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第170話
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「ところで司雀。最近、魁蓮は帰ってきたのかよ」
「「「「っ………………」」」」
龍牙の発言に、その場の空気がピリッとなった。
ガツガツと進めていたおにぎりを食べる皆の手も、少しずつ遅くなっていく。
楽しかった空気は一変し、全員が司雀へと視線を向けた。
すると司雀は、目を伏せて口を開いた。
「そうですね……前回は、1週間前の夜中に帰ってきましたよ。と言っても、陽も上がらないうちに出ていきました。いつも通りです」
「そう……まあ、帰ってんなら良かったわ」
司雀の返答に、龍牙は視線を落とした。
あれから魁蓮は、ほとんど城に留まらなくなった。
あの言い争いの日からずっと、魁蓮は現世に身を置くようになっている。
そして真夜中、皆が寝静まっている時間帯に戻ってきては、休むことなく再び現世へ行く。
それがずっと繰り返されていたのだ。
唯一、魁蓮は司雀だけには軽く事情を話すことがあるらしく、司雀だけは魁蓮に会っているとのこと。
だが、大した会話はしていないらしい。
それも、会うのは司雀がたまたま起きていた時。
帰ってくる度に、会っているわけではないのだと。
逆に言えば、日向と司雀以外の肆魔は、かれこれ3か月以上魁蓮に会っていないのだ。
魁蓮がいない生活には慣れてきたものの、やはり肆魔の寂しい思いは拭えない。
「あーあ、魁蓮もひでぇな?俺があんだけ行かないでーって伝えたのに、全部無視かよ!」
龍牙は愚痴を零しながら、ゴロンと横になる。
結果的に、1人にならないで欲しいという肆魔の願いは、本人には届かず終い。
それどころか、城にいる時間が急激に減って、現世のどこにいるのかも分からない。
強い力を持つ肆魔でさえ、何も出来なくてお手上げ状態だ。
「ったく、早く帰ってこいってのー。俺たちめっちゃ成長してんのにさぁ?」
「皆さんのことは、ちゃんと魁蓮に報告していますよ。というか、ちゃんと聞いてもらうように話していますから」
「でも大して返答は無いんだろ?そんなの寂しいじゃーん!もっと俺たちのこと、気にかけてくれてもよくないー!?」
龍牙は子どものように、駄々をこねた。
だが、本音は皆似たような思いを抱えている。
せっかく1000年ぶりに復活したというのに、こうして会えない日が続くと、封印されていた頃と何ら変わらない。
会えるのに会えない、もどかしくて仕方が無かった。
「……ごめん、みんな……」
ふと、日向が小さく声を漏らす。
掠れたような日向の声に、龍牙の話を聞いていた全員はぐるっと視線を日向に向けた。
だが、日向は向けられる視線を気にすることなく、どこか追い詰めているような表情を浮かべている。
そんな日向に、駄々をこねていた龍牙は焦った。
「えっ……な、なんで日向が謝んの……?俺、日向が気にするようなこと言っちゃった……!?なんか傷つけたならごめん!でも俺、日向のこと悪いだなんてっ」
「ううん、そうじゃないよ龍牙。ただ……
あの時、僕が魁蓮に向かって怒鳴ったのが、悪かったのかもしれないから……」
日向は、お茶を持つ手に力が入る。
3ヶ月前。
魁蓮のあまりにも心無い一言に、日向はこの上ないほどに激怒した。
いつまでも冷たく接する魁蓮に我慢できず、無我夢中で怒鳴り散らかしてしまった。
あの時は、ただ感情に身を任せていたから深くは考えなかったが、今思えば良くない行動だったのかもしれない。
「人間嫌いのあいつが、人間の僕から怒鳴られるなんて……絶対ムカつくだろ。なんでお前は皆の気持ちが分からないんだって言ったけど……。
僕だって、人の気持ちをろくに汲み取れたこともないのに、どの口が言ってんだって話だよな……」
あの時の魁蓮の返答は、きっと誰が聞いても酷いものだと分かる言葉だ。
相手を思いやれない、冷たい返し。
でも、日向は忘れていた。
魁蓮という男は、何を考えているか分からない。
本心を隠して生きる、ほとんど謎に包まれた男だ。
