神水戦姫の妖精譚

小峰史乃

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第二部 第三章 黒い人々

第二部 黒白(グラデーション)の願い 第三章 4

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       * 4 *


「くはっ」
 目が醒めて身体を起こした途端、大きな欠伸が出た。
 ベッドの上の時計を見ると、もう昼近い時間になってる。
 昨日は平泉夫人の屋敷から帰った後、夏姫と灯理の三人で夕食を摂って、その後作業室に籠もった。
 PCWから持ち帰ったパーツで一体のドールを組み立て、色々と検査をしていたら、ベッドに入れたのはそろそろ空が白み始める時間になっていた。
「眠いな……」
 もうひとつ欠伸をしながら、僕はベッドから出てクローゼットを開け、適当な服を選んでパジャマから着替える。
 それからベッドに近づき、枕の下から折りたたみナイフを取り出して眺める。
「まだこいつを捨てるわけにはいかないか」
 小さく呟いてジーンズのポケットに突っ込み、寝室を出て隣の作業室の扉を開けた。
「リーリエ、データの収集は?」
『動作だけだったら取れてるけど、新しい機能が多すぎてまだ全部は取れてないよー』
「わかった。引き続き頼む」
『うんっ』
 リーリエのコントロールにより、机の上でストレッチのような動作をしている新しいドールをちらりと見つつ、僕はMW社製のスマートギアを取って作業室を出た。
 一階に下りて洗面所で顔を洗って軽く髪を整え、灯りが点いてるLDKに入る。そこには近藤や灯理の姿はなく、キッチンの方から夏姫の鼻歌が聞こえてきていた。
「何? いまごろ起きたの? 克樹。起きてこないから午前中の勉強、リーリエと近藤でやってたんだよ。もうお昼も食べちゃったし」
「いいだろ、別に。僕にとっては普通の休みだ」
 洗い物をしていたらしい夏姫は、脱いだエプロンをキッチンのとこのフックに引っかけて僕のところまでやってくる。
 頬を膨らませながら上目遣いで険しい視線を向けてくる夏姫は、薄手のキャミソールにホットパンツと、いつにも増してリラックスした格好だ。いつもはポニーテールにしてる髪は、洗い物するのに邪魔にならないようにだろう、下ろしたところでゴムで結わえてるだけだった。
 ストッキング越しの肌が微かに透ける脚も目を引くものがあるが、運動部に入ってるわけでもないのに引き締まった夏姫の生足は、それはそれで惹きつけられるものがある。
「近藤と灯理は?」
「着替えとか取りに灯理の家にふたりで行ったよ。早めに戻ってくるって」
「ふたりで?」
 確かにひとりで出かけたわけじゃないってのはあるが、僕は眉を顰めてしまう。
 少し考えてソファに座った僕は、シャツの胸ポケットに入れてあった携帯端末を取り出し、近藤宛にメールを打った。GPS情報を定期的に送るアプリを立ち上げておくよう指示を出す。
「犯人は見つかりそう?」
 隣に座って僕の顔を見つめながら問うてくる夏姫。
「いくつか予想してることはあるけど、確証はいまのところないな」
「そっか……。あのレーダーで感知できないトリックはどうなの?」
「まぁ、それもちょっとね」
 回答を誤魔化す僕に、夏姫は不満そうな顔を見せていた。
 すぐ隣に座る夏姫との距離は、近い。
 もう少し顔を近づけて覗き込めばブラが見えそうな開き具合のキャミソールを着ていて、制服のときと違って、灯理ほどじゃないけどけっこう立派な胸の膨らみが服越しに見えていた。
 ――あれだけ怖い目に遭わせたってのに、警戒心のない……。
 手にしていた携帯端末とスマートギアをローテーブルに置いた僕は、おもむろに夏姫の肩を強く押して、ソファに押し倒した。
 つい一昨日にも灯理を押し倒したときと同じシチュエーション。
 驚いて目を見開いた夏姫は、頬を赤く染める。
「またリーリエが来ちゃうよ。いつも見てるんでしょ」
「リーリエ――」
『あ、おにぃちゃん! やだ! ダメ!!』
「プライベートモード」
 この状況もしっかり見ていたリーリエの制止の声を無視して、僕は天井に向けてそう言った。
 人間ではなく、人工個性であるリーリエは、必要に応じて強制コマンドを飛ばすことができる。プライベートモードを使えば、家の外はともかく、家の中のシステムからは切り離され、監視は停止される。外で異常が発生した場合を除き、解除するまでリーリエは家の中を見ることはできない。
「これでリーリエの邪魔も入らない。彼氏でもない男の家にふたりきりだってこと、ちゃんと理解してないだろ、夏姫」
 言いながら僕は彼女の太股の内側を撫でる。
 ストッキング越しのときと違って、貼りつくような柔らかい感触を、膝の辺りから脚のつけ根辺りまで撫でて楽しむ。
「んっ」
 顔を背け、両手を握りしめて、夏姫は恥ずかしそうに目をつむる。
 前に押し倒したときも思ったことだけど、太股は敏感らしい。
