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第七部 第二章 ファイナル・ランウェイ
第七部 無色透明(クリアカラー)の喜び 第二章 2
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「モルガーナがお前のスフィアを狙ってくるってのは、確実なのか?」
「えぇ、まず間違いなく。あの人は必ず戦いを申し込んできます」
「うぅむ……」
広いと言っても執務室では総勢九人にはさすがに手狭で、小ホールを兼ねた食堂に場所を移して説明が行われた。
一〇人座ってそれぞれの食事を置いても充分余裕があるだろうテーブルで、僕と百合乃はこれまでのことを改めて説明した。
そして、モルガーナと決着をつける必要があると、百合乃が言った。
いつになくピシリとしている気がするスーツを着たショージさんは、百合乃の返事に顎に手を添えて考え込み始める。
「あいつはやっぱり願いを諦めるつもりはねぇってことか」
「そのようね。スフィアロボティクスにはあの人のことを感じるような目立った動きはないけれど、世界を見渡してみるとずいぶん波乱の予感を孕んできてるわ」
猛臣の言葉を受けた平泉夫人の返事に、後ろに控えていた芳野さんが壁にはめ込まれた大型モニターを操作する。
映し出されたのは経済や国家関係、紛争地域なんかのニュース記事だったり、ニュースにもなっていないような報告書のタイトルや個人のものと思われるネットの書き込みだったり。
僕にはそれの意味するところがいまひとつわからないけど、スクロールしていくそれを見たショージさんは驚いたように表情を凍りつかせ、猛臣は眉間にシワを寄せた。
「おそらくこれを見ただけでは前後の情報がないとわかりづらいと思うわ。簡単に言うとね、世界のいろいろなところでほとんど同時に、大きな変革がこれから起こる気配があるの。それぞれは連動していないどころか、ほぼ無関係なのに、まるで連動したかのように一斉に」
「それを、モルガーナがやっていると?」
「すべてとは言わないわ。元々火種があったり、火種になる可能性が高かった場所ばかりですからね。けれど確実に何割かは、魔女が関わっているか、その可能性が高いの」
僕の問いに答えた平泉夫人は、不機嫌そうに片眉をつり上げていた。
そんな僕と平泉夫人に、心配そうな顔の夏姫が割って入ってくる。
「止められないんですか?」
「無理ね。少なくとも私には、これだけ大きなうねりを止める力はないわ。本来止める役割にある人々も巻き込んで、事態が進行しそうなところばかりよ」
「魔女の存在を知らせるとか、そういう方法はないんですか?」
「それも難しいわ。あの人はたくさんの人を使って、小さな火種を置いていくだけなのよ。ずっと観察し続けて、やっとその存在を感じ取るのがせいぜいね。それに、火種に点火するのはその場所にいる人なの。燃え上がった火を消すのも、その場にいる人にしかできないことよ」
「結局、そこにいる人たち次第ってことですか……。うぅむ」
うめくような声を上げて、近藤は腕を組んで黙り込む。
「私たちにできるのは、来る魔女との決戦に備えて、できるだけの準備をすることだけ。そうよね? 百合乃ちゃん」
「はい。その通りだと思います」
平泉夫人から話を振られ、僕の隣に座る百合乃が大きく頷いた。
「現状、リーリエが遺してくれたこの身体、アリシアはピクシードールの中で最高と言っても過言ではない性能があります。それだけでなく、あたしの復活で多くのエリクサーが使われましたが、あたしはあの子が至ったのと同じフォースステージの、妖精の力を保持しています」
全員から向けられた視線を見渡してから、百合乃は言った。
「あたしは、エイナさんと互角に戦うことができるはずです」
その言葉に、食堂にいる全員が沈黙した。
明るい表情はひとつもなく、難しい顔だったり、考え込んだりしていて、暗い表情も見える。
沈黙を打ち破ったのは、平泉夫人。
「互角では厳しいところね」