そんな男が吐く言葉の全てが、本心だとは限らない。
何かを秘めて吐く言葉が、あるかもしれない。
それを、分かっていたはずなのに…………。
「馬鹿だよなぁ……僕の方こそ、魁蓮がどんな気持ちなのか考えないで、ただ一方的に責めてさぁ……。
なんでこんなに、上手くいかないんだろ……」
日向は、膝を曲げて顔を埋めた。
ここで弱音を吐くものではないことは分かっている。
吐いたら負け、皆に気を遣わせることになる。
そんなの、慰めてくださいと言っているようなもの、情けなさすぎる。
だから日向は、何とか笑顔を取り戻そうと深呼吸をして落ち着く。
いつも通りの調子に戻れば……
そう、思っていた時だった。
「なんか……魁蓮の気持ち、すげぇ分かるかも。
日向を手離したくない気持ち……」
「……えっ……?」
落ち着きを取り戻そうとしていた日向は、ふと聞こえた龍牙の言葉に顔を上げる。
すると、優しい笑みを浮かべながら日向を見つめる肆魔の顔が見えた。
どうしてそんな笑顔なのか、日向がポカンとしていると、龍牙はそのまま言葉を続ける。
「俺、見たことないんだけど。魁蓮のことをそこまで考えてくれる人間。人間と言ったら、魁蓮が鬼の王って理由だけで嫌うようなクソッタレな奴しか記憶にない」
「っ…………」
「幸せもんだなぁ魁蓮は。こんなに考えてくれる人が近くにいてさぁ。もう、ちょー羨ましい!」
すると、そんな龍牙の言葉に乗っかるように、忌蛇と虎珀も優しい笑みを浮かべたまま口を開いた。
「龍牙さんの言う通り。それにさ、魁蓮さん変わったよね?日向と出会ってから。なんか、丸くなった」
「魁蓮様は昔から素晴らしい方だが、その意見は一理あるな。昔よりは分かりやすくなったかもしれない」
3人の言葉に、日向は何も言えなかった。
一体、彼らは何を言っているのだろうか。
褒められたり、賞賛されるようなことはしていない。
それなのに、どうしてここまで優しくしてくれるのだろうか。
せっかくの生活を、壊したかもしれないのに。
日向がそんなことを考えていると、司雀がコホンっと咳払いをして、日向に向き直る。
「日向様。誰も、貴方のせいだとは思っていません。むしろ、我々の気持ちを理解してくれた貴方には感謝しかないのです。言葉で言い表しづらい我々に代わって、貴方は魁蓮に伝えてくれた。それだけで十分です」
「そんなのっ、お礼されるようなことじゃない」
「いいえ、とても感謝しています。それに……
貴方は魁蓮にとって、良い刺激になっています」
「……良い、刺激?」
日向が首を傾げると、他3人は縦に首を動かす。
「もしかして日向、気づいてないの?勿体ねぇ!
魁蓮、日向といる時すげぇ楽しそうだぜ?」
「僕もそう思う。態度とか顔にはあまり出さないけど、結構楽しんでるよ。普段の何気ない会話も」
「あぁ、確かにお前は良い刺激だな。
何だ人間、俺たち肆魔の気持ちは理解できるのに、魁蓮様の考えていることはこれっぽっちも分かってないんだな?どちらかと言えば、魁蓮様の方が分かりやすいぞ」
3人の言葉に、日向は唖然とした。
彼らは日向に比べて、魁蓮と過ごした年月がはるかに長い。
そして、ずっと魁蓮の背中を追いかけていた。
当然、魁蓮の些細なこともそれなりに知っているだろう。
1人だけの意見ならば良かった、だが肆魔全員が同じ意見を持っているなんて。
完全に、その通りだと言っているようなものだ。
日向は今言われた言葉が受け止められず、頭が困惑する。
そんな日向を見た龍牙は、ニヤッと口角を上げた。
「なぁ日向。あの時、日向が言った言葉。そのまま返してやるよ」
「……えっ、何?」
何を言われるのかと日向が身構えると、龍牙は満面の笑みを浮かべて、首をコテンっと傾げた。
「日向が思ってる何百倍も、魁蓮は日向のこと大事に思ってんだからなっ!」
「っ………………………………」
その言葉に、日向は目を見開く。
それは3ヶ月前、日向が魁蓮に言った言葉の通りだった。
【お前は優しい面も、頼りがいのある面もあるのに、どうして肝心なところでそれが出来ない!?周りをそんなに見ているなら、少しくらい気づいてやれよ!皆がお前に対して何を思ってんのか!!!
