愛恋の呪縛

サラ

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第67話

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 事の始まりは、数分前。



「よし!あらかた形にはなってきたんじゃね?」



 あれから龍牙と虎珀の力で、日向は護身術のやり方を教えて貰っていた。
 虎珀の言葉での説明と、龍牙の実技。
 そのふたつを上手く組み合わせながら、日向は少しずつ護身術というものを身につけていた。
 護身術をしていて分かったのは、日向は飲み込みが早いということ。
 そのため、急遽護身術だけでなく、基本的な体術も習うことになったのだ。
 もちろん、こちらも習得は早い。



「日向ぁ!上達早いじゃん!」

「ははっ、2人の教え方が上手なだけだよ」

「人間、こればかりは龍牙に同意だ。
 本当は、格闘技でもしていたんじゃないのか?」

「いやしてないしてない!」



 力こそ無いものの、体の動かし方は、ひと工夫すれば戦えるものだった。
 日向に霊力でもあれば、かなりの実力者にはなっていただろう。



「ほんじゃ!ちょっと手合わせしてみるか!」



 基礎が出来るようになった所で、日向は龍牙と手合わせをすることになった。
 互いに向かい合い、構える。



「本気て来いよ~?日向ぁ」

「龍牙も、手加減しすぎなくていいからな!」



 2人は笑い合うと、グッと力を込める。
 そして……



「はっ!」



 日向は龍牙に向かって駆けだした。
 龍牙に本気で挑んでも、勝てないことは分かっている。
 だが、その龍牙にひとつでも攻撃を入れることができれば、上出来な方だ。
 日向は教えられたことを思い出しながら、体を上手く使って龍牙に攻め込む。



「そうそう!いい感じ!」



 日向の攻撃を上手く避けながら、龍牙は日向を褒めまくる。
 日向の動きは、本当に素晴らしいものだった。
 細身の体を上手く使った瞬発力と身軽さで、龍牙に何度も拳を向けたり、足蹴りをする。



「くっそお!簡単に防がれるの、結構ヘコむな!」

「あはは!でも、出来てる方だよ!」

「尚更、悔しいなぁ!」



 力の差は分かっていたが、現時点での本気を出しても、龍牙はいとも簡単に防いでしまう。
 改めて感じる龍牙の強さに、日向はニヤッと笑みを浮かべた。



「まだまだぁ!」

「お?」



 乗り気になった日向は、教えてもらったこと以外の攻め方をしてみせる。
 龍牙はその異変にすぐに気づくと、どんな動きをしているのかと観察し始めた。
 その時、龍牙はあることに気づく。



 (あれ……この動きって……)



 日向が龍牙に繰り出す動きに、既視感があった。
 龍牙はひたすら日向の動きを観察する。
 すると、壁に寄って様子を見ていた虎珀と忌蛇も、同様に違和感に気づいた。



「虎珀さん……日向の動き、?」

「ああ……劣ってはいるが、基本としている形は……」



 戦っている龍牙。
 見守る虎珀と忌蛇。
 その3人が、同じことを感じていた。
 とても独特で、日向の身軽さを活かしたような無駄のない動き。
 だが、その動きの形は、3人が見た事のある動きによく似ていた。
 3人全員の考えが、一致する。
 その動きが……



 (((に、似ている……!)))



 日向の攻撃に、重みはあまりない。
 だが、重みと素早さ、判断力全てが極限まで出されるとしたら。
 その動きは間違いなく、魁蓮が戦う時に見せる動きとよく似ているのだ。
 魁蓮の背中を追ってきた3人だからこそ気づいた、日向の違和感。
 もちろん魁蓮の動きは、見て真似できるものでは無いことも知っている。
 では何故、これほど彼の動きに似ているのか。



「龍牙!流石に手抜きすぎなんじゃねーの!?」

「っ!」



 違和感に気づいた龍牙は、日向との手合わせの気が抜けていた。
 日向からの声掛けに、ハッと我に返る。
 その時、日向はバンっと両手を床につけると、初心者では絶対にできないような足蹴りを、龍牙に向ける。



