愛恋の呪縛

サラ

文字の大きさ
90 / 302

第89話

しおりを挟む
 それから少しした頃。



「コホン!では今から……魁蓮のこと、もっと知ろう大会を始めまーす!!!!!」

「おー!」

「「はぁ……」」

「おーい!暗いぞ~?虎ぁ、忌蛇ぁ」



 毎回恒例と言うのだろうか。
 どこから持ってきたか分からない眼鏡をかけた龍牙が、近くにあった枝を拾って仕切り出す。
 日向はいつものように盛り上げてくれるが、虎珀と忌蛇は呆れた顔をしていた。
 今回はそんな2人の機嫌を無視して、龍牙は話し始める。



「大会っつっても、ただの情報交換なんだけどな!
 さあ!みんな輪になって座ろうぜ!」



 龍牙の声掛けで、日向たちは全員の顔が見えるように、輪になって座る。
 中心に作り方の紙を置いて、それぞれ話し合いを始めた。



「喋る順番は、俺、虎、忌蛇の順番!
 これは、日向に魁蓮のことを知ってもらうのが大前提の大会だから!」

「おいバカ龍、なぜ俺たちがこんなことをしなければいけないんだ」

「だって、魁蓮本人には聞きづらいことがあるかもでしょ~?まあ、俺たちからの暴露大会ってことで!」

「ったく……」

「そんじゃあ日向!じゃんじゃん聞いて!
 本人には聞きづらいってことも、知ってることなら答えるぜ!」



 龍牙が日向にそう言うと、日向はうーんと顎に手を当て話し始めた。

















 日向
「じゃあ1つ目。
 好きな食べ物と、嫌いな食べ物かな」

 龍牙
「魁蓮は基本、なんでも食う!」

 虎珀
「あまり好き嫌いはしない方だと思う……強いて言うなら、妖魔では珍しいんだが、人間の肉は絶対に食べない」

 忌蛇
「確かに……食べてるところ見たことない。
 僕らは最低でも1人は食べたことあるんだけど、魁蓮さんは1度も口にしたことないって聞いた」

 日向
「え、なんでアイツは人間を食べないの?」

 龍牙・虎珀・忌蛇
「「「さぁ……?」」」





 日向
「次は……趣味はある?」

 龍牙
「人間皆殺しぃ!」

 虎珀
「なわけないだろ!」

 忌蛇
「魁蓮さん、趣味はあんまり無さそう……」





 日向
「食べ物以外で、アイツの好きなものはある?」

 龍牙
「んー、肉?」

 虎珀
「は、肉?魁蓮様、そんなこと言ってたか?
 俺は蓮の花だと思う。花は全般好きなはずだ」

 忌蛇
「僕も思いつくのは、蓮の花くらいかも」





 日向
「逆に、嫌いなものは?」

 龍牙
「やっぱ人間でしょ!あとは、弱いやつ?」

 虎珀
「お前……さっきから自分の自己紹介をしているんじゃないだろうな……」

 龍牙
「違うよ!ちゃんと魁蓮のこと考えてるって!」

 虎珀
「全く……
 嫌いなものは、龍牙の言う通り人間の可能性が高いな。それは昔から変わっていないはず」

 忌蛇
「あとは……嫌いではないけど、案外女性苦手なんじゃない?」

 日向
「え、女性?なんで?」

 忌蛇
「魁蓮さん、モテるから。色々苦労してそう」

 日向
「モテんの?確かに顔面は良いけど……
 アイツ、中身ヤバすぎねぇ?女の子引くんじゃっ」

 虎珀
「人間!!!!!(怒)」

 日向
「すみません!!!!!!!!」





 日向
「何でもできるみたいに見えるけど、出来ないこととかあるの?」

 龍牙・虎珀・忌蛇
「「「ない」」」

 日向
「あ、そうですか」





 日向
「あのー、要さん?って人とは、どういう関係?」

 龍牙
「俺、アイツ苦手……」

 虎珀
「あの人は、現世にある妖魔限定の遊郭邸店主で、魁蓮様とは遊郭邸が出来たばかりの時に出会ったらしい。
 魁蓮様が、要さんの鋭さと分析力を見込んで声をかけたとか。以後、何かあれば仕事を頼んでいると」

 忌蛇
「その遊郭邸では、若い女妖魔が沢山いるんだけど……ほとんどが、魁蓮さんが今まで助けた妖魔ばかりらしいよ。行き場を失った子たちを、要さんに任せてるんだって。
 その中に柚香って子がいるんだけど、その子は一時期黄泉で暮らしてたんだ。でも要さんの手伝いをしたいからって遊郭邸に移動したの。だから魁蓮さんも、柚香って子は信頼してるみたい」