お前が思ってる何百倍も、皆はお前のこと大事に思ってんだからな!?】
日向は、龍牙の言葉に顔が赤くなる。
あの時自分が言った言葉が返ってきたことにも驚きだが、それ以上に龍牙の言葉が受け止めきれない。
もしそれが本当だとしたら、日向からすれば落ち着けないのだ。
加えて今の龍牙の言葉に、他の3人は否定しない。
むしろ、同じ意見だと言っているかのように、笑顔を浮かべて日向を見ている。
それが何を意味しているのか、日向だって分からないわけが無い。
彼らが今言った言葉は……
紛れもない、魁蓮が抱えている思いなのだと。
「……ん?どうした日向。なんか顔赤いけど」
「へっ!?!?!?!?」
龍牙の突然の指摘に、日向は間抜けが入った大きな声を上げる。
しまった、完全にやらかした。
分かりやすいくらい表情に出る日向は、赤面している自分の顔を隠そうと必死になる。
「か、顔赤い!?あ、あはは!何でだろな!ち、力使いすぎて暑くなったのかなぁ!?あははっ!」
その時、日向の背後に数本のツルが姿を現した。
同時に大きな木がメキメキと伸び始め、草むらには色とりどりの花がポンポン咲いていく。
それだけには留まらず、花はどんどん茎を伸ばし、そしてありえないほど巨大化してきた。
「ちょちょちょちょっ!?なになになに!?
日向!力、暴走してるって!」
「ひ、日向っ!落ち着いて!」
「おい人間!急に何だ!早く止めろ!!」
「え?おわっ!なんでこんなに力が反応してるわけ!?ちょっ、みんな落ち着いて?」
「「「アンタが落ち着け!!!!!!!」」」
いきなり日向の力に反応し始めた庭に、龍牙と虎珀と忌蛇は大慌て。
ただ1人、司雀だけは微笑んでいた。
周りで植物たちが暴れ回る中、司雀はずずっとお茶を飲んで落ち着くと、騒ぎまくる日向たちに向かって声をかける。
「おやおや、どうやら……
思っていた以上に、日向様は魁蓮のことを心から好いてくれているようですね。とっても嬉しいです」
「「「「……えっ……?」」」」
「「「「っ………………」」」」
龍牙の発言に、その場の空気がピリッとなった。
ガツガツと進めていたおにぎりを食べる皆の手も、少しずつ遅くなっていく。
楽しかった空気は一変し、全員が司雀へと視線を向けた。
すると司雀は、目を伏せて口を開いた。
「そうですね……前回は、1週間前の夜中に帰ってきましたよ。と言っても、陽も上がらないうちに出ていきました。いつも通りです」
「そう……まあ、帰ってんなら良かったわ」
司雀の返答に、龍牙は視線を落とした。
あれから魁蓮は、ほとんど城に留まらなくなった。
あの言い争いの日からずっと、魁蓮は現世に身を置くようになっている。
そして真夜中、皆が寝静まっている時間帯に戻ってきては、休むことなく再び現世へ行く。
それがずっと繰り返されていたのだ。
唯一、魁蓮は司雀だけには軽く事情を話すことがあるらしく、司雀だけは魁蓮に会っているとのこと。
だが、大した会話はしていないらしい。
それも、会うのは司雀がたまたま起きていた時。
帰ってくる度に、会っているわけではないのだと。
逆に言えば、日向と司雀以外の肆魔は、かれこれ3か月以上魁蓮に会っていないのだ。
魁蓮がいない生活には慣れてきたものの、やはり肆魔の寂しい思いは拭えない。
「あーあ、魁蓮もひでぇな?俺があんだけ行かないでーって伝えたのに、全部無視かよ!」
龍牙は愚痴を零しながら、ゴロンと横になる。
結果的に、1人にならないで欲しいという肆魔の願いは、本人には届かず終い。
それどころか、城にいる時間が急激に減って、現世のどこにいるのかも分からない。
強い力を持つ肆魔でさえ、何も出来なくてお手上げ状態だ。
「ったく、早く帰ってこいってのー。俺たちめっちゃ成長してんのにさぁ?」
「皆さんのことは、ちゃんと魁蓮に報告していますよ。というか、ちゃんと聞いてもらうように話していますから」
「でも大して返答は無いんだろ?そんなの寂しいじゃーん!もっと俺たちのこと、気にかけてくれてもよくないー!?」
龍牙は子どものように、駄々をこねた。
だが、本音は皆似たような思いを抱えている。
せっかく1000年ぶりに復活したというのに、こうして会えない日が続くと、封印されていた頃と何ら変わらない。