「えぇ。負けるわけにはいかないんです。でも、あたしの力だけじゃいいところ五分。魔女さんが何かの力を発揮したら、勝つのは難しくなると思います」
「モルガーナの奴も戦いに参加してくるってのか?」
「わかりません。けれど、いまあの魔女さんは、立場で言えばエリキシルソーサラーです。バトル自体は終わっていますが、おにぃちゃんとあたし、魔女さんとエイナさんという形でのエリキシルバトルを、女神様が望んでいるはずです」
「なるほど、な」
今日初対面の百合乃に、リーリエとあんまり変わりなく声をかけてくる猛臣は、その答えに腕を組んでため息を吐いた。
「何か秘策でもあるのか? 百合乃」
「秘策、と言うのとは違いますが……、あたしはおにぃちゃんと一緒に戦うつもりです」
「え? 僕?」
ショージさんの問いに答えた百合乃の言葉に、全員の視線が僕に集まる。
どういうことなのかわからなくて、慌ててしまう僕を、猛臣が睨みつけてくる。
「そりゃあ無理ってもんだろ。克樹の野郎でエイナとの戦いに介入できるとは思えねぇ」
「それでもあたしには、おにぃちゃんの力が必要なんです」
「おそらくですが、難しいことなのではありませんか? 送ってもらったエイナさんとの戦いを見ましたが、百合乃さんだけならばともかく、普通の人では……、たとえ克樹さんでも、あの速度の戦いについて行けるようには思えませんでした」
厳しい指摘してきたのは灯理。
それに真っ先に反論したのは、夏姫だった。
「でもさ、リーリエが戦った後、エイナさんと少しだけだけど戦ってたでしょ? 克樹。無理ってことはないんじゃないの?」
「そうでもない。あのときのエイナはけっこう一直線な行動パターンで、事前に動きをリーリエが解析しててくれたし、音波砲とかエイナにとって想定外の攻撃を持ってたからどうにかなったんだ。行動パターンは変化つけてくるだろうし、音波砲にも対応してくると思う。僕がエイナともう一度戦ったら、たぶん瞬殺されるよ」
「そんなに強いんだ? エイナさんって……」
「フォースステージのエイナは、人間の反応速度じゃ対応しきれない。同じ速度で動く百合乃とも、僕じゃ連携は取れないよ」
夏姫にそう答えた僕は、百合乃に目を向ける。
厳しい顔をしていた彼女は、僕の視線に気づいて細めた目をこっちに向けてきた。
「百合乃が求めてる僕の力って、たぶん風林火山、だよな?」
風林火山は、僕とリーリエで編み出した、アリシア用の必殺技。
すべての人工筋のリミッターを解除し、リアルタイムで電圧をコントロールすることで、一部分だけとか短時間だけしか使えない他の必殺技と違い、一〇分以上という長時間に渡り性能限界以上の力を発揮し続けられるというもの。
その効果はけっこう凄まじく、シミュレーション上での予測値なら、戦闘用として販売されてる最低ランクの組み立てキットのバトルピクシーを、市販されてる最高ランクのパーツを使って組み立てた大会向けにも使えるピクシードールと、互角に渡り合えるほどまで性能を上げることができる。
フォースステージに上がったことにより、アリシアは大きく変化し、人間に見間違うほどだった外見だけでなく、多くの違いがある。
エリキシルドールになるのもピクシードールに戻るのも自由自在だし、時間制限もほとんどないらしい。パーツ交換はできなくなっている代わりに、まるで生物であるかのように身体を修復する機能が備わっている。
プロパティに取得できない情報はあるけど、ピクシードール用のバトルアプリでリンクもできるし、フォースステージに至る前までにリーリエとやってたように、機能だけで考えれば一緒に戦うことも、必殺技も使うことができるはずだ。
ロボットであるピクシードールの特性、人工個性――精霊の特性を保持しつつ、生物の、人間の機能を併せ持つ、まさに妖精という状態が、いまの百合乃であり、アリシアだった。
ただデメリットもあって、バトルとかの激しい運動となると、バッテリに相当するエネルギーを消費して、底をつくとアライズが解除されたりもするし、人工筋の性能は物理法則を超えてしまっている様子だけど、無制限になったわけじゃないから限界もある、
フォースステージのアリシアとリーリエ、そして百合乃にも、風林火山を使う余地はあった。
