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第27話
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「シネ」
「っ!!!!!」
異形妖魔は、日向に向かって妖力を放つ。
しかし、虎珀が当たる寸前のところで身を翻し、なんとか攻撃を避けた。
「逃げるぞ人間!捕まれ!」
「う、うん!」
日向は虎珀の背中を握りしめると、虎珀は素早い動きで異形妖魔から距離をとった。
だが、異形妖魔は逃がすまいと、逃げる虎珀を追いかけてくる。
その間、異形妖魔は龍牙に目もくれなかった。
「虎珀!龍牙がっ!」
「分かっている!だが今は、お前が最優先だ!」
逃げる虎珀に向かって、異形妖魔は何度も攻撃を飛ばしてくる。
虎珀は必死に避けながら、日向を守り続けた。
日向は遠くなっていく龍牙を見つめ、振り落とされないように身を屈める。
虎珀は建物の屋根を飛び移り、地面に降りて走るが、その行く手を阻むように、異形妖魔は虎珀たちの前へと飛び出してきた。
「くっ!!!!」
虎珀は足を止めると、口の前で妖力の塊を作り、それを異形妖魔に向けて放った。
しかし、異形妖魔は飛んできた妖力を腕で弾く。
だがそれは、虎珀にとっては陽動に過ぎない。
その隙に、虎珀は異形妖魔とは反対の方向へと走っていた。
とはいえ、相手は龍牙と戦うことのできる実力者。
逃げ続けるのにも限界がある。
「人間!このままではダメだ!俺が注意を引く!お前はなるべく遠くへ走れ!」
「待ってよ!それだと虎珀がっ!」
「龍牙が動かなくなった今、俺がやるしかない!言うことを聞け!」
「っ…………」
負けた訳では無いが、龍牙は今、戦闘不能状態。
その現実がどれだけの緊急事態なのか、虎珀は痛いほど分かっている。
それでも、日向は虎珀を置いてはいきたくなかった。
日向が悩んで歯を食いしばっていると、虎珀は走るのをやめて、半ば強引に体を傾けて地面に日向を転がした。
日向が背中から落ちると、虎珀はグッと力を入れて異形妖魔の方へと転回する。
「虎珀!!!!!」
日向が振り向くと、虎珀は眩い光に包まれて、その光からいつもの虎珀の姿が現れた。
どこからか取り出した刃の大きな薙刀を持ち、虎珀は異形妖魔に立ち向かう。
薙刀を扱う独特な動きで、なんとか異形妖魔の動きを止めようとするが、異形妖魔は軽々と虎珀の攻撃を避ける。
「走れ!!!!!」
「っ……!」
虎珀の叫び声に、日向は駆け出した。
なぜ狙われているのかが分からない、あの異形妖魔の目的は何なのか、龍牙は無事か、司雀の方は大丈夫か。
色んな疑問が頭を埋めつくし、日向を追い込んでいく。
日向は全力で走り続けた。
虎珀は全身も使いながら、なんとか注意を引く。
だが、
「オマエ、オソイ。ジャマダ」
「っ!!!!!」
ドガンッ!!!!!
「っ!」
背後から聞こえた音に日向が振り返ると、異形妖魔に蹴り飛ばされた虎珀が、建物の壁に激突していた。
悪いところに当たったのか、グタッと気絶している。
完全に、日向が孤立状態となってしまった。
日向は思わず足を止めて、異形妖魔を見つめる。
異形妖魔はギロリと日向を睨みつけていた。
そして、日向に向けて指を指してくると、全身に妖力を巡らせた。
「オマエ、コロス……アルジ、メイレイ」
低くつぶやくと、異形妖魔は足を踏み込んで、日向へと飛び込んできた。
妖力を纏った異形妖魔の手が、日向にふれかけた……瞬間。
バチッ!!!!!!!!!!!