会えるのに会えない、もどかしくて仕方が無かった。
「……ごめん、みんな……」
ふと、日向が小さく声を漏らす。
掠れたような日向の声に、龍牙の話を聞いていた全員はぐるっと視線を日向に向けた。
だが、日向は向けられる視線を気にすることなく、どこか追い詰めているような表情を浮かべている。
そんな日向に、駄々をこねていた龍牙は焦った。
「えっ……な、なんで日向が謝んの……?俺、日向が気にするようなこと言っちゃった……!?なんか傷つけたならごめん!でも俺、日向のこと悪いだなんてっ」
「ううん、そうじゃないよ龍牙。ただ……
あの時、僕が魁蓮に向かって怒鳴ったのが、悪かったのかもしれないから……」
日向は、お茶を持つ手に力が入る。
3ヶ月前。
魁蓮のあまりにも心無い一言に、日向はこの上ないほどに激怒した。
いつまでも冷たく接する魁蓮に我慢できず、無我夢中で怒鳴り散らかしてしまった。
あの時は、ただ感情に身を任せていたから深くは考えなかったが、今思えば良くない行動だったのかもしれない。
「人間嫌いのあいつが、人間の僕から怒鳴られるなんて……絶対ムカつくだろ。なんでお前は皆の気持ちが分からないんだって言ったけど……。
僕だって、人の気持ちをろくに汲み取れたこともないのに、どの口が言ってんだって話だよな……」
あの時の魁蓮の返答は、きっと誰が聞いても酷いものだと分かる言葉だ。
相手を思いやれない、冷たい返し。
でも、日向は忘れていた。
魁蓮という男は、何を考えているか分からない。
本心を隠して生きる、ほとんど謎に包まれた男だ。
そんな男が吐く言葉の全てが、本心だとは限らない。
何かを秘めて吐く言葉が、あるかもしれない。
それを、分かっていたはずなのに…………。
「馬鹿だよなぁ……僕の方こそ、魁蓮がどんな気持ちなのか考えないで、ただ一方的に責めてさぁ……。
なんでこんなに、上手くいかないんだろ……」
日向は、膝を曲げて顔を埋めた。
ここで弱音を吐くものではないことは分かっている。
吐いたら負け、皆に気を遣わせることになる。
そんなの、慰めてくださいと言っているようなもの、情けなさすぎる。
だから日向は、何とか笑顔を取り戻そうと深呼吸をして落ち着く。
いつも通りの調子に戻れば……
そう、思っていた時だった。
「なんか……魁蓮の気持ち、すげぇ分かるかも。
日向を手離したくない気持ち……」
「……えっ……?」
落ち着きを取り戻そうとしていた日向は、ふと聞こえた龍牙の言葉に顔を上げる。
すると、優しい笑みを浮かべながら日向を見つめる肆魔の顔が見えた。
どうしてそんな笑顔なのか、日向がポカンとしていると、龍牙はそのまま言葉を続ける。
「俺、見たことないんだけど。魁蓮のことをそこまで考えてくれる人間。人間と言ったら、魁蓮が鬼の王って理由だけで嫌うようなクソッタレな奴しか記憶にない」
「っ…………」
「幸せもんだなぁ魁蓮は。こんなに考えてくれる人が近くにいてさぁ。もう、ちょー羨ましい!」
すると、そんな龍牙の言葉に乗っかるように、忌蛇と虎珀も優しい笑みを浮かべたまま口を開いた。
「龍牙さんの言う通り。それにさ、魁蓮さん変わったよね?日向と出会ってから。なんか、丸くなった」
「魁蓮様は昔から素晴らしい方だが、その意見は一理あるな。昔よりは分かりやすくなったかもしれない」
3人の言葉に、日向は何も言えなかった。
一体、彼らは何を言っているのだろうか。
褒められたり、賞賛されるようなことはしていない。
それなのに、どうしてここまで優しくしてくれるのだろうか。
せっかくの生活を、壊したかもしれないのに。
日向がそんなことを考えていると、司雀がコホンっと咳払いをして、日向に向き直る。
「日向様。誰も、貴方のせいだとは思っていません。むしろ、我々の気持ちを理解してくれた貴方には感謝しかないのです。言葉で言い表しづらい我々に代わって、貴方は魁蓮に伝えてくれた。それだけで十分です」
「そんなのっ、お礼されるようなことじゃない」
「いいえ、とても感謝しています。それに……
貴方は魁蓮にとって、良い刺激になっています」
「……良い、刺激?」
日向が首を傾げると、他3人は縦に首を動かす。
「もしかして日向、気づいてないの?勿体ねぇ!
