愛恋の呪縛

サラ

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第18話

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「全く、困った子です。これ、どうしましょう……」



 それから城の外へと出てきた日向と司雀は、龍牙が置いていった生き物と壊れた建物を見つめていた。
 幸いにも、近くに妖魔はおらず、建物もあまり使われていないものだった。
 とはいえ間近で見ると、生き物の迫力に圧倒される。



「これ、なに?」

「恐らく、現世にいた異形妖魔でしょう……最近少し問題になっていまして。龍牙が倒したとなると、珍しい種類のものでしょうね」

「えっ、このデカブツを1人で!?建物一個分の大きさだけど」

「あぁ……龍牙はいつもあんな態度ですけど、
 戦闘においては、魁蓮の右に並ぶ強さなんです。戦いの腕は本物ですよ」

「つ、強っ……」




 司雀は周りをクルクルと見渡し、誰もいないことを確認する。
 そして、軽々と生き物の上に登って確認した。
 あまりにも大きすぎるのか、司雀は困ったように顎に手を当てて考えていた。
 日向もじっと、ただ見つめている。
 その時。



「司雀様」



 ふと、背後から声が聞こえた。
 日向と司雀が振り返ると、そこには虎珀が立っていた。
 虎珀は司雀が見ている生き物を見上げて、グッと眉を顰める。



「……バカ龍の仕業ですね、これ」

「龍牙も朝から元気です、本当に」

「ったく、バカも程々にして欲しい。
 目を離すといつもこれだ……」



 虎珀は目を伏せてため息を漏らすと、生き物のそばに居た日向に気づく。
 日向は虎珀と目が合い、少し反応に困っていた。
 すると、虎珀は真面目な顔になり、そして口を開く。



「下がってろ、人間」

「えっ」

「この異形妖魔は謎が多い。悪影響を受けて倒れでもしたら迷惑だ。だから下がれ」



 虎珀は冷たく言い放つと、生き物の上にいる司雀の元へと飛び移った。
 今のは、忠告なのか、ただ邪魔だったのか。
 虎珀の考えが上手く読み取れなかった。
 下がっていろと言われても、どうすればいいか分からない。
 結局日向は、少し後ずさることしか出来ず、そのまま2人を待った。
 すると、話し終えた司雀が生き物から飛び降り、日向の元へと戻ってくる。



「虎珀が代わりに処分してくれるそうです。ここはお言葉に甘えて、私たちは城の中に戻りましょう」

「え、いいの?」

「はい、よくこうして手伝ってくれるので。それに、龍牙の尻拭いと言いますか、そういうのは虎珀が1番慣れているので」



 司雀は困ったように笑った。
 日向の印象としては、龍牙と虎珀は毎日喧嘩をするほど仲が悪いものだと思っている。
 だが思い返せば、龍牙の言動をよく見ているのは、虎珀だと言うことも間違いではなかった。
 初めて彼らと会った時も龍牙に注意を挟んだり、司雀に頼まれた後、どこかへ行ってしまった龍牙の後を追っていた。

 面倒見がいいと言うのだろうか。



「仲は、悪いんだよね?」

「ふふっ、どうでしょうね。虎珀は、龍牙のことを常に気にしていますから。喧嘩はしますが、どうしても放っておけないんでしょう」

「虎珀は、龍牙が大切……ってこと?」

「さあ……まあ、本当にそう思っていたとしても、龍牙はきっと気づきませんよ」




 日向はふと、虎珀へと振り返る。
 虎珀は、少し堅苦しい雰囲気というか。
 近寄り難い印象はあるが、魁蓮と司雀をで呼んでいるあたり、真面目な性格なのだろう。
 司雀も虎珀を頼っているのを見ると、悪いだけでは無いのかもしれない。



「さあ、日向様。我々は中へ」

「あ、うん」









 日向と司雀が城の中に戻った後、虎珀は龍牙が置いていった生き物の処分をしていた。
 その間、虎珀は龍牙の愚痴をボロボロこぼす。
 虎珀がこの黄泉に来てから、龍牙とはずっと一緒にいる。
 だが、価値観や考え方の違いから、1番衝突が多い。
 現にこの生き物に関しても、珍しいからという理由ではなく、大きかったからという理由で倒したのだろう。



「ったく……いい加減にして欲しいぞ、あのバカ龍」

「おーい、聞こえてんぞー」

「っ!」



 虎珀がポツリと呟いた愚痴に、返事が返ってきた。
 虎珀が顔を上げると、壊れた建物の屋根にあぐらをして座っている龍牙がいた。
 虎珀は龍牙に気づくと、眉を顰めて睨みつける。