妖力と妖力がぶつかる音が、その場に鳴り響いた。
バチバチと雷のように飛び交う妖力は、どこか幻想的に見える。
そんな中、日向はなぜか浮遊感がした。
誰かに体を支えられている、そんな感覚。
日向がゆっくりと顔を上げると、
「っ!」
そこには、血だらけの龍牙がいた。
龍牙は異形妖魔の攻撃を片手で受け止めながら、もう片方の手で日向を抱えあげている。
ヒューヒューと、掠れたような息遣い。
その痛々しい姿に、日向は言葉を失う。
「……勝手なことすんなっ……クソ虎ぁ……
ちゃんと、守られてろよ……俺にっ……」
「っ……………!」
振り絞った龍牙の声。
龍牙はふと日向へと視線を落とすと、静かな眼差しで見つめる。
その視線には、何の感情も含まれていない。
まるで何も無い闇のようだった。
吸い込まれるように、日向は視線が外せない。
すると、龍牙は少し目を細める。
「……怪我は……」
「……えっ……」
「怪我、ねぇのか……」
「……なっ、ないっ……」
「……なら、いい……」
龍牙はそう言うと、ゆっくりと異形妖魔へと視線を移した。
そして、受け止めていた手に力を込める。
直後、その場の空気が少しずつ変化していった。
どこか重く感じ、緊張感が漂う。
その空気の変化とともに、龍牙はニヤリと口角を上げた。
「なあ、お前……何の目的か知らねぇけどさ、俺と戦っている最中に、弱ぇやつ狙うなんて馬鹿なのかぁ?お前の相手は、俺だって言ったよなぁ……?」
「ジャマ、スルナ。ソイツ、ワタセ」
「……ハハッ……何処がいいんだよ、こんな人間……」
直後、龍牙は身を翻して、異形妖魔の顔面に蹴りを入れた。
何も構えていなかったため、異形妖魔は思い切り後方へと吹き飛ばされる。
目の前で見る龍牙の強さに、日向は目を見開く。
だが、龍牙は全く気を抜いていなかった。
グッと日向を抱え直すと、小さい声で語りかける。
「テメェ……クソ虎と逃げる時、俺のことずっと見てたろ……」
「えっ……う、うん……」
「……負けたとでも思ったのかよ」
「ち、違う!だって、こんな姿っ……」
「……ああ……これは、ちょっとヘマしすぎたな……」
「ヘマって……守ってくれたんだろ?僕たちをっ……」
「……………………」
龍牙は、さっきまでの自分の姿を思い出す。
「っ!よせ!!!!!!」
異形妖魔が放った妖力は、遠くにいた虎珀たちの元へと飛ばされた。
速度だけ見れば、全然追いつけるもの。
だが、もし龍牙が止めようと妖力を使えば、ぶつかりあった衝撃で、日向も虎珀も巻き込んでしまう。
このまま見過ごしても、2人に当たって即死。
寸前に止めることが出来ればよかったが、足の痛みが邪魔をして、一瞬だけもつれてしまった。
だから、判断した。
何も対抗せず、全身で真っ向から攻撃を受ける、と。
最悪死ぬかもしれない、そう思いながらも、自分の頑丈な体を信じて立ち向かった。
結果、死ぬことはなかったものの、予想以上の出血に目がくらんでいた。
(頭がっ……動かねぇ……)
視界は歪み、息をするのも苦しい。
全身激痛が走って、何も考えられなくなっていた。
それでも、視界の片隅で、虎珀が逃げている姿が見えた。
同時に異形妖魔は、その後を追っていた。
日向を狙っているのは、確定した。
でも、龍牙からすればどうでもよかった。
(なんで……俺がっ……)
なぜ人間を守らなければならないのか。
ずっと殺したくて仕方がなかった。
この際、異形妖魔に殺してもらえばいい。
(もう……どうでもいい……)
そう考えていた。
でも………………。
気づけば、龍牙はここへ来ていた。
なぜかはわからない、体が勝手に動いたのだ。
自分の行動に、龍牙は呆れて笑ってしまう。
あれほど嫌っておいて、結局はこうして助けてしまったのだ。
呆れて仕方がない。
その反応に、日向は不安そうな顔で見ていた。
「ハァ……俺、何やってんだか……
クソ虎の、説教のせいにしとこ……」
「っ……」
「おいテメェ……俺の衣、掴んどけ。危ねぇから」
「えっ」
「最後に、全部ぶっ放す……振り落とされんなよ」
日向は言われた通り龍牙にしがみつくと、龍牙は足元に妖力を集中させた。
直後、龍牙の足元を中心に地面が少しずつ変わっていく。
青より深く、美しい……藍色の大きな池が姿を現した。
どこか幻想的な光景に、日向は目を見開く。
「まだ未完成だけど……試すには、丁度いいわ……」
そして龍牙は、日向を抱えたままフワッと飛び上がる。
突然の浮遊感に、日向は思わず掴む手に力が入った。
「っ……凄いっ……」
飛び上がると、更に藍色の池が美しく見えた。
幻なのか本物なのか分からないが、その幻想的な光景は心を奪われるようだった。
日向が藍色の池に気を取られていると、前方から大きな音が聞こえてきた。
その時、蹴り飛ばされた異形妖魔が、怒りの形相で戻ってきているのに気づく。
「ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!」
「来たっ……!!!!!」
日向が驚いていると、龍牙はそっと池に向かって手をかざす。
そして、ふぅっとゆっくり息を吐いた。
同時に目を閉じて、その時を待つ。
(まだ……まだだ……)
しんと、静まり返ったような。
無音の世界に入った龍牙は、ただ異形妖魔が来るのを待ち続けた。
異形妖魔は全身に妖力を溜め込み、龍牙へと突進してくる。
怒りは頂点に達し、確実に日向と龍牙を殺しにくる勢いだ。
だが、そんな圧も龍牙には効かない。
(初めて魁蓮の「渦」の技を見て、かっけぇって思ってからこっそり練習していたこの技……あの時の俺だったら、絶対に出来なかった……
でも、俺は更に強くなったんだ……!)
