愛恋の呪縛

サラ

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第133話

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 忌蛇との話を終えた日向は、魁蓮に愛を知ってもらうために、早速行動していた。
 最終目標としては、魁蓮に恋愛としての愛を知ってもらうこと。
 それを条件とされている。

 だがそのためには、まずは下調べが必要だ。
 そう考えた日向がした行動は……



「アイツって……いつも、何やってるんだ……?」



 そう、本人の情報収集だ。
 考えてみれば、日向は魁蓮のことをあまり知らない。
 知っていることとすれば……
 朝が弱く、寝ぼけることが多い。
 人間は食べず、食事は至って普通。
 蓮をはじめとした花が好き。
 蓮蓉餡の饅頭が好物、ということくらいだ。
 基本中の基本すぎて、魁蓮という男がどういった男なのか、全く知らない。
 ならば、まずは対象について知るのが先だろう。



「どこ居るんだー?アイツ」



 手に情報を書くための書き物を持ち、日向は魁蓮の姿を探した。

 あくまでこれは、情報収集。
 情報が得られなければ、意味が無い。
 そして魁蓮は、自分のことを語らない男だ。
 つまり、日向が質問したところで、魁蓮は答えてくれないだろう。
 となると、この情報収集は決してバレてはいけない。
 極秘の任務(?)だ。



「あっ、いた」



 しばらく城を歩き回っていると、日向はある一室にいる魁蓮の姿を見つけた。
 部屋の看板を見ると、「書物庫」と書かれている。
 聞いた話によれば、ここは様々な書物が置かれているらしい。
 古いものから新しいものまで、何でも置いている。
 そして魁蓮が封印されている間、必要かもしれないと思った情報を、司雀が全て書き留めていた記録の書物もあるらしい。
 魁蓮は、自分がいなかった間のことは、この場所へ来て学んでいるんだとか。
 1000年間の出来事を記録するなんて、本当によく出来た側近だ。



「……………………」



 書物を、まじまじと見つめる魁蓮。
 魁蓮は、どちらかと言えば博識らしい。
 勉強は嫌いではないらしく、情報を得るためと考えれば、率先して動くのだと。
 今読んでいるのは、結界術についての書物だ。
 その近くでは、妖力や霊力、今まで目撃しためずらしい戦い方をする妖魔についての書物が積み上げられている。



「やっぱ、戦闘系は好きなんかな……」



 日向は曖昧ながらも、そのことを書き留める。
 強者は基本的に、戦う術について常に研究しているような者たちばかりだ。
 魁蓮もその1人と考えれば、余程戦う術について研究したのか。
 それとも、元の才能があったのか。
 どちらにせよ、魁蓮の強さはしっかりと証明されている。



 (まあとにかく、アイツより強い妖魔は、いないかもしれないな)



 鬼の王の強さは、こういう見えない場所で積み重ねられているのだろう。
 そう考えれば、彼は案外、努力家なのだろうか。






┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





 次に魁蓮が向かったのは、大広間。
 どうやら、今日はが来る日らしい。
 そう、客という名の犠牲者、と言えようか。
 日向は以前、豊作を願って訪れた客のことを思い出して、少し気が滅入ったままついて行く。
 あの時の客は、現世にいる妖魔たちの豊作のため、人間の死体を捧げ物として持ってきた結果、魁蓮の怒りを買い殺されたのだ。
 魁蓮は、黄泉に住む妖魔以外の妖魔や人間には、とことん厳しい。
 また、新たに殺される妖魔が増える予感がした。

 そしてその予感は、見事的中した。
 しばらく話が飛び交っていると、空気が一変。
 大広間から聞こえてくるのは、願いを聞き入れてくれなかった妖魔たちの悲鳴。
 日向は若干耳を塞ぎながら、魁蓮の情報を得ようと頑張る。



「有象無象共は、いつの時代もくだらんな」



 ちらっと中を覗けば、惨い状態で妖魔の体が飛び散り、辺り一面血だらけ。
 その中心では、眉間に皺を寄せる魁蓮が。



 (うぉぉ……めっちゃ不機嫌……)



 今の魁蓮は、あまり刺激しない方が良さそうだ。
 ふと、客の妖魔たちが持ってきたものに視線を向けると、そこには人間の死体が。
 日向はその死体に、ゾワッと背筋が凍る。
 それと同時に、納得してしまった。



 (魁蓮って、人間食べないもんなぁ……)



 ならば、あの手土産は最悪だろう。
 以前と同じ捧げ物、そりゃあ機嫌も悪くなる。
 そもそも、魁蓮が人間を食べないという情報は、あまり出回っていないのだろうか。
 魁蓮は大広間に置きっぱなしにされた死体を、ガンっと乱暴に蹴ると、少し不機嫌なまま大広間を出ていった。



