愛恋の呪縛

サラ

文字の大きさ
38 / 302

第37話

しおりを挟む
 それから日向は、慌ただしい毎日を送っていた。
 相変わらず、龍牙は日向に付きっきり。
 少しでも日向が虎珀を褒めれば、嫉妬をして喧嘩が起きる。
 ある意味、幸せな空間なのかもしれないが……

 そんな中、遂に1週間が経った頃……













「ふわぁっ……なんか眠ぅ」



 朝。
 朝餉を終えた日向は、城を歩き回っていた。
 今日は、龍牙が現世に異形妖魔の調達に行っているため、日向は一人の時間を謳歌していた。
 ちなみに、予定では魁蓮が帰ってくる日でもある。
 だが、毎日龍牙と共に過ごし、慌ただしい日々を送っていた日向は、そんなことすっかり忘れていた。
 穏やかな日だな、などと呑気なことを考えながら、遠慮もなく大口を開けてあくびをしている。




「黄泉は日照りがねぇから、現世に比べて暑苦しい感じはないんだなぁ。穏やかすぎて逆に眠い……」



 ポケッとしながら、日向はのんびり歩く。
 幸か不幸か、黄泉での生活は随分と慣れてきた。
 というのも、龍牙がそばに居てくれるようになってから、かなり過ごしやすくなったのが大半だ。
 現時点で、日向の命を奪おうとする存在は居ないので、心置きなく過ごすことが出来ている。
 あくまで、今は……という話にはなるが。



「龍牙が帰ってきたら、構ってやらんと。まあでも、あれはあれで可愛っ、痛っ!」



 考え事をしながら歩いていた日向が、廊下の曲がり角を曲がろうとした瞬間、丁度死角から誰かが現れ思い切りぶつかってしまう。
 日向はぶつかった衝撃で、尻もちをついた。



「ったたた……あっ!!ご、ごめっ……」



 日向が謝ろうと顔を上げると……



「わあっ、なんだ?この子は」



 日向の前にいたのは、長く大きな荷物を抱えた3体の妖魔。
 見た目は龍牙たちのような、人間に近い見た目はしておらず、どちらかと言えば醜い見た目だ。
 龍牙たちの姿に見慣れてしまっていた日向は、見慣れない妖魔の姿にドクンッと心臓が跳ねる。
 対して妖魔たちは、日向に夢中だ。



「こりゃ、とんでもねぇな?」

「白髪とは、初めて見た。おまけに、なんだ?この青い目は……まるで宝石みたいだぞ?」

「それにしても、随分と可愛らしい見た目だな」



 妖魔たちは、日向の見た目に夢中。
 魁蓮の妖力のおかげで、日向が人間だとは気づかれていない。
 が、人同士でも、日向の見た目は目を惹かれる。
 人間になりきれない妖魔たちが、日向の見た目に注目するのは当然のことだ。



「これが人間だったら……美味いんだろうなぁ」

「ああ。実に綺麗な白髪だ……」



 そう言って、一体の妖魔が日向に手を伸ばしてきたその時。



「無礼者!」

「「「っ!!!!!」」」



 突如、その場に怒鳴り声が響いた。
 全員が顔を上げると、日向に触れようとしていた妖魔たちに向かって、刀の切っ先を向けてくる虎珀が立っていた。
 虎珀は眉間に皺を寄せ、妖魔たちをこれでもかと睨みつけている。



「その者は、魁蓮様の客だ。気安く触れていいような方では無い!分かったら、さっさと退け!」

「す、すみません!」



 虎珀がそう言うと、妖魔たちは驚いて手を挙げた。
 そしてそのまま、どこかへ行ってしまった。
 その場に取り残された日向は、呆気に取られている。
 虎珀も刀を鞘になおすと、日向の元へと近づいてきた。



「大丈夫か、人間」

「あ、ありがとう虎珀。びっくりしたぁ」

「ったく……龍牙がいないから、気を抜くな」

「あははっ、ごめんごめん」



 日向はその場に立ち上がると、パパっと衣をはらいながら、妖魔たちが逃げていった方向へと視線を向ける。



「なあ、アイツら誰?」

「ああ。奴らは、現世にいる妖魔たちだな。
 あの荷物……魁蓮様に用があって来たんだろ」

「えっ、もう帰ってきてんの?僕、見てないけど」

「気配があるから、多分いる。
 奴らは、魁蓮様に何かを献上する代わりに、困っている事を助けてもらうつもりなんだ。人間で言うなら、農作物の不作続きなどの問題とか。そういう問題を、助けてもらう。奴らが持っているのは、恐らく捧げ物だろう」

「なんか、神様みたいだね」

「似てるかもな。まあ……どうなるか」

「……?」



 虎珀はポツリと呟くと、日向を置いてどこかへ行ってしまった。



 日向の今日の予定は、まだ見ていない城の中を見て回ることだった。
 決まったところしか往復しないため、日向はまだ知らない部分が多すぎる。
 色々と警戒しながらも、歩いていない道や、入ったことの無い部屋を見て回っていた。



