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第76話
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それから日向と魁蓮は、修練場へと来ていた。
日向は上衣の袖をキュッと縛ると、拳をぶつけ合って気合を入れる。
対して魁蓮は、変わらず着物のまま。
「あのぉ、稽古つけてくれるんだよね?その着物だと、動きづらくね?」
「たわけ。お前相手など、どうということは無い」
「あっ、そう(怒)」
(分かってるけど、ハッキリ言い過ぎだろ!)
当たり前に力の差はあるが、こうも分かりやすく突きつけられると、これから修行する身からすれば腹立つものだ。
日向は怒りを沈めようと、ゆっくりと深呼吸をする。
「それで、どんな風に稽古つけてくれるの?」
日向が尋ねると、魁蓮は腕を広げた。
「まずは小僧の身体能力を確かめてやる。
どこからでもいい、かかってこい。我は妖力も技も、一切使わずに素で相手をしてやろう」
「え?まじ?」
「力もお前と同じ程度まで手加減してやる。
その中で、我に1度でも攻撃を入れることが出来れば、何か褒美をやっても良いぞ?」
「え!まじ!」
日向は、一気に気合いが入る。
今の日向は、司雀が作ってくれた新しい衣だ。
以前殴りかかった姿とは、一味違う。
対して魁蓮は、動きにくい着物。
加えて、肩には羽織をかけている。
(たとえ鬼の王でも、そんな動きにくい格好じゃあろくに避けるのも難しいだろ。一撃入れるだけでいいなら、こっちのが有利だわ)
日向はニヤリと口角を上げる。
「ほんじゃ、宜しくお願いします!」
「ククッ……」
日向はそう言うと、ペコッと礼儀正しく一礼して、グッと魁蓮に向かって構える。
魁蓮は構えることなく、薄ら笑みを浮かべながら呆然と立っている。
なんとも、舐められているようだ。
「ふぅ……」
相手は鬼の王、全力でいっても死ぬことは無い。
ならば、思う存分拳を振るうことができる。
日向はそう考えると、じっと集中する。
そして……日向はバッと飛び出した。
「おらっ!!!!」
日向はグッと右手の拳を握ると、魁蓮の顔面目掛けて振りかぶる。
だが魁蓮は日向の初撃を、難なく避ける。
ここまではむしろ想定内だ。
避けられた日向は、すかさず左手の拳を振りかぶる。
もちろん、これも魁蓮は避けていく。
「っ!」
拳を振りかぶった勢いのまま、日向はぐるっと一回りすると、柔軟な体を活かして足蹴りをぶつける。
だが、魁蓮は日向の足が届かないところまで後ろに下がる。
日向はすぐに体勢を整えると、再び魁蓮へと間合いを詰めた。
拳、足蹴り、持ち得るもの全てを使って、魁蓮に一撃当てようと踏ん張る。
「くそっ……!」
何度攻めても当たらない魁蓮に、日向はギリッと歯を食いしばった。
真っ向から行くのを諦めると、日向はグンっと体勢を地面の近くまで下げ、体を上手く回して足元に足蹴りを振り回す。
だが、魁蓮の足を狙った日向の足蹴りは、魁蓮の素早い動きでかわされてしまった。
それどころか、魁蓮は日向の後方へといつの間にか移動している。
「背中は向けない方が良いぞ?小僧」
「っ!」
魁蓮の声に、日向はサッと後ろに下がる。
すると今度は、魁蓮が日向の間合いへと詰めてきた。
日向はグッと構えると、魁蓮は素早い裏拳を日向目掛けて振りかぶる。
日向は寸前のところで避けると、今度は魁蓮の足蹴りが、日向の脇腹へと入り込んだ。
「ゔっ!」
(お、重いっ……!!!!!!!!)