感覚が研ぎ澄まされ、龍牙の集中が藍色の池へと伝わる。
次第に、藍色の池がひとりでに動き始めた。
風が無い中で、バシャバシャと水音をたてながら。
ずっと追いかけていた、ずっと憧れだった。
この世でただ1人、着いていきたいと願った魁蓮に、少しでも近づけるようにと彼の技を参考にした龍牙の奥義。
「スベテハ、アルジノタメ!!!!!!!」
異形妖魔が、藍色の池の上へ来た瞬間。
龍牙は目を開けて、一気に力を込める。
そして……
(今だっ!!!!!!!)
「黒青火山!!!!!!!!!!」
ブワッ!!!!!!!!!!!!!!!!!
龍牙がそう叫ぶと、藍色の池から大きな青黒い炎が立ち上がる。
その炎は異形妖魔へと直撃し、まるで捕らえるようにまとわりついた。
その場の空気の気温が瞬時に上がり、日向も炎の熱さで思わず顔を覆う。
立ち上がった炎を中心に池がゆらゆらと揺れ動くと、池だったはずのものは、本物の火山のようにブクブクと煮えたぎり始めた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!」
異形妖魔は、必死に足掻いた。
だが炎は決して離れず、じわじわと異形妖魔をマグマと化した池の中へと引きずり込む。
高温にあてられ、妖力も溶け込んでいく。
まさに、地獄の業火。
そして、異形妖魔が池の中へと引きずり込まれそうになったその時。
「やれ!!!虎!!!!!!」
「っ!!!!!」
龍牙は突然、そう叫んだ。
その声に応えるように、気絶していたはずの虎珀が起き上がり、衣から縄のようなものを取り出す。
そしてそのまま、その縄に妖力を流し込むと、引きずり込まれそうになっている異形妖魔へと放った。
縄は素早い動きで異形妖魔をぐるぐると縛りあげる。
「っ……」
完全に異形妖魔の身動きが取れなくなったのを確認すると、龍牙はフッと炎と藍色の池を消し去った。
その場に縄で縛られた異形妖魔が残され、龍牙の攻撃で妖力をほとんど吸い取られたせいか、異形妖魔は完全に意識を飛ばしていた。
「終わった……?」
日向が呟くと、龍牙はそのまま地面に降りる。
そしてその場に日向を下ろすと、ゆっくりと異形妖魔へと近づいた。
近づいても、異形妖魔は反応しない。
じっと見つめ、龍牙は深いため息を吐く。
「捕縛、完了だな……はぁ……」
勝った。
そう実感した途端、龍牙が膝から崩れ落ちる。
妖力も使い果たし、体は傷だらけ。
完全に瀕死状態となっていた。
全身の力が抜け、そのまま倒れ込みそうになる。
だが……
「っ!!!!!!」
龍牙が地面に倒れ込む寸前、龍牙の元に走ってきた日向に抱えられた。
日向は龍牙を抱きしめると、怪我の具合を確認する。
龍牙の怪我は、かなり危険なところまで来ていた。
それが分かると、日向は龍牙を地面に寝かせて、龍牙の胸元に両手を当てた。
「お願い!!!龍牙を助けたい!!!!!」
「っ!!!!!」
異形妖魔は、日向に向かって妖力を放つ。
しかし、虎珀が当たる寸前のところで身を翻し、なんとか攻撃を避けた。
「逃げるぞ人間!捕まれ!」