 指で撫で上げ、撫で下ろし、その度に身体を震わせる夏姫の反応に、段々と興奮を膨らませながら、僕はキャミソールから覗いてる鎖骨に唇を這わせた。
「ダメ、克樹……。うっ。んんっ」
 僕が手で、唇で身体に触れる度に、夏姫は可愛らしい吐息を漏らし、ひくひくと全身を震わせる。
 そんな可愛い夏姫の肌が火照ってくるのに反応するように、僕の身体も熱くなってきているのを感じていた。
 右手を彼女の頬に添え、僕に向かせる。
 目をつむったままの夏姫に、僕は自分の唇を近づけていった。
 ――なんで、だ?
 夏姫の吐息がかかるほどの距離まで唇を近づけたとき、僕はふと気がつく。
 いまはこの前のように両手を押さえ込んでるわけでもないのに、夏姫は一切抵抗していない。前はあれだけ抵抗してた彼女は、いまは僕にされるがままだ。
 夏姫が可愛くて、興奮してきた僕は忘れてたけど、押し倒したときの予想では、すぐに殴るか蹴るかされて逃げられると思っていた。
 あと指二本分まで近づけていた唇を離し、夏姫の顔を見つめると、それに気がついたらしい彼女がまぶたを開けた。
「なんで、抵抗しないんだ?」
 灯理のときにもしたことだけど、やっぱりこれは莫迦な質問だと思う。
 押し倒した側が抵抗しない理由を問うなんて、なんか滑稽だ。
 確かに多少抵抗された方が燃えるってのはあるけど、わざわざそれを問うなんて、普通じゃない。
 目を伏せていた夏姫は、口元に笑みを浮かべ、僕の瞳を見つめて言った。
「克樹なら、いいかな、って」
「なんだ、そりゃ」
 僕と夏姫との距離は、まだ息がかかるほどに近い。
 ぱっちりとした目を少し潤ませ、小さめの丸顔を赤く染めている夏姫。
 リップでも塗ってるんだろう唇は、奪ってしまいたくなるような、艶めかしい光を放って見えた。
 理性を動員しつつ堪え、僕は彼女に訊く。
「僕にこんなことされて、嫌じゃないのか?」
「んー。なんて言うのかな。嫌、ではあるんだよ。どうせするなら、ちゃんと彼氏になった人とがいい、って思う。でもね、克樹はアタシのことを何度も助けてくれた。それに、負けたアタシのスフィアを奪わなかった。ママを生き返らせる希望を、繋いでいてくれてる。けっこう信頼してるんだ、アタシ、克樹のこと」
 顔を赤く染めたまま、夏姫はそんなことを言う。
 ――くっ。
 柔らかく笑む夏姫に、僕はうめき声を上げそうになっていた。
 純粋に夏姫が可愛い。
 いや、綺麗だと思った。
 僕のことを映してる瞳に吸い込まれるように、頬に添えた手で髪を撫でながら、目を閉じて顔を近づけていく。
「でもね、克樹」
「ん?」
 近づけていた顔を止め、目を開くと、僕のことを真っ直ぐに見つめている夏姫の目とぶつかった。
「もしするなら、責任取ってね。最後までするなら、最後まで。アタシのこれからの人生の全部、責任取ってもらうからね」
 笑っているのにそこはかとない迫力を感じる夏姫。
 違う。
 僕は彼女の言葉に、もうあとひと息の距離を、これ以上近づけなくなっていた。
 僕自身が、その距離を詰めることに抵抗を感じていた。
 可愛くて、綺麗だと思える夏姫。
 でも彼女の発した言葉は、僕の身体と心に重しをくくりつけたみたいに、動きを阻害していた。
「嘘。そこまでは言わない。それでも一緒にいる間は、アタシのことをちゃんと見て、一緒にいる間だけでも、これからすることの責任は取ってほしいかな。だから続きをするなら、それくらいの覚悟は決めてからしてね」
 そう言って、夏姫は目を閉じた。
 触れた彼女の肌から、鼓動が伝わってきていた。
 僕と同じように、激しく脈打ってる心臓。
 左手で触れた太股は、緊張してる様子が感じられていた。
 そんな夏姫に、僕は――。
「どうしたの? しないの?」
 ソファに座り直した僕に、身体を起こした夏姫が小首を傾げながら訊いてくる。
「……リーリエ、パブリックモード」
『夏姫! 大丈夫?! おにぃちゃんにヘンなことされてない?!』
 プライベートモードを解除すると同時に発せられたリーリエの声は、夏姫への心配だった。
「うん、大丈夫。こんな短い時間じゃたいしたことできないって」
『そっか。よかったぁ』
 安堵の吐息つきで安心した様子を表現するリーリエに、僕は不貞腐れていた。
 ――なんで僕より先に、夏姫のことを心配するんだ。
 思っていた以上に仲が良くなってるらしい夏姫とリーリエに、疎外感を感じざるを得なかった。
「ヘタレ」
「うっ……」
 不満そうに唇を尖らせる夏姫の言葉を、僕は顔を逸らしてやり過ごす。
『何? おにぃちゃんってヘタレなの?』
「そそっ。けっこうヘタレ。女の子押し倒したクセに、キスのひとつもできないくらいだよ。ね? 克樹」
 僕のことを弄ぶつもりらしい夏姫に、もう一度押し倒してやろうかと思ったけど、その勇気はいまの僕にはもうなかった。
『おにぃちゃん! 誠からメール入ったっ。出たって!!』
 鋭いリーリエの声に、僕は立ち上がる。
「すぐ出かける。夏姫も準備しろ!」
「うんっ」
 にやけていた顔を引き締めた夏姫と、僕は頷き合った。