「ククッ、どうした?もう動けぬか?」
「なんのっ、これしき……!!!!!」
四方八方から来る魁蓮の攻撃を、日向は避けたり腕や手を使って防いでいく。
はたから見たら互角に見えるが、恐らく魁蓮が思い切り手を抜いてくれているからだ。
日向にとっては必死の手合わせでも、魁蓮は余裕の面持ちで相手をしている。
本当に、日向の動きを観察しているようだった。
「ほう、防ぐか。ならば1段階上げてやる」
直後、魁蓮は瞬時に動きを変えた。
動きも早くなり、一撃一撃の重みが増す。
いきなり変わった魁蓮の攻め方に、日向は頭が一瞬困惑した。
そのせいで、1秒間の間に拳と足蹴りを3発も食らってしまう。
「あ゛っ!」
一切防がずに食らった魁蓮の攻撃は、重いなんてものではなかった。
これでも手を抜いてくれているのか疑いたくなるほど、痛いところをついてくる。
1度に来た数発の攻撃に、日向は体がよろけてしまう。
「終いだ」
「っ!」
魁蓮がポツリと呟くと、魁蓮は素早い動きで、日向の腹部に足蹴りを入れ込んだ。
真正面から食らってしまった日向は、衝撃に耐えられずに後方へと蹴り飛ばされてしまう。
日向がそのまま壁にぶつかりそうになった瞬間、魁蓮が目で追えない速さで先回りをし、飛んできた日向の体を壁に当たる寸前で受け止めた。
「ゲホッ、ゲホッ……いったあああああ!!!!!」
「ククッ、随分と威勢が良いなぁ?」
「これ、ほんとに手加減されてる!?まじで意識飛ぶところだったわ!ほんっと怖かったんだけど!」
「我に一撃入れるなど、有り得ん話だ」
「あぁ……そんな気がしてきたわ、悔しいけど」
日向は受け止めてくれた魁蓮の腕から抜け出すと、攻撃を食らった腹を撫でていた。
ご飯を食べた直後ならば、全て戻していたところだ。
じわじわと痛みが残る腹を撫でながら、日向は魁蓮へと向き直る。
「んで、どうだった?観察の結果は」
日向が尋ねると、魁蓮は腕を組む。
「戦闘経験が無い割に、なかなか動けるようだな」
「あぁ、昔から体を動かすのは得意なんだわ。怪我するからってずっと止められてたんだけど。多分、体術は得意分野なのかも」
「あぁ、伸び代はあるだろう」
「じゃあ、やっぱ近接戦闘が1番いいんかな」
日向が自分の拳を見つめると、魁蓮はニヤリと口角を上げる。
「いや、お前は見極める力が高い」
「ん?見極める力?」
「簡潔に言えば……狙いが常に定まっている。
恐らくだが、我と同じものを得意としているな」
すると突然、魁蓮の足元に影が現れる。
魁蓮の技の一つである、「冥」だ。
日向が何だろうと見つめると、その影から2本の鎖が姿を現した。
「頭の足りん小僧に、教えてやる。
これは「枷」という、我の技のひとつだ。この鎖は敵と見なした者を縛るまで、永遠に追い続ける。基本、逃げ切ることは不可能だ」
「え、最強じゃん。
それで、そのジア?がどうしたの?」
「今からお前には1分間、この枷から逃げてもらう。1分間逃げ切ることが出来れば、良しとしよう」
「……は?いやちょっと待って。1分間!?僕、その鎖に縛られたことあるけど、結構早いし痛くね!?」
「案ずるな、力は弱めている。怪我などせん」
「お、おぉ……それは、安心だな」
日向はゆっくりと鎖に近づき、恐る恐る触れる。
特に問題は無い、ただの鎖だった。
何も起きないのだと確信し、日向はホッと胸を撫で下ろす。
「逃げ方は好きにしろ。壁や天井を使っても良し、避けられんと判断すれば、殴り飛ばすも良し」
「え?殴り飛ばしていいの?」
「あくまで条件は、縛り上げられないことだ。
だが、殴り飛ばすのは、あまり勧めないぞ?」
「あぁ、確かに痛そうだもんな」
「ククッ、では構えろ」
そう言うと魁蓮は、ブワッと修練場の床全てに影を広げた。
これで、日向の逃げ道は完全に無くなった。
日向は修練場の中をぐるっと見渡して確認すると、魁蓮へと向き直って構える。
鎖は、ジャラジャラと音を立てながら合図を待った。
魁蓮も、薄ら笑みを浮かべて日向を見つめる。
「あぁ、言い忘れていたが……
この鎖は、刺激というものに敏感でなぁ。必要以上の刺激を与えられると、稀に我の命令に背くことがある。最悪の場合、縛り上げた者をそのまま圧迫死させてしまうがな」
「……え?」
「あまり無駄な刺激はしてやるなよ?この鎖にとって、触れるという行いも刺激に繋がる。我でも手に負えなくなったら、本当に終いだぞ?」
「え?いや、あの、待って」
「では始めよう。
行け、枷」
魁蓮はそう呟くと同時に、パンっと手を叩いた。
直後、2本の鎖は素早い動きで、日向へと一直線に伸びてきた。
「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!
