愛恋の呪縛

サラ

文字の大きさ
上 下
77 / 201

第76話

しおりを挟む
 それから日向と魁蓮は、修練場へと来ていた。
 日向は上衣の袖をキュッと縛ると、拳をぶつけ合って気合を入れる。
 対して魁蓮は、変わらず着物のまま。



「あのぉ、稽古つけてくれるんだよね?その着物だと、動きづらくね?」

「たわけ。お前相手など、どうということは無い」

「あっ、そう(怒)」



 (分かってるけど、ハッキリ言い過ぎだろ!)



 当たり前に力の差はあるが、こうも分かりやすく突きつけられると、これから修行する身からすれば腹立つものだ。
 日向は怒りを沈めようと、ゆっくりと深呼吸をする。



「それで、どんな風に稽古つけてくれるの?」



 日向が尋ねると、魁蓮は腕を広げた。



「まずは小僧の身体能力を確かめてやる。
 どこからでもいい、かかってこい。我は妖力も技も、一切使わずに素で相手をしてやろう」

「え?まじ?」

「力もお前と同じ程度まで手加減してやる。
 その中で、我に1度でも攻撃を入れることが出来れば、何か褒美をやっても良いぞ?」

「え!まじ!」



 日向は、一気に気合いが入る。
 今の日向は、司雀が作ってくれた新しい衣だ。
 以前殴りかかった姿とは、一味違う。
 対して魁蓮は、動きにくい着物。
 加えて、肩には羽織をかけている。



 (たとえ鬼の王でも、そんな動きにくい格好じゃあろくに避けるのも難しいだろ。一撃入れるだけでいいなら、こっちのが有利だわ)



 日向はニヤリと口角を上げる。



「ほんじゃ、宜しくお願いします!」

「ククッ……」



 日向はそう言うと、ペコッと礼儀正しく一礼して、グッと魁蓮に向かって構える。
 魁蓮は構えることなく、薄ら笑みを浮かべながら呆然と立っている。
 なんとも、舐められているようだ。



「ふぅ……」



 相手は鬼の王、全力でいっても死ぬことは無い。
 ならば、思う存分拳を振るうことができる。
 日向はそう考えると、じっと集中する。
 そして……日向はバッと飛び出した。



「おらっ!!!!」



 日向はグッと右手の拳を握ると、魁蓮の顔面目掛けて振りかぶる。
 だが魁蓮は日向の初撃を、難なく避ける。
 ここまではむしろ想定内だ。
 避けられた日向は、すかさず左手の拳を振りかぶる。
 もちろん、これも魁蓮は避けていく。



「っ!」



 拳を振りかぶった勢いのまま、日向はぐるっと一回りすると、柔軟な体を活かして足蹴りをぶつける。
 だが、魁蓮は日向の足が届かないところまで後ろに下がる。
 日向はすぐに体勢を整えると、再び魁蓮へと間合いを詰めた。
 拳、足蹴り、持ち得るもの全てを使って、魁蓮に一撃当てようと踏ん張る。



「くそっ……!」



 何度攻めても当たらない魁蓮に、日向はギリッと歯を食いしばった。
 真っ向から行くのを諦めると、日向はグンっと体勢を地面の近くまで下げ、体を上手く回して足元に足蹴りを振り回す。
 だが、魁蓮の足を狙った日向の足蹴りは、魁蓮の素早い動きでかわされてしまった。
 それどころか、魁蓮は日向の後方へといつの間にか移動している。



「背中は向けない方が良いぞ?小僧」

「っ!」



 魁蓮の声に、日向はサッと後ろに下がる。
 すると今度は、魁蓮が日向の間合いへと詰めてきた。
 日向はグッと構えると、魁蓮は素早い裏拳を日向目掛けて振りかぶる。
 日向は寸前のところで避けると、今度は魁蓮の足蹴りが、日向の脇腹へと入り込んだ。



「ゔっ!」



 (お、重いっ……!!!!!!!!)



「ククッ、どうした?もう動けぬか?」

「なんのっ、これしき……!!!!!」



 四方八方から来る魁蓮の攻撃を、日向は避けたり腕や手を使って防いでいく。
 はたから見たら互角に見えるが、恐らく魁蓮が思い切り手を抜いてくれているからだ。
 日向にとっては必死の手合わせでも、魁蓮は余裕の面持ちで相手をしている。
 本当に、日向の動きを観察しているようだった。



「ほう、防ぐか。ならば1段階上げてやる」



 直後、魁蓮は瞬時に動きを変えた。
 動きも早くなり、一撃一撃の重みが増す。
 いきなり変わった魁蓮の攻め方に、日向は頭が一瞬困惑した。
 そのせいで、1秒間の間に拳と足蹴りを3発も食らってしまう。



「あ゛っ!」



 一切防がずに食らった魁蓮の攻撃は、重いなんてものではなかった。
 これでも手を抜いてくれているのか疑いたくなるほど、痛いところをついてくる。
 1度に来た数発の攻撃に、日向は体がよろけてしまう。