「無駄にデケェんだよなぁ、ほんとにお城だわ」



 結構歩き回ったというのに、終わりが見えない。
 休憩をしようと、日向が食堂に向かっていた時だった。



「畏れながら、申し上げます」

「っ……?」



 突如、聞いた事のない声が聞こえてきた。
 日向がその声を辿ると、着いたのはある一室。
 そこは、客を招く城の大広間だった。
 扉が少しだけ開いていたため、日向はそっと隙間から中を覗く。



 (あ、さっきの……)



 中に居たのは、先程日向がぶつかった妖魔たち。
 なにやら堅苦しい言葉を並べながら、大きなすだれに向かって正座をしている。
 虎珀の言葉いわく、捧げ物をしている真っ最中なのだろうか。
 日向が目を凝らすと、簾の奥に人影が。
 恐らく、魁蓮だ。



 (帰ってきてんじゃん……)



 帰ってくる予定の日であることを思い出し、日向はムッとなってしまう。
 龍牙たちとは仲良くなったとしても、魁蓮にはまだ嫌悪感があった。
 すると、真ん中に座っていた1体の妖魔が、持ってきた大きな荷物をスっと前に出す。
 頑丈な風呂敷に包まれたそれは、一体なんだろうか。



「魁蓮様、近頃続く日照り続きで食物が確保出来ず、仲間も皆飢えております。
 どうか、この贄を捧げる代わりに、我々に恵をお与えください……」



 そう言うと、妖魔は風呂敷を剥いでいく。
 日向が何かと注目していると……



「っ………………!!!!!!!」



 風呂敷から出てきたのは、人間の死体だった。
 大人の女性が3人と、小さい子供が2人。
 青白く硬直している様は、残酷なものだった。
 日向は恐怖と絶望で、息が詰まってしまう。
 手で口を抑えて、溢れそうになる吐き気をグッと堪えた。



「こちら、人間の女と子です。我々の縄張りに入ってきた不届き者として、処分しました。
 ですが、このような極上品、我々には勿体ない。これは、貴方様のような高貴な方に相応しい品です」



 そう話している妖魔は、どこか声が震えていた。
 恐怖でどうにかなりそうだったのだ。
 体の震えを必死に押え、失礼のないようにと気をつけている。



「魁蓮様、どうか……我々をお救いくださいっ……」



 その言葉を合図に、妖魔たちは深々と頭を下げた。
 しんと静まり返る大広間。
 しばらく沈黙が続くと、ふと簾がゆっくりと揺れる。



「……よかろう」

「「「っ!!!!」」」



 簾の奥から聞こえたのは、日向が耳にしたことのある声。
 魁蓮の声だ。
 魁蓮の声に反応した妖魔たちは、バッと顔を上げる。



「あ、ありがとうございます!」



 妖魔たちは、喜びに溢れていた。
 互いに顔を見合せて、嬉し涙を流している。
 しかし……



「何を喜んでいる……?」

「「「っ…………?」」」



 魁蓮の声は、どこか静かで冷たい。
 喜んでいた妖魔たちも、その違和感に気づいた。
 すると、簾が大きく動き、中から魁蓮が姿を現した。
 魁蓮は冷たい眼差しで、妖魔たちを見下している。



「何を履き違えている……
 貴様らの願いなど、叶えるわけがないだろう」

「「「っ!!!!」」」



 魁蓮の言葉に、さっきまで喜んでいた妖魔たちの顔色が変わった。
 真ん中に座っていた妖魔は、慌てた様子で口を開く。



「で、ですがっ……先程、よかろう。って……」

「捧げ物は貰ってやる、うちには人肉を好む者がいるからなぁ……だが……
 我は人の血肉など、一向に興味は無い」

「っ……!」

「この我に、ましてや人間を捧げ願いを請えるとは……
 何たる痴れ者共だ……実に不愉快極まりない」



 直後、大広間の空気が一変した。
 中にある家具や置物が、ガタガタと震え始める。
 その現象に、妖魔たちは涙目だ。
 そして、慌てて土下座をする。



「お、お許しください!魁蓮様ぁ!!」

「ならん」



 魁蓮の怒りは、止まらなかった。
 空気が重くなり、妖魔たちは恐怖で涙をながす。
 その様を、魁蓮は鋭い眼差しで見下した。
 そして……



「分を弁えろ……下劣共」



 バンッ!!!!!!!!!



 魁蓮が冷たく言い放った瞬間、妖魔たちの体が弾け飛んだ。
 破片が辺りに飛び散り、床は血の池。
 地獄のような光景だった。
 終始見ていた日向は、あまりにも悲惨な光景に、呼吸が浅くなる。
 こんなにも簡単に、妖魔が消し飛ぶとは。



「うっ……くっ……」



 このままでは、気持ちが悪い。
 日向は気づかれないように、そっと後ずさる。
 1歩、2歩、3歩っ





「何をしている」

「っ!!!!!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

鳥籠の夢

hina
BL
広大な帝国の属国になった小国の第七王子は帝国の若き皇帝に輿入れすることになる。

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

処理中です...