「克樹じゃ無理だろうな。っつうか、あの速度の戦いは、人間の反応速度じゃ追いつかない」
「オレもそう思う。スローにしないと、目で追えない速度だったからな」
「妖精同士の戦いに、人間が関与する余地はなさそうだな」
口々に絶望的な台詞を吐き出したのは、猛臣と近藤とショージさん。
僕もそれには同意見だった。
かろうじてエイナとは戦えたけど、風林火山はリーリエと、今度は百合乃と一体化する必殺技だ。
反応速度に大きな差があったりしたら、一体化なんて無理だ。
再び訪れた、重苦しい沈黙、
みんなのティーカップに、やっぱり厳しい顔をしている芳野さんが新しい紅茶を注いで回る。
一巡して芳野さんが平泉夫人の後ろに戻ったとき、カップを口元に寄せてひと口飲んでから、澄ました顔を見せた百合乃が口を開いた。
「そんなことは、ないですよ?」
「え?」
意外な言葉に、ほぼ全員が同時に疑問の声を返していた。
「みなさんは気づいていないんですね。たぶんリーリエが、それからエイナさんも気づいていて隠していた、おにぃちゃんの特殊能力」
「……特殊能力?」
オウム返しに僕は百合乃に問う。
それがあると言われた僕自身がわかっていない特殊能力なんて、本当にあるだなんて思えなかった。
みんなの視線を受けながらも、百合乃は事も無げに答える。
「おにぃちゃんの反応速度は、人間のそれを遥かに超えています。妖精であるあたしやエイナさんも、たぶん敵わないほどです」
「んなこたぁねぇだろ。克樹はエイナと戦ってたときも、動きを予測してやっと当ててた状態だったんだ。てめぇらの反応速度を超えてるなんてことはあり得ねぇ」
「でも、事実なんです」
身体を乗りだして反論してきた猛臣に、百合乃は静かな表情と口調で返した。
崩すことのない笑みを浮かべて、百合乃は言った。
「おにぃちゃんの反応速度があたしたちを超えているのは、脳内の話です。それと直接脳波を受け取ってるスマートギアへの命令のとき」
「脳内?」
「うん、そうなんだよ、おにぃちゃん。リーリエが遺してくれた情報で知ってはいたんだけど、昨日ちょっとだけ風林火山ができるかどうか試してみたでしょ? それであたしも実感した」
「どういうことなんだ?」
百合乃の言ってることの意味がよくわからなくて、首を傾げているのは僕だけじゃなく、その道ではたぶんこの中で一番の専門家だろうショージさんも同じなようだった。
「そもそも、普通のピクシードールならまだしも、エリキシルドールにリンクしてリアルタイムでパラメーター調整なんてできちゃう時点で、普通じゃないんです。たぶんこれは槙島さんも、調整だけに専念しても難しいんじゃないかと思います」
「……確かにな。ドールをフルオートにして自分でリミットオーバーセットの調整をやるってのは試してみたことはあるが、コマンド入力が追いつかなくて断念した。その結果がセミオートだからな」
「もし、あたしや東雲映奈さんじゃなく、おにぃちゃんの脳情報でエレメンタロイドをつくっていたとしたら、エリキシルバトルは圧倒的な結果で終わっていたはずです、――おにぃちゃんの完全勝利によって」
誰もが驚きの表情を浮かべていた。
ひとり、百合乃だけが実感と、自信を持った笑みを浮かべている。
「それがおにぃちゃんの、魔女さんですら気づかなかった特殊能力です」
百合乃以外の全員がその言葉に驚いていた。
灯理もまた、驚いてはいた。
――でもやはり、ワタシには遠い出来事ですね。
克樹が凄い人であることは充分知っている。
出会ったときは僅差だと感じていた力は、いまではすっかり離されている。百合乃やエイナに勝てないばかりか、克樹にも勝てないだろうことは、灯理自身が知っていた。
話を聞きに来たのが半分。
もし、協力できることがあるなら小さいことでも手伝いたいと思ったのが半分。
そう考えていたのに、自分には何もできないと感じた灯理は、こっそりため息を漏らしていた。
「なんでそんな凄いことをあの魔女が気づかなかったって言うんだ?」