「……え、これ誰が片付けるん?」



 そんな疑問を抱きながら、日向は魁蓮を見失わないようにと、慌てて後を追いかけた。





┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





 不機嫌なまま魁蓮が向かったのは、城下町。
 司雀からの情報では、現世に行かない日は城の中にいることが多いが、気晴らしとして城下町に行くこともあるという。
 恐らく、先程の1件のせいで不機嫌になってしまったため、気分転換するために行ったのだろう。
 そう考えると、魁蓮は自分の精神状態を管理するのは、かなり上手なのかもしれない。



 (あ、やっぱり注目浴びてる……)



 城下町へ降りると、魁蓮は一瞬にして妖魔たちの視線を独り占め。
 女妖魔たちからは憧れの眼差しを向けられ、男妖魔たちからは尊敬の眼差しを向けられている。
 中には、少し怯えている妖魔もいるが、魁蓮は何も気にしていない。
 視線を向けられることに慣れているせいか、堂々と歩いている。



 (アイツって、無駄に容姿整ってるよなぁ)



 城下町の女妖魔たちの視線と態度をみれば、一目瞭然だ。
 男の日向ですら、魁蓮はかっこいいと思う。
 女性からすれば、もうかっこいいの域を超えているのだろう。
 恋する乙女のように、女妖魔たちは目を輝かせて、キャッキャと騒いでいる。
 正直言えば、羨ましいまである光景だ。



「魁蓮様ぁ!お散歩中ですか~?」



 魁蓮が腕を組んで歩いていると、数人の若い女妖魔たちが、甘い声を出しながら近づいてきた。



 (お!女の子が、声掛けてる!!!!!)



 日向は絶好の機会だと思い、影からその様子を伺う。
 恋愛の愛を教えるための、本人の情報収集。
 こういう展開は、最低でも必要だ。
 もしかしたら、あの女妖魔の中に、魁蓮の好みの子がいるかもしれない!
 日向はこの機会を逃すまいと目をぎらりと輝かせ、いつでも情報が得られるようにと、書き物を構えた。



「我が何をしていようと、お前らには関係ない」

「いやーん!相変わらず、冷たいー!」

「魁蓮様!あっちで一緒にお酒飲みましょうよ~」

「断る」

「えぇ、どうして~?」

「ねぇねぇ魁蓮様ぁ、そろそろ私たちの誰かを好きになったりしないの~?」

「有り得んな」

「もー、冷たい!城下町にいる女妖魔は、みんな魁蓮様に夢中なのに……恋、したくないの~?」

「私、魁蓮様のお嫁さんになりたい~!もうすっごい好きだもん~!」



 (えぇ!?全員、だっ、大胆だな!!!)



 かなりグイグイ責める女妖魔たちの行動に、様子を伺っていた日向の方が恥ずかしくなってくる。
 モテる男ってのは、いつもこうなのか?
 町を歩けば注目を浴びて、すれ違う女性たちを虜にし、嫁になりたいなどと申し込まれるのか?

 神様は、なんて不平等なのだ!?
 何より、日向にはあるひとつの不満が生まれていた。



 (僕、可愛いしか言われたことないんだけど!?)



 見た目のせいか、少々童顔で幼く見えるせいか。
 日向は、かっこいいと言われたことがない。
 現世の町でも、可愛いだの可愛いだの可愛いだの。
 男ならば、1度は言われたい言葉を、日向は未だにかけられたことがないのだ。
 かっこいい行動は、少なからずどこかで取っているはずなんだが。

 だから、日向からすれば、かっこいいと言われ続ける魁蓮が、妬ましいほどに羨ましくて仕方ない。



「くだらんことを喚くな、邪魔だ」



 そして当の本人は、この態度と反応。
 羨ましいを通り越して、ムカついてくる。
 あんなにも可愛い子たちに囲まれているというのに、一切のトキメキもないとは。
 鉄壁すぎて、むしろ可哀想だ。



「ケッ、いつか本気で好きな人ができた時、同じように振られてしまえ……!」



 嫉妬故の、薄汚い願望が浮かんでしまった。
 愛を教えてあげなければいけない本人が、こんな考えを抱いては、普通は駄目だろう。
 役目失格の域だ。

 そんなことを考えていると…………





「おいクソガキ!何してくれてんだよ!!!」





 突然、怒声が響いてきた。
 日向がその声に顔を上げると、魁蓮から少し離れた場所で、数人の男妖魔が、小さな子ども妖魔を睨みつけている。
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