「おい、司雀様を困らせるのも大概にしろ」

「困らせるだ?異型妖魔のことを司雀が気にしてたから、研究材料として持って帰ってきたんだぜ?」

「それなら司雀様に、先に確認するべきだろうが」

「んな面倒なことしてられっかよ~」

「っ………………」



 彼以上の生意気なガキがいるならば、今すぐに会いたいくらいだ。
 またどこかで妖魔と戦ってきたのか、龍牙の顔には返り血が飛んでいる。
 だが、本人は至って気にしていない様子だ。




「はぁ……とにかく、こんなもの持って帰るな。後がめんどくさい」

「へいへーい」

「それと……あの人間に、キツく当たるな」

「…………あ?」



 適当な返事をした直後、龍牙は虎珀の言葉に目付きが変わる。
 対して虎珀は、生き物の処分の手を止めて、真っ直ぐに龍牙を見つめた。



「あの人間は、魁蓮様が連れてきたんだ。殺すのはもちろん、傷つけることだって許されていない。加えて司雀様も気にかけている、だから大事にしろ」

とらぁ、ふざけてる?」

「至って真面目だ」

「ハハッ、イカれたんじゃねーの」

「あの人間そのものを認めた訳じゃない。だが魁蓮様が殺していないのが答えだろ」

「いつもの気まぐれだろ~」

「それならば、昨夜のうちに殺されているはずだ」

「……………………」



 それは、龍牙も同意見だった。
 魁蓮という男は、どれだけ時を共にしても分からないことの方が多すぎる。
 何かに興味を持ったと思えば、1日も経たずに壊してしまう。
 気まぐれというか、飽き性というか。
 それでもあの背中を追いかけ続けてきたのも事実。
 彼が向かう先は、自分たちの向かう先なのだと。



「今は納得しなくてもいい、だが迷惑をかけるな」

「……………………」

「だいたい、魁蓮様が復活したからって」

「なあ虎ぁ」

「あ?」



 虎珀が説教混じりの注意をしようとすると、龍牙が言葉を挟んできた。
 虎珀が龍牙に視線を向けると、龍牙はあぐらのまま肘をついて、何やら口角を上げている。



「お前のその正論、いつまで続くかな?」

「……なに?」



 龍牙の言葉に、虎珀は眉間に皺を寄せる。
 予想通りの反応だったのか、龍牙はふふっと嘲笑う。



「どれだけ正論を述べても、どれだけ御託を並べても。ってモンには抗えねぇだろ。
 俺たち妖魔は、んだぜ?」

「……………………」



 龍牙の言いたいことが、虎珀には分かっていた。
 たとえ日向が、尊敬している魁蓮の所有物ものであろうと、彼は所詮人間。
 妖魔に食い殺される存在である。
 目の前に転がる食糧を、愛でて大切にしろというのは馬鹿馬鹿しい。ということ。



「女じゃねえのは残念だけどさ、日向アイツ、よく見れば結構女顔だろ?まだ餓鬼だから、ありゃ新鮮な肉だと思うんだよなぁ」

「……龍牙」

「今は魁蓮のモンかもしれねぇけど、いつかは捨てられるんだから。今のうちに味わうことだってっ」

「龍牙!」



 虎珀は、怒声で言葉を止めた。
 この状態の龍牙は、危ないと知っているからだ。
 そして、虎珀がここまで言い聞かせるのにも訳がある。
 今回の件、龍牙には地雷が多すぎるのだ。



「気持ちは分かる……だが、今は辞めろ。
 不本意だが、あの人間のおかげで魁蓮様が復活したんだ。だからっ」

「心配すんなって」

「っ……」

「んなこと百も承知だわ。今回は虎に免じて、大人しくしとく。でも……
 日向アイツが少しでも魁蓮に何かしたら、俺は魁蓮の命令に背いてでも、アイツ殺すから。俺のこの強さは、魁蓮のためでもあるんだからよ」



 龍牙はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
 その時、虎珀はあることに気づく。



「怪我したのか」

「……………………」



 虎珀の視線は、龍牙の足の怪我。
 虎珀からすれば、龍牙が怪我をするのは珍しい。
 今処理をしている異型妖魔が、いかに強敵だったのかを暗示させる。
 すると龍牙は、怪我を隠すように足を引いた。



「こんなの、怪我のうちに入んねぇっての」

「まさか、また放置するつもりか。それはダメだとあれほど」

「はっ、痛くも痒くもねぇわ」

「だがっ」

「っるせぇな」

「っ!」

「いちいち突っかかってくんなよ。お前も馬鹿にしてんのか?鬱陶しい……ほっとけ」



 龍牙はギロッと睨みつけながら、低く冷たく言い放つ。
 虎珀は、何も言えず口を閉じた。
 何も反論してこないと分かると、龍牙は虎珀を置いて、そのまま姿を消した。
 1人取り残された虎珀は、ギュッと拳を握っていた。



「……バカ龍の、わからずや……」
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