魁蓮、日向といる時すげぇ楽しそうだぜ?」
「僕もそう思う。態度とか顔にはあまり出さないけど、結構楽しんでるよ。普段の何気ない会話も」
「あぁ、確かにお前は良い刺激だな。
何だ人間、俺たち肆魔の気持ちは理解できるのに、魁蓮様の考えていることはこれっぽっちも分かってないんだな?どちらかと言えば、魁蓮様の方が分かりやすいぞ」
3人の言葉に、日向は唖然とした。
彼らは日向に比べて、魁蓮と過ごした年月がはるかに長い。
そして、ずっと魁蓮の背中を追いかけていた。
当然、魁蓮の些細なこともそれなりに知っているだろう。
1人だけの意見ならば良かった、だが肆魔全員が同じ意見を持っているなんて。
完全に、その通りだと言っているようなものだ。
日向は今言われた言葉が受け止められず、頭が困惑する。
そんな日向を見た龍牙は、ニヤッと口角を上げた。
「なぁ日向。あの時、日向が言った言葉。そのまま返してやるよ」
「……えっ、何?」
何を言われるのかと日向が身構えると、龍牙は満面の笑みを浮かべて、首をコテンっと傾げた。
「日向が思ってる何百倍も、魁蓮は日向のこと大事に思ってんだからなっ!」
「っ………………………………」
その言葉に、日向は目を見開く。
それは3ヶ月前、日向が魁蓮に言った言葉の通りだった。
【お前は優しい面も、頼りがいのある面もあるのに、どうして肝心なところでそれが出来ない!?周りをそんなに見ているなら、少しくらい気づいてやれよ!皆がお前に対して何を思ってんのか!!!
お前が思ってる何百倍も、皆はお前のこと大事に思ってんだからな!?】
日向は、龍牙の言葉に顔が赤くなる。
あの時自分が言った言葉が返ってきたことにも驚きだが、それ以上に龍牙の言葉が受け止めきれない。
もしそれが本当だとしたら、日向からすれば落ち着けないのだ。
加えて今の龍牙の言葉に、他の3人は否定しない。
むしろ、同じ意見だと言っているかのように、笑顔を浮かべて日向を見ている。
それが何を意味しているのか、日向だって分からないわけが無い。
彼らが今言った言葉は……
紛れもない、魁蓮が抱えている思いなのだと。
「……ん?どうした日向。なんか顔赤いけど」
「へっ!?!?!?!?」
龍牙の突然の指摘に、日向は間抜けが入った大きな声を上げる。
しまった、完全にやらかした。
分かりやすいくらい表情に出る日向は、赤面している自分の顔を隠そうと必死になる。
「か、顔赤い!?あ、あはは!何でだろな!ち、力使いすぎて暑くなったのかなぁ!?あははっ!」
その時、日向の背後に数本のツルが姿を現した。
同時に大きな木がメキメキと伸び始め、草むらには色とりどりの花がポンポン咲いていく。
それだけには留まらず、花はどんどん茎を伸ばし、そしてありえないほど巨大化してきた。
「ちょちょちょちょっ!?なになになに!?
日向!力、暴走してるって!」
「ひ、日向っ!落ち着いて!」
「おい人間!急に何だ!早く止めろ!!」
「え?おわっ!なんでこんなに力が反応してるわけ!?ちょっ、みんな落ち着いて?」
「「「アンタが落ち着け!!!!!!!」」」
いきなり日向の力に反応し始めた庭に、龍牙と虎珀と忌蛇は大慌て。
ただ1人、司雀だけは微笑んでいた。
周りで植物たちが暴れ回る中、司雀はずずっとお茶を飲んで落ち着くと、騒ぎまくる日向たちに向かって声をかける。
「おやおや、どうやら……
思っていた以上に、日向様は魁蓮のことを心から好いてくれているようですね。とっても嬉しいです」
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