「おわっ!」



 これには流石の龍牙も驚き、サッと後方に下がる。
 なぜこんな動きができるのか、龍牙は頭が混乱した。
 だが、日向は龍牙がそんなことを考えているなど、気づきもしない。
 後方に下がったのも龍牙の作戦だと思い、体勢をすぐに立て直して、再び龍牙に詰め寄る。



「おらぁ!」

「っ……!」




 攻め込んでくる日向に、龍牙はグッと構えた。
 生半可に相手をしていては、いずれ攻撃を入れられる。
 何よりも、目の前には自分より強い魁蓮と似たような動きをする日向がいる。
 気を抜きすぎては、もしかしたら負けるかもしれない。
 そう思うほどに、日向はどんどん攻めてきた。



 (なんで、こんな動きが出来るんだっ……!?)



 その時、日向は龍牙に拳を叩きつけようと、グイッと龍牙に接近した。
 戸惑う要素がありまくりな現状に、龍牙は思わず自分の拳をグッと握った。
 日向に殴られる、そう思った瞬間……



 ドカッ!



「ゔっ!」



 龍牙は日向の拳を寸前で避けると、握りしめた拳を日向の左頬に叩き込んだ。
 日向は一切構えていなかったため、真正面から龍牙の拳を受けてしまう。
 そのまま日向は壁に殴り飛ばされて、バタッと倒れてしまった。



「えっ……?
 ああああああああああああ!!!!!!!!!!」



 自分のしてしまったことに、龍牙は悲鳴をあげる。
 青ざめた顔のまま、龍牙は日向の元へと駆け寄った。
 これには虎珀と忌蛇も驚いて、すぐさま龍牙と共に日向の近くへと駆け寄る。



「ひひひ日向ぁぁぁぁ!!!!!!!
 ごめん!!!大丈夫!?生きてる!?!?」



 龍牙が慌てている中、日向はゆっくりと起き上がる。
 だが、日向は笑っていた。



「あっははは!びっくりしたぁ!やっぱ強ぇなぁ、龍牙は。一撃だけなのに、痛ぇ!あははは!」

「わ、笑ってる場合じゃっ」



 その時。



「あっ」



 日向の鼻から、血が垂れてきた。
 その光景に、全員の血の気が引く。
 日向は乱暴に血を拭うと、「ありゃ」ととぼけている。



「鼻血とか、いつぶり?まあいっか。
 続きやろうぜ!」

「「「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!!!!!!」」」



 手合わせを再開しようとする日向に、3人が同時に止めに入る。
 日向は3人の圧に、目を見開いた。



「え、なに?」

「何じゃなああいいい!!!鼻血出てる!!!!」

「うん、それが?」

「ひ、日向。まずは鼻血止めよう?龍牙さんも、こんなに心配してるんだから」

「いや、大丈夫だよ。骨イカれてないし」

「そういう問題ではないぞ人間!人間の体は、俺たちにはよく分からないんだ!何かあってからでは遅い!」



 全員が日向に訴えかけると、龍牙は涙目になりながら日向に抱きつく。



「日向ぁ!お願いだから、先にそれ治してぇぇ!」

「えっ?」

「いつものやつ!怪我治すやつ!早くううう!!!」

「あ、えっと……」



 日向に全快の力を使えと促すも、何故か日向は力を使おうとしない。
 その違和感に、虎珀は首を傾げた。



「何をしている?早く治さなければっ」

「いやぁ、その……なんつーか……
 んだわ、僕」

「「「え?」」」

「僕ね……他人の怪我とか病気は治せるんだけどさ、自分の怪我は、治せない……あははっ」

「「「っ!!!!!!」」」



 日向は、困ったように笑う。
 すると、虎珀は日向に視線を向けたまま、忌蛇の肩を叩く。



「忌蛇……急いで、魁蓮様と司雀様を呼んできてくれ……大至急」

「うんっ」



 忌蛇は頷くと、バッと駆け出した。
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