「気づく方法がなかったんです。あたしのデュオソーサリー。東雲映奈さんの脳情報スキャンの適合性。このふたつはだいたい同一の性質で、結果がわかりやすい能力です。でもおにぃちゃんの脳内超反応は、ゲーム程度ではわからない。エリキシルバトルくらいの、超高速戦闘でなければ発揮されることがないんです」
「そういうこと、か」
彰次の問いに丁寧に答えていた百合乃から、灯理は首も振らずに医療用スマートギアの広視界の中で、克樹に注意を向ける。
自分のことであるのに、克樹でも状況について行けていないらしい。口を半開きにして呆然としている。
――結局ワタシは、エリキシルバトルの中で脇役……いえ、脇役ですらない背景でしかありませんでしたね。
エリキシルバトルの中で、主人公と言えるのは、克樹。
敵はモルガーナとエイナで、ヒロインと呼べるのは克樹が選んだ夏姫と、彼の妹である百合乃、そして何よりリーリエ。
猛臣が調べたというリストにあった、名前でしか知らないエリキシルソーサラーに比べれば、いまこうして事の真相に触れていられる分、マシかも知れなかった。だがそれでも、最終決戦に何の役にも立てない自分は壁の花でしかないと灯理には思えて、膝の上で握った両手にさらに力を込めていた。
「克樹のその超反応って、実際どれくらいの強さなの?」
「あくまで予測でしかありませんが、おにぃちゃんの脳情報でエレメンタロイドを構築して、アリシアと同じ性能のドール同士で戦ったとしたら、セカンドステージのおにぃちゃんには、サードステージだとぜんぜん敵わないと思います。フォースステージに達してやっとくらいじゃないかな?」
「……克樹は強いと思ってたけど、そんなに強かったんだ?」
「いや、人工個性になったときの場合で、いまの僕がそこまで強いわけじゃないから。それに、エレメンタロイドになるってことは――」
「あ……、うん。そうだね……」
仲が良さそうな克樹と夏姫のやりとり。
彼の隣に座っているのが自分でなかったことにも、灯理はこっそりと、チクリと痛みを感じる胸を押さえていた。
「だいたいわかったけれど、いまの克樹君では必殺技は使えないのよね? スマートギアは携帯端末を経由していても、ドールとのリンクのタイムラグはゼロと言っても問題ないくらいのはず。それでも克樹君は必殺技が使えなかった。何が問題なのかしら?」
難しい顔をしながら平泉夫人が呈した疑問に、百合乃が答える。
「ネックになるのは、目なんです」
「目?」
「はい。スマートギアで受信した指令とドールとの、スフィアとの速度には問題がありません。スマートギアもスフィアも、魔女さんが関わってつくられたものなので。ですが、人間である限り感覚器、主に目で外の状況を認識するしかありません。普通の人間の目はとても高性能と言えるのですが、妖精同士の高速な戦いに対応できるほどにはできていないんです」
「なるほど、ね」
人間の目が高性能であることは、誰よりも灯理は知っていた。
最新型の医療用スマートギアに搭載された、世界屈指の高精細カメラであっても、人間の目ほどの階調は得られない。見るだけで感動できるほどの風景を見ることはできない。
顎に手を添えたり腕を組んだりして考え込み始めたみんなと同じように、灯理もまた唇に軽く曲げた指を添えて考える。
「その問題さえクリアできれば、風林火山を使っておにぃちゃんと一緒に戦うことができると思うんですが……。人間の目ではやはり難しいですね……」
――あ……。
百合乃が漏らしたつぶやきに、灯理は思いつく。
――人間の目でなければ、もっと高速な動きに対応できる!
それを思いついた瞬間、灯理は立ち上がっていた。
「ど、どうしたの? 灯理」
「あっ、いえ。ひとつ思いついたことがあったので」
驚いた顔を向けてきている克樹の側まで歩いていって、灯理はディスプレイを跳ね上げ、スマートギアを頭から脱いで彼に差し出した。
「ワタシのこれを、使うことはできませんか?」
灯理の目と言えるスマートギアを外したことで何も見えなくなってしまうが、みんなが驚いている様子はわかる。椅子をズラしてこちらを見ているだろう様子、息を飲む音が聞こえてきていた。
――ワタシでもまだ、克樹さんの役に立てることがある!!