「う、うん!」
日向は虎珀の背中を握りしめると、虎珀は素早い動きで異形妖魔から距離をとった。
だが、異形妖魔は逃がすまいと、逃げる虎珀を追いかけてくる。
その間、異形妖魔は龍牙に目もくれなかった。
「虎珀!龍牙がっ!」
「分かっている!だが今は、お前が最優先だ!」
逃げる虎珀に向かって、異形妖魔は何度も攻撃を飛ばしてくる。
虎珀は必死に避けながら、日向を守り続けた。
日向は遠くなっていく龍牙を見つめ、振り落とされないように身を屈める。
虎珀は建物の屋根を飛び移り、地面に降りて走るが、その行く手を阻むように、異形妖魔は虎珀たちの前へと飛び出してきた。
「くっ!!!!」
虎珀は足を止めると、口の前で妖力の塊を作り、それを異形妖魔に向けて放った。
しかし、異形妖魔は飛んできた妖力を腕で弾く。
だがそれは、虎珀にとっては陽動に過ぎない。
その隙に、虎珀は異形妖魔とは反対の方向へと走っていた。
とはいえ、相手は龍牙と戦うことのできる実力者。
逃げ続けるのにも限界がある。
「人間!このままではダメだ!俺が注意を引く!お前はなるべく遠くへ走れ!」
「待ってよ!それだと虎珀がっ!」
「龍牙が動かなくなった今、俺がやるしかない!言うことを聞け!」
「っ…………」
負けた訳では無いが、龍牙は今、戦闘不能状態。
その現実がどれだけの緊急事態なのか、虎珀は痛いほど分かっている。
それでも、日向は虎珀を置いてはいきたくなかった。
日向が悩んで歯を食いしばっていると、虎珀は走るのをやめて、半ば強引に体を傾けて地面に日向を転がした。
日向が背中から落ちると、虎珀はグッと力を入れて異形妖魔の方へと転回する。
「虎珀!!!!!」
日向が振り向くと、虎珀は眩い光に包まれて、その光からいつもの虎珀の姿が現れた。
どこからか取り出した刃の大きな薙刀を持ち、虎珀は異形妖魔に立ち向かう。
薙刀を扱う独特な動きで、なんとか異形妖魔の動きを止めようとするが、異形妖魔は軽々と虎珀の攻撃を避ける。
「走れ!!!!!」
「っ……!」
虎珀の叫び声に、日向は駆け出した。
なぜ狙われているのかが分からない、あの異形妖魔の目的は何なのか、龍牙は無事か、司雀の方は大丈夫か。
色んな疑問が頭を埋めつくし、日向を追い込んでいく。
日向は全力で走り続けた。
虎珀は全身も使いながら、なんとか注意を引く。
だが、
「オマエ、オソイ。ジャマダ」
「っ!!!!!」
ドガンッ!!!!!
「っ!」
背後から聞こえた音に日向が振り返ると、異形妖魔に蹴り飛ばされた虎珀が、建物の壁に激突していた。
悪いところに当たったのか、グタッと気絶している。
完全に、日向が孤立状態となってしまった。
日向は思わず足を止めて、異形妖魔を見つめる。
異形妖魔はギロリと日向を睨みつけていた。
そして、日向に向けて指を指してくると、全身に妖力を巡らせた。
「オマエ、コロス……アルジ、メイレイ」
低くつぶやくと、異形妖魔は足を踏み込んで、日向へと飛び込んできた。
妖力を纏った異形妖魔の手が、日向にふれかけた……瞬間。
バチッ!!!!!!!!!!!
