愛恋の呪縛

サラ

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第104話

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 ポワッ。



 魁蓮を横向きで膝に寝かせる日向は、特に気にすることなく手に力を宿していく。
 あれから力も強くなった。
 体全てに力を込めずとも、部分的に宿すことが出来るようになっていた。
 おかげで、無駄な漏出が少なくなった。
 上手く使いこなせているだろう。



「おい小僧……」



 下から聞こえてくる、魁蓮の不機嫌な声。
 やはり、魁蓮はこの状況、不快みたいだ。
 もちろん、日向も反抗されるというのは予想出来ていたわけで。
 ムスッとした顔で、魁蓮に視線を向ける。



「なに?」

「何のつもりだ?殺されたいのか」

「はいはい、勝手に言ってろよ阿呆」

「あ?」



 これでもかという程に、眉間に皺が寄っている魁蓮の顔に、日向はそっと手を近づける。
 ギリギリ触れていない距離で、力を使った。



「おいっ」

「んもう!じっとしろって!」



 起き上がろうとする魁蓮を抑えながら、日向は力を使い続ける。
 膝枕されているのが不快なのか、勝手に押さえつけられたことが不快なのか。
 ハッキリとは分からないが、具合が悪いままにさせるのは、日向としては納得がいかない。
 殴られる覚悟で、今の状態を維持する。



「寝不足だか体調不良だか何だか知らんけど、このままにしておく訳にはいかないだろ!」

「許可なく触れるなと言っている」

「許可あったらいいのかよ。あのさぁ、前言ったろ?
 ちょっとの怪我でも構わんから、なんかあったら言ってって。怪我だけじゃなくて、具合悪いってだけでもいいんだぜ?」

「知らん」

「ったく……とにかく、大人しくしてて。そんな状態のままじゃ、皆も心配するから。ほんとにちょっとだけ我慢してくれればいいから!」

「……はぁ……」



 日向の圧に押されたのか、魁蓮は深いため息を吐くと、そのまま大人しくなった。
 とはいえ、本当に具合は悪かったのだろう。
 日向に抵抗する力も、少し優しかった。
 眉間に皺を寄せたまま、魁蓮は目を閉じる。

 やはりこの男は、何にも話してくれない。
 具合が悪いという一言も言わずに。



「いつも、何考えてんのか知らんけど……
 たまには誰かを頼ってみろよ。王だから、我慢しなきゃなんてことないだろ?」

「黙れ」

「ほんとお前は……
 じゃあせめて、僕には言ってくれない?」

「は?」

「気まぐれ程度でいいから。僕は、妖魔の体のことなんて分からない。痛みとか辛さとか苦しさとか、人間とは違うはずだから。頼ってくれないと、分かんない」

「ふん、必要ない」

「もう……」



 この男は。と思いながら、日向は力を加える。
 見た目で分かる怪我では無いため、魁蓮の様子を伺いながら、あまり力を入れすぎないよう慎重に。
 ゆっくりと力を入れると、見てすぐに分かるほどのくまは、みるみる薄くなっていった。



「どう?体、少しは軽くなってきてる?」

「……煩い」

「それはさすがに酷くねー……」



 普通に確認のつもりなのだが、魁蓮からすれば、不快に思う1つだったようだ。
 日向はため息を吐き、そのまま自分の判断で進めていくことにした。
 その時……。



 (あっ)



 ヒラリと、1枚の葉が魁蓮の頭に落ちる。
 目を閉じているせいか、魁蓮は気づいていないようだ。
 気づいていないのならばいいのか?とも思ったが、見つけてしまった日向本人は、むず痒くなってきた。
 触れてしまうのは仕方ない、と腹を括って、魁蓮の頭に触れて葉を取る。



「っ……」



 当然ながら、突然頭を触られた魁蓮は、目を開けた。
 さて、ここからどのように殺されるのだろうか。
 なんてことを考えながら、日向は取った葉を魁蓮に見せる。



「小僧」

「悪ぃ、葉っぱが落ちてきたからさ」

「……触れるな」

「ハハッ、感謝も無しかよ。はいはいすいませんね~」



 そう言いながら、日向はポンポンと優しく魁蓮の頭を叩いた。
 もう、自分から殺されに行っているようなものだ。
 しかし、今の行動は無意識の中でしてしまっていたため、日向はスンッとしている。
 自分のしてしまった行動の重大さに、気づかない。