          *


「ちょっとこの辺りで……。できれば少し離れた場所で待っていてください。いまは家政婦がいる時間なので、男の人といるのが見つかるのはちょっと……」
「あぁ、わかった。近くにいるから出てきたら声かけてくれ」
 克樹の家からバスを乗り継いでたどり着いたのは、タワーマンションや走り回れそうな庭のある一軒家が並んだ、閑静な住宅街。
 襟付きのシャツに綿パンの格好の近藤は、場違いな感じがして、居心地の悪さを覚えていた。
 長いウェーブの髪をふわりと揺らして振り返り、笑みを浮かべて礼をした灯理に軽く手を上げて挨拶した近藤は、彼女が玄関の中に消えていったのを確認して、三階建ての上に半地下がありそうな大きな邸宅の前から離れた。
「まったく、面倒臭いな」
 克樹が昼食を食べた後も起き出して来なかったために、押しつけられた灯理への同行。
 小柄で可愛らしく、お嬢様の雰囲気を漂わせる灯理は、どこか女の子らしい小狡さを感じる人懐っこさと、逆に人を一定以上近づけさせない風格を兼ね備えている。
 顔も髪も違っていて、全体的に細く折れそうな身体をしていた梨里香とは違うのに、どこか灯理と梨里香は似ていると感じる部分があって、頭を下げて頼まれたら断ることができなかった。
 ――全部克樹の奴が悪い。
 スフィアを奪わず願いを繋いでくれていて、他にも多くのことをしてくれている彼には感謝していたが、同時に押されると弱い優柔不断さには苛立つこともある。
 責任をすべて彼に押しつけることにして、近藤は門が見える十字路から灯理が出てくるのを待ちながら、ガーベラなどを入れたリュックを担ぎ直した。
「おっと」
 ふと、近藤はリュックを腹に抱えるようにして、前方に身体を転がす。
 風を切る音だったのか、気配だったのかわからなかったが、身体が反射的に動いていた。
 家が並んでるだけの住宅街なのに、普通より広い道路の端まで逃げて振り返ると、さっきまで近藤がいた場所には、黒い忍者のようなエリキシルドールが立っていた。
 不意打ちを仕掛けるつもりだったのか、その手には警棒のような金属製らしい黒い棒が握られている。
「出やがったな」
 逆手に持った両手の警棒を構える忍者ドールに、自分自身で構えを取りたくなるのを堪えつつ、ポケットから携帯端末を取り出して、あらかじめ用意しておいたメールを一斉送信する。
 背後に音もなく現れた割に戦うつもりらしく、構えを取ったままじりじりと近づいてくる忍者ドール。
 目を離さないようにしながら、鞄からワインレッドのスマートギアを取り出して被り、続いてガーベラをつかんで起動させた。
「フェアリーリング!」
 何か理由があるのか、見られることなど気にしていないのか、やはり忍者ドールの近くにソーサラーはいない。レーダーの表示を見てみるが、近くにあるのは灯理のフレイヤと思われる反応だけで、他のエリキシルスフィアは感知できていなかった。
 側にいるならガーベラで戦いつつ近づいてソーサラーを捕まえたいところだったが、それも叶わず、近藤は立ち上げたエリキシルバトルアプリに叫んで薄黄色に光る輪を地面に出現させ、関係者以外認識不能なバトルフィールドを形成した。
「さて、久々に全力でやらせてもらうぜ。――アライズ!!」
 己の願いを込めた近藤の声に応じて、ガーベラが光を放ち、百二十センチのワインレッドのボディを出現させる。
「戦うつもりなら後ろから現れるんじゃねぇよ」
 ヒューマニティフェイスを搭載したガーベラと同じように、眉根にシワを寄せた近藤は言い放つが、反応のない忍者ドールのソーサラーに聞こえているかどうかはわからない。
「まぁなんでもいい。お前をぶっ倒して、中里を襲ってる犯人を引きずり出してやる!」
 昨日PCWで交換したパーツにより、ガーベラは完全な状態を取り戻していた。
 夏姫の話を聞いた限り、レーダーで感知できないトリックを使う他は、戦い慣れたソーサラーではない。対峙してしまえば怖いと思える敵ではなかった。
「行くぜ」
 ガーベラの視界で忍者ドールのことを見つつ、近藤は戦闘を開始した。

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