妖力と妖力がぶつかる音が、その場に鳴り響いた。
バチバチと雷のように飛び交う妖力は、どこか幻想的に見える。
そんな中、日向はなぜか浮遊感がした。
誰かに体を支えられている、そんな感覚。
日向がゆっくりと顔を上げると、
「っ!」
そこには、血だらけの龍牙がいた。
龍牙は異形妖魔の攻撃を片手で受け止めながら、もう片方の手で日向を抱えあげている。
ヒューヒューと、掠れたような息遣い。
その痛々しい姿に、日向は言葉を失う。
「……勝手なことすんなっ……クソ虎ぁ……
ちゃんと、守られてろよ……俺にっ……」
「っ……………!」
振り絞った龍牙の声。
龍牙はふと日向へと視線を落とすと、静かな眼差しで見つめる。
その視線には、何の感情も含まれていない。
まるで何も無い闇のようだった。
吸い込まれるように、日向は視線が外せない。
すると、龍牙は少し目を細める。
「……怪我は……」
「……えっ……」
「怪我、ねぇのか……」
「……なっ、ないっ……」
「……なら、いい……」
龍牙はそう言うと、ゆっくりと異形妖魔へと視線を移した。
そして、受け止めていた手に力を込める。
直後、その場の空気が少しずつ変化していった。
どこか重く感じ、緊張感が漂う。
その空気の変化とともに、龍牙はニヤリと口角を上げた。
「なあ、お前……何の目的か知らねぇけどさ、俺と戦っている最中に、弱ぇやつ狙うなんて馬鹿なのかぁ?お前の相手は、俺だって言ったよなぁ……?」
「ジャマ、スルナ。ソイツ、ワタセ」
「……ハハッ……何処がいいんだよ、こんな人間……」
直後、龍牙は身を翻して、異形妖魔の顔面に蹴りを入れた。
何も構えていなかったため、異形妖魔は思い切り後方へと吹き飛ばされる。
目の前で見る龍牙の強さに、日向は目を見開く。
だが、龍牙は全く気を抜いていなかった。
グッと日向を抱え直すと、小さい声で語りかける。
「テメェ……クソ虎と逃げる時、俺のことずっと見てたろ……」
「えっ……う、うん……」
「……負けたとでも思ったのかよ」
「ち、違う!だって、こんな姿っ……」
「……ああ……これは、ちょっとヘマしすぎたな……」
「ヘマって……守ってくれたんだろ?僕たちをっ……」
「……………………」
龍牙は、さっきまでの自分の姿を思い出す。
「っ!よせ!!!!!!」
異形妖魔が放った妖力は、遠くにいた虎珀たちの元へと飛ばされた。
速度だけ見れば、全然追いつけるもの。
だが、もし龍牙が止めようと妖力を使えば、ぶつかりあった衝撃で、日向も虎珀も巻き込んでしまう。
このまま見過ごしても、2人に当たって即死。
寸前に止めることが出来ればよかったが、足の痛みが邪魔をして、一瞬だけもつれてしまった。
だから、判断した。
何も対抗せず、全身で真っ向から攻撃を受ける、と。
最悪死ぬかもしれない、そう思いながらも、自分の頑丈な体を信じて立ち向かった。
結果、死ぬことはなかったものの、予想以上の出血に目がくらんでいた。
(頭がっ……動かねぇ……)
視界は歪み、息をするのも苦しい。
全身激痛が走って、何も考えられなくなっていた。
それでも、視界の片隅で、虎珀が逃げている姿が見えた。
同時に異形妖魔は、その後を追っていた。
日向を狙っているのは、確定した。
でも、龍牙からすればどうでもよかった。
(なんで……俺がっ……)
なぜ人間を守らなければならないのか。
ずっと殺したくて仕方がなかった。
この際、異形妖魔に殺してもらえばいい。
(もう……どうでもいい……)
そう考えていた。
でも………………。
気づけば、龍牙はここへ来ていた。
なぜかはわからない、体が勝手に動いたのだ。
自分の行動に、龍牙は呆れて笑ってしまう。
あれほど嫌っておいて、結局はこうして助けてしまったのだ。
呆れて仕方がない。
その反応に、日向は不安そうな顔で見ていた。
「ハァ……俺、何やってんだか……
クソ虎の、説教のせいにしとこ……」
「っ……」
「おいテメェ……俺の衣、掴んどけ。危ねぇから」
「えっ」
「最後に、全部ぶっ放す……振り落とされんなよ」
日向は言われた通り龍牙にしがみつくと、龍牙は足元に妖力を集中させた。
直後、龍牙の足元を中心に地面が少しずつ変わっていく。
青より深く、美しい……藍色の大きな池が姿を現した。
どこか幻想的な光景に、日向は目を見開く。
「まだ未完成だけど……試すには、丁度いいわ……」
そして龍牙は、日向を抱えたままフワッと飛び上がる。
突然の浮遊感に、日向は思わず掴む手に力が入った。
「っ……凄いっ……」
飛び上がると、更に藍色の池が美しく見えた。
幻なのか本物なのか分からないが、その幻想的な光景は心を奪われるようだった。
日向が藍色の池に気を取られていると、前方から大きな音が聞こえてきた。
その時、蹴り飛ばされた異形妖魔が、怒りの形相で戻ってきているのに気づく。
「ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!」
「来たっ……!!!!!」
日向が驚いていると、龍牙はそっと池に向かって手をかざす。
そして、ふぅっとゆっくり息を吐いた。
同時に目を閉じて、その時を待つ。
(まだ……まだだ……)
しんと、静まり返ったような。
無音の世界に入った龍牙は、ただ異形妖魔が来るのを待ち続けた。
異形妖魔は全身に妖力を溜め込み、龍牙へと突進してくる。
怒りは頂点に達し、確実に日向と龍牙を殺しにくる勢いだ。
だが、そんな圧も龍牙には効かない。
(初めて魁蓮の「渦」の技を見て、かっけぇって思ってからこっそり練習していたこの技……あの時の俺だったら、絶対に出来なかった……
でも、俺は更に強くなったんだ……!)