 だが、今の日向の行動に、魁蓮は怒ることなく目を見開いていた。



「ほら、もう少し治すからじっとしっ」



 パシっ。



 日向が言い切る前に、日向の腕を力強い手がギュッと掴んできた。
 ここにいるのは2人だけだから、掴んできた人物が誰なのかは明確。
 しかし、日向の記憶の中でのその人物は、このようなことをする者では無い。
 手を掴まれること自体はなんてことは無い、問題なのは、掴んできた人物の方にあった。



「えっ」



 魁蓮の手が、日向の腕を掴んでいた。
 動かすのさえ面倒だと思っていそうな手は、まるで逃がすまいと言うように、しっかりと日向の腕を捕らえている。
 うっすらと開けた目で、魁蓮は日向の腕を見つめる。



「か、魁蓮……?」



 日向が困惑したまま尋ねると、魁蓮はゆっくりと日向の腕を引っ張り……
 ポンっ、と日向の手を、自分の頭へと持ってきた。
 そしてそのまま、雑に自分の頭を撫でさせる。



「……え、あ、あの……」

「……小僧」

「はい」

「……やれ」

「…………は?」



 それだけ言うと、魁蓮は自分の頭に日向の手を置いたまま、自分は手を離す。
 そして、ゆっくりと目を閉じた。
 結論から言うと、日向は「撫でろ」と言われたのだ。
 何とも分かりにくい頼み事をしてくるな、という不満よりも先に、日向は困惑が限界に達していた。

 何故、しなければいけないのだ?



「あのぉ」

「黙れ、やれ」

「え、あ、はい……」



 右手は力を使い、左手は魁蓮の頭を撫でる。
 異様な光景過ぎる、こんなの有り得ない。
 この際、頭を触った罰として、何か酷いことをされる方が、魁蓮らしい行動だったのでは。
 なんて考えを口に出すことなど出来ず、日向は困惑と緊張を両方抱えながら、両手をそれぞれ使う。

 やれ、と言われたのだからやっているが、これになんの意味があるというのか。



「な、なぁ……これ、良いの……?」



 黙れ、と何度も言われているが、この状況をそのまま受け入れることなんて出来ない。
 困惑をすぐにでも消し去りたい日向は、恐る恐る魁蓮に尋ねる。
 何度跳ね返されようと、納得する理由が聞けるまでは聞き続けるつもりだ。
 すると、魁蓮はスウっと小さく息を吐き、薄く開けた目を日向に向ける。



「ああ、悪くない……むしろ、心地良い」

「っ……!」



 そう呟く魁蓮は、驚く程に穏やかな表情だった。
 いつもと変わらない真顔だと言うのに、なぜか落ち着いているのだと伝わる。
 飼い主に撫でられて落ち着く犬のように、魁蓮は日向の撫でる手に身を委ねた。

 こんな状況、冷静になれるわけがなかった。
 美しい顔面の魁蓮に見つめられ、撫でられるのが心地よいと言われ……。
 困惑に加え、恥ずかしさに拍車がかかる。



「……ん?なんだ、顔が赤いぞ」

「へっ!?」



 日向は、ビクッと肩が跳ねる。
 まさかそんな、恥ずかしさが顔に表れているなど、日向が気づくはずがない。
 否定できない状況に、日向は遂に焦ってしまう。



「き、きき気のせいじゃねえの……」

「なんだ、その反応は」

「何でもねぇから、ほっとけ……」

「…………はぁ…………」



 魁蓮はため息を吐くと、再び目を閉じる。
 日向は微かに熱を感じる顔を、何とか冷やそうと頭を動かす。
 が、それを許さないかのような発言が、魁蓮の口から放たれた。



「小僧……」

「な、なにっ……」



 日向に声をかけた魁蓮は、器用に片目を開ける。
 そして、意味深なように、口角をニヤリと上げた。



「お前の恥じらう顔は、存外悪くない。元より、お前の顔は見て飽きぬものだからなぁ」

「っ!」

「その恥じらい赤く染める顔を、他の者に見せるなよ?我だけに堪能させろ。もし破れば、その顔を見せた者諸共殺してやる……。
 お前は我のものという自覚を持て、良いな?」



 魁蓮はそう言うと、口角を上げたまま目を閉じた。



 (……何、それ……なんで……)



 トクン。
 胸が、何故か高鳴った気がした。
 熱を下げたいのに、今の魁蓮の言葉で、日向の顔は更に熱を帯びる。
 遊び半分で言っているはずだ、そう自分に言い聞かせているのに……

 心臓が、早く脈を打つ。



「……馬鹿かよ……意味、わかんねぇ……」



 どうしてか、魁蓮の顔を見れなかった。
 そして今更になって、魁蓮に膝枕をしているのが、恥ずかしくなってくる。



 (変なやつ……)



 初めて感じるこの感覚。
 日向は、これが何かを知らない。
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