ぎゃあああああああああああ!!!!!!!!!!」
日向は上衣の袖をキュッと縛ると、拳をぶつけ合って気合を入れる。
対して魁蓮は、変わらず着物のまま。
「あのぉ、稽古つけてくれるんだよね?その着物だと、動きづらくね?」
「たわけ。お前相手など、どうということは無い」
「あっ、そう(怒)」
(分かってるけど、ハッキリ言い過ぎだろ!)
当たり前に力の差はあるが、こうも分かりやすく突きつけられると、これから修行する身からすれば腹立つものだ。
日向は怒りを沈めようと、ゆっくりと深呼吸をする。
「それで、どんな風に稽古つけてくれるの?」
日向が尋ねると、魁蓮は腕を広げた。
「まずは小僧の身体能力を確かめてやる。
どこからでもいい、かかってこい。我は妖力も技も、一切使わずに素で相手をしてやろう」
「え?まじ?」
「力もお前と同じ程度まで手加減してやる。
その中で、我に1度でも攻撃を入れることが出来れば、何か褒美をやっても良いぞ?」
「え!まじ!」
日向は、一気に気合いが入る。
今の日向は、司雀が作ってくれた新しい衣だ。
以前殴りかかった姿とは、一味違う。
対して魁蓮は、動きにくい着物。
加えて、肩には羽織をかけている。
(たとえ鬼の王でも、そんな動きにくい格好じゃあろくに避けるのも難しいだろ。一撃入れるだけでいいなら、こっちのが有利だわ)
日向はニヤリと口角を上げる。
「ほんじゃ、宜しくお願いします!」
「ククッ……」
日向はそう言うと、ペコッと礼儀正しく一礼して、グッと魁蓮に向かって構える。
魁蓮は構えることなく、薄ら笑みを浮かべながら呆然と立っている。
なんとも、舐められているようだ。
「ふぅ……」
相手は鬼の王、全力でいっても死ぬことは無い。
ならば、思う存分拳を振るうことができる。
日向はそう考えると、じっと集中する。
そして……日向はバッと飛び出した。
「おらっ!!!!」
日向はグッと右手の拳を握ると、魁蓮の顔面目掛けて振りかぶる。
だが魁蓮は日向の初撃を、難なく避ける。
ここまではむしろ想定内だ。
避けられた日向は、すかさず左手の拳を振りかぶる。
もちろん、これも魁蓮は避けていく。
「っ!」
拳を振りかぶった勢いのまま、日向はぐるっと一回りすると、柔軟な体を活かして足蹴りをぶつける。
だが、魁蓮は日向の足が届かないところまで後ろに下がる。
日向はすぐに体勢を整えると、再び魁蓮へと間合いを詰めた。
拳、足蹴り、持ち得るもの全てを使って、魁蓮に一撃当てようと踏ん張る。
「くそっ……!」
何度攻めても当たらない魁蓮に、日向はギリッと歯を食いしばった。
真っ向から行くのを諦めると、日向はグンっと体勢を地面の近くまで下げ、体を上手く回して足元に足蹴りを振り回す。
だが、魁蓮の足を狙った日向の足蹴りは、魁蓮の素早い動きでかわされてしまった。
それどころか、魁蓮は日向の後方へといつの間にか移動している。
「背中は向けない方が良いぞ?小僧」
「っ!」
魁蓮の声に、日向はサッと後ろに下がる。
すると今度は、魁蓮が日向の間合いへと詰めてきた。
日向はグッと構えると、魁蓮は素早い裏拳を日向目掛けて振りかぶる。
日向は寸前のところで避けると、今度は魁蓮の足蹴りが、日向の脇腹へと入り込んだ。
「ゔっ!」
(お、重いっ……!!!!!!!!)
