。
 時には足も使ったりして、両者体術中心の戦いを繰り広げる。
 だがこちらも、魁蓮の方が1枚上手で、異型は魁蓮に傷1つつけることが出来ない。



「ハハッ、体術は弱いなぁ?」

「ッ…………!!!!」



 煽られ続ける戦い。
 異型も負けじと食らいつく。
 そして再び、互いの拳がガンッとぶつかりあった。
 ジリジリと、骨が折れそうな勢いでぶつけ合う。
 異型は魁蓮を睨みつけると、小さく口を開いた。



「鬼ノ王……ソナタヲ、殺ス。
 ソシテ、覡ヲ頂ク」

「っ…………」



 ふと、異型がそんなことを言葉にした。
 戦いを楽しんでいた魁蓮も、この言葉には引っかかり、浮かべていた薄ら笑みも崩れる。
 そして冷たく、異型を睨んだ。



「覡……貴様ら、それを捕えてどうするつもりだ。
 生憎、あれは我のものだ。渡すつもりは無い」



 独占欲、というものか。
 誰かに取られてしまうと考えるだけで、魁蓮は腹が煮えくり返りそうになる。
 まして得体の知れない異型たちに、だ。
 そんなの、魁蓮が許せるはずもない。
 魁蓮が静かに尋ねると、異型は口をガパっと開けて答えた。





「ソナタノ大事ナモノ、奪イタイ。
 ソナタノ守リタイモノ、傷ツケタイ。

 主ハ、ソナタノ全テヲ、1壊シタイ」

「っ…………?」





 (もう一度、だと……?)



 異型の言葉に、魁蓮は眉を顰めた。
 もう一度、それは以前あった出来事を再度行う時に使ったりする言葉だ。
 前例が無ければ使わないもの。



「……成程、貴様らの主の目的は……我に関することか」



 そう考えれば、辻褄が合うことが多い。
 理由は幾つかある。

 異型妖魔が現れ始めたのは、魁蓮が復活した直後だったこと。
 異型からの襲撃による被害が、何かと魁蓮の周りにいる妖魔に多いこと。
 魁蓮自身に接触してくる異型妖魔が多いこと。
 何の繋がりがあるかは分からないが、覡と呼ばれている日向を狙っていること。
 そして魁蓮が白を切れば、異型妖魔たちは魁蓮を殺せと命じられていること。

 今までの異型妖魔の行動は、必ずしも魁蓮がどこかで関係していることばかり。
 むしろ、関わっていないことなんて1つもない。
 何より決定的な証拠としてあったのが、ウーが黄泉へ来た時に話した、主の手紙。





 ''私からのである、その姿と体の模様は気に入っているかい?私は、よく似合っていると思うよ。その姿を、間近で見るのが楽しみだ。
 明年7月7日。君たちにとって大切なその日に、私は君たちに会いに行こうと考えている。素晴らしいものを用意したんだ、それを贈るよ。それまで、せいぜい彼との日々を楽しむといい。
 次は……を守り抜くことが出来るかな?
 長年続く君の想い、成就することを祈ろう。
 その時は……また、壊してあげるから''





 あれはまさに、相手は魁蓮の何かを知っているような口ぶりだった。

 あの時の手紙が、主という存在からの言葉が、嫌になるほど頭から離れなかった。
 呪いのようにこびりついて、魁蓮の苛立ちを募らせていた。
 姿も力も分からない、正体不明の主。
 この半年近く、その痕跡や手がかりを探しているのに、何一つ掴めないまま。
 なのに向こうは、どんどんこちらへ近づいてきている気がする。
 誰が見ても分かる、追い込まれているのは魁蓮の方だ。



「では聞く。
 我と、貴様らの主は、何の因果がある」



 拳をぶつけ合ったまま、魁蓮は次々浮かんでくる疑問を尋ねた。
 すると異型も、同じように答える。



「ソナタハ、主ガ欲シテイタモノヲ、手ニシタ。
 ダカラ主ハ、ソレヲ奪イタイ」



 異型はそう答えると、ジリジリと拳に力を入れていく。
 じわじわと押してくる異型に、魁蓮は小さく歯を食いしばった。
 これだけ聞いても、何も分からない。
 1番知りたいが、得られていない気がする。
 すると異型は、魁蓮に向かって突然叫んだ。





「渡セ、早ク渡セ。
 七瀬日向 モトイ 天花寺雅ヲ、渡セ!!!!!」





 その時…………。





 ピューーー…………





「っ…………」





 遠くの方で、何か音がした。
 その音を聞き取った魁蓮は、チラッと音のした方へと視線を向ける。
 すると、何やら空に向かって飛んでいるものを見つけた。



 (あれは……)



 僅かに目を凝らすと……
 飛んでいたのは、1本の矢だった。
 しかもただの矢では無い、矢の先端にかぶらのようなものがついている。
 あれは、鏑矢かぶらやだ。
 そして魁蓮は、あるものを感じ取った。



 (あの矢……霊力が……)



 空に向かって飛ぶ鏑矢には、仙人の霊力が込められていた。
 細かいところまで見分けることが出来る魁蓮は、その霊力が誰のものなのかを感じ取る。
 他の仙人とは少し違う、強い正義感のある霊力。
 そして異型が気づきにくい、絶妙なバランスで打ち上げてきた頭のいい飛ばし方。



「……ガキか……」



 その霊力は、凪のものだった。
 それに気づくと、魁蓮は目を動かして、辺りの町を見渡す。
 まだ人間たちの避難が追いついていなかった町は、いつの間にかもぬけの殻。
 逃げ遅れた人も居らず、残っていたのは建物だけ。

 恐らく、避難が終わったことを知らせるために、凪は鏑矢を打ったのだろう。
 それはまさに、、そう言っているようだった。



「ククッ……よく出来た餓鬼ではないか……」



 凪の意図を理解した魁蓮は、ゆっくりと全身に妖力を回した。
 力を増してきていた異型よりも、遥かに強い妖力を。
 当然、異型も魁蓮の変化に気づき、ハッとする。



「遊戯は終いだ、異型……貴様を滅ぼす手段は探ればあるのだろうが……すまんなぁ、少々面倒だ。
 少しばかり、楽をさせて貰う」



 その時、魁蓮の瞳がギラッと赤く光った。
 眩い光を宿す赤い瞳は、しっかりと異型を捉えて。
 異型がその反応にビクッと驚いていると、魁蓮は異型とぶつけ合っていた拳をグイッと引いて、妖力を瞬時に強める。
 普段の戦いでは使わない、大量の妖力。
 魁蓮はそれを、人間がいなくなった町全てに広げた。

 そして、口にする。





「奥義 陽・死花スウファ





 復活以来、2度目となる鬼の王の奥義。
 だが今度は、前回のような半端では終わらない。

 鬼の王の、本来の奥義が繰り出される。
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