その思いだけが、灯理の胸の中にあった。
「ワタシの医療用スマートギアは、カメラからの情報を直接視神経に送信しています。これに搭載されているカメラの性能は決して最高速というわけではありませんが、高速への対応ならば肉眼よりも高い性能を持っています。それに、視神経に直接映像情報を流せるならば、肉眼よりも応答性は上がるはずです」
フレイとフレイヤを同時に操作する際は、二体のドールから送信されてくる視覚情報をスマートギアの中で高速に切り替え、視神経に送信している。
人間が持つ一種の錯覚を利用し、灯理は頭の中ではふたつの視界を、まるで目が四つあるかのように見ることができる。
搭載されているカメラは色彩の再現に注力しているものであるが、一秒間に数コマ程度と言われる人間の限界動体視力よりも高速だ。
医療用スマートギアの視神経へのダイレクトインプットは誰もが使えるものではないが、もし克樹が使えるならば、いま話していた目によるネックは解消される。
「確かに、な」
そう言ったのは、声からすると彰次。
「視神経に直接映像情報を送信してるその医療用スマートギアを克樹が使えるなら、視覚の認識速度は解決できる」
「ではこれを、克樹さんに使ってもらって――」
「いや、それには及ばない。中里さん、貴女のスマートギアを克樹が使う必要はない。それはいまも開発が続けられてる技術なんでね、開発会社に問い合わせて、力を貸してもらえばどうにかできると思う」
「そう、ですか……」
自分の使っている医療用スマートギアを克樹に使ってもらえると思っていたが、そうではないらしい。高まっていた灯理の気持ちが、少し萎む。
けれど、スマートギアを差し出している灯理の手を、優しく大きな手が包み込んでくれた。
「ありがとう、灯理」
言いながらスマートギアを頭に被せてくれ、見えるようになった視界の目の前で微笑んでくれていたのは、克樹。
「使えるかどうかはまだわからないけど、使えれば僕は百合乃と一緒に戦えそうだ」
「……はい」
両手を包むように握ってくれる克樹の手が暖かい。
笑いかけてくれる笑みに、もやもやとした気持ちが晴れていくようだった。
「その医療用スマートギアの開発元は、スフィアロボティクス傘下の会社だったわね」
「えぇ。確かうちともけっこう関係があったはずです。社長を通して急ぎ交渉に入ります」
「私の方でもアプローチしてみるわ」
「お願いします」
彰次と平泉夫人の言葉で、小ホールには安堵の空気が流れ始める。
「百合乃ちゃん、魔女はあとどれくらいで戦いを仕掛けてくると思う?」
「どうでしょう……。こうなった場合のことはリーリエもあんまり想定していなくて……。エイナさんの予測から考えると、最短でもこれから二週間後、もしかしたら一ヶ月くらいは先になるんじゃないかと思います」
「私もだいたいそれくらいと予想しているわ。あの人がいまエリクサーを世界中から集めようと必死に活動しているなら、結果が出揃うのには最低でも一ヶ月程度はかかると思うのよ。年内か、年明け早々にはおそらく、あの人は決着をつけにくると思うわ」
「だったらスマートギアの準備は一週間で揃えて、その後もう一週間かけて調整を終える、くらいでやらないと行けませんね。……ひでぇハードスケジュールだ」
そろそろ灯理たちの手を離れた話に移り始め、克樹はニッコリと笑んでから、自分の席に――百合乃と夏姫の間の席に戻っていった。
「どうにかなりそうだね、克樹」
「まだわかんないけどな」
夏姫がそう笑いかけ、椅子に座った克樹が優しい笑みで応える。
その笑みは、灯理に見せてくれたものとは違う、友達や仲間よりも、さらに身近な存在に見せるもののように思えた。
――手伝うことはできた。でも……。
自分の席に戻り、スマートギアを被り直したことで乱れた髪を片手で直すように、うつむく。
すっかり晴れたように思えていた胸のもやもやが、まだわだかまっているのを感じる。
握りしめた拳で胸を押さえた灯理は、こっそりと頬の内側を噛んで、漏れ出そうになるため息をかみ殺していた。
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