上 下
3 / 3
第1章 最初のお客様

隼人の初仕事と初恋

しおりを挟む
 俺は渡辺隼人、花森小学校5年生で趣味と特技はサッカー。こんな晴れた日曜の昼にはサッカーの自主練習に勤しむのが俺のルーティン…のはずなのに、どうして俺は今女子に囲まれてハンバーガー屋にいるんだろう。

 「えー!本当に彼氏連れてきたんだ!」
 「ごめん、見栄張ってるだけで本気にしてなかったわー!」
 初対面なのにやたらとテンションの高い女子二人。どちらも美姫の塾友達だ。反対にもじもじもごもごしている美姫、依頼人なんだからもう少し喋ってくれ。
 「ねね、二人はどっちから告白したのー?」
 ポニーテールの方、りんと自己紹介した方が質問してくる
 「あ…あう…」
 日本語になってないぞ美姫。仕方ないなあ。
 「あー俺から。まあちゃんとした言葉は言ってないけど、なあ?」
 俺の言葉に顔を真っ赤にしながらコクコク頷く美姫。なんかあれだ、父さんの出張土産で貰った赤い牛の置物みたいだ。
 「えー、でも隼人君モテるでしょ?魚住さんのどこが良かったのー?」
 ツインテールのヒラヒラした方、まりと自己紹介した方が聞いてくる。目がクリクリで服もピンクピンクしていかにも可愛い系だけど質問は可愛くないな、てか俺はこのタイプ苦手だ。
 「真面目で気遣いできるとこかな、あと顔も可愛いと思うよ。」
 なるべくサラっと答える俺。この時間苦痛すぎる…
 チラッと横目で美姫を見ると、さっきよりさらに顔を真っ赤にしながらコーラを飲んでいる。
 「ラブラブじゃん、良かったねえ魚住さん。」
 「えー、私はまだ信じられないなあ。」
 茶化してくるりんとぷうっと頬を膨らませるまり。なんだろう、こいつら本当に友達なのか…?

 「ちょ…ちょっとトイレ」
 席を立つ美姫。おいおい、このタイミングかよ。
 「あ、お母さんから電話だ!ちょっとまってて」 
 店の入口に向かうりん。マジか…一番苦手なタイプと二人っきりって…
 気まずくて目の前のポテトをひたすら食べる俺。
 もさもさもさもさ…
 「隼人くんってさあ…」
 まりが口を開く。
 「意外と女の子と話さないタイプ?」
 「へ…まあ普段はやっぱり遊ぶのは男ばっかだけど…」 
 純と奏の顔が頭をよぎる。
 「やっぱりー!隼人くんカッコイイのになんで魚住さんなんだろうと思ったんだよね!」
 何言ってるんだコイツ。
 「隼人くんはもっと周りの女の子に目を向けた方がいいよ!そうだ、ライン交換しようよ!ねっ」
 コイツは美姫の友達じゃないのか…女子マジで意味わからん…
 「おまたせ…」
 いいタイミングで美姫が戻ってきた。
 「ごめんごめん!お母さんが買い物行くから帰って来いって電話来ちゃった。」
 りんも慌ただしく戻ってくる。
 ぷうっとまりがまた頬を膨らませる。…可愛いのに可愛くない。
 「俺と美姫もこの後寄るとこあるから。」
 さっと目配せする俺。頷く美姫。物分りが良くて助かる。
 「じゃあ、また塾で…」
 席を立つ美姫と俺。
 「うん、またねー」
 あっけらかんとしたりんに不機嫌そうなまり。

 店を出て、家の方まで二人で歩く。
 「今日はありがとう…」
 うつむいてお礼をいう美姫
 「なんか…女子って大変だな…」
 独り言みたいに口から言葉が出た。
 「ふたりとも悪い子じゃないんだけど…私にも良く話しかけてくれるし…」
 「悪い子じゃない、か」
 いい子でもないだろう、という言葉を飲み込む。
 「まあ何か困ったらまた言ってよ、なるべく力になるからさ。」
 まりのキラキラというよりギラギ
ラとした目つきを思い浮かべる。純のキラキラした目とは大違いだ。
 「あ…あのさ…隼人くん…」
 「何?」
 美姫に目をむけると、真っ赤になって俯く美姫が言葉を続ける
 「は…隼人くんって好きな人…いるのかなあ…」
 好きな人…真っ先に純のキラキラした顔が浮かぶ。
 初めて、その感情が友情じゃないと気づいたのはいつだったか…。
 「一応いる、のかなあ…」
 独り言みたいにぽつりと呟く。
 「そっかあ…」
 そっぽを向いて応える美姫。表情は見えない。
 「私こっちだから…今日は本当にありがとう、じゃあ!」
 下を向いたまま走り出す美姫。
 「あ…ああ…」
 走り去る姿を見送る俺。

 「好きな人か…」
 なんだろう、純の顔が浮かんでは胸のあたりが苦しくなる。
 (帰ってリフティングでもやろう)
 サッカーの練習に集中すれば、きっと余計な事は忘れられる。
 俺は早足で家に向かった。
 
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

小スカ短編集(没作品供養)

青宮あんず
BL
小スカ小説の没にしたものを公開していきます。 設定を変えて別のシリーズとして公開したり、他で公開するのをやめたものなど。 BL多め、稀に登場人物一人の場合がある可能性あり。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

孤独な戦い(8b)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

怖い話がダメな子が無理やり怪談を聞かされて、夜上手く眠れなくなる話

こじらせた処女
BL
大学で無理やり聞かされた怪談話のせいで、夜怖い夢を見ておねしょしちゃう話

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

ユーチューバーの家でトイレを借りようとしたら迷惑リスナーに間違えられて…?

こじらせた処女
BL
大学生になり下宿を始めた晴翔(はると)は、近くを散策しているうちに道に迷ってしまう。そんな中、トイレに行きたくなってしまうけれど、近くに公衆トイレは無い。切羽詰まった状態になってしまった彼は、たまたま目についた家にトイレを借りようとインターホンを押したが、そこはとあるユーチューバーの家だった。迷惑リスナーに間違えられてしまった彼は…?

保育士だっておしっこするもん!

こじらせた処女
BL
 男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。 保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。  しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。  園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。  しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。    ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

処理中です...