感覚が研ぎ澄まされ、龍牙の集中が藍色の池へと伝わる。
次第に、藍色の池がひとりでに動き始めた。
風が無い中で、バシャバシャと水音をたてながら。
ずっと追いかけていた、ずっと憧れだった。
この世でただ1人、着いていきたいと願った魁蓮に、少しでも近づけるようにと彼の技を参考にした龍牙の奥義。
「スベテハ、アルジノタメ!!!!!!!」
異形妖魔が、藍色の池の上へ来た瞬間。
龍牙は目を開けて、一気に力を込める。
そして……
(今だっ!!!!!!!)
「黒青火山!!!!!!!!!!」
ブワッ!!!!!!!!!!!!!!!!!
龍牙がそう叫ぶと、藍色の池から大きな青黒い炎が立ち上がる。
その炎は異形妖魔へと直撃し、まるで捕らえるようにまとわりついた。
その場の空気の気温が瞬時に上がり、日向も炎の熱さで思わず顔を覆う。
立ち上がった炎を中心に池がゆらゆらと揺れ動くと、池だったはずのものは、本物の火山のようにブクブクと煮えたぎり始めた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!」
異形妖魔は、必死に足掻いた。
だが炎は決して離れず、じわじわと異形妖魔をマグマと化した池の中へと引きずり込む。
高温にあてられ、妖力も溶け込んでいく。
まさに、地獄の業火。
そして、異形妖魔が池の中へと引きずり込まれそうになったその時。
「やれ!!!虎!!!!!!」
「っ!!!!!」
龍牙は突然、そう叫んだ。
その声に応えるように、気絶していたはずの虎珀が起き上がり、衣から縄のようなものを取り出す。
そしてそのまま、その縄に妖力を流し込むと、引きずり込まれそうになっている異形妖魔へと放った。
縄は素早い動きで異形妖魔をぐるぐると縛りあげる。
「っ……」
完全に異形妖魔の身動きが取れなくなったのを確認すると、龍牙はフッと炎と藍色の池を消し去った。
その場に縄で縛られた異形妖魔が残され、龍牙の攻撃で妖力をほとんど吸い取られたせいか、異形妖魔は完全に意識を飛ばしていた。
「終わった……?」
日向が呟くと、龍牙はそのまま地面に降りる。
そしてその場に日向を下ろすと、ゆっくりと異形妖魔へと近づいた。
近づいても、異形妖魔は反応しない。
じっと見つめ、龍牙は深いため息を吐く。
「捕縛、完了だな……はぁ……」
勝った。
そう実感した途端、龍牙が膝から崩れ落ちる。
妖力も使い果たし、体は傷だらけ。
完全に瀕死状態となっていた。
全身の力が抜け、そのまま倒れ込みそうになる。
だが……
「っ!!!!!!」
龍牙が地面に倒れ込む寸前、龍牙の元に走ってきた日向に抱えられた。
日向は龍牙を抱きしめると、怪我の具合を確認する。
龍牙の怪我は、かなり危険なところまで来ていた。
それが分かると、日向は龍牙を地面に寝かせて、龍牙の胸元に両手を当てた。
「お願い!!!龍牙を助けたい!!!!!」
応援ありがとうございます!
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