 日向
「へぇ、そんなところがあったんだ」

 龍牙
「ちなみに!遊郭邸の女の子たちは、みーんな魁蓮の味方だぜ!」

 日向
「まあ、命の恩人だからね」





 日向
「そういや、皆とアイツの出会いが聞きたいな」

 龍牙
「俺は、1人でいた時に魁蓮が来たの!で、戦ったんだけど……ちょー強くて、かっこいい!ってなってさ。後をついて行った!」

 虎珀
「俺は、助けてもらった」

 忌蛇
「僕も、助けてくれたかな。
 居場所をくれたんだ」

 日向
「やっぱ、助けてんじゃん……」





 日向
「アイツ、いつもどこに行ってんの?」

 龍牙
「人間殺すために、現世に行ってる!」

 日向
「えっ!?」

 虎珀
「おいバカ龍、それは封印される前の話だぞ。
 現世に行くのは変わらないが、今は1人も殺していないらしい。異型妖魔を調べるためだろう」

 忌蛇
「遊郭邸とも情報交換してるし、いつもどこかで戦ってるんじゃないかな」

 日向
「そうなんだ……」





 日向
「ずっと思ってたんだけど、なんでアイツあんなに強いの?」

 龍牙
「そりゃなんと言っても、妖力量が無限ってとこだろ!文字通り、底なし!」

 虎珀
「理由は他にもあるが、1番はそれだろうな。
 あとは……じゃないか?」

 忌蛇
「うん。僕もそれは思った。
 詳しいことは知らないけど、魁蓮さんのあの目に秘密があるんじゃないかな」

 日向
「あー確かに……たまに光るもんな。
 アイツ、いつも何が見えてんだろ……」





 日向
「一応確認だけど……アイツ、地雷ってある?
 触れちゃいけないもんとか……」

 龍牙
「ん?無いんじゃね?」

 虎珀
「それは、俺もないと思うが」

 忌蛇
「魁蓮さんが本気で怒ってるの、見たことない」

 日向
「そ、そっか……あったら触れたくないな……」





 日向
「なあなあ、実はこんな一面があります!っていうのある?ああいう奴のって、ちょっと気になるんだけど」

 龍牙
「ある!実は花好きってこと!
 あとは、朝弱いところ!」

 日向
「あー、それは確かに……」

 虎珀
「初めて会った時は、強さに圧倒されたが……
 昔、司雀様が開かない瓶を頑張って開けようとしてた時に、魁蓮様が代わりに開けようとしたら、力の加減を間違えて瓶を粉々に割ってしまって……
 案外、不器用な一面がある」

 日向
「え、なにそれ。超面白そう……」

 忌蛇
「それなら、僕も昔のことなんだけど。
 魁蓮さんがお腹が空いたからって、こっそりつまみ食いしたら、司雀さんにすっごい怒られてた」

 日向
「つ、つまみ食いすんのアイツ。
 そんな風に、見えないけど……」

 龍牙
「あ、他にもあるよ!
 俺と稽古してた時に、間違えて大技繰り出しちゃって、城を半分倒壊させた時は、司雀カンカンだった!」

 虎珀
「他にも、研究材料に使えそうだからって理由で、バカでかい妖魔を数十体持ち帰った時も、怒られてたな」

 日向
「いやめっちゃ司雀に怒られてんじゃん。
 従者とか通り越して、オカンじゃん」

 龍牙
「なのに魁蓮全然反省しないからなぁ!面倒くさそうに聞いている姿が、ちょー面白れぇんだよ!その度に、司雀も怒んの!あっはは!」

 日向
「反抗期かよ」

 龍牙
「そうだ日向!とっておきの話があるぜ!」

 日向
「え!なになに!」





 ┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





 数十分後。



「ねぇ……趣旨、変わってたよね」



 魁蓮のことを知るための話し合いは、いつの間にか魁蓮のとんでも話の暴露大会へと変わっていた。
 やっと話す内容が尽きてきたところで、日向は我に返る。
 一緒になって話していた龍牙たちも、変に脱力していて、話しすぎたことを後悔していた。



「ちょっと待って!僕、饅頭の他の作り方を探してたんだけど!!自分流のきっかけになるやつ!
 アイツの話聞いてたら分かるかと思ったけど、ただの雑談だったじゃん!!!!!!」



 日向は頭を抱えた。
 考えてみれば、初めの方にした質問だけで事足りた気がする。
 結果、全くもって良い案に繋がるような話はなく、ただただお喋りを楽しんだだけの時間だった。



「ごめんよ日向ぁ……俺が盛り上がっちゃったからぁ」

「いや、こればかりは僕にも責任がある。
 つい面白くて、話求めちゃったし……」



 流石の龍牙も、これには反省していた。
 言い出しっぺが趣旨を忘れてしまい、話も全て脱線。
 初めから、何も変化が起きていない。
 日向はガクッと項垂れながら、全員の中心に置かれていた作り方の紙を見つめた。



「そもそも、蓮蓉餡の饅頭が好きなんじゃないのかな……僕が手を加えたら、好みの味から外れる気がするんだけど……」

「司雀さんの作るものは、全部美味しいからね」

「無理だよ僕にはぁぁぁぁ……………………」



 日向は手で顔を覆う。
 料理は人並み以上に出来るが、美味しくできるかと問われると、正直自信はない。
 加えて、相手はあの魁蓮だ。
 腕のいい料理人でも、怖気付くほどだろう。



「とりあえず、何か手がかりみたいなのが欲しい。僕流のものに使えそうな何かを」



 その時。





「何をしている」

「「「「っ!!!!!!!!!」」」」





 背後から聞こえた声に、日向たちはビクッと肩を跳ね上がらせ、同時に顔が青ざめた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

【完結済】どんな姿でも、あなたを愛している。

キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。 声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。 「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」 ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。 失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。 全8話

処理中です...