愛恋の呪縛

サラ

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第62話

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 翌日。



「はぁぁっ、眠ぃ……」



 朝、龍牙は大あくびをしながら廊下を歩いていた。
 基本龍牙は、お腹がすいたら目覚めるため、起きる時間は毎日バラバラだ。
 今日は少し早めに起きてしまい、まだ寝ぼけながら食堂へと向かっている。



「今日の飯何かな、魚とか食いてぇー。でも肉もいいよなぁ。あ、茶碗蒸し食いたくなってきた。今日司雀に頼んでっ」

「あらやだ!龍ちゃんじゃないの!」

「……は?」


















 ドドドドドドドド……。



「ん?」



 食堂では、虎珀と忌蛇が一緒に朝餉を摂っていた。
 静かに食事をしていると、なにやら騒がしい音が近づいてくる。



「虎珀さん、これなんの音?」

「さあ……まあ、犯人は大体検討がついてっ」



 バタンっ!!!!!!!



「虎ぁぁぁぁ!!!!助けてぇぇぇぇぇぇ!!!」

「「っ!!!」」



 突然、食堂の扉が激しく開いた。
 虎珀と忌蛇が驚いていると、扉が開いたと同時に龍牙が青ざめて入ってきた。
 ぜぇぜぇと荒い息をして、冷や汗を出している。



「騒がしいぞバカ龍、なんの騒ぎだ」

「いやいや騒ぐわ!!!つかそんなことより、早くっ」



 その時。



「こんにちは~!可愛い妖魔ちゃんたちぃ~?」

「「「っ!!??!!!?!?!!!?」」」



 青ざめる龍牙の後ろから現れたのは、扇子をパタパタと扇いでいる要だった。
 虎珀たちは要に気づくと、全身の血の気が引く。
 対して要は、目を輝かせて食堂を見渡した。



「いや~ん!ここ超久しぶりじゃない~!また一段と綺麗になったわねぇ?」

「お、おい、バカ龍……なぜこの方がここにっ」

「いや知らねぇよ!朝っぱらから追いかけ回されて大変なんだからな!!!!」

「なぁに?もしかして、鬼ごっこしたいの~?いいわよ~!お姉さんが相手して、あ・げ・る♡」

「「「えっ………………
 あああああああああああ!!!!!!!!!!」」」



 食堂は大騒ぎだ。
 逃げ回る3人を、要が両手を広げながら追いかけ回している。
 4人の走り回る音が鳴り響き、まるで地震のごとく揺れている。

 何を隠そう、この3人は要が苦手なのだ。
 事の始まりは大昔。
 初めて要が龍牙たちと出会った時、要は初めましての挨拶と称して、口付けをしてこようとした。
 それ以来、要の距離の詰め方が異常で、あまり近づきたくなくなったのだ。
 要が城に来れば、逃げるか魁蓮と司雀の後ろに隠れるのが当たり前となっている。
 対して要は、魁蓮の傘下である3人が可愛くて仕方がなく、近所にいる子ども感覚で接しようとしている。
 相性としては、最悪なのだ。



「魁蓮と司雀どこだよおおおおお!!!!!!!」



 食器は割らないように配慮しながら、食堂全体を使って逃げ回る。
 その時。



「ね、ねぇ……なんの騒ぎ?」



 食堂から聞こえた音に、日向がひょこっと顔を出す。
 日向の声に、全員がその場に立ち止まった。
 要は聞き覚えのない声に気づき、日向の方へと視線を向ける。
 その瞬間。



「なっ………………!!!!!!!!!!!!!」



 要に、雷のような衝撃が走った。
 目の前にいる日向の姿に、頭が困惑する。
 綺麗な白髪に、星のような美しい青い瞳。
 女の子のような可愛らしい顔立ちと、透き通るような白い肌。
 直後。



「いやぁぁぁん!何この子、可愛いいい!!!!!!」

「うわあっ!!」



 3人を追いかけ回していた要は方向転換し、ドタドタと日向の元へ駆け寄ると、これでもかと言うほどに強く抱き締めた。
 要の頬は真っ赤で、まるで愛でるように強く抱きしめる。

 当然、こんな光景を彼が許すわけがない。
 龍牙は全身に妖力を流すと、怒りの形相で要を指さした。



「このやろテメェ!日向から離れろやあああ!!!」

「あらぁ、日向ちゃんって言うのね!名前も良いわ!
 ん~♡なんて可愛いの!魁蓮ちゃん並の美の暴力だわっ!情報が多すぎて頭が追いつかないっ」

「うおお何!?だ、誰!?アンタ誰!?マジで誰!?」

「あらやだ!ごめんなさい!
 初めまして、かわい子ちゃん?アタシは要って言うの~。要お姉さんって呼んでね♡」

「お、おね……?」



 要は日向を抱きしめたまま、機嫌よく自己紹介をする。
 名乗られたものの、日向は何一つ理解できない。
 そんな中、龍牙は日向たちの元へ近づくと、無理やり要を日向から引き剥がそうとする。