「ククッ、どうした?もう動けぬか?」
「なんのっ、これしき……!!!!!」
四方八方から来る魁蓮の攻撃を、日向は避けたり腕や手を使って防いでいく。
はたから見たら互角に見えるが、恐らく魁蓮が思い切り手を抜いてくれているからだ。
日向にとっては必死の手合わせでも、魁蓮は余裕の面持ちで相手をしている。
本当に、日向の動きを観察しているようだった。
「ほう、防ぐか。ならば1段階上げてやる」
直後、魁蓮は瞬時に動きを変えた。
動きも早くなり、一撃一撃の重みが増す。
いきなり変わった魁蓮の攻め方に、日向は頭が一瞬困惑した。
そのせいで、1秒間の間に拳と足蹴りを3発も食らってしまう。
「あ゛っ!」
一切防がずに食らった魁蓮の攻撃は、重いなんてものではなかった。
これでも手を抜いてくれているのか疑いたくなるほど、痛いところをついてくる。
1度に来た数発の攻撃に、日向は体がよろけてしまう。
「終いだ」
「っ!」
魁蓮がポツリと呟くと、魁蓮は素早い動きで、日向の腹部に足蹴りを入れ込んだ。
真正面から食らってしまった日向は、衝撃に耐えられずに後方へと蹴り飛ばされてしまう。
日向がそのまま壁にぶつかりそうになった瞬間、魁蓮が目で追えない速さで先回りをし、飛んできた日向の体を壁に当たる寸前で受け止めた。
「ゲホッ、ゲホッ……いったあああああ!!!!!」
「ククッ、随分と威勢が良いなぁ?」
「これ、ほんとに手加減されてる!?まじで意識飛ぶところだったわ!ほんっと怖かったんだけど!」
「我に一撃入れるなど、有り得ん話だ」
「あぁ……そんな気がしてきたわ、悔しいけど」
日向は受け止めてくれた魁蓮の腕から抜け出すと、攻撃を食らった腹を撫でていた。
ご飯を食べた直後ならば、全て戻していたところだ。
じわじわと痛みが残る腹を撫でながら、日向は魁蓮へと向き直る。
「んで、どうだった?観察の結果は」
日向が尋ねると、魁蓮は腕を組む。
「戦闘経験が無い割に、なかなか動けるようだな」
「あぁ、昔から体を動かすのは得意なんだわ。怪我するからってずっと止められてたんだけど。多分、体術は得意分野なのかも」
「あぁ、伸び代はあるだろう」
「じゃあ、やっぱ近接戦闘が1番いいんかな」
日向が自分の拳を見つめると、魁蓮はニヤリと口角を上げる。
「いや、お前は見極める力が高い」
「ん?見極める力?」
「簡潔に言えば……狙いが常に定まっている。
恐らくだが、我と同じものを得意としているな」
すると突然、魁蓮の足元に影が現れる。
魁蓮の技の一つである、「冥」だ。
日向が何だろうと見つめると、その影から2本の鎖が姿を現した。
「頭の足りん小僧に、教えてやる。
これは「枷」という、我の技のひとつだ。この鎖は敵と見なした者を縛るまで、永遠に追い続ける。基本、逃げ切ることは不可能だ」
「え、最強じゃん。
それで、そのジア?がどうしたの?」
「今からお前には1分間、この枷から逃げてもらう。1分間逃げ切ることが出来れば、良しとしよう」
「……は?いやちょっと待って。1分間!?僕、その鎖に縛られたことあるけど、結構早いし痛くね!?」
「案ずるな、力は弱めている。怪我などせん」
「お、おぉ……それは、安心だな」
日向はゆっくりと鎖に近づき、恐る恐る触れる。
特に問題は無い、ただの鎖だった。
何も起きないのだと確信し、日向はホッと胸を撫で下ろす。
「逃げ方は好きにしろ。壁や天井を使っても良し、避けられんと判断すれば、殴り飛ばすも良し」
「え?殴り飛ばしていいの?」
「あくまで条件は、縛り上げられないことだ。
だが、殴り飛ばすのは、あまり勧めないぞ?」
「あぁ、確かに痛そうだもんな」
「ククッ、では構えろ」
そう言うと魁蓮は、ブワッと修練場の床全てに影を広げた。
これで、日向の逃げ道は完全に無くなった。
日向は修練場の中をぐるっと見渡して確認すると、魁蓮へと向き直って構える。
鎖は、ジャラジャラと音を立てながら合図を待った。
魁蓮も、薄ら笑みを浮かべて日向を見つめる。
「あぁ、言い忘れていたが……
この鎖は、刺激というものに敏感でなぁ。必要以上の刺激を与えられると、稀に我の命令に背くことがある。最悪の場合、縛り上げた者をそのまま圧迫死させてしまうがな」
「……え?」
「あまり無駄な刺激はしてやるなよ?この鎖にとって、触れるという行いも刺激に繋がる。我でも手に負えなくなったら、本当に終いだぞ?」
「え?いや、あの、待って」
「では始めよう。
行け、枷」
魁蓮はそう呟くと同時に、パンっと手を叩いた。
直後、2本の鎖は素早い動きで、日向へと一直線に伸びてきた。
「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!
ぎゃあああああああああああ!!!!!!!!!!」
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