「終いだ」

「っ!」



 魁蓮がポツリと呟くと、魁蓮は素早い動きで、日向の腹部に足蹴りを入れ込んだ。
 真正面から食らってしまった日向は、衝撃に耐えられずに後方へと蹴り飛ばされてしまう。
 日向がそのまま壁にぶつかりそうになった瞬間、魁蓮が目で追えない速さで先回りをし、飛んできた日向の体を壁に当たる寸前で受け止めた。



「ゲホッ、ゲホッ……いったあああああ!!!!!」

「ククッ、随分と威勢が良いなぁ?」

「これ、ほんとに手加減されてる!?まじで意識飛ぶところだったわ!ほんっと怖かったんだけど!」

「我に一撃入れるなど、有り得ん話だ」

「あぁ……そんな気がしてきたわ、悔しいけど」



 日向は受け止めてくれた魁蓮の腕から抜け出すと、攻撃を食らった腹を撫でていた。
 ご飯を食べた直後ならば、全て戻していたところだ。
 じわじわと痛みが残る腹を撫でながら、日向は魁蓮へと向き直る。



「んで、どうだった?観察の結果は」



 日向が尋ねると、魁蓮は腕を組む。



「戦闘経験が無い割に、なかなか動けるようだな」

「あぁ、昔から体を動かすのは得意なんだわ。怪我するからってずっと止められてたんだけど。多分、体術は得意分野なのかも」

「あぁ、伸び代はあるだろう」

「じゃあ、やっぱ近接戦闘が1番いいんかな」



 日向が自分の拳を見つめると、魁蓮はニヤリと口角を上げる。



「いや、お前は見極める力が高い」

「ん?見極める力?」

「簡潔に言えば……狙いが常に定まっている。
 恐らくだが、我と同じものを得意としているな」



 すると突然、魁蓮の足元に影が現れる。
 魁蓮の技の一つである、「ミン」だ。
 日向が何だろうと見つめると、その影から2本の鎖が姿を現した。



「頭の足りん小僧に、教えてやる。
 これは「ジア」という、我の技のひとつだ。この鎖は敵と見なした者を縛るまで、永遠に追い続ける。基本、逃げ切ることは不可能だ」

「え、最強じゃん。
 それで、そのジア?がどうしたの?」

「今からお前には1分間、このジアから逃げてもらう。1分間逃げ切ることが出来れば、良しとしよう」

「……は?いやちょっと待って。1分間!?僕、その鎖に縛られたことあるけど、結構早いし痛くね!?」

「案ずるな、力は弱めている。怪我などせん」

「お、おぉ……それは、安心だな」



 日向はゆっくりと鎖に近づき、恐る恐る触れる。
 特に問題は無い、ただの鎖だった。
 何も起きないのだと確信し、日向はホッと胸を撫で下ろす。



「逃げ方は好きにしろ。壁や天井を使っても良し、避けられんと判断すれば、殴り飛ばすも良し」

「え?殴り飛ばしていいの?」

「あくまで条件は、縛り上げられないことだ。
 だが、殴り飛ばすのは、あまり勧めないぞ?」

「あぁ、確かに痛そうだもんな」

「ククッ、では構えろ」



 そう言うと魁蓮は、ブワッと修練場の床全てに影を広げた。
 これで、日向の逃げ道は完全に無くなった。
 日向は修練場の中をぐるっと見渡して確認すると、魁蓮へと向き直って構える。
 鎖は、ジャラジャラと音を立てながら合図を待った。
 魁蓮も、薄ら笑みを浮かべて日向を見つめる。



「あぁ、言い忘れていたが……
 この鎖は、というものに敏感でなぁ。必要以上の刺激を与えられると、稀に我の命令に背くことがある。最悪の場合、縛り上げた者をそのまま圧迫死させてしまうがな」

「……え?」

「あまり無駄な刺激はしてやるなよ?この鎖にとって、触れるという行いも刺激に繋がる。我でも手に負えなくなったら、本当に終いだぞ?」

「え?いや、あの、待って」

「では始めよう。
 行け、ジア



 魁蓮はそう呟くと同時に、パンっと手を叩いた。
 直後、2本の鎖は素早い動きで、日向へと一直線に伸びてきた。



「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!
 ぎゃあああああああああああ!!!!!!!!!!」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

何故ですか? 彼にだけ『溺愛』スキルが効きません!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:917pt お気に入り:167

公爵閣下と仲良くなっているので邪魔しないでくださいね

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:679

あっくんって俺のこと好きなの?

BL / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:9

この転生が、幸せに続く第一歩 ~召喚獣と歩む異世界道中~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:534

百花の王

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:6

どうでもいいですけどね

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:570

すてられた令嬢は、傷心の魔法騎士に溺愛される

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,222pt お気に入り:69

転生した愛し子は幸せを知る

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:631pt お気に入り:3,846

処理中です...