「離れろやクソゴリラ!!!!!!」

「クソゴリラだなんて酷いわ龍ちゃん!どこからどう見ても、色気あるお姉さんでしょう?」

「そのゴリゴリの体で何言ってんだよボケェ!!!脱いだらだろうがよ!!!」

「んっふ♡新たな一面って感じでいいじゃない~。あ、龍ちゃん。アタシのお胸でおねんねする~?」

「気持ち悪ぃ!!!!!!!!!!!!!!!」



 なんという妖魔だろうか。
 龍牙がツッコミを入れるほどとは、随分と変わった妖魔だ、と日向は考えていた。
 確かに龍牙の言う通り、要は服装は女性物だが、抱きしめられて分かる筋肉。
 鍛え上げられすぎた胸筋に、日向はグイグイと押しつぶされそうになる。



「待って。しかもこの子、なんかいい匂いする」

「うおお!なんか匂い嗅がれてるううう!!!!」

「あああああ!!!!!嗅ぐなゴリラアア!!!!
 離れろやあああああああ!!!!!!!!」



 その時だった。



「っ!」



 突如、日向の足元に影が広がる。
 要がその影に気づくと、パッと日向から離れた。
 いきなり離れた要に日向が驚いていると……





「説教だけでは済まない行いだぞ?要……」

「っ!」





 背後から、低い声が響いた。
 日向が振り返ると、日向の背中にくっつくくらいの距離に、魁蓮が立っていた。
 すると、魁蓮はいきなり日向の肩を掴むと、グイッと自分の方へと引き寄せた。
 意外な行動に、日向は目を見開く。
 魁蓮は薄ら笑みを浮かべていたが、その目は一切笑っていなかった。



「遅いじゃないのよ~。相手が悪い妖魔だったらどうするの?日向ちゃん、殺されてたかもよ?」

「有り得んな。その場合、小僧に触れた時点で首が飛んでいる」

「んっふ♡ でしょうね?その子から貴方の妖力を強く感じたもの。あんまり束縛してると、逃げられちゃうわよ~ん?」

「ククッ……戯言は終いか?」

「はいはいごめんなさい~」



 要は至って平気そうだった。
 2人が向き合っている中、龍牙たちはじっと黙って待っている。
 すると魁蓮の後ろから、遅れて司雀が姿を現した。
 司雀は要に気づくと、「おや」と声を上げる。



「これはこれは、要様ではありませんか」

「きゃー!司雀ちゃん!久しぶりねぇ!
 相変わらず、いい男だわ~♡」

「ふふっ、ありがとうございます。
 お出迎えもせず、申し訳ございません」

「そんなの要らないわよ~。それに、お出迎えなら龍ちゃんがしてくれたから♡」

「してねぇわ!!勝手に追いかけてきたんだろ!!」

「んもう、人聞き悪いわ~?
 もちろん、虎ちゃんと蛇ちゃんでも大歓迎だったわよ?」

「「遠慮しておきます……」」



 龍牙たちが要と話している間、日向はじっと要を見つめていた。
 顔見知りということは、龍牙たちと同様に長い付き合いなのだろうか。
 その時。



「小僧……」

「っ!」



 ふと、魁蓮が日向の耳元で囁いた。 
 日向が横目で見ると、魁蓮は日向を抱き寄せたまま、耳元で言葉を発する。



「要の好きなようにされても、抵抗しないとは……
 お前は彼奴のような者が好みなのか?悪趣味だな」

「ちょっ、バッカ違ぇよ!変な事言うな!
 ただ、悪い妖魔には見えんかったから、何も抵抗しなかっただけ。ちょっと、ビビったけど」

「はぁ……莫迦もここまで来ると、救いようがないな」

「ほおおお?殴んぞお前ぇぇ???」

「まあ良い」



 すると魁蓮は、要へと視線を戻す。



「それで、何の用だ。要」

「ああ!そうそう、忘れてたっ」



 そういうと要は、衣の中から1枚の紙を取りだした。
 そしてそれを、魁蓮へと渡す。



「有力な情報を手に入れたの。ちょっと大きな問題点があるけれど、少しは役に立つと思うわよ?」

「っ………………」



 要の言葉を聞いた魁蓮は、紙を受け取り中を確認した。
 暫く魁蓮が黙読していると、魁蓮は眉間に皺を寄せ始めた。
 読み終えた途端、魁蓮は要へと向き直る。



「随分と、厄介な情報を寄越したな……」

「むしろ感謝して欲しいわよ。確認するのに手間取ったんだから。でも魁蓮ちゃんなら、何とかできるんじゃないかと思って持ってきたの」

「たわけ。これは我にも難しい案件だぞ」

「あら、やっぱり駄目かぁ~。
 でも、今はそれしか掴めてない。無いよりはいいでしょ?なんとか頑張ってみて」

「……だが、まあ良い。恩に着る」

「じゃあ、お礼のチューをっ」

「去ね」

「もう冷たいんだから~」

「相変わらず、口減らずな奴だ
 司雀、要を頼む」

「かしこまりました。要様、こちらへ」



 司雀が要を別の部屋へと案内すると、その場はしんと静まり返った。
 魁蓮は要から受け取った紙を見つめるだけで、何も言わない。



「魁蓮?どうしたの?」



 気になった龍牙が、恐る恐る尋ねる。
 すると魁蓮は、顔を上げた。



「全員、そこに座れ。司雀が戻り次